2018/05/26

出巣をためらうヒメスズメバチ♀の謎



柳の根際に営巣したヒメスズメバチの記録#3

前回の記事#2
2017年9月中旬

前回の動画の続きです。
柳の根際の地中に営巣したヒメスズメバチVespa ducalis)の巣穴がどうも壊されている(崩落した?)ようでした。
巣穴の手前にある地面を前庭と呼ぶことにします。
この前庭での休息と低空での定位飛行をひたすら繰り返しているおかしな♀個体がいます。
定位飛行で巣の位置を記憶したらさっさと外役に出かけるはずなのに、なぜか躊躇しています。

巣に出入りしている別個体が飛来すると、それに釣られるように前庭から飛び立ちます。
空中で擦れ違ったり、もつれ合うように飛んだり(ニアミス)するのですが、意図がさっぱり分かりません。
巣を守る門衛にしては、巣穴の方ばかりを気にしています。
門衛なら、別個体が飛来したときにもっと激しく迎撃に向かっても良さそうなものです。
前庭で休んでいる♀の目の前をコモリグモがチョロチョロと徘徊しても、蜂は攻撃したり追いはらったりしませんでした。
風が吹いて周囲の草が揺れると、その影に反応して蜂が身動きするのは警戒心の現れでしょうか。

続けざまに計5匹の蜂の出入りが記録映像に残されていました。
個体識別していないので、重複しているかもしれません。

もしかして、これは雄蜂♂なのかと疑い始めました。
オオスズメバチのように交尾相手の新女王が出巣するのを待ち構えている♂だとしたら、謎の振る舞いも説明できそうです。

V. mandariniaは♂が離巣する新女王を巣口周辺で待ちかまえ、その場で交尾をおこなうが、他のVespa, Vespula, Dolichovespulaのいずれの種も巣を離れた場所で♂が新女王を待ち受けるようである。 (松浦誠、山根正気『スズメバチ類の比較行動学』p23より引用)


ネット検索で見つけたのですが、『都市のスズメバチ』サイト内に「高層ビルの上部を集団飛行するヒメスズメバチの交尾行動」と題した詳細なレポートが掲載されていました。
名古屋市という都市環境では、高層ビル最上階の周囲をヒメスズメバチの雄蜂♂が群飛して、そこを目掛けて飛んでくる新女王と交尾するのだそうです。

時期的にヒメスズメバチの雄蜂や新女王が羽化していても不思議ではありません。
森林総合研究所の森林生物情報によると、

(ヒメスズメバチは)9月には営巣を終える。すなわち他のスズメバチより営巣開始が遅く,巣の解散は早い。これはアシナガバチの営巣期間に合わせるためと言われる。
しかし、♂はもっと触角が長いはずです。(自信が無くなってきた…)


前庭で休憩中の個体の触角。12節なら♀、13節なら♂なのですが、どうでしょう?

性別をしっかり確かめるために採集したかったのですが、この日は捕虫網などを持参していなかったので諦めました。
♀だとしても採集できていれば、体長も測れてカースト(ワーカー♀/新女王)が判明したはずです。


(ヒメスズメバチ)女王の体長24~37mm。働きバチは平均的には女王より小さいが,しばしば中間的な大きさのものが見られ,外形だけの区別は困難なことが多い。 (森林総合研究所の森林生物情報より引用)


一般的なスズメバチは、サイズが女王蜂>オス蜂>働き蜂の順だが、ヒメスズメバチには特に差は見られない。(wikipediaより引用)
スズメバチ類の新女王は一般に定位飛行を行わないらしいので、この個体はやはりワーカー♀なのでしょうか?
十分に成熟した♂と新女王は、相前後してつぎつぎと巣を離れていく。いったん、巣を離れるとふたたび戻ることがないため、ハタラキバチがはじめて巣を離れるときにおこなう定位飛行を巣口の周辺でおこなわずに、まっすぐに巣口を飛び離れ、思い思いの方向に飛び去る。 (松浦誠、山根正気『スズメバチ類の比較行動学』p22-23より引用)


やがて、前庭で休んでいる個体が更に奇妙な行動を始めました。

つづく→#4:ヒメスズメバチ♀の奇妙な扇風行動【HD動画&ハイスピード動画】



2018/05/25

潜水漁で川虫を捕食するカワガラス(冬の野鳥)



