2016/01/16

花を食べるイシサワオニグモ♀(蜘蛛)の謎#1

2015年10月上旬

今季色んなクモを撮影してきたなかで最も衝撃を受け興奮した出来事を報告します。

里山を少し登った地点で山道の脇、草や灌木で覆われた斜面にイシサワオニグモ♀(Araneus ishisawai)の立派な網を見つけました。
垂直円網の左上に伸びる枠糸を目で辿ると、キイチゴ類?の葉裏に橙色の美しいクモが潜んでいました。
枠糸は他にシダの葉先と別のキイチゴの枝先に固定されていました。


網の中央部(甑)に円形の穴が開いていないのはコガネグモ科らしくない?
垂直円網
営巣地・全景(斜面を見上げる)
隠れ家@キイチゴ?葉裏

2年前にもイシサワオニグモ♀を相手に定点観察しています。
残る撮影テーマとして一番見たいのは造網ですが、その前にとりあえず定番の異物除去行動を観察してみました。



午後14:20〜14:33

たまたま近くに生えていたアメリカセンダングサの花を摘んで、戯れに網へ投げつけてみました。



ところが意外にも隠れ家のクモは無反応でした。
次々に投げつけるも狙いがやや外れ、網の下部に計3個の花が付着しました。
「どうやらこのクモは満腹らしい…?」と諦めかけ油断していたら、クモが隠れ家から網に出てくる瞬間を撮り損ねてしまいました。
イシサワオニグモ♀は隠れ家から甑まで信号糸を素早く伝い降りると歩脚で四方の網を引き締めて揺らし、獲物の付いた位置を突き止めます。
1個のアメリカセンダングサ花に駆けつけると、歩脚の先で触れ調べています。
花の周りの粘着性横糸を少し切ったので網から捨てるのかと思いきや、捕帯でぐるぐる巻きにし始めたのでビックリ仰天。
毒液を注入するために噛み付いたら口触りや味が変だと気づくはずなのに、ラッピングを続けています。
花に長い茎が付いていることや、ざらついたり棘のある感触などが獲物の昆虫っぽくて騙されたのでしょうか?
常識的に考えて、このクモがアメリカセンダングサの花を口にするのは生まれて初めてのはずです。
落ち葉などとは違って自然状態でアメリカセンダングサの花が落下して網に付いてしまうことはないでしょう。

円網はアメリカセンダングサの群落よりもずっと高い所に位置していました。
桜の花が散るのとは異なり、アメリカセンダングサの頭花は自然に落ちたりしません。
つまり私は今回きわめて不自然な異物を給餌したことになります。
クモはラッピングした花を網から外すと第4脚で吊り下げつつ、甑に運びました。
未だ包みに横糸が少し粘着しているのに、構わず運んで引きちぎろうとしています。
途中で糸の抵抗に気づいたのか、振り向いて邪魔な横糸を切り包みを網から完全に外しました。
再び念入りに捕帯で包みます。
甑から左上に伸びる信号糸を伝って隠れ家に包を持ち帰りました。
獲物(花)を糸で固定してから捕食開始。

植物を主食とする唯一のクモとして、熱帯でアリアカシアの栄養体(エライオソーム)を食べるハエトリグモの一種が近年発見されています。(※追記参照)
日本に草食性(ベジタリアン)のクモが居るとは知らず、心底驚きました。
もちろんイシサワオニグモが普段は昆虫などを網で捕らえて食べる肉食性であることは、過去に何度も自分の目で観察しているので、疑う余地はありません。
完全な肉食でもベジタリアンでもなく、雑食性なのでしょうか?

