2012/11/17

ジガバチの営巣:獲物を狙う寄生ハエとの死闘#3:再搬入失敗



2012年8月上旬

巣穴の横にある木片の上で寄生ハエ♀が待ち伏せしています。
ジガバチ♀が木片に登ると蝿は逃げて行きました。

茂みに隠しておいた獲物の元に戻った蜂は、大顎で大事そうに咥えます。
麻酔が不完全だったようで、たまに獲物の下半身が激しく蠕動します。@1:53-2:12
それを蜂が不思議そうに見つめていますが、再麻酔手術は行いませんでした。
芋虫の上半身は完全に麻痺しているようです。

ジガバチ♀を個体識別するため、遅まきながら標識することにしました。
蜂を一時捕獲・麻酔せずに隙を見て直接、水色の油性ペンでマーキングしました。(映像なし)
腹背を狙ったつもりが手元が狂い、蜂の翅先および獲物の体表もインクで汚れてしまいました。

隠した獲物を後生大事にガード

個体標識直後(水色)
 しつこい寄生ハエをまいた(ほとぼりが冷めた)と判断したのか、母蜂は再び巣坑を目指して獲物を運び始めました。@2:50
先程埋め戻した巣口まで辿り着くと、獲物を地面に置きました。
横に転がっている松ぼっくりが目印です。
しかしすぐに天敵のアリや寄生ハエが獲物に集って来るため、ジガバチ♀は気の休まる暇がありません。
閉塞石を手早く取り除きます。
前回同様、大きな閉塞石は巣口の横に置き、小さな閉塞石はわざわざ飛んで捨てに行きます。
時間がかかるし、貯食後は埋め戻す作業が残っているのに無駄な行動に思えてしまうのですけど、ジガバチなりに何か理由があるのでしょう。
蜂が作業の手を止めると、2匹の寄生バエが歩いて近寄ってきました。@6:01


再搬入
堪らずジガバチ♀はまたもや獲物を持って逃げ出しました。
何という無間地獄…。
前回の逃走とは方角が違います。
3匹の小さな寄生ハエがピョンピョン飛び跳ねるように早足でその後を追います。
蜂が不在の隙に巣坑に幼虫を産仔しておけば良いのにと思うのですが、寄生ハエの方も確実を期して産みつけるタイミングはジガバチが巣に獲物を搬入した後とプログラムされているようです。(※ 下記の参考動画は必見!)

必死に逃避行する蜂が獲物を地面に置いて再麻酔手術を行いました!@6:52
獲物の背側から跨り、腹部を強く曲げて芋虫の腹面を走る中枢神経系をめがけて毒針を突き刺しました。
その様子を近くで寄生ハエが見守っています。

ここで残念ながらカメラのバッテリーが切れてしまいました。(痛恨のミス…)
ほとぼりが冷めるまで待ったのに、寄生ハエに待ち伏せされて、ジガバチ♀の持久作戦も水の泡でした。

ジガバチvs寄生ハエの知恵比べ、根比べに震撼しました。
息詰まる死闘です。

同定してもらうために、寄生ハエ♀1匹を採集しました。
素人目にはドロバチヤドリニクバエとは別種のような気がします。

いつもお世話になっている「一寸のハエにも五分の大和魂」掲示板にて問い合わせたところ、茨城@市毛さんより次の回答を頂きました。

恐らく,ドロバチヤドリニクバエと同じニクバエ科のヤドリニクバエ亜科の1種だと思います.Fauna of Indiaを見ると,この仲間は交尾器の他に腹部斑紋にも種の特徴が出るようなので,専門家が見ると種まで解るのではないかと思います.
また,額が広いのも特徴的に見え,Kurahashi(1970)に図示されたSphenometopa matsumurai シロオビギンガクヤドリニクバエの♀の頭部と酷似しているように見えます.