2018年1月上旬
▼前回の記事
川岸で雪を食べるカワガラス(冬の野鳥)


街中を流れる川で雪の積もっていない護岸に居たカワガラスCinclus pallasii)が飛んで、川中の岩に移動しました。
岩の上に積もった雪を繰り返し食べていましたが(前回の記事)、遂に岩から川に飛び込んで潜水漁を開始。

飛んで川から同じ岩に戻って来たカワガラスは、嘴に黒っぽい獲物を咥えていました。
それを岩に叩きつけてから捕食しました。
食後は嘴を川の水ですすぐと、またすぐに入水し、潜水漁を再開。
しかし空荷ですぐに戻って来ました。

少し休むと、雪が積もった岩から川に飛び込みました。
泳いで(川底を歩いて?)岩に戻ったカワガラスは、嘴に何か黒っぽい小さな獲物を咥えていました。
岩に叩きつけて殺してから捕食します。
岩から上流へ向かって飛び込んだときは、獲物を捕らえると水面に顔を出し流れに乗って川面をスーッと泳いで帰ってきます。

良い漁場を見つけたようで、空荷で戻ることがなくなりました。
川に入る度に毎回獲物を捕らえて帰ってきます。
水中で捕らえた獲物をその場で飲み込まずに、陸上に持ち帰ってから食べるのはなぜでしょうか?
生きが良くて暴れる獲物は、岸で岩に叩きつけて殺す必要があるのでしょう。

川の堤防から撮っている私の背後を車が通りました。
そのタイミングで、カワガラスは上流へ飛んで行き、漁場を変えました。

今度は川の中洲を拠点にして潜水漁を繰り返すようになりました。
泳ぎながら何度も潜って獲物を探しています。
息継ぎで頭を上げるときは常に上流を向いていました。
流れから何度も頭を出し入れしていたカワガラスが、川の中で足が付く浅い場所を見つけて立ちました。
上流を向いて休憩すると、再び入水。

映像後半は、また漁場を変えてからの様子です。(実は編集で順番を入れ替えました)

カワガラスを見る角度によって、黒というよりも褐色に見えるときがあります。

望遠レンズを使っても遠いので獲物の正体はさっぱり分からないのですが、おそらく川虫(水生昆虫)なのでしょう。
丸くて黒っぽい小石のような獲物は貝の仲間ですかね?
岩に叩きつけて貝殻を割り、中身を食べているのではないかと想像しました。

この川は渓流どころか街中を流れているので、清流というイメージはありませんでした。
しかし、厳冬期でもかなり餌の豊穣な川だとカワガラスに教えてもらいました。



※ 望遠レンズを装着したカメラを手持ちで撮影した映像そのままです。
いつもなら動画編集時に必ず手ブレ補正処理をするのですが、今回は川の流れが絶えず写り込んでいるために、副作用で却っておかしな映像になってしまうのです。
せめて一脚を持参すれば良かったですね。


つづく→小魚を捕食するカワガラス




【追記】
後澤正知『渓流の忍者カワガラス』を読むと、潜水漁の秘密を知ることができました。
カワガラスは、水中の水生昆虫を餌にしているのです。(中略)カワガラスが水面に浮かずに川底を歩けるのは、流れの速いところに潜って羽を広げ、水流の圧力を利用して体を押さえているらしいのです。カワガラスの羽毛は密に生え、尾の近くにある羽脂腺は発達していて、体中にぬった脂が水をはじきます。また足の裏はゴツゴツしていてすべり止めに役立っています。(上越鳥の会『雪国上越の鳥を見つめて』p223-224より引用。)
わずか4ページの短い報文ですが、営巣地の写真や繁殖の観察記録もあってとても参考になりました。


2018/05/24

定位飛行と日光浴を繰り返すヒメスズメバチ♀の謎



柳の根際に営巣したヒメスズメバチの記録#2


前回の記事#1
2017年9月中旬

12日ぶりに現場を訪れると、柳の根際の巣口が崩壊して大きな穴がぽっかり開いていました。
前回は茂みに隠れて見えなかったのですが、柳の根際は路肩になっていて、穴の奥には暗渠の入り口(排水口)がありました。



