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2025/03/21

早春のミズキから滴るオレンジ色の樹液に集まり吸汁するケシキスイの仲間

 

2024年4月上旬・午後13:30頃・晴れ 

細い用水路沿いにそびえ立つ落葉性高木の幹から鮮やかなオレンジ色の樹液が大量に滲み出していて、早春の二次林で非常に目立っていました。 
幹の数カ所の傷口から樹液が垂れ落ちながらブクブクと泡立っています。 
樹冠を見上げると、枝先の冬芽から少しだけ若葉が芽吹き始めていました。 
樹種はおそらくミズキと思われます。 

カメラを上から下にパンしながらゲル状になった橙色の樹液を動画に撮っていると、ケシキスイの仲間(ケシキスイムシ科)と思われる微小な甲虫が計3匹写っていました。 
同定のために採集したかったのですけど、幹の高い位置だったので、手が届きませんでした。
図鑑『くらべてわかる甲虫1062種』に掲載された写真p80と見比べると、素人目にはホソコゲチャセマルケシキスイ(Amphicrossus hisamatsui)またはナガコゲチャケシキスイ(Amphicrossus lewisi)が似ていると思うのですが、どうでしょうか?

他には薄い翅を持つ黒っぽいハチ?ハエ?の仲間も動画にチラッと写っていたのですが、撮影中の私はまったく気づかずにスルーしてしまいました。 

「オレンジ色の樹液」でネット検索すると、ミズキの樹液がヒットしました。 
もともとミズキの樹液は無色透明でさらさらした液体なのですが、早春の時期にはよくオレンジ色になるそうです。
Perplexity AIに解説してもらいました。(細かい点で間違いがあるかもしれませんので、お気づきの方はご指摘ください。)

ミズキの樹液が透明からオレンジ色に変化する現象は、微生物の活動と環境条件の相互作用によって起こります。主な要因を以下のように整理できます:

色変化のメカニズム

  1. 酵母菌の初期繁殖
    ミズキの樹液は春先に糖分を多く含み、透明でサラサラした状態で分泌されます。これにファフィア酵母(Phaffia rhodozyma)が付着し、オレンジ色の色素(アスタキサンチン)を生成します。この段階で樹液は白濁し始めます57

  2. カビの二次繁殖
    酵母が樹液の糖分を消費すると、フザリウム属のカビ(Fusarium aquaeductuumなど)が優占種に変化。このカビは赤~オレンジ色の色素を産生し、樹液を濃いオレンジ色に変えます14

  3. 微生物の共生関係
    酵母とカビは樹液内で「スライム・フラックス」と呼ばれるコロニーを形成。触るとプニプニしたゲル状になり、表面にヒダ状の構造が発達します23

色変化の条件

条件影響
糖分濃度ミズキの樹液は糖分が多く(特に春)、微生物の繁殖に最適
温度15-25℃の温暖な気候で活発に繁殖(春先に多く観察)24
酸素量樹液が滴り落ちる際に空気に触れ、好気性微生物が活性化
時間経過分泌後2-3日で酵母が繁殖→1週間程度でカビが優占種に16
物理的損傷剪定や虫食いによる傷口から樹液が持続的に分泌される必要あり38

色の持続性

オレンジ色は一時的な現象で、樹液の分泌が止まると干からびて黒っぽく変化します1。また、湿度が低い環境では色素生成が抑制され、色変化が起こりにくくなります4

生物学的意義

この現象は、樹木の傷口を微生物で覆うことで病原菌の侵入を防ぐ「生物学的防御機構」と推測されています8。オレンジ色の樹液はケシキスイなどの昆虫を誘引し、彼らが樹液に集まることで微生物の拡散を助ける共生関係も存在します24



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2025/03/17

春風で飛散するスギの花粉【トレイルカメラ】風媒花

 

2024年4月上旬・午後12:55頃・晴れ・気温24℃ 

休耕地でタヌキの営巣地を見張っているトレイルカメラが、ときどき春の強風によって誤作動します。 
野生動物が何も写っていない失敗動画を削除する前にじっくり見直すと、白い煙のようなものが左にゆっくり流されていくことに気づきました。 
5倍速の早回しに加工すると、雲のように飛散する花粉の動きが見やすくなります。 