さんごさんからも以下のようにご教示頂きました。
私もSphenometopa matsumurai に1票入れたいと思います.
本種の♀は見たことがないのですが,♂はこれとよく似た腹部の斑紋をしています.ただし♂は腹部の白の部分がもっと純白な感じですが.
ぜひ交尾ペアを採集していただいて,♂の画像を再び投稿してください.たしか本種のホストは未知ではなかったでしょうか(知らないのは私だけ?).もし本種と特定できれば大変貴重な記録ではないかと思います.
♀が歩いてハチを追尾するのですね.何かかわいい感じですね.アナバチヤドリニクバエやシリグロヤドリニクバエの場合は飛行して追尾します.とても面白いものを見させていただきました.どうもありがとうございます.

写真の個体は,頭部が茨城@市毛さんのご指摘のとおり,Kurahashiのレビジョンのシロオビギンガクの♀にドンピシャで,私の持っている同種の♂にも斑紋が酷似していますが,市毛さんがご指摘のように,♀から種の判定まで持ち込むのは専門家でないと厳しいです.

日本には同属は1種のみとされていますが,ときどき本邦から記録がなかった種がみつかったりしますので,現時点でシロオビギンガクとは言い切れないです.産仔の場面に遭遇しても,その時点で種がなかなか確定できないのが,このグループの生態を研究する上でブレーキになっています.
「おそらく」シロオビギンガク♀だろう,という程度と認識していただけたらと思います.
ぜひ♂をゲットしていただいて,その映像(交尾器を含め)をご投稿くださることを願っています.



つづく

胸背


側面

側面

右翅

左翅

腹背

単眼

顔(左右の複眼は離れている)

腹面



【参考動画】by UraniwaKansatsukiさん


サトジガバチがイモムシを巣穴に運びこむ隙に寄生バエが産仔する瞬間が見事に記録されています。



【追記】
『日本動物大百科9昆虫II』p150によると、
ヤドリニクバエ類の♀は、巣づくり中のジガバチやハナバチ類のあとをつけ、巣の入り口に空中から1齢幼虫をばらまいて侵入させる。



エゾイトトンボ♂@尾部屈曲



2012年7月上旬

沼岸の草葉に止まったエゾイトトンボ♂が腹部をくねくね動かしていました。
後脚を擦り合わせながらクネクネ、モジモジ。
交尾に備えてストレッチ運動でもしているのでしょうか。
あぶれ♂が飛来すると、僅かに尾端を持ち上げ合図していました。


2012/11/16

ジガバチの営巣:獲物を狙う寄生ハエとの死闘#2:再度の巣坑一時閉鎖



2012年8月上旬

独りで観察しているため、逃げたジガバチ♀と営巣地を同時に監視するのは不可能です。
営巣地を見張ることにしました。
数分後、営巣地に一匹のジガバチ♀が空荷で現れました。
地面を徘徊して、一時閉鎖を解いたばかりの巣坑を探し当てました。
中を点検してから、驚いたことに再び一時閉鎖を始めました。

蜂の個体標識(マーキング)を施していなかったことがつくづく悔やまれます。
考えられる可能性は二つ。

  1. さきほど寄生ハエに追われて逃げたジガバチ♀がどこかに獲物を隠してから巣に戻って来た。
  2. 新しい営巣地を探していた別個体♀が運良く空き巣を見つけ、これを乗っ取り再利用することに決めた。(一種の労働寄生)
蜂は閉塞石を詰め込んだり、砂を足で掻き入れたり、手早く作業を進めます。
巣穴の横にまとめて置いていた大きな閉塞石も再利用しました。
永久閉鎖とは異なり、顔で押し固める力作業は省略。
閉塞石は巣穴のすぐ近くの物で済ませ、わざわざ遠くまで探しに出かけたりしない印象を受けました。


戸締りが済むと今度はあっさり立ち去りました。
このとき巣の場所を記憶するための定位歩行も行わなかったので、やはり巣主の♀が戻ってきたと考えるのが自然でしょう。
もし別個体の♀が巣を奪ったのなら、狩りに出かける前に巣穴の位置をしっかり覚える必要があるはずです。
オッカムの剃刀」の原則や「モーガンの公準」からも、シンプルな解釈(1)を採用することにします。
アクシデントのせいで本能行動の連鎖が断ち切られたように思うのですが、母蜂はこの後どうするのでしょう?