イシサワオニグモ♀が網に付いた枯葉を捨てることを2年前に見ています。

▼関連記事
網に付いた枯葉を取り除くイシサワオニグモ♀(蜘蛛)

『網をはるクモ観察事典』p10によると、

造網性のクモは、網を振動させる行きた獲物だけをえさにします。そのため、小さな枯れ葉やゴミが網にかかっても、獲物とまちがえることはありません。でも、枯れ葉を音叉で振動させると、クモは枯れ葉を獲物とまちがえて糸を巻きはじめます。



映像をご覧の通り、今回アメリカセンダングサの花に音叉で振動は与えていないのにクモは梱包ラッピングしました。


本当に花を好んで食べているのか、他の可能性も考えて色々と実験してみました。
食べ始めたらさすがに「餌じゃない!」と過ちに気づいて花を捨てるだろうと予想したのですが…。

つづく→#2:隠れ家でアメリカセンダングサの花を食べ続けるイシサワオニグモ♀




【追記】
『種子散布―助けあいの進化論〈2〉動物たちがつくる森』という本に収録された総説、大河原恭祐『なぜアリ散布が進化したのか』を読んでいたら、興味深い記述を見つけて驚きました。
北海道の針広混交林の林床で4種のアリ散布植物(カタクリ、エゾエンゴサク、ミヤマスミレ、ツボスミレ)の種子捕食者を調べたところ、エライオソームを食害した節足動物にクモ類が含まれていたそうです。(p126-127より)
原著論文が一般に公開されていないので、そのクモが具体的に同定されているかどうか分かりません。
大河原恭祐. Seed dispersal of some myrmecochorous plant species, with effects of elaiosomes and ground beetles. 1996. PhD Thesis. 北海道大学. 邦題「アリ散布型植物数種における種子散布 : 特にエライオソームと地上歩行性甲虫の影響について」


農道をパトロールするネコ



2015年10月上旬

農村部で脇道(農道)を歩いていると、向こうから1頭のネコFelis silvestris catus)が歩いてきました。
どうやら近所で飼われている猫のようです。
望遠レンズで撮っている私に猫も気づき、立ち止まるとじっとこちらを凝視して警戒しています。
忍び足で更に近づいて来ます。
ときどき何かの物音に怯えて振り返りました。
左目が濁っていますかね?(白内障?)
私が行く手を塞いでいるので、ネコは遂にUターンして歩き去りました。
ときどきこちらを振り返ります。

轍の間で何か獲物(虫?)を見つけたようで草むらを調べています。(@2:50)
再び歩き始める際に軽く腰を屈めて排泄(排尿?)したように見えました。(@3:05)
しかしすぐに座り込んで毛繕いを始めたので、違うかもしれません。(自分の排泄物の上には座らないでしょう。)
股間を舐めています。
飛来したモンシロチョウ?にギクッと驚いたように身構えました。(@3:17)
立ち上がってまた歩き始め、今度は道端のイヌタデ群落を調べています。(@4:20)
虫を捕食しようとしているのかな?
ときどきこちらを振り返りながら、ゆっくりした足取りで奥を横切る車道に合流しました。
車道の手前の草地でごろんと寝そべり、毛繕いを開始。

つづく



2016/01/15

秋桜の花蜜を吸うトラマルハナバチ♀



2015年10月上旬

農村部の家庭菜園の畑に咲いた赤紫色のコスモストラマルハナバチBombus diversus diversus)のワーカー♀が訪花していました。
後脚の花粉籠は空荷でした。

秋風が吹いて秋桜の花が揺れ、撮りにくい条件でした。



イヌタデに産卵するベニシジミ♀



2015年10月上旬

道端にアカマンマ(イヌタデの俗称)の花が咲いています。
イヌタデの群落でベニシジミLycaena phlaeas daimio)を見つけました。
ベニシジミの幼虫はタデ科を食草とするのを思い出しました。
行動を注意深く見ていると、腹端を曲げて根際の茎に擦り付けていました。
私は外見でベニシジミの性別を見分けられないのですが、おそらく産卵中の♀でしょう。
その後は葉表に出てきてしばらく休息も兼ねて日光浴していました。
しばらくすると、再び葉裏に隠れてしまいました。
茂みの奥に潜り込むため、説得力のある決定的な産卵シーンの映像が撮れず、もどかしい思いをしました。