奥に見えているスギ(杉)の防風林から花粉が風で飛散しているのでしょう。 
スギは風媒花ですから、雄花から大量の花粉を撒き散らします。 
日本中の山林にスギを植林した結果、国民の多くがスギ花粉症に苦しむことになりました。 

ハンノキの花粉という可能性もあり得ますが、時期が少し遅い気がします。 



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2025/01/28

防風林で秋に落雷を受けたスギの木

 

2023年10月中旬・午後・晴れ 

平地のスギ防風林で、ホンドタヌキ♀♂(Nyctereutes viverrinus)が通う溜め糞場phを久しぶり(17日ぶり)に定点観察しに来ました。 
新鮮な糞は追加されていませんでした。 
どうやら最近は使われていないようです。 

それよりも、このスギ林に大きな異変が起きていました。 
植林地(防風林)の真ん中で、新たにスギの倒木が増えて林床に散乱していたのです。 
以前、溜め糞場phを監視するためにトレイルカメラを設置したスギ大木の上半分が縦に裂け、幹が真っ二つに折れていたのです。 
このような状態を「中折れ」と呼ぶのだそうです。 
スギの朽木や枯木ではなく、緑の葉が茂る健康な生木が被害に遭っていました。 

秋は台風のシーズンですから、嵐による強風で折れたのでしょうか? 
それなら1本だけが倒れるのではなく、広範囲で何本もスギの木がなぎ倒されているはずです。 
防風林の中央部で他のスギに囲まれた1本だけ風倒するのは不自然です。 

幹の途中で縦に裂け目が入って折損したという状況からも、おそらく落雷したのでしょう。 
しかし、その木が焦げたり燃えたりした形跡はありませんでした。
(落雷木に必ずしも焼け焦げ跡が残るとは限らないのだそうです。) 
スギの防風林は樹高がほぼ揃っているはずなのに、なぜ中央の1本の木だけに落雷したのか、不思議です。 
「出る杭は雷に打たれる」のでしょうか?
その木がたまたま他の木よりも少しだけ高かったり、何らかの理由で他の木よりも電気を通しやすい状態にあった可能性があります(水分含有量が高いなど)。 
落雷は必ずしも最も高い木に起こるわけではなく、電荷の分布や樹木の状態など、複数の要因が関係するのだそうです。 

その杉の木にもしトレイルカメラを設置したままなら、落雷の過電流で壊れたり燃えたりしたはずなので、助かりました。 
初めて入る防風林なら、同じ光景を見ても「倒木の多い荒れたスギ林だなー」と思うだけでしょう。 
定点観察に通っていたからこそ、落雷木に気づくことができました。 

林業家にとってみれば落雷木は天災による痛い損失でしかありませんが、森林生態学的には良い面もあります。
鬱蒼と育ったスギ林の中には日光がほとんど射さず、他の植物はあまり育つことができません。 
落雷でスギ林の中央部に林冠ギャップができたので、ここだけ林床の日当たりが良くなり、新たに植物が育って森の更新が進むことが期待できます。 
また、新たなスギ倒木を餌としてキノコなどの分解者が長い年月をかけて腐朽させます。 
それまでの間、林床に放置された倒木は小型の哺乳類(野ネズミなど)に隠れ家や餌場を提供してくれます。 
落雷(の轟音)にキノコの発生を促進する効果がある、という面白い説があるのですけど、スギ林でも見られるのか楽しみです。


さて、落雷がいつ起きたのか、正確な日時を突き止められるでしょうか?
私が定点観察した9月下旬から10月中旬までの17日間のどこかで落雷したはずです。
今回、Perplexity AIに相談して初めて知ったのですが、気象庁は落雷の詳細なデータを記録しており、過去に遡って落雷の有無を調べることが可能です。 
気象庁は雷監視システム(LIDEN: LIghtning DEtection Network system)を使用して落雷を観測しています。 
このシステムにより、落雷の場所や時間を5分単位で記録しています。 
気象庁のウェブサイトでは、過去の気象データを検索することができます。 
少しやってみたのですが、忙しくて調べ切れていません。 