てっきりヒメスズメバチVespa ducalis)の巣を誰かに駆除されたのかと思い、落胆しました。

しかし、必ずしもヒトの仕業とは限らないかも?と思い直しました。
営巣地周辺に生息するアナグマやハクビシンなど野生動物がヒメスズメバチの巣を掘って蜂の子を捕食したのかもしれません。

オオスズメバチに襲撃された可能性は?
あるいは秋の長雨で根際の土砂が自然に流出・崩落した可能性も考えられます。

ヒメスズメバチが自力で土木工事した可能性はどうでしょうか?
例えば、ヒメスズメバチと同じく地中に営巣するオオスズメバチは

巣穴を拡張するため、巣の入口付近に中から運び出した土の固まりが放射状に散乱していることがよくある。 (山内博美『都市のスズメバチ』p41より引用)
(ただし、ヒメスズメバチは地中以外でも営巣することがあります)
私も実際に一度だけオオスズメバチ♀がせっせと巣外に土を捨てる行動を観察したことがあります。

撮影中にヘマをしたせいでオオスズメバチに刺されてしまい、酷い目に遭ったのも今となっては良い思い出です。

▼関連記事
オオスズメバチの巣に御用心(刺傷例)

しかし今回のケースでは、巣の前庭は土で汚れておらず、きれいな状態でした。
私の被害妄想かもしれませんが、やはり駆除説を疑ってしまいます。(何者かが巣を駆除した後にきれいに掃除した?)

定点観察の間隔が開いてしまったことが悔やまれます。

てっきり空き巣だと思った私が未練がましく巣穴を覗き込んでいると、中からヒメスズメバチ♀が出て来て、辺りを飛び回り始めました。
採寸できなかったため、ワーカーなのか新女王なのか私には見分けられません。


飛び立っても巣の位置を記憶するための定位飛行を低空で繰り返していました。
巣穴の方に顔を向けてホバリングしながら扇の弧を描くように飛び、周囲の状況を覚えながら少しずつ弧の半径を大きくするという特徴的な飛び方です。
羽化したばかりのワーカーが初めて外役に出るところなのかな?
巣を守る防衛行動のつもりにしては、私に対する威嚇として大顎をカチカチ♪鳴らす音は聞こえませんでした。



しばらく飛び回ると、ようやく巣の前の地面(前庭と呼ぶことにします)に着陸しました。(@1:35)
日当たりの良い前庭で翅を休めている間も、触角だけは油断なく動かしています。
腹部を激しく伸縮させているのは、激しい飛翔運動の後で腹式呼吸をしているのでしょう。



再び飛び立ち、定位飛行を再開。
低空での羽ばたきに煽られて、地面の土や落ち葉が舞い上がります。
蜂が羽ばたく影の動きもフォトジェニックです。
定位飛行するということは、外出しても必ずまた戻ってくるはずです。
しかし私の予想は外れ、外役に出かけずまたもや前庭に降り立ってしまいました。

休憩の際は必ず巣口とは反対の外を向いています。
太陽に正対して日光浴をしているようです。
この♀個体の行動は、巣穴の手前で油断なく辺りを見張ってコロニーを守る門番(門衛)を務めているようにも見えます。
しかし、そんな行動は今までヒメスズメバチで見たことがありません。

そこへ別個体のワーカー♀が飛来(帰巣)しました。(@4:14)
それに反応した門衛?は定位飛行を再開したものの、すぐに着陸してしまい、迎撃行動は見られませんでした。
今度は太陽に対して横を向いて静止しました。

12日前の観察に比べてコロニーの個体数は激減したものの、全滅は免れたようで一安心。
♀の出巣および帰巣も動画で撮影することができました。
一度壊された巣を再建したのかもしれませんが、穴の奥にある巣の様子を直接見るまでは分かりません。

しばらくすると、別個体βが巣穴から歩いて前庭に出て来ました。(@5:37)
それと同時に、前庭で日光浴していた門衛αが定位飛行を再開。
βは定位飛行せずにそのまま外役へと飛び去りました。
先程からいつまでも定位飛行を繰り返す個体の特異性(異常性?)が際立ちます。

後半はカメラを三脚に固定して、巣穴へ出入りする蜂を狙うことにします。(@6:06〜)
相変わらず謎の定位飛行と帰巣を繰り返している個体がいます。
よほど箱入り娘だったのでしょうか。
こんなに長時間やらないと巣の位置を記憶できないということは、よほど物覚えの悪い(馬鹿な)異常個体個体なのでしょうか?