撮影後に卵を探してみればよかったですね。
幼虫越冬らしいので、飼育してみるのも面白そうです。


【追記】
新開孝『虫のしわざ観察ガイド—野山で見つかる食痕・産卵痕・巣』によると、ベニシジミ♀の産卵習性は私が観察した通りでした。
(ベニシジミの)♀は食草の根元に潜り込んで産卵する。(p28より引用)







2016/01/14

台風の大雨を巣で耐え忍ぶキアシナガバチ♀




2015年9月上旬


キアシナガバチ巣の定点観察@トウカエデ枝#11


前回の記事と時系列が逆になってしまいました。
台風18号が日本列島を横断中で大雨が降っている日に話は遡ります。

嵐の中、キアシナガバチPolistes rothneyi)の巣の様子を見に行くと、在巣の蜂は♀一匹のみに減っていました。
台風とは無関係に、どうやら時期的にコロニーが解散しつつあるようです。

外役に出たまま嵐で帰れなくなっている個体も少しはいるでしょう。
在巣のキアシナガバチ♀は巣盤の下面に掴まっているだけで、排水行動はしていません。
育房内にもう幼虫や蛹(繭)が無いせいか、あるいは内役しない新女王なのかもしれません。
上に枝葉が生い茂っているため、台風の豪雨でも巣は直接雨水に濡れることはありません。
巣柄の付いた横枝の上面は雨で濡れています。

台風が通過した後も巣は無事でした。

つづく→#12:解散したキアシナガバチの巣@トウカエデ枝【暗視映像】




クスサン(蛾)の走光性



2015年10月上旬・午後18:13〜18:15

いよいよ羽化したクスサンCaligula japonica japonica)成虫が飛び回る季節の到来です
1頭の大きなクスサンが夜の交差点を照らす外灯の虜になり、周りを乱舞していました。
絵に描いたような走光性ですね。

オレンジ色の光が眩し過ぎて、ビデオカメラのAFも眩んでしまうのか、どうしてもピンぼけになりがちです。

さて、このオレンジ色の外灯はナトリウムランプだと思うのですが、それでも夜行性の蛾を誘引してしまう(改善の余地がある)のですね。

紫外線を発しないので蛾などの昆虫が集まらず、汚れにくいのでメンテナンス上有利(wikipediaより)
道路の街灯の色は何故オレンジ色がおおいのですか?(Yahoo知恵袋より)

道路照明には夜行性の昆虫が群がり寄る心配がありますが、昆虫は特に紫外線に感応し黄色の光の波長域には感応しません。従って黄色の単色光だけを出すナトリウム灯には昆虫は近づかないのです。


▼関連記事
クスサン♂(蛾)の悲劇:走光性と光害問題



【追記】
松原始『カラス先生のはじめてのいきもの観察』という本を読むと、昆虫の走光性(飛んで火に入る夏の虫)についてコンパクトに解説されていました。
昆虫は光源に対して一定の角度を保って飛ぶという、極めて単純な誘導システムを使うと考えられている。
月に対して一定の角度を保って飛ぶだけで、短時間なら、昆虫は直進できる。だから、彼らは夜空に浮かぶ明るい光源を目印にするのだ。だが、この光源が思ったより近かったら、どうなるだろう?
光源に対して90度より小さい角度を保って飛んだ場合、ムシの飛跡は螺旋を描きながら光源に近づき、最後は衝突する。 90度より大きい場合は、螺旋を描きながら光源から遠ざかる。光源から遠ざかる場合があったとしても、そういう虫は闇の中に消えてしまうので、我々の目に止まらない。90度ぴったりの場合は、円軌道を描いて光源の周囲を回り続けることになる。 灯りに向かって飛びこみ続ける鬱陶しいムシは、本来ならちゃんと機能するはずだったルールに従っているにすぎない。言ってみれば、光源なんてものを手の届く距離に作り出した人間の犠牲者なのだ。 (p147-149より引用)

