2014/01/25
ノスリ(野鳥)の旋回飛翔と鳴き声の声紋解析
2013年9月下旬
山麓の上空で上昇気流に乗ったノスリ(Buteo japonicus)が旋回飛翔していました。
鳴き声からてっきりトビかと思いレンズを向けたのですが、翼下面の特徴からノスリでした。
秋晴れの青空と白い雲を背景にくるりくるりと輪を描いています。
ノスリの鳴き声を声紋解析してみる
図鑑ではノスリの鳴き声はピーエー♪と表現されています。
今回撮れたオリジナルのMTS動画ファイルからWAVファイルに音声を抽出した後、鳴いている2箇所を切り出してスペクトログラムを描いてみました。
ノイズが非常に多いものの、黄色い線でかすかに声紋が認められます。
カメラの内蔵マイクでは性能に限界を感じます。
外付けマイクと集音器を使えば改善するのかな?
ミゾソバの花蜜を吸うクマバチ♀
2013年10月上旬
湿地帯のミゾソバ群落でキムネクマバチ♀(Xylocopa appendiculata circumvolans)が忙しなく訪花していました。
後脚の花粉籠は空荷のようです。
混在して生えているアメリカセンダングサの花には目もくれません。
重量級のクマバチが花に止まるとミゾソバの茎が大きくしなります。
その反動を利用してタイミングを見計らい飛び立っているようです。
『昆虫の集まる花ハンドブック』p62によると、
(ミゾソバの)1つの穂の中で開いている花は1〜4個だけで、平均1.7個に過ぎない。満腹するには多数の穂を訪れる必要があり、花粉があちこちに運ばれることになる。
▼関連記事▼
ミゾソバに訪花するクマバチ♀の飛翔【ハイスピード動画】
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2014/01/24
ニホンザルの屍肉と獣毛を食すフキバッタ
2013年9月下旬
ニホンザルの死骸を土に還す者たち:#21
2頭の死骸それぞれにフキバッタ(種名不詳)が一匹ずつ居座り、摂食していました。
1匹目のフキバッタは死骸の頭部で眼窩の縁の組織(干からびた瞼?)を齧っていました。
てっきり草食性だとばかり思っていたフキバッタが獣毛や、脊椎動物の屍肉も食べる(腐肉食、屍肉食)とは衝撃的でした。
「死骸の掃除屋としてのフキバッタ」というのは私にとって新鮮な発見でした。
飼育経験のある方には周知の事実なのかもしれませんけど…。
もう一匹のフキバッタは左後脚が根元から欠損しており、3日前の定点観察で見たフキバッタ♀(右後脚欠損)と同一個体かと早とちりしたのですが、左右逆の脚なので別個体でした。
関連記事→「死んだ猿の毛を食すフキバッタ♀」
これらのフキバッタは檻に閉じ込められている訳ではありません。
金網の隙間をくぐり抜けて、外の草むらと自由に出入りできます。
同時並行で死骸の全身像を微速度撮影した監視映像を見直すと、猿の死骸に居座るフキバッタは何度も繰り返し訪れていることが分かりました。
関連記事→生物分解が一段落したニホンザルの死骸【微速度撮影】草むらを徘徊中にたまたま檻に迷い込んだというよりも、明らかに屍肉を目当てに続々とやって来るようです。
未採集ですが、もしこのフキバッタの性別および正式な種名(せめて属名だけでも)が分かる方がいらっしゃいましたら教えて下さい。
つづく→シリーズ#22
【追記】
虫好きな私は推理小説の中でも法医昆虫学が登場するミステリを愛読しているのですが、興味深い記述を見つけました。
川瀬七緒『水底の棘:法医昆虫学捜査官シリーズ』p46より
わたしがハワイに留学していたときに、こんなことがありました。腐敗の進んだ遺体が見つかった。遺体についた虫のグループにおかしなところはなかったんですが、なぜかばらばらになったバッタのかけらがあちこちに落ちていた。バッタは屍肉食種の昆虫じゃないうえに、みんな揃って千切れている。
これが重要な手掛かりとなって殺人事件が解決したという話です。
下線部を読んで「でも私(しぐま)は例外を見ているぞ」と思ったのですが、法医昆虫学が扱うのはあくまでもヒトの遺体ですから、体毛の多いニホンザルの死骸に来る昆虫相とは異なるのかもしれません。
また、ハワイよりも日本の里山の昆虫相の方が断然豊かですから、それでも説明できそうです。
もちろん専門書ではない推理小説ですから正確な情報かどうか鵜呑みにはできませんが、個人的な備忘録として書き記しておきます。
【追記2】
現役の法昆虫学者が書いた本、三枝聖『虫から死亡推定時刻はわかるのか?―法昆虫学の話』を読むと、死体を食糧とする昆虫を順に概説した最後に、次のように書いてありました。
ゴキブリ(網翅目)、コオロギ(直翅目)なども雑食性で、死体の軟部組織を食べることがある昆虫である。 (p52より引用)アメリカに比べて日本の法昆虫学は未だ遅れているのだそうです。
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アレチウリを訪花するニホンミツバチ♀の飛び立ち【ハイスピード動画】
2013年9月中旬
堤防に生い茂ったアレチウリの群落でニホンミツバチ(Apis cerana japonica)のワーカー♀が花蜜を吸いに来ていました。
花から花へ飛び回る様子を240-fpsのハイスピード動画で撮ってみました。
後脚の花粉籠は空荷のようです。
▼関連記事(7年後の撮影)
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2014/01/23
猿の死骸に来たヒメクロシデムシ?