つづく


ハンミョウの疾走と狩り失敗【ハイスピード動画】



2012年8月下旬

舗装路で疾走するハンミョウ(斑猫)Cicindela japonica
を220fpsのハイスピード動画に撮ってみました。
体長比で考えるとハンミョウは昆虫界で最も俊足の短距離ランナーであると聞いたことがあります。

辺りを徘徊するアリが近づく度に、急かされるように走り出します。
アリのおかげで間欠的に疾走するシーンを同一個体で何度も撮ることができました。

ハンミョウは肉食性です。
アリから逃げるだけでなく狩りを試みた決定的瞬間が一度だけ偶然に撮れていました。(@1:32〜)
横から近づいてきたアリに気づくと向き直り、突進すると大顎で襲いかかりました。
しかし蟻酸で反撃されたのか、すぐに退散しました。
獲物と誤認したのかと現場では思ったのですけど、『川辺の昆虫カメラ散歩:多摩川水系250種の虫たち』p56によると、

この美しい昆虫(ハンミョウ)は日当たりの良い路上で、アリなどの小さな昆虫が通りかかるのを待って、それをとらえて食べる。
また平凡社の『日本動物大百科10昆虫Ⅲ』p95によれば、
獲物はアリが多いが、蛾の幼虫やミミズといった体液の多い小動物が好物。ハンミョウ類はすばやく走ることができるが、逃げる獲物を追いかけて捕らえるわけではない。

ヒトが追いかけると少しだけ飛んで逃げる有名な「道教え」行動をハイスピード動画に撮ってみたかったのですが、難しくて無理でした。(三脚が必要?)





同一個体を通常のHD動画でも撮りました↑。
路上に佇むハンミョウが夏の強い日差しを浴びて、立ち姿の濃い影が路上に落ちています。※
正面を向くと、どうやら大顎を開閉しているようです。

足元を蟻が這うのを嫌って短距離走(ダッシュ)を繰り返します。
疾走感は出ていると思いますが、速すぎてよく見えません。


【追記】
※ 『カラー自然シリーズ70:ハンミョウ』p6によると、炎天下で体温の上がった
ハンミョウは太陽の方を向いて、体を起こします。このような姿勢をとると、日光の当たる面積がぐんと小さくなり太陽の熱の受け方が減ります。地面にうつったハンミョウの影を見てください。ずいぶん小さくなっているでしょう。
これはトンボの倒立姿勢と同じ原理ですね。
関連記事→「倒立して体温調節するマユタテアカネ未熟♂
今回私が動画に撮ったハンミョウはそこまで暑くはなかったようです。
ちなみにハンミョウの顔を正面から接写できれば大顎の色で性別判定できるらしい。(他には前脚の毛束の有無)
同書p13より



2012/11/15

ジガバチの営巣:獲物を狙う寄生ハエとの死闘#1



2012年8月上旬

狩りに成功したジガバチ♀(※サトジガバチまたはヤマジガバチ?)が営巣地に意気揚々と帰還。


※ 後日、同じフィールドで捕獲した♀♂はヤマジガバチと写真鑑定して頂きました。
 獲物としては大型で、体長はジガバチよりも大きな褐色の芋虫でした。
(ヤガ科のキリガ亜科またはヨトウガ亜科の幼虫、いわゆるヨトウムシの一種らしい)
毒針で麻痺した獲物の頭部を前に向け腹合わせにして跨り、大顎で挟んで抱えます。
運搬法は飛べずに前進歩行です。
仰向け状態の芋虫を大顎で前2/3辺りを挟んでいます。
運搬に疲れたのか蜂は途中で立ち止まって休憩。
(疲労というよりも、天敵である寄生バエが近くに居ないことを確かめていたのかもしれません。)
一息つくと、ジガバチ♀は一気に直線的に巣へ向かいました。
戸締りしていた巣口のすぐ横に獲物を置くと、足で地面を掻き始めました。
横に転がっている松ぼっくりが目印だったのでしょうか?

偶然ですがティンバーゲンの実験を思い出します。
もし松ぼっくりの位置をずらしていたら、蜂は迷子になったでしょうか?