下線部でも特に90度より大きい場合について書かれた解説はあまり読んだことがなかったので、そう言われて初めて気付かされました。(目から鱗)



2016/01/13

軒下で大きく育つキイロスズメバチの巣:増築中



2015年10月上旬・午後15:42〜15:52

キイロスズメバチ巣の定点観察#1


山麓に佇む木造家屋の南西に面した軒下にキイロスズメバチVespa simillima xanthoptera)の巣を見つけました。
この時期に営巣中のコロニーは初見です。
ワーカー♀は外被を増築中でした。
10月になっても未だ活発に巣を拡張していることに驚きました。

下から見上げると巣の外被は楕円球でした。
薄暗い軒下で屋根の棟木と垂木の接続部に吊り下げられています。
スズメバチの古巣を除去した痕跡が隣の垂木に見えるので、毎年のように代々ここで営巣しているのかもしれません。
外被中央に一つだけある巣口に蜂が何匹も出入りしています。
常に門衛が中から巣口を守っていますが、たまに門衛が居なくなると巣内に白い繭が見えました。
後半は、外被右下で造巣中のワーカーを狙って撮影します。
巣材を使い切ると、入れ替わるように別個体が近くで造巣を始めます。

キイロスズメバチは攻撃性が高いとされているので不安でしたが、巣の真下でカメラのストロボを焚いても怒って攻撃してくることはありませんでした。
動画撮影時には気づかなかったのですけど、写真を見直すと雄蜂がときどき外被を徘徊してるようです。(♂は触角が長く腹部の体節も♀より1節多い)
このコロニー出身の♂なのか、それとも交尾相手の新女王を求めて他のコロニーから訪問してきた♂なのでしょうか?

営巣地の目の前はスギの大木が2本立ち、横に沢が流れている自然豊かな環境です。
キイロスズメバチ♀はこの杉の木から巣材の樹皮を採取してくるのではないかと予想したものの、実際には確かめられませんでした。

※ 軒下で撮った薄暗い映像を動画編集時に自動色調補正を施しています。

つづく→#2:巣の外被で寝るキイロスズメバチ♀【暗視映像】


全景
全景
別アングル
♀♂
♀♂

イヌサフランの花粉を舐めるオオハナアブ♀



2015年10月上旬

道端の花壇に咲いたイヌサフランオオハナアブ♀(Phytomia zonata)が訪花していました。
花蜜ではなく雄しべの葯から花粉を舐めています。
(※ 雄しべが6本なので、3本のクロッカスは除外できます。)
食事の合間に脚を擦り合わせて身繕いしています。
粘って撮り続けると、花から飛び立ち見事なホバリングを披露してくれました。



2016/01/12

夜の隠れ家で身繕いするアカオニグモ♀b【蜘蛛:暗視映像】

2015年10月上旬

アカオニグモ♀の定点観察#21


1週間ぶりの午前中に様子を見に行くと、アカオニグモ♀b(Araneus pinguis)は垂直円網を張ったまま、隠れ家(クルミ葉裏)に潜んでいました。
腹背は未だ赤く色づいていません(黄色っぽい)。
クルミ幼木の葉はもう枯れています。
糸で綴っているから落葉しないのかな?





午後19:16〜19:40

日没後に再訪すると網を取り壊した後でした。
網を畳む行動をまたもや見逃してしまいました。
隠れ家のクルミ葉先とアメリカセンダングサの葉先を水平に結ぶ強靭な枠糸以外はきれいさっぱり破網済みです。
クモは隠れ家に潜んで身繕いしていました。

もし前回と同様に夜間も円網の甑に占座しているのであれば、生き餌を給餌したり色々とやってみたいことがあったのに、あてが外れました。
網に居るのかどうか?という素朴で単純な問題ですら、クモは気紛れというか掴みどころがなく、モヤモヤしたままです。