ヨツバヒヨドリの花蜜を吸うジガバチ
2013年7月下旬
里山の林道脇に咲いたヨツバヒヨドリをジガバチの一種が訪花していました。
にわか雨が降るなか傘をさしながら撮影したのですが、蜂は雨を気にすることなく飛び去りました。
ヤマジガバチなのかサトジガバチなのか同定したかったのですけど、採集できず残念。
正面から顔を拝めなかったので、性別も不明です。
【追記】
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2014/01/22
生物分解が一段落したニホンザルの死骸【微速度撮影】
2013年9月下旬・気温31℃@日向
ニホンザルの死骸を土に還す者たち:#19
3日ぶりの定点観察。
死骸の厚みが更に無くなり、毛皮がぺしゃんこに潰れていました。
文字通り骨と皮だけになっています。
毛根から脱落した毛が益々広範囲に散乱しています。
体内の肉や内臓を食い尽くした大量のウジ虫はもう殆ど死骸に残っていません。
死骸から一斉に離脱して地中で蛹になったのでしょう。
2頭のうちで生物分解が早く進んだ死骸Lにはもはやハエの成虫もあまり来ていません。
腐臭が大分収まり、内心ホッとしました。
臀部に「尻だこ」が丸ごと残っていますけど、分解されにくい軟骨なのかただの角質なのか気になります。
【追記】 尻だこ,尻胼胝[英ischial callosity]旧世界ザルの尻の坐骨結節に相当する部位にある,無毛の非常に丈夫な結合組織性の皮膚.知覚神経がほとんど分布せず,それで長時間,枝の上に尻だこをのせて睡眠・休息していても痛くならない.これを木の枝にうまくひっかけ,体を支えるのであり,樹上生活に対する適応例の一つ.大形類人猿では,あまり発達していない. (『岩波生物学辞典第4版』より引用)
未だ虫が来ている方(死骸R)の全身像を10秒間隔で2時間インターバル撮影した計705枚の連続写真を素材に早回し映像を作成しました。
檻の金網から落ちる影が日時計のように死骸の上を移ろい行きます。
(メッセージ性がありフォトジェニックかもしれませんが、記録映像としてはちょっと目障り…)
特筆すべきは、この日もフキバッタが毛皮の上を徘徊していることです。
関連記事→#17「死んだ猿の毛を食すフキバッタ♀」
同じ連続写真を素材に、更に2倍早いタイムラプス映像も作ってみました。
せっかちな方はこちらをご覧ください。
つづく→シリーズ#20
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サラシナショウマを訪花するツマキオオヒラタアブ♀の停空飛翔【ハイスピード動画&HD動画】
2013年9月下旬
山際にある鎮守の森(スギ林)の薄暗い林床に咲くサラシナショウマの群落で、見慣れないハナアブが飛び回り訪花していました。
ホバリングする様子を240-fpsのハイスピード動画で撮ってみました。
花に脚を掛けて止まり口吻を伸ばして花蜜・花粉を舐めている間も完全に翅を止めることはほとんど無く、アイドリング運転のように羽ばたき続けています。
ホバリング(停空飛翔)しながら穂状花序をぐるりと回り、効率良く次々と吸蜜を続けます。
同じ花穂で小蛾(種名不詳)とニアミスしたシーンがちょっとおもしろいですね(@5:08〜5:25)。
同一個体の訪花シーンを通常のHD動画でも撮ってみました。
食後は近くの草むらで翅を休めて身繕い。
両脚を擦り合わせ、複眼を拭い、後脚で背中を掻いています。
化粧が済むと飛び去りました。
「体全体が真っ黒で腹端だけが目立つ赤褐色」というツートンカラーの配色は、薄暗い林床でもとてもよく目立ちます。
一緒に訪花していたクロマルハナバチ♀の配色と少し似ていますが、ベーツ擬態しているのでしょうか?