「外役に出て留守にしている間に巣が壊されたせいで営巣地周辺の景色が激変し、帰巣時に迷子になっている」というシナリオが一番しっくり来るのですが、私の想像でしかありません。

巣がいつ壊されたのか分からないからです。
他の個体が正常に帰巣できているのに、一匹だけいつまでも迷子になっている理由も分かりません。

スズメバチ成虫の栄養源は巣内で幼虫から口移しでもらう栄養交換液と野外で摂取する花蜜や樹液などです。
巣が壊されているとしたら幼虫と栄養交換できなくなり、羽化してもひどく飢えてしまうでしょう。
飛んで外役に出かける元気すらないのかもしれません。

4年前に山中でヒメスズメバチの巣を観察した時の記録を振り返ってみると、定位飛行はあっさりした(簡略化した)ものでした。

▼関連記事(4年前の撮影)
ヒメスズメバチ♀の定位飛行【ハイスピード動画】


カメラを上にパンして柳の灌木を映します。(@7:45)
秋晴れの青空がきれいです。


つづく→#3:出巣をためらうヒメスズメバチ♀の謎


2018/05/23

川岸で雪を食べ続けるカワガラス(冬の野鳥)



2018年1月上旬

街中を流れる川でカラスのように真っ黒なのに、カラスよりも小さな野鳥を見つけました。
カワガラスCinclus pallasii)です!
雪の積もった川岸で休んでいます。
小さくても真っ黒な鳥は純白の雪面を背景にするとかなり目立ちます。

カワガラスは川の流れを見つめながら、ときどき尾羽を上下に動かしていました。
辺りをキョロキョロ見回しているのは、岸から撮影している私を警戒しているのかな?
しばらくすると、周囲の雪を何度も食べ始めました。
喉が渇いているのなら、すぐ目の前を流れている川の水を飲めば良いのに、わざわざ体温が下がる雪を食べる行為は理解に苦しみます。
ヒトの場合、雪山登山で雪を食べるのは基本的にご法度です。
夏でもシャーベットを食べ続けると頭が痛くなるでしょう。(アイスクリーム頭痛


やがてカワガラスは意を決したように、川に飛び込みました!(@0:49)
水温は雪解け水で身を切るように冷たいはずなのに、カワガラスはへっちゃらです。

少し上流にある川中の岩に移動しました。
岩が露出した部分に止まると、先程の雪上よりも保護色になっていて目立ちません。
ときどき目を白黒させているのは、瞬きしたときのまぶた(瞬膜?)が白く見えているのでしょう。
ここでも岩に積もった雪を繰り返し食べました。

なぜ川の流水を飲まずに雪を食べるのでしょう?
かなり大量に雪を食べ続けているので、体温が下がったりお腹を下したりしないのか、心配になります。
カワガラスは繁殖期以外は常に単独行動するらしいです。
水面まで頭を下げると天敵への警戒が疎かになり、雪を食べる方が目線を高く保てるのかな?
(それなら陸上では喉の乾きを我慢して、水中に潜って獲物を探しているついでに水を飲めば良い気がします。)
露出した岩の上から枯草を摘み上げたので巣材集めかと思いきや、すぐに捨てました。
素人なりに勝手な想像を逞しくすると、このカワガラスは早く川に入って採食活動したいのに私が見ている前ではやりたくないのかもしれません。
「邪魔なニンゲンは早くあっち行けよ!」というフラストレーションを紛らわそうとする転移行動や真空行動が「雪食べ行動」になったりして…?