ビデオカメラや赤外線投光機のバッテリーも切れたので、夜の観察を打ち切り帰りました。

残念ながらこの個体を観察できたのは、この日が最後でした。
辺り一帯が草刈りされてしまったのです。
網の取り壊しや卵嚢作りなど残るテーマの撮影は来季以降の宿題になります。
2匹のアカオニグモ♀を見比べてみると行動の細かい点で個体差があるような印象を受けたので、追求し始めると奥が深そうです。
造網性クモの飼育も避けて通れないみたいで挑戦してみたいのですが、どうなることやら…。

シリーズ完。


クロスズメバチ♀の吸水



2015年10月上旬

山麓の参道で沢から流れる水で濡れた轍にクロスズメバチの一種が来て水を飲んでいました。
飛ぶとハエのようなやや甲高い羽音を立てます。
背側しか見れなかったのですが、後胸部に2対の白紋があることからクロスズメバチ♀(Vespula flaviceps)または滅多に見かけないホンシュウキオビホオナガスズメバチ♀(Dolichovespula media sugare)でしょうか?
肝心の頭楯は見えませんでした。
ワーカー♀なのか新女王なのか微妙な時期です。
キオビホオナガスズメバチの女王蜂は黄色のはずなので除外。



2016/01/11

音叉でアカオニグモ♀bを騙してみよう【暗視映像】



2015年9月下旬・深夜23:36

アカオニグモ♀の定点観察#20


垂直円網の下側を一部だけ取り壊したアカオニグモ♀b(Araneus pinguis)は網を離れ、クルミ幼木の黄葉した葉を糸で綴った隠れ家に身を隠してしまいました。
隠れ家は円網の左端にあり、葉裏に潜むクモは円網の中心から伸びた信号糸を常に触れています。

本当は何か虫を網に給餌して捕食する様子を観察したかったのですが、現場で獲物を調達できませんでした。
仕方がないので、音叉で実験してみます。
持参した音叉を叩いてキーン♪(ラ音 440 Hz
)と鳴らしてからアカオニグモの円網に付けてみると、途端にクモが隠れ家から信号糸を伝って滑り降りるように網の中心に駆けつけました。
歩脚で四方の網を引き締め、網にかかった位置を確認しています。
ところが音叉に触れないまま、すぐに隠れ家に戻ってしまいました。
音叉の先を捕帯でラッピングしたり噛み付いたりするのを期待したのですが、やりませんでした。
音叉の振動がすぐに減衰してしまったせいか、本物の獲物ではないと見破ったのか、分かりません。
網から音叉を引き剥がそうとすると、横糸の粘着性が強くて苦労しました。
その際の振動に対しては隠れ家のクモは無反応でした。
以上、音叉に対する反応は、近くで営巣していた別個体♀aで試したときと同じ結果です。

今思うと、対照実験として、鳴らしていない音叉を網に付けてもクモは決して反応しないことを示す必要がありますね。

明け方に行われるはずの破網の続き→造網を観察したかったのですけど、ビデオカメラのバッテリーも切れたので、後ろ髪を引かれつつ観察を打ち切って帰宅しました。(深夜23:58)


つづく→#21:夜の隠れ家で身繕いするアカオニグモ♀b【蜘蛛:暗視映像】



ハクチョウソウの花で採餌するニホンミツバチ♀



2015年10月上旬

道端の花壇に咲いたハクチョウソウ(ガウラ)の群落でニホンミツバチApis cerana japonica)のワーカー♀が訪花していました。
忙しなく飛び回る蜂は後脚の花粉籠に花粉団子をつけています。
蜂の動きがあまりにも素早いので、ハイスピードカメラで撮れば良かったですね。
ちなみにハクチョウソウを漢字で書くと、白鳥草ではなく白蝶草でした。