関連記事→「サラシナショウマを訪花するクロマルハナバチ♀」それでもよく見れば全体にほっそりしていて毛深くないので、すぐに虻と分かります。
調べてみるとハナアブの中にはクロマルハナバチ♀にもっとよく似た種類が他にいるようです(ミケハラブトハナアブやケブカヒラタアブなど)。
いつもお世話になっている「一寸のハエにも五分の大和魂・改」画像掲示板にて問い合わせたところ、茨城@市毛さんから早速ご教示頂きました。
ツマキオオヒラタアブ Dideoides coquillettiの♀です.
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2014/01/21
飛べ!ハネカクシ【ハイスピード動画】
2013年9月下旬
ニホンザルの死骸を土に還す者たち:#18
猿の死骸が放置された檻の金網をハネカクシの一種(黒タイプ)がどんどん登っています。
後翅が伸びており、今にも飛び立ちそうな予感がします。
慌てて240-fpsのハイスピード動画に切り替えました。
身繕い(前脚で触角の掃除)をしてからようやく後翅を羽ばたかせて飛び立ちました。
この日の定点観察では死骸の周囲でハネカクシ類が盛んに飛び回る姿を目撃したのですが、色々と目移りしてしまって飛翔シーンの撮影に成功したのは結局この1回きりでした。
関連記事→「猿の死骸に来たハネカクシの仲間(黒)」
つづく→シリーズ#19
街路樹から飛び立つミンミンゼミ
2013年8月中旬
平地の街路樹(ヤマボウシ?)に止まっているミンミンゼミ(Hyalessa maculaticollis)です。
細い枝に静止していますが、口吻も産卵管も突き挿していません。
鳴いてくれるかと期待したものの、黙って唐突に飛び去りました。
♀だったのかな?(性別不明)
どうせなら飛び立つ瞬間にオシッコを排泄するかどうか、ハイスピード動画で撮りたかったです。
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2014/01/20
死んだ猿の毛を食すフキバッタ♀
2013年9月下旬
ニホンザルの死骸を土に還す者たち:#17
フキバッタの一種がニホンザルの死骸Lの毛皮に陣取り、歩き回っています。
右の後脚が根元から欠損している個体です。
頻りに口器を動かしているのでよく見ると、驚いたことに、ときどき死骸の長い毛を口にしていました。
たとえ死んだ獣毛を噛み切ることが出来たとしても、草食性のフキバッタが果たして毛のタンパク質(ケラチン)を消化分解できるのかな?
ミネラル補給のため、毛を舐めているだけかもしれません。
単なる気紛れや暇潰しでモグモグしているだけかもしれませんが、とにかく不思議な摂食行動でした。
本気になって調べたければ、このフキバッタを解剖して消化管の内容物を調べれば答えが判明したと思います。
当時はそこまで思いつきませんでした。
まさかバッタが生物分解に参加するとは思いもよりませんでした。
(もちろん獣毛を分解する主役ではないでしょうけど…。)
ヒトや猿などでは栄養価の無いものを食べる異常行動はストレスによる異食症(食毛症)が疑われますけど、バッタではどうなんでしょう?