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落雷による林冠ギャップ

中折れしたスギ落雷木

真下に散乱する中折れの破片




以下は、タヌキの溜め糞場ph:倒木横の様子を撮った写真です。
糞に未消化の種子(銀杏およびリンゴ?)が含まれているのですが、落雷木に気を取られた私は、真面目に調べていません。







2024/12/26

カタクリの花を眺めながら春の山道を登る

 

2023年4月下旬・午後12:00頃・晴れ 

里山の斜面にカタクリの大群落が満開に花を咲かせていました。 
ウグイス♂(Horornis diphone)がどこか近くでホーホケキョ♪ときれいな囀り(さえずり)を披露していました。 
まさに春の風物詩ですが、期待した訪花昆虫は全く見当たりませんでした。 
静かに進行している昆虫の大絶滅が本当に心配です。 

山道を登りながらカタクリの花畑を動画に撮ってみました。 
ちょっと酔いそうな映像になってしまったので、1/5倍速のスローモーションでリプレイ。 

早春に咲くカタクリの花は、スプリング・エフェメラルのひとつです。 
この里山ではかつてカタクリの大群落が春のちょっとした観光資源になっていました。 
コロナ禍のロックダウンで山林を誰も整備しなくなると、あっという間に雑木林の下生えが藪となったり倒木が散乱したりして、カタクリの群落は衰退してしまったようです。 
一方、冬に雪崩が多発する急斜面では樹木が育たない(植物遷移が進行しない)ため、そこを通る登山ルートではカタクリの群落が健在です。 
定期的に適度に攪乱される地形でないと、カタクリの群落は安定して維持できないようです。 
里山を林業家が再整備すれば、カタクリの花畑を復活させるのは難しくないはずです。 
カタクリはアリによって種子が散布される植物としても有名です。

2024/12/18

雪面に風散布されたオオウバユリの種子

2023年12月下旬・午後・晴れ 

平地の落葉した二次林を歩き回ると、雪に覆われた林床でオオウバユリが枯れていました。
その株の真下の雪面に種子が散乱していました。 
開裂した蒴果から翼の付いた種子が風散布された好例です。
地面よりも雪面に落ちたオオウバユリ種子の方がよく目立ちます。 
親株の根元から各種子への距離を測定してグラフに描けば、風散布の立派なデータになりそうです。

関連記事(3年前の撮影)▶ オオウバユリ種子の風散布を実演してみる


植物学の用語で理解が曖昧なまま使っているものを、この機会に復習してみました。 
百科事典や植物図鑑の解説で用語の定義を読むだけではなかなか頭に入らないので、AIのGeminiに質問してみました。 
たちどころに専門的な回答が自動生成されて、とても勉強になりました。
ただし、回答をダブルチェックする必要があります。
さらに疑問があれば、AIと質疑応答を重ねて自学自習を深めることが出来ます。
なかなかすごい性能です。
調べ物をする際に誰もインターネットを検索しなくなる(誰もググらなくなる)時代がすぐそこまで来ていることを実感します。
私はベンチャー起業のGoogleが興隆して検索の覇者へと登り詰める過程をつぶさに目撃してきました。
そのGoogleが危機感を覚えて、Geminiの開発・改良に死物狂いで全力を注いでいるのも納得です。



Q: オオウバユリの実が翼果ではなく蒴果とされているのはなぜか? 
翼果のように見えるのは収斂進化なのか? 