2016/01/10

夜に垂直円網の下部を取り壊すアカオニグモ♀b【蜘蛛:暗視映像】



2015年9月下旬・午後19:28〜23:20

アカオニグモ♀の定点観察#19


同じ日の夜に再訪すると、アカオニグモ♀b(Araneus pinguis)は円網の中心部(甑)に占座していたので驚きました。
こちらに背面を向け甑で下向きに占座しています。
いつ見ても隠れ家に潜んでいて滅多に円網に出てこない♀aとは対照的です。

獲物を待ち伏せる位置の違いは何か理由があるのか、気になります。

  • 単なる気質(大胆⇔臆病)の個体差?
  • 発生ステージ(幼体→亜成体→成体)の違い? 体長は♀a>♀b。
  • 空腹状態の違い? 天敵に襲われるリスクを承知の上で、網に虫がかかったら直ちに駆けつけられるよう臨戦態勢で待ち伏せているのか?
もし私が網に生き餌を給餌したら、アカオニグモ♀bはその場(甑)で捕食するのか、それとも隠れ家に持ち帰るのか、興味があります。
試しに実験してみたかったのですけど、現場では虫が調達できませんでした。
予め捕獲した獲物を持参する必要がありそうです。

♀bは腹背が未だ黄色っぽいのでは亜成体なのですかね?(体長は未採寸、外雌器の状態も未確認)
『まちぼうけの生態学:アカオニグモと草むらの虫たち』p5によると、
♀は成熟するにしたがい、おなかの色が黄白色から赤色へかわる。♂のおなかの色は黄白色のまま。
また、同書p16によれば、
あたりが暗くなってから、アカオニグモは隠れ場所からでてきた。食べるところのなくなったカメムシを地上に落とすと、網の中心で頭を下にして、動かなくなった。




その後、私も網の手前に座ってひたすら待ち続け監視していたのですが、油断していたらいつの間にかアカオニグモ♀bが網を取り壊し始めました。
円網の下側の一部だけ(アナログの時計盤に見立てると5時〜7時)扇状に畳んで、切れ網のようになりました。
網全体を一気呵成に取り壊すのではなく、クモはなぜか残った網の中心で上向きに休んでいます。
こうした破網のやり方(下側を先に取り壊す)は別個体♀aでも見ているので、アカオニグモ(またはもっと広くコガネグモ科)に特有の習性なのかもしれません。

▼関連記事
アカオニグモ♀a(蜘蛛):垂直円網の失敗作?【暗視映像】

つづく→#20:音叉でアカオニグモ♀bを騙してみよう【暗視映像】



群飛・集合するキアシブトコバチの謎



2015年9月下旬

山麓にある神社の境内を通りかかると、祠の軒下に小さな蜂が何匹も飛び回っていました。
祠の板壁を忙しなく登ったりしています。
キアシブトコバチBrachymeria lasus)でしょうか?
引きの絵にすると蚊柱ほどではありませんが何匹も集まっていることが分かると思います。
初めて見る現象で、一体何事だろうと非常に興味深く思いました。

秋に群飛する蜂として、アシナガバチ類の♂が交尾相手の新女王を待ち構える群飛を連想しました。

▼関連記事
フタモンアシナガバチ♂の群飛と誤認交尾【HD動画&ハイスピード動画】
フタモンアシナガバチ♂の群飛
今回は先を急ぐ用事があってじっくり腰を据えて観察できなかったのですが、この付近で交尾しているキアシブトコバチの♀♂ペアは見当たりませんでした。
残念ながら私はキアシブトコバチの性別も見分けられません。

群飛の理由として次に考えたのは、たまたま寄主がここに集団発生した結果、キアシブトコバチ♀が産卵のため殺到している、という可能性です。
キアシブトコバチ♀は鱗翅目の蛹に内部寄生します。

▼関連記事
キアシブトコバチの羽化

しかし祠をぐるっと一周調べても、蝶や蛾の蛹は見当たりませんでした。
そもそも本種は単寄生なのか多寄生なのか疑問に思いインターネット検索で調べてみました。
・Takatoshi UENOさんによる「水田の天敵昆虫と害虫」というブログの記事「九州の田んぼの益虫(天敵)」より