このフキバッタは檻に閉じ込められている訳ではありません。
金網の隙間をくぐり抜けて、外の草むらと自由に出入りが可能です。
同時並行で死骸の全身像を微速度撮影した監視映像(連載記事#09、#14)を見直すと、猿の死骸に居座るフキバッタは何度も繰り返し訪れていることが分かりました。
草むらを徘徊中にたまたま檻に迷い込み死骸に遭遇しただけではなく、腐乱臭をものともせず、明らかに何か気に入ることがあって死骸にわざわざ戻って来るようです。
未採集ですが、もしこのフキバッタの性別および正式な種名や、せめて属名だけでも分かる方がいらっしゃいましたら教えて下さい。※
※ YouTubeのコメント欄にてドイツのRüdiger Hartmann氏から貴重な情報をご教示頂きました。
このフキバッタ♀が獣毛を食べているのは間違いない。私(Hartmann氏)の知る限り、フキバッタ亜科は全て似た行動を示す。例えばスイスの山中で捕獲した個体は、すぐに指を齧り始め、皮膚の角質を食べた。また、昆虫や脊椎動物の死骸を肉食する種類もいる。(超訳byしぐま)
どうやら、フキバッタは草食性だという単純な思い込みを改めないといけないようです。
つづく→シリーズ#18
【追記】
フキバッタは草食系の筈ですが、実はゲテモノ食いの個体を見るのは今回が初めてではありません。
- 「木の柱を食害するフキバッタ」
- 中に含まれる未消化の種子が目当てで獣糞に来たフキバッタ(写真↓のみ)
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スズメの飛翔【野鳥:ハイスピード動画】
2013年7月下旬
土手の草むらにスズメ(Passer montanus saturatus)が着陸して隠れたのを見て、ハイスピード動画(240-fps)を撮りながら歩み寄りました。
飛び立つシーンこそ写ってませんが、低空飛行で慌てたように画面を横切って水田の方へ飛び去りました。
2014/01/19
ウジ虫を襲い捕食?するミツバチの謎
2013年9月下旬
ニホンザルの死骸を土に還す者たち:#16
2日前の観察では、死骸Rの頭部にミツバチが群がり、眼窩や鼻腔の奥に侵入していました。
記事はこちら→「ニホンザルの死骸に集まるミツバチの謎」生物分解の進んだ今回、ミツバチは死骸の顔にもはや興味を失い、未だウジ虫が居残っている死骸の手足に繰り返し飛来していました。
巣別れ(分封)または逃去したコロニーが猿の頭蓋骨内に入居し営巣を始めるのではないか?という私の密かな予想(願望)はどうやら外れたようです。
一方、死骸を食べて育ったハエの終齢幼虫が蛹化に備えて死骸から続々と離脱し、地面に密集して蠢いています。
記事はこちら→「猿の死骸から離脱するウジ虫の群れ」そこに飛来したニホンミツバチのワーカー♀が、ウジ虫の群れに着陸してはすぐに飛び立つ、という謎のアタックを繰り返しています。
ウジ虫の体表の粘液を舐めているのでしょうか?
そのうち、ミツバチが興奮したようにウジ虫の群れを襲い明らかに捕食しているように見える、衝撃映像が撮れました。
大顎で獲物を噛み千切って肉片を食しているのか、口吻を突き刺して吸血しているのか、それともウジ虫の体表を舐めているだけなのか、私の興味はミツバチの口元にあります。
残念ながら、檻に阻まれて思うように接写できません…。
ミツバチは飛び去る際にカリバチのように肉団子を作ったり獲物を麻酔して持ち帰ったりせずに、ウジ虫をその場にポイ捨てして帰ります。
猿の死骸からウジ虫を一匹ずつ取り除いているように見えるときもありました。
でもその解釈はさすがに無理があるように思います(無益な行動?)。
ニクバエ、クロバエ、キンバエなど屍肉食性のハエの中で、ミツバチが好むウジ虫は特定の種類の幼虫に限るのかもしれません。
そんなことをしたら毒針が抜けてミツバチの方が死んでしまいますからね。
ミツバチに解放されたウジ虫は暴れており、麻酔状態ではないようです。
蜜蜂はハナバチの代表格なのに、まさか狩りを行うとは予想だにせず、非常に興奮しました。
先祖返りの採餌行動なのでしょうか?((c)吉原将軍さん)
ウジ虫の体表は粘液で濡れていますが、死骸を体外消化した後ですからアミノ酸などが豊富に含まれていそうです。
舐めてみれば実はもの凄く甘かったり(禁断の蜜の味?)、ロイヤルゼリーの味とたまたま似ていたりするのでしょうか?
腐敗した肉であれ他の昆虫の体の組織や脂肪体であれ、ハエのウジが餌をとるやり方は、口から酵素を出して餌を分解し、それを吸収するという方法である。(『ハエ学:多様な生活と謎を探る』p128より)
ミツバチの集合フェロモンや女王物質にたまたま類似した化学物質をウジ虫が(何か別の目的で)分泌している可能性もありますね。
死骸の毛皮を舐めたり身繕いしてから飛び立つミツバチもいます。
死骸に群がりウジ虫を襲うミツバチはよほど飢えていたのか?
