2011/03/08

二巣並行営巣を始めたキアシナガバチ創設女王




2010年5月上旬

軒下の隣接する区画に30cm離れて二つの初期巣が作られつつあります。
ともに卵が産み付けられています。
巣S9に居た一匹のキアシナガバチPolistes rothneyi)創設女王を一時捕獲して水色の油性ペンで個体標識を施しました
(関連記事はこちら→「キアシナガバチ創設女王を標識」)





マーキングから三日後の昼過ぎに様子を見に行くと、女王Q(水)は小振りの巣S10(育房数5室)で何やら作業中でした。
数時間後にまた訪れると、今度は大きい方の巣S9(育房数9室)に移っていました。
映像にはうまく撮れませんでしたが、在巣の蜂に胸背の水色マーキングがあることを手鏡を使ってしっかり確認しました。
これで同一個体の女王蜂が二つの巣S9、S10を同時に営んでいる確証が得られました。
大きい方の巣S9をメインとみなし、小さい方の巣S10をサテライト巣と呼ぶことにします。
アシナガバチの文献によると、「サテライト巣」という用語は本来、多雌巣の女王やワーカーが独立・分封するような形で作られる巣を呼ぶようなので、果たして正しい使い方なのかどうか自信がありません。私のような素人が勝手に造語を使うのも気が引けます。








実は同じ軒下で2年前(2008年)にも同種のキアシナガバチ創設女王が二巣並行営巣することを個体識別で確認しています。

私が二巣並行営巣を観察したのは今回で二例目になります。
一般に本州のアシナガバチは一家族が一つの巣を作るのが原則で、二巣並行営巣やサテライト・コロニーは稀です。
私が定点観察しているキアシナガバチ創設女王が二巣並行営巣を行う理由と意義をずっと考え続けています。

第一の可能性として、元々二匹の女王が独立に創巣した後で巣の乗っ取りが行われたのかもしれません。
連日の監視を行っていないので完全には否定できませんが、今シーズンのケースでは考えにくいと思っています。
※ 2008年に二匹のキアシナガバチ創設女王がこの軒下で初期巣を巡って争っているのを目撃しています。当時は個体識別できていないので、乗っ取りの成否は不明です。(関連記事はこちら→「キアシナガバチ創設女王の喧嘩」)

誰の巣なのか決定する手段として、机上の空論になりますが、女王の足先を切って生検試料とし、育房内の卵とDNAレベルの親子鑑定を行えばはっきりするかもしれません。
しかし乗っ取りの後は食卵するケースも多いらしいので、解釈が難しいかも。

私の考察を少しずつ続報に書いていこうと思います。


参考文献
一般書籍および無料でPDFがインターネット上で入手できるものに限る。


1. Kasuya E. Simultaneous maintenance of two nests by a single foundress of the Japanese paper wasp, Polistes chinensis antennalis (Hymenoptera: Vespidae). Applied entomology and zoology. 1980;15(2):188–189. (PDF Available
フタモンアシナガバチ創設女王による二巣並行営巣の報告です(英文)。
2. 牧野俊一, 山根正気. ニッポンホオナガスズメバチの創設女王で見られた2巣並行営巣行動の観察. Kontyû. 1979;47(1):78-84.(PDF available


3. 岩橋 統, 山根爽一『チビアシナガバチの社会 (動物 その適応戦略と社会)』東海大学出版会 1986
個体識別によるサテライト巣の観察事例が詳細に記述されています。


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