§§ 後日、川の水を飲むカワガラスを観察しました。

※ 望遠レンズを装着したカメラを手持ちで撮影した映像そのままです。
いつもなら動画編集時に必ず手ブレ補正処理をするのですが、今回は絶えず川の流れが写り込んでいるために、副作用で却っておかしな映像になってしまうのです。

せめて一脚を持参すれば良かったですね。


カワガラスと言えば昔、山地の渓流で夏季に一瞬見かけただけで、私にとってはずっと幻の水鳥でした。
こんな街中の中流域で観察できるとは、とても意外でした。
この冬で一番の収穫です♪

餌不足になる厳冬期は中流域まで下って来るのか?と思いながら観察していました。
帰ってからwikipediaでカワガラスの情報を参照すると、確かに

冬期(積雪期)には下流側に生息場所を移動することもある。
とのことで、納得しました。


つづく→潜水漁で川虫を捕食するカワガラス(冬の野鳥)


カワガラス(冬の野鳥)@川岸:雪
カワガラス(冬の野鳥)@川岸:雪
カワガラス(冬の野鳥)@川中岩:雪

ヤツデの雄花で吸蜜するオオハナアブ♀



2017年11月上旬

民家の玄関脇に植栽されたヤツデに咲いた雄性期の花にオオハナアブ♀(Phytomia zonata)も訪花していました。
左右の複眼が離れているので♀ですね。

♀だけでなく♂も来ていたのに、交尾行動を始めませんでした(見たことがありません)。

▼関連記事
ヤツデの雄花を舐めるオオハナアブ♂


オオハナアブ♀@ヤツデ訪花(雄花)吸蜜
オオハナアブ♀@ヤツデ訪花(雄花)吸蜜

2018/05/22

駐車場のハクセキレイ♂(冬の野鳥)



2018年1月上旬

消雪パイプから散水している駐車場で、1羽のハクセキレイ♂(Motacilla alba lugens)を発見。
駐車場の水溜りを歩き回っていました。
水溜りで水浴するか水を飲むか…と期待したのですが、すぐにチチッ♪と鳴きながら飛んで逃げてしまいました。
結構近くで撮り始めたので、鳥に警戒されてしまったのでしょう。


消雪パイプとは?
南国住まいの人には馴染みがないと思いますが、雪国に特有の消雪設備です。
豪雪地帯では除雪作業が大変なので、スプリンクラーのように常時水をチョロチョロと出し続けて、降り積もる雪を溶かす旧式な仕組みです。
街中の道路などで消雪パイプ用に地下水を汲み上げている場合は、地盤沈下の原因になると問題になったりします。
地下水は冬でも水温が比較的高く保たれているので、融雪には好都合なのです。



垂直円網に付いたミゾソバの花を取り除くアカオニグモ♀a(蜘蛛)



2016年9月下旬

前の年に、一部の造網性クモが給餌した花を食べるという衝撃的な観察結果を得ました。

◆記事のまとめ
花を食べる造網性クモの謎:2015年

常識破りの食性で興味深いのですが残念ながら今のところ再現性に乏しいので、機会がある度に種類や条件を変えながら細々と実験を続けています。


湿地帯の近くでアカオニグモ♀(Araneus pinguis)の張った正常円網を見つけました。
近くに咲いていたミゾソバの花を摘んで網の甑付近に投げつけてみました。
主の♀は網の横に生えたイヌタデやセイタカアワダチソウの群落で、葉や花穂などを糸で綴った隠れ家に潜んでいました。
網から隠れ家まで信号糸が伸びていて、振動を感知できるようになっているのですが、花を網に投げつけてもクモは無反応でした。
ミゾソバの花を指でくすぐるように揺らしてやると、アカオニグモ♀がようやく隠れ家から出てきました。

クモは歩脚で花に触れて調べると、すぐに獲物ではなく異物だと判断したようです。
花には噛みつかずに、網から丹念に外し始めました。
ミゾソバの花が付着した粘着性の横糸を全て切ると、花を網から捨てました。
次に歩脚で周囲の糸を引き締めたり自分で網を揺すり、もう網に異物が付いていないかどうか、状態をチェックしました。

隠れ家に戻りかけ、枠糸を調べてから、なぜか再び甑に戻りました。
最後は隠れ家に戻ると、やれやれと言わんばかりに、食べかけの獲物に食いつきました。

という訳で、実験はまたもや失敗に終わりました。
網にかかった花を昆虫が暴れていると誤認して噛み付いたり糸でラッピングしてくれないことには、花を食べる行動が始まりません。

※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。


アカオニグモ♀a(蜘蛛)@ミゾソバ花給餌→垂直円網+異物除去
アカオニグモ♀a(蜘蛛)@住居:イヌタデ

2018/05/21

ダイサギが足踏み追い出し漁で川魚を3匹捕食(野鳥)