死骸や蛆虫に来るミツバチ♀の後脚の花粉籠は空荷でした。
しかし現場周辺で蜜源となる花がひどく不足していたとは思えません。
例えば最近のブログ記事でミツバチの訪花シーンを扱ったもの(@コスモス、ヤクシソウなど)はこの付近で撮った映像です。
この時期は特にひどい天候不順でもありませんでした。
ちなみに私が個人的に相談した米国の蜂屋さんは、「渇水期の緊急的な吸水行動ではないか」という解釈でした。
これも私にはちょっとしっくり来ません。
田んぼの稲刈り前で灌漑用水路は水を抜かれていましたけど、小雨が降る日もありましたし、近くには沢の水も流れています。
【参考】水運びではふだん蜜を運ぶ蜜胃に水を入れてしまい、蜜を飛翔燃料に使うことができなくなるから、遠距離を飛ぶことは難しい。それで少しでも近いところから運ぼうとする。(『ニホンミツバチ:北限のApis cerana』p104より)
もしも実験として、飲用水や甘い砂糖水、山盛りのウジ虫を入れた皿を死骸の傍らに並べて置いていたら、巣から通って来るミツバチはどの皿を選んだでしょうね?
釣具店で「サシ」餌という名前で売っている様々なハエの幼虫を買ってきて実験してみても面白いかもしれません。
古代の人々は知っていた?
ミツバチが死骸やウジ虫に群がり吸汁するという「不潔な」習性について、ネット検索しても日本語サイトで似たような事例はなぜか見つけられませんでした。
もしかすると養蜂家の間では蜂蜜のブランド・イメージを守るために秘匿された「不都合な真実」なのでは?…と思うのは私の勘ぐり過ぎでしょうか。
動物の腐乱死体をじっくり観察する物好きが居ないだけですかね?
英語の検索キーワードに切り替えて調べてみると、面白いことが分かりました。
大昔の人々は死骸に群がるミツバチのことを知っていた可能性があります。
古代エジプトの神話や旧約聖書にそのような記述があるそうです。(※追記3参照)
ミツバチは動物の死骸から「自然発生」すると西洋では19世紀まで信じられていたそうです。
これはやがて非科学的で荒唐無稽の伝承だと否定されました。
「昔の人は死骸に群がるハエをミツバチと見間違えたのだろう」というのが現在の論調で笑い話になってます。
【参考サイト1、2、3(英語版wikipedia:Bugonia)】
自然発生説(※追記7参照)は論外だとしても、今回の観察で温故知新のどんでん返しがあるかもしれません。
ただし、死んだ牡牛やライオンに群がると古代に記述された蜂が現生種のミツバチと本当に同種であるとは限りません。
屍肉を専門に採餌するvulture beeが大昔は世界中に広く分布していたのに、近代までにほとんどが絶滅してしまったのでしょうか?