キアシブトコバチは単寄生(1つの寄主に1個体のみ育つ)であり、同属の寄生蜂でも種により寄生様式が異なるのである。
イネツトムシ(イチモンジセセリ)をはじめ、各種チョウ目害虫の蛹に内部寄生する。寄主蛹の中央部にまん丸い穴をあけて成虫が脱出してくる。
・jkioさんのブログ記事「キアシブトコバチ」より

寄生バチのなかまですが、寄主が一種類ではなくて、いろいろな虫(鱗翅目、膜翅目、双翅目)の蛹に寄生します。内部単寄生といって、一つの蛹の内部に一卵だけ産み付けます。キアシブトコバチは、寄生バエにまた寄生する多重寄生もやってのけます。

多寄生ならこの日一斉に羽化した可能性も考えられますが、単寄生なので却下。

最後に思いついたのは、集団越冬に備えて群飛しているのかもしれない、という可能性です。
調べてみると、キアシブトコバチは樹皮下などで成虫越冬するらしい。(『ハチハンドブック』p25より)


冬越しの準備にしては気が早い(時期尚早)ようにも思いますけど、例えばテントウムシが晩秋に大集合する様子は季節の風物詩です。

▼関連記事
飛べ!ナミテントウ【ハイスピード動画】
キアシブトコバチも集合フェロモンを発しているのだろうか?と想像しました。


イッカク通信」で樹皮の裏に集団越冬するキアシブトコバチの写真が掲載されていました。

これら数十匹のハチたちは一匹のチョウ幼虫からあらわれたものなのだろうか。そうであればそれらがまとまってやってきたことになる。別のチョウ幼虫からそれぞれ出てきたのであればそれが集まってきたことになる。
と鋭い疑問を投げかけておられます。
蜂類画像一覧でも興味深い報告を見つけました。

築6年のお宅の南面硝子と障子の間にこの時期だけ10匹づつくらい来ては硝子と障子にぶつかり音をたてるそうです。2005年11月 長野県

撮影後に同定のため有り合わせのビニール袋で採集を試みたのですけど、逃げられました。
私はこの体型の小蜂といえばキアシブトコバチしか知らなかったのですけど、日本未記録の近縁種(Brachymeria sp.)も居るそうです。
後日この神社を再訪した時にはもうキアシブトコバチ(の一種)の姿はなく、静まり返っていました。
ごく限られた期間に起こる出来事だったのかもしれません。

※ 薄暗い条件で撮った映像なので、動画編集時に自動色調補正を施しています。



【追記】
南部敏明『田んぼとハチ』によると、
(アシブトコバチ科の中で)もっともふつうに見られるのはキアシブトコバチで、ガの多くの種類に寄生する。ガの幼虫に産卵し、幼虫が蛹になってからその中から出て来る。秋の晴れた日に、日の当たった神社などで待っていると、この仲間が次々に飛んでくる。この発生源は付近の雑木林が主体となっていると思われるが、田んぼもその一端を担っているだろう。
(『田んぼの虫の言い分―トンボ・バッタ・ハチが見た田んぼ環境の変貌 (人間選書)』第3章p163より引用)
私が見た群飛とまさに同じで心強い記述ですが、残念ながらそれ以上の謎解きはされていません。



ランダムに記事を読む

  • 虫を捕食するヒガシニホントカゲ幼体20/10/2015 - 0 Comments
  • 雪山のスギ林で夜明け前に活動する謎の小動物【暗視映像:トレイルカメラ】16/04/2022 - 0 Comments
  • ニホンカナヘビ:日光浴からの逃走17/04/2020 - 0 Comments
  • 水田の上空でホバリングするノスリ(野鳥)30/08/2017 - 0 Comments
  • 萎れかけたウメの葉を食べ漁るヒヨドリの謎(野鳥)22/09/2024 - 0 Comments