2017年11月下旬

街中を流れる川で1羽のダイサギArdea alba)が岸辺をこちら(上流)に向かってゆっくり歩いて来ます。
一歩ずつ歩きながら川底の泥を足でわざとガクガクと踏みしめていました。
これは、小魚など隠れている獲物を追い出そうとしているのです。
このような写真では記録できない行動こそ、動画の出番です。

▼関連記事(約10ヶ月前の撮影で計3羽の別個体)
足踏みで川魚を追い出し捕食するダイサギa(冬の野鳥)
川で足踏みしながら魚を探し回るダイサギc(冬の野鳥)
川で足踏みして追い出し漁をするダイサギe(冬の野鳥)

ダイサギが「足踏み追い出し漁」をしながら上流へ向かって川を遡上するのも、意味がありそうです。

もし逆に下流へ向かって歩いて行くと、足踏みして川底を掻き乱した結果、濁った水が行く先に流れて魚影が見えなくなってしまうでしょう。
しかし上述した昔の記録を読み返すと、ダイサギは必ずしも上流へ向かうばかりではありませんでした。
これは漁の可否(上手下手、成功効率)に影響するはずですから、経験の浅い若い個体は自分で学習しないといけないのかもしれません。

6分間ほど長撮りしている間に、小魚など獲物を3回も捕食していました。
なかなか高い成功率(効率の良い漁法)と言えるでしょう。


  1. 何か小さな獲物を捕食。(@2:36) 
  2. 川の中をゆっくり渡渉しながら急に向きを変えると、翼を広げてバランスをとりながら嘴を一閃し、見事に小魚を捕らえました!(@3:43)
  3. ゴミと一緒にまた小魚を捕らえました。(@5:36) 暴れる魚を咥えながら器用にゴミだけを捨て、獲物を丸呑み。
もちろん、獲物に逃げられ捕食に失敗することも何回かあります。

私は釣りをやらないので知りませんでしたが、お世辞にも清流とは呼べないこんな街中の川にも魚が結構居るのだなとダイサギに教えられました。

※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。



【追記】
大田眞也『田んぼは野鳥の楽園だ』という本を読んでいたら、気になる記述がありました。
(コサギは)片方の足を前方に出して震わせ、ドジョウすくいのような格好で、魚やアメリカザリガニなどを追い出して捕食しています。ダイサギやチュウサギにはこのような習性はなく、ただじっと獲物が近づくのを待って捕食しています。(p81より引用)
著者は私なんかより遥かに熟練のバードウォッチャーですが、畏れながら下線部に対して私は複数の証拠映像を添えて異議を申し立てます。
大田氏のフィールドは九州なので、私が見ている東北地方のダイサギとは習性が異なるのでしょうか?(地域差)
ダイサギはオオダイサギとチュウダイサギという2亜種に分けられるそうなのですが、私には外見で亜種を見分けられません。亜種によって食習性が異なるのでしょうか?
それともダイサギが足踏み追い出し漁をするようになったのは、比較的最近のことなのかな?



【追記2】
孝森まさひで『フィールド版カモ類の観察』を読んでいたら、ダイサギの亜種(オオダイサギとチュウダイサギ)の見分け方が書いてありました。

冬、日本で過ごす亜種(オオダイサギ)は脚が肉色をしている。嘴は冬羽では両亜種とも黄色。(中略)この2亜種の場合は体の大きさ、脚の色が違う。 (p54より引用)

しかし、今回の動画では泥で汚れていて脚の色が分かりませんね。


【追記3】
松原始『鳥類学者の目のツケドコロ』に読むと、「コサギ独特の足で獲物を追い出す行動」について詳しい解説がありました。
 これはタモ網を使った捕獲とまったく同じ方法です。タモ網で魚を獲るとき、無闇に網を突っ込んで魚を掬い上げようとしても、なかなかうまくいきません。こういうときは、魚の潜んでいそうな場所の先にそっと網を差し入れ、足でガサガサと水底を踏んで、魚を網のほうに追い立てるのが得策です。魚が勝手に網に飛び込んできてくれます。これを「ガサ」などとも呼びます (電子書籍版より引用)