先程ジガバチ♀が掘り上げた後に一時閉鎖した巣穴とは近いものの別物であることに気づきました。
それだけここはジガバチに人気のある営巣地なのでしょう。
この段階では蜂を個体識別していませんが、2匹のジガバチ♀は別個体と思われます。
蜂は巣穴に詰め込んでいた閉鎖石を咥えて取り出すと、巣口のすぐ横に置きました。
貯食後の永久閉鎖の際に再利用するのでしょうか?
ところが次第に閉塞石を咥えて飛び立ち、空中から捨てるようになりました。
大きくて重い閉塞石は巣口の横に置き、小石は空中散布する方針なのかな?
アリが近寄るとジージー♪すごい剣幕で撃退。

レンズを近づけると、せっせと働く蜂の羽音♪がよく聞こえます。
ここでファーブルの真似をして少し悪戯してみることに。
蜂が閉塞石を捨てに出かけた間にこっそり芋虫を摘み上げ、巣口横から少し離した場所に移しました。
果たして蜂は異変に気づくでしょうか?
(操作実験は、自然な営巣例を一度きちんと見届けてからにすべきだったかも。)
そこへ小さな寄生ハエが数匹飛来しました。(@4:48)

松ぼっくりの上に止まってジガバチの様子を見張っています。

ジガバチは作業の合間に芋虫に集っていたアリを追い払いました。
私が獲物の位置をずらしたことに前から気づいていたようです。
特に狼狽したり探し歩く様子もなく、勝手に動いた獲物を再び毒針で麻酔することもありませんでした。
隙を見て、獲物の横に定規を置いて採寸してみます。
蜂も獲物の元に戻ってきてくれたので、一緒に身体測定できました。
しかしこれはやり過ぎの介入だったかもしれません。
色付きの定規を置いたせいで巣口周辺の環境が(蜂にとって)激変したためか、不安そうに動かなくなりました。
獲物を咥えてガードするように離しません。

定規はすぐに取り除きました。

落ち着いたら次はいよいよ巣坑に獲物を貯食するかと思いきや、予想外の展開が起こりました。
小さな寄生ハエの接近に驚いたように、ジガバチ♀は獲物を曳いて逃げ出しました。(@9:20)

せっかく開いた巣穴を素通りして逃げて行くジガバチの後を寄生ハエがピョンピョン跳ぶようにしつこく追跡しています。

動画編集で手ブレ補正を施した際に若干デジタルズーム処理されています。そのため、肝心の寄生ハエは画面の縁に見切れそうなぐらい辛うじて映っているだけになってしまいました。
獲物を抱えて休み休み逃避行を続ける蜂は、裸地に少し草が生えた場所で立ち止まりました。
しつこい天敵を上手くまいたでしょうか?
もしジガバチが獲物の搬入や産卵を強行していたら、寄生ハエに幼虫をすばやく産み付けられ、せっかく苦労して狩った獲物や蜂の子も蛆虫に捕食寄生されていたことでしょう。

しかし巣坑の位置を寄生ハエに知られてしまった以上、ジガバチ♀に勝算はあるのでしょうか?

つづく

【参考】
アリに盗まれないように獲物を草の上などに運ぶこともありますが、サトジガバチではこの行動はあまり見られません。(『狩蜂生態図鑑』p29より)




巣口の大きさを1円玉で比較

ガードレール上を走るニホンザルの群れ



2012年6月中旬

里山の雑木林から車道に下りた野生ニホンザルMacaca fuscata
)がガードレールの上の縁を平均台や綱渡りのように小走りで遊動し始めました。
続々と猿が現れ、器用に同じルートを通ります。

恐るべき身体能力ですね。


2012/11/14

ジガバチ♀の巣坑掘りから一時閉鎖まで



2012年8月上旬

今回の営巣地は日当たりの良い尾根道の裸地で水平な地面です。
ジガバチ♀(※ヤマジガバチまたはサトジガバチ?)が斜めに巣坑を掘っています。


※ 後日、同じフィールドで捕獲した♀♂はヤマジガバチと写真鑑定して頂きました。

小石を咥えて出てくると飛び立ち、空中から捨てに行きます。
どうやら独房を掘り上げたようです。
今度は巣穴を一時閉鎖するために手頃なサイズの閉塞石を探し始めました。