ハナバチのなかのつむじ曲りの例として、最近、南米のハリナシバチの一種(Trigona hypogea)が、蛋白源として、動物の死肉を集めてきて幼虫のえさとすることが報告されている。このハナバチは、さまざまな脊椎動物の死体をみつけると、5対の歯をもった大腮で肉をかみちぎって胃に呑みこみ、巣へ運ぶということである。だから、ハナバチ特有の後脚の花粉カゴ(バスケット)が退化しており、巣の中にも花粉の貯蔵はまったくみられないという。 (松浦誠『社会性ハチの不思議な社会』p148より引用)
映像に登場する複数個体のなかには、セイヨウミツバチのように見える個体もいます(腹部の縞模様に明るい褐色帯あり)。
ただしこの見分け方はいつも自信がありません。
現場で一匹だけミツバチを採集して後翅の翅脈を調べると、M3+4が明瞭なニホンミツバチ(Apis cerana japonica)でした。
更にその3日後にもう一匹採集した個体もニホンミツバチ♀でした。
ミツバチに擬態したアブやハエの類(双翅目)ではありませんでした。
つづく→シリーズ#17
【追記】
『ニホンミツバチ:北限のApis cerana』p55、142によると、
ミツバチが肉食性を示す例として、計画的に巣を逃去する前に羽化が間に合いそうにない幼虫や蛹をタンパク源として食べてしまうらしい。
同書の別な箇所では「間引く」という婉曲的な表現でしたが、おそらく食べてしまうのだと思います。
・環境悪化時の調節要因としての幼虫の間引き。夏枯れで花の咲いていない時期など、群内はシーンとしていてほとんど動きがない。ごく一部の探索蜂が出ていっているほかは、「よい蜜を発見!」とのニュースがもたらされるまで、じっと我慢し、それが続けば産卵は抑制され、多すぎる幼虫は孵化後まだ小さいうちに処分されてしまう。(p136~137より)・花粉(タンパク質)資源の不足に対応して、女王蜂が産卵を抑止するばかりでなく、蜂児、特に卵からかえって間もない幼虫を間引いて、花粉資源環境の回復を待つ。(p171より)
ローワン・ジェイコブセン『ハチはなぜ大量死したのか』によると、養蜂に使うセイヨウミツバチにも幼虫(蜂児)を捕食する子殺しや食卵の習性があるそうです。
コロニーのたんぱく質のレベルを調整する役割は育児蜂の肩にかかっている。たんぱく質が少なくなると、まず、採餌蜂への供給をストップする。これでも足りないと、新しく産み出された卵や、若い蜂児を食べて、たんぱく質をリサイクルする。いよいよたんぱく質のレベルが悪化すると、女王蜂のすぐ後ろについて、産み落とされる卵を次々と食べてゆく。実はこれは、完璧に調節された巣を営むためのもうひとつの知恵だ。つまり、たんぱく質のレベルが低下し、育児蜂がいよいよ空腹に耐えられなくなると、彼らはもっとも便利なたんぱく質資源である卵に手を出さざるをえない。このことが結局は、コロニーが支えられるだけの数の蜂しか生まれてこないよう調節することになる。 (ハードカバー版p70より引用)
wikipediaにも「子殺し」の一例として載っていました。
ミツバチの中には天敵に巣をおそわれた場合に、働きバチが子を食べてしまう場合がある。これは天敵に食べられるよりは自分で食べた方が無駄にならないと考えられる。【追記2】
『日本蜂類生態図鑑―生活行動で分類した有剣蜂』p54によると、ミツバチの
洋種は刺した場合に針を残し内臓まで伴ってでて蜂は死ぬことになるのだが、日本種は多くの場合刺した針を巧みに引きぬくことができるのである。
【追記3】
YouTubeのコメント欄にてクリスチャンの方に旧約聖書の出典を教えてもらいました。
Judges 14:8
After some time, when he returned to get her, he turned aside to see the carcass of the lion. And behold, a swarm of bees and honey were in the carcass of the lion.
調べてみると、これは『士師記』の第14章8節に書かれていました。
文字通りに解釈するとライオンの死骸に営巣して蜜を蓄えていたことになり、vulture bee(Trigona spp.)の習性とも異なります。
以下はwikisourceによる日本語口語訳。
14:8
日がたって後、サムソンは彼女をめとろうとして帰ったが、道を転じて、かのししのしかばねを見ると、ししのからだに、はちの群れと、蜜があった。
14:9
彼はそれをかきあつめ、手にとって歩きながら食べ、父母のもとに帰って、彼らに与えたので、彼らもそれを食べた。しかし、ししのからだからその蜜をかきあつめたことは彼らに告げなかった。
【追記4】
『赤い手帳(2011年)』というフランス映画を字幕で見ていたら、葬式での喧嘩を諌めた女性が次のような台詞を言いました。(@46:48)
あなたたち恥を知りなさい。そうやって責任をなすりつけ合って死人の蜜にたかるミツバチ同然ね。
日本語だと「砂糖にたかるアリ」という表現はよく目にします。
もしかしてフランス語では上記(追記3)の聖書の故事にちなんで「死体の蜜にたかるミツバチ」という慣用句があるのですかね?