筆者はさらに次のような面白い仮説を提唱しています。
コサギだけが妙に目立つ黄色い足先を持っているのも、この行動と関係しているかもしれません。黒と黄色という取り合わせは警告色に使われるくらい、目立ちやすい色合いです。黄色い足先で、より魚を脅しやすくしているということも、あるのかもしれません。(同書より引用)
 しかし、ダイサギの足は黒いけどコサギと同じような足踏み追い出し漁をするぞ?と反論したくなります。
 松原氏のフィールドは京都周辺で、大田氏と同じく西日本です。
ダイサギはもう少し歩いて探すこともありますが、コサギに比べればあまり動きません。(同書より引用)
こうした記述は、どうも東北地方の雪国をフィールドとする私の観察結果と一致しなくて、読んでいても首をひねるばかりです。
そもそも私が見かける白鷺はダイサギばかりで、今のところ一度もコサギを見たことがないのです。
専門家や偉大な先人の書いた書物は参考になりますけど、どうも鳥の生態や行動には地域差がありそうなので、本の内容を鵜呑みに出来ません。
結局のところ、自分のフィールドのことは自力でコツコツ調べていくしかありません。
ダイサギ(野鳥)@川+足踏み追い出し漁
ダイサギ(野鳥)@川+足踏み追い出し漁
ダイサギ(野鳥)@川+足踏み追い出し漁

キボシアシナガバチ創設女王が柳の枝に初期巣を作り始めた



2016年5月中旬

湿地帯に生えた柳を見上げると、キボシアシナガバチPolistes nipponensis)の創設女王が枝先近くに初期巣を作っていました。

葉の茂った小枝から巣柄が下向きに取り付けてあります。
育房数は4室で、未産卵のようです。
女王蜂は、その育房をせっせと増設しています。

コアシナガバチとかなり迷ったのですが、キボシだと思い直しました。
コロニーが成長すれば、繭の色で種類が確定します。


写真はいまいちピンぼけ…。

2018/05/20

雪道でわだちに溜まった水を飲み脱糞するハシボソガラス(冬の野鳥)



2018年1月上旬

真冬にハシボソガラスCorvus corone)が水深は浅いものの冷たい川の中に入って食物を探し歩いていました。
飛び上がると雪に覆われた堤防に着地。
体重が軽いカラスは、足が沈まずに雪面を歩けます。

雪道の轍にできた水溜りまで歩いて来ると、嘴を漬けて雪解け水を二口飲みました。(@0:36〜0:50)
喉を潤すと少し歩き、嘴を雪で拭います。
さっきまで居た川で新鮮な流水を飲まずにわざわざ水溜りの泥水を飲んだのは、我々ヒトの衛生感覚からすると理解に苦しみます。

雪道を歩いて横断し、立ち止まると脚をやや屈みながらポトッと排便しました。(@1:02)
珍しく黒っぽい糞でした。
直後に飛び立つと、近くの電線に止まり直しました。
(脱糞の際に脚をやや屈んだのは、飛び立つ動作のついでだったようです)

▼関連記事 (雪国のカラスの冬季の飲水行動)
雪国の川の中で餌を探し歩き水を飲むハシボソガラス【冬の野鳥】
雪を食べるハシボソガラス【冬の野鳥】


ハシボソガラス(野鳥)@雪道:轍+飲水

ノシメトンボ♀♂の交尾と連結打空産卵



2016年9月下旬

稲穂が実る田んぼでノシメトンボ♀♂(Sympetrum infuscatum)が尾繋がり状態で飛びながら卵をばらまいていました(連結打空産卵)。
タンデムで停空飛翔(ホバリング)し、卵をほぼ同じ地点に何度も繰り返し産み落としています。
飛翔中は空気抵抗を減らすために、脚を体に引き寄せていることが分かります。
稲穂に別の♀♂カップルが止まって交尾しています。

稲田のあちこちでノシメトンボ♀♂が何組も同様に産卵していました。

図鑑『日本のトンボ』によると
(ノシメトンボは)連結産卵から♀単独での産卵に移行することも多く、♂が近くを飛んで警護する
らしいのですが、単独産卵は未だ見たことがありません。

▼関連記事(丁度2年前に撮った映像は短いので、撮り直しました。)
ノシメトンボの連結打空産卵

ノシメトンボ♀♂@飛翔+連結打空産卵
ノシメトンボ♀♂@飛翔+連結打空産卵+交尾

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