どうせまたすぐ埋め戻すのなら、先程掘り出した小石を一箇所に集めて置いておけば良いのにと思うのですが、蜂にそこまでの知恵はないようです。(何か理由がある?)
小石を咥えて帰巣するのに手間取っています。
迷子になったのか、ジグザクに歩いて探索しているようにも見えます。
それとも、天敵のアリや寄生バエに巣の位置を悟られないよう、警戒している(敵を巻いている)のでしょうか?
初めに持ち込んだ石は大き過ぎたのか、何度か試した後に捨てました。
巣坑からなぜか枯れた松葉を引きずり出して捨てました。
テトリスでもするように、咥えた閉塞石の向きを変えながら巣坑に詰め込みます。
貯食完了後の永久閉鎖作業とは違い、押し固め行動を伴わず、ジージー♪鳴くこともありません。
小石や砂利で大方埋め終わると、後ろ向きになって脚で地面をかき、砂をかき入れます。
砂利詰めと砂かけを交互に行います。
もう一つ永久閉鎖作業と違うのは、営巣地の偽装工作もやりませんでした。
もしかするとこの営巣地では偽装不要と判断して省略したのかもしれません。
裸地に枯葉を集めて被せた方が不自然でしょう。

巣穴の一時閉塞(戸締り)が完了すると、触角で激しく地面を叩きながら歩き回ります。
通りがかったアリを撃退しました。
巣穴の位置を記憶する(定位)ための徘徊行動のように思いました。

他の蜂でよく見られる定位飛行ではなく、定位歩行?
目印となるような大きめの小石や木片で立ち止まり、念入りに触角で調べています。
アリのように道標フェロモンを付けているかもしれません。

動物行動学のパイオニアで1973年にノーベル賞生理学・医学賞を受賞したティンバーゲンはジガバチの一種(日本にはいない種類?)で帰巣能力の実験を行い、化学的情報(道標フェロモン)ではなく視覚情報(目印)で巣の位置を記憶することを証明しています。
教科書に載っているこの古典的で単純(エレガント)な実験をいつか私も真似して日本のジガバチでやってみたいものです。
例えば古い本ですが『無名のものたちの世界I』p44には「図形を覚えているジガバチ」という図版でこの実験を説明しています。こちらのサイトでも簡単な解説があります。英語のサイトですが、解説図版を見つけました。 

ジガバチの営巣行動の前半部をようやく観察することができました。
狩りに出かけた蜂の帰りを待ちます。

つづく→「
ジガバチの営巣:獲物を狙う寄生ハエとの死闘#1」。

【追記】
ヤマジガバチでは体重の10倍以上もある小石を運んだ観察例がある。(『日本動物大百科10昆虫Ⅲ』p44より)




アオカナブン羽化不全個体の羽ばたき【ハイスピード動画&HD動画】



2012年8月下旬

林道脇の地面で暴れているアオカナブンRhomborhina unicolor
を拾いました。
左の後翅が異常で、羽ばたいてもバランスが取れず飛び立てないでいます。
羽化不全個体でしょうか。

手に乗せてカナブン特有の羽ばたきをじっくりハイスピード動画(220fps)に撮ってみました。
他の甲虫とは異なり、前翅を閉じたまま後翅だけを開いて羽ばたくのが不思議です。

飛行中の空気抵抗を減らす工夫なのでしょうか。
しかし左後翅の羽先が皺くちゃでうまく広がらず、左右非対称の翅ではうまく飛び立てません。
左の鞘翅(前翅)は閉じたままですが、立て付けが悪いのか羽ばたきに合わせてガタついています。
いくら頑張っても離陸できません。
手に吹きつける風が涼しく、まるで手乗り扇風機のようです。

山渓フィールドブックス『甲虫』によると、

カナブンなどのハナムグリ類は、翅鞘を閉じたまま、その下から後翅を広げて飛翔する。(p57)
アオカナブンは低山地から山地にかけて棲息している。(p88)






通常のHD動画でも撮ってみました。
ブーン♪という羽音が録音されています。
声紋解析してみれば羽ばたきの周波数が分かるかもしれません。

(やってみたけど駄目でした。)




【追記】
『日本動物大百科10昆虫Ⅲ』p114によると、
ハナムグリ類は上翅を閉じたままの独特の飛び方をする。上翅をやや持ち上げぎみにして、側縁のえぐれた部分から後翅をくりだして飛ぶのである。このため、すばやく飛翔態勢をとることができ、上翅にかかる空気抵抗が少ないぶん、飛ぶスピードも速くなる。

河野修宏『雑木林で虫さがし』p7によると、カナブンは前脚の脛節で性別を見分けられるらしい。
突起が鋭い方が♀。
アオカナブンでも当てはまるのかな?