【追記5】
スー・ハベル『虫たちの謎めく生態:女性ナチュラリストによる新昆虫学』という翻訳書の第12章「なぜハナアブはミツバチと同じ配色なのか」を読んでいたら、次の記述を見つけました。
ウェルギリウスは『農耕詩 第4巻』で、ニンフの子であるアリスタイオスは家畜の死骸からミツバチを生みだすことができるという(誤った)考えにもとづいて、彼を農業の神とあがめている。(p264より引用)
ウェルギリウスは本当にこんなことを信じていたのだろうか?(中略)この一連の幻想は、動物の擬態の意図せざる勝利、私たち人間に向けられた風刺、あるいは、少なくとも、権威を疑おうとしなかった、または疑うことができなかった文学者たちに向けられた諷刺になっている。(p268より引用)
紀元前の古代ローマ時代の偉大な詩人ウェルギリウスに責任の一端があるそうです。
ギリシャ神話の中でミツバチの巣箱を作って養蜂の技術を発明したとされる神アリスタイオスについて次に調べると、
プローテウスは、ミツバチの病気について次のように語った。(中略)これを聞いたアリスタイオスは、まずドリュアスたちに牛の生け贄を捧げ、9日後に同じ場所で冥府のエウリュディケーとオルペウスを慰める生け贄を捧げた。すると、牛の死体から一群れのミツバチが飛び立った。新しいミツバチたちを飼育する方法をこの地に伝えたことで、アルカディア人たちは彼をゼウスとして崇拝した。(中略)
牛の死体からミツバチを育てたという物語は、古代ローマの詩人ウェルギリウスが古い絵を誤って伝えたものである。おそらくこの絵はキューレーネーが殺した、あるいはキューレーネーに捧げられたライオンから蜂が飛び立っている図であり、聖王交代の古い儀式を表している。旧約聖書では、サムソンが殺したライオンからミツバチが飛び立っている。養蜂の技術はもともとクレタ島起源であり、例えば蜂蜜を付けたパンという意味のギリシア語は「ケリントス」といい、関連する用語を含めてクレタ島起源である。(wikipediaより引用)
一方、この本『虫たちの謎めく生態』にも問題があり、動物の死体に湧く蛆虫はミツバチではなくハナアブの幼虫であると書いていて唖然としました。
屍肉食性のハナアブ幼虫もいますが、死体を分解するメインはやはり、ハエの幼虫でしょう。
【追記6】
別の記事(同じ連載シリーズの#7)に対するコメントで、小畑弘己『昆虫考古学 (角川選書)』という専門書を紹介してもらいました。
第5章で葬送昆虫考古学を扱っています。
ヒトの遺体に群がる様々な節足動物の中で膜翅目(ハチ目)も挙げられていました。
ミツバチが液化状態のときに遺体を食べるのに対し、スズメバチとアリはハエの卵のもっとも大きな捕食者である。スズメバチはハエの成虫を捕らえ、巣にいる幼虫に与える。(p117より引用)
【追記7】↑おまけの動画
「無からネズミを生み出す方法は「汚いシャツと小麦粉を混ぜる」【自然発生説1】#45」by ゆる生態学ラジオ
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ハクセキレイ若鳥が庭で虫取り
2013年9月下旬
民家の庭でハクセキレイ(Motacilla alba lugens)の若鳥が巨大な庭石に乗って辺りを見回していました。
顔が黄色いのはハクセキレイ若鳥の特徴です。
やがて庭石から飛び降りると、砂利道を歩きながら採食。
何か虫を捕食したようです。
ムラサキツメクサを訪花するクマバチ♀
2013年7月下旬
キムネクマバチ♀(Xylocopa appendiculata circumvolans)がムラサキツメクサの花蜜を吸っていました。
ピント合わせに手間取っている間に、すぐ飛び去りました。
実はこの直前、近くにあるクサフジの群落で訪花していたのですが、♂のハキリバチ(種名不詳)に誤認交尾を挑まれ、ムラサキツメクサに逃げて来たのです。(映像なし)
この組み合わせ(クマバチ@ムラサキツメクサ)の訪花シーンを撮り直したくてシーズン中、探し回っても再チャンスは巡って来ませんでした。
逆に、クマバチがムラサキツメクサの花にあまり来ないのは何故でしょう?
『花の虫さがし』という本のp29にヒントが書いてありました。
(ムラサキツメクサの花で)蜜を吸いに来るハチの種類が、シロツメクサより少ないわけは、花の長さがシロツメクサより長いために、舌の短いハチでは、蜜が吸えないからです。
クマバチは盗蜜行動の常習犯として有名ですけど、それは舌が短いためです。
なるほど納得、これで謎が解けました。
今回のクマバチは経験の浅い個体ではないでしょうか。
短くてもレアな映像かもしれません。
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