【追記2】
6年後にようやく正常個体の飛翔シーンを撮りました。
▼関連記事 
飛べ!アオカナブン【HD動画&ハイスピード動画】

2012/11/13

ジガバチ♀の穴掘りを邪魔するアリ



2012年8月上旬

今季見つけたジガバチ営巣地(標高約600m)に登ると、この日は尾根道(裸地)で営巣するジガバチ♀(※ヤマジガバチまたはサトジガバチ?)を何匹も見つけました。


※ 後日、同じフィールドで捕獲した♀♂はヤマジガバチと写真鑑定して頂きました。

裸地を徘徊していたジガバチ♀が巣の掘坑を開始。
大顎に力を込めて小石を掘り出す際にもジージー♪鳴きます。
通りかかったクロアリ(種名不詳)と激しい喧嘩になりました。
ジガバチが大顎で撃退しようとしても、小さなアリの方が俊敏でしつこく攻撃してきます。
最後はジガバチの方が飛んで退散。

同じ場所に戻って試掘を再開するも、今度は2匹のアリに襲われました。
またもや逃げ出したのはジガバチ♀の方でした。

もうこの場所は諦めたようです。

この日は同様の対決シーンを何度も観察しました。
映像に登場する♀は個体識別していません。(同一個体とは限らない)

生息密度の高いジガバチ営巣地をせっかく見つけたのに、アリに妨害されるせいで観察が捗りません。
ジガバチにとってアリは恐るべき天敵の一つと言えるでしょう。
狩りの後で獲物を蟻に奪われる例も後に観察しました(映像公開予定)。

蟻の巣が近くにあるのに営巣地の選定ミスを犯したジガバチ♀も悪いのですけど。

もし何らかの方法でお邪魔虫(アリ)の侵入を防いでやれば、ジガバチの営巣を助けてやれる
でしょうか? 
しかし下手に営巣地の周囲に水壕を掘ったり粘着シートを「蟻の這い出る隙もない」ぐらい敷き詰めたりすると、ジガバチの行動の妨げにもなりそうです。
(狩りの後は獲物を引きずって巣穴まで搬入するため。)
フィールドに蟻の巣コロリを撒いて駆除するのは抵抗あるしなー。
うーん、困った困った…。



【追記】
炭酸カルシウムのチョークで太い線を書くとなぜかアリは嫌って越えられない、という話を小耳に挟みました。
試しに実験してみる価値はありそうです。
おそらくジガバチの行動には影響は無いでしょう。



アカハナカミキリの飛び立ち



2012年8月上旬

この日も暑く、アカハナカミキリがあちこち元気に飛び回る姿をよく見ました。
しかし動画に撮れたのはこの1回だけ。
地上からでも離陸できるようです。
15%スローモーションでリプレイしても、ハイスピード動画ではないのでいまいちですね。

どなたか性別が分かる方は教えて下さい。



2012/11/12

ジガバチ♀同士の喧嘩



2012年8月上旬

ジガバチ♀(※ヤマジガバチまたはサトジガバチ?)が山地の裸地(尾根道)で偽装材を探し歩いています。


後日、同じフィールドで捕獲した♀♂はヤマジガバチと写真鑑定して頂きました。
松の落葉や小石を大顎で何度か咥えるも、気に入らなかったようで落として探し続けます。
そこへ突然、別個体が襲いかかり激しい格闘になりました。
♀同士の喧嘩なのか、それとも交尾を試みる♂なのでしょうか?
15%スローモーションで確認してみました。
同じぐらいの体格であること、襲撃者が背後からマウントしようとせず正面から向かっていっていることの2点から、♀同士の喧嘩だと思います。
襲撃者の顔色は判別できませんでした(♂なら白色)。
最後は2匹とも飛んで逃げました。

互いに労働寄生(盗み寄生)を行うジガバチ♀は出会い頭に喧嘩しても不思議ではありません。


ヒグラシのアリ撃退法



2012年8月上旬

山桜の幹にヒグラシが黙って止まっています(地上75cm)。
徘徊する働きアリがセミにちょっかいをかけると、興味深い行動を示しました。
威嚇するかのように翅を小刻みにチャッチャッと震わせて撃退したのです。
映像では計3回、チッチッと翅を震わせて近づくアリを追い払っています。

音量を上げ耳を澄ませてお聞き下さい。

セミを捕獲して性別を調べればよかったですね。
微かに鳴いたということは♂なのかな?

それとも単に翅を弾いた音ですかね?
(ヒグラシの)オスの腹部はメスよりも明らかに太くて長く、オスメスの区別がつけ易い。また、オスの腹腔内は大きな共鳴室が発達しているためほとんど空洞で、光が透けるほどである。(wikipediaより)

解説を読んでも不慣れな私は外見から見分けられません。
腹面に発音器の腹弁が有れば♂と分かるのですが。



2012/11/11

蜂蜜を舐めるヤマジガバチ♀♂



2012年8月上旬

山地のフィールドで捕獲したジガバチの仲間♀を個体識別のため炭酸ガス麻酔下でマーキング(黄色)しました。
ヤマジガバチまたはサトジガバチだと思うのですが、相変わらず私には外見で見分けられません。

(ミカドジガバチの可能性は?)
いつもお世話になっている蜂屋のヒゲおやじさんに写真鑑定してもらったところ、ヤマジガバチだろうとの回答を頂きました。

蜂蜜をなめる個体の中胸背板の画像をみると、おそらく「ヤマ」でいいと思います。
麻酔から完全に回復するまでの間に蜂蜜の原液を一滴与え、もてなしました。
早速、黒く長い舌を伸ばして吸蜜しています。

その後、このヤマジガバチ♀黄を放虫して追跡してみたのですが、林縁の潅木で見失ってしまいました。
片手間にほんの数匹マーキングするだけでは駄目ですね。
本腰を入れて、辺りに生息するジガバチ全個体を捕獲・標識する意気込みでやれば何か面白いことが分かるかもしれません。
営巣活動を観察・撮影するのか、一時捕獲して個体標識するのか、それとも同定してもらうため標本を採集するのか、いまいち目的が定まらず中途半端でした。







徘徊@放虫後





同じ日に同じ場所でヤマジガバチ♂も個体標識(黄色)しました。
低空飛行と地上徘徊を繰り返す♂をしつこく追いかけて林縁のリョウブに訪花したところを捕獲しました。
♂は全身が痩せっぽちで顔が白いのですが、頭楯を接写してみると銀色の毛が密生していました。
同様に蜂蜜を与え、吸蜜する口器の動きを接写してみます。
口髭でリズミカルに蜜滴の表面に触れています。

後で思うと、捕獲した♀♂ペアの交尾行動を飼育下で観察してみればよかったですね。
せめて同種なのか別種なのか知りたいものです。


【追記】
アナバチ類の触角は♂で13節、まれに12節、♀で12節ある。(『日本動物大百科10昆虫Ⅲ』p44より)












スズキハラボソツリアブのイタドリ訪花・吸蜜【ハイスピード動画&HD動画】



2012年8月下旬

スズキハラボソツリアブSystropus suzukii)が単独でイタドリに訪花する様子を220fpsのハイスピード動画で撮影してみました。
ツリアブ科ですけどホバリングしながらの吸蜜ではなく、毎回花に着陸して翅を休めてから吸蜜しています。
個々の花蜜の量が少ないのか、忙しなく飛び回ります。
そのため、じっくりと接写するチャンスをなかなか与えてくれませんでした。

ニトベハラボソツリアブという近縁種もいますが、初めて自分で写真鑑定できました。
触角第1節の全体が黒色のものはスズキハラボソツリアブ、触角第1節は橙黄色をしていればニトベハラボソツリアブなのだそうです。

通常のHD動画でも撮ってみました。







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