A: Gemini1.5の回答
オオウバユリの実が翼果ではなく蒴果と分類される理由、そして翼果のように見える理由について、詳しく解説していきます。 
オオウバユリの実が蒴果である理由 
蒴果とは、複数の種子を含む果実が成熟すると裂開し、種子を散布するタイプの果実です。オオウバユリの実は、この蒴果に分類されます。 
  • 構造: オオウバユリの実は、複数の室に分かれており、各室に多数の種子が詰まっています。成熟すると、これらの室が裂開し、種子が外に飛び出す構造をしています。 
  • 種子の特徴: オオウバユリの種子は、比較的大きく、扁平な形をしています。種子の周囲には、薄い翼状の構造が見られます。この翼状の構造は、風によって種子を遠くに運ぶための適応と考えられています。 
翼果との違い 
翼果とは、果皮の一部が薄く広がって翼状になり、風によって種子を遠くに運ぶための適応が見られる果実です。カエデの種などが代表的な例です。 
オオウバユリの種子も翼状の構造を持っていますが、果実全体が裂開するという点が、翼果とは大きく異なります。翼果は、果実全体が一つのもので、種子が翼と一緒に風に乗って飛んでいきます。 
翼果のように見える理由:収斂進化の可能性 
オオウバユリの種子が翼状の構造を持つにも関わらず、蒴果に分類されるのは、収斂進化が考えられるためです。 
  • 収斂進化: 異なる系統の生物が、同じような環境に適応する過程で、似たような形質を獲得することを収斂進化といいます。 
  • 風散布への適応: オオウバユリとカエデのように、異なる種類の植物が、どちらも種子を風によって遠くに運ぶという同じ環境への適応として、翼状の構造を獲得したと考えられます。 つまり、オオウバユリの種子の翼状の構造は、カエデの翼果と似た機能を果たしていますが、その構造が進化してきた過程は異なる、というわけです。 
まとめ 
オオウバユリの実は、その構造から蒴果に分類されます。種子の翼状の構造は、風散布のための適応であり、カエデの翼果との類似性は収斂進化の結果と考えられます。 
ポイント: 
  • 蒴果:複数の種子を含む果実が裂開する 
  • 翼果:果実全体が翼状になり、種子が翼と一緒に飛ぶ 
  • 収斂進化:異なる系統の生物が、同じような環境に適応して似た形質を獲得する
オオウバユリの実は、植物の多様な進化の過程を垣間見せてくれる興味深い例と言えるでしょう。



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2024/12/16

イネの二番穂

2023年10月上旬・午後・晴れ 

稲刈り後の田んぼ(刈田)で刈株から青々とイネの葉が再生し、しかも穂まで実っていることに気づきました。
私が子供の頃は二番穂というものを見た記憶がないので、ちょっと感動しました。 
山形県は北国ですから、水田は一毛作です。 
しかし最近は稲の品種改良が進んだせいか、温暖化の影響なのか、稲刈りが昔よりも早く終わり、山形県でも秋のうちに二番穂が出るようになったようです。
(それとも、昔から二番穂は生えていたのに、私に知識がなくて見過ごしていただけかな?) 

この二番穂を収穫して何かに活用できたら、SDGsの観点からも良いはずです。 
しかし山形県の二番穂は量が少な過ぎて、わざわざ手間隙かけて収穫して飼料やバイオマス燃料として利用するコストが回収できないのかもしれません。 

おそらく種子食性の野鳥や野生動物が田んぼの二番穂を食べに来ているはずです。 
例えば、渡来した白鳥の群れが刈田で採食しているのは、一番穂や二番穂の落ち穂拾いです。 

ところがしばらくすると、二番穂が出た刈田の区画は、冬が来る前に再び耕耘されてしまいました。 
翌年の春になったら田んぼに水を入れる前にどうせまた耕すのに、二度手間(トラクターの燃料費の無駄)ではないのかと、不思議でした。 
AIのGeminiに質問してみると、色々と教えてもらえて勉強になりました。 
二番穂にはイネの害虫などが潜んでいる可能性があるため、緑肥として土壌に漉き込んでしまうのだそうです。(土壌改良) 
イネ農家としては、二番穂が出ると土壌の養分が無駄に吸い取られてしまうから、二番穂を早く土にすき込んで根絶やしにしたいのかもしれません。 

稲孫、穭(ひつじ・ひつち・ひづち)は、稲刈りをした後の株に再生した稲。 いわば、稲の蘖(ひこばえ)である。 学術的には「再生イネ」という。 一般には二番穂とも呼ばれる。(中略) 稲の生殖細胞の減数分裂の際の気温が約18-20℃を下回ると不稔となることがある[3]。そのため温帯では成長しても穂が出ずに枯死してしまうか、不稔で中身が空のことが多い[1]。(wikipediaより引用)


イネ科の雑草でも草刈りされた後にたくましく再生しますから、別に珍しい現象ではないのですけど、 私にとって「再生イネ」を見るのは新鮮でした。

「二番穂」という用語をかろうじて知っていたぐらいで、他の呼び方は知りませんでした。



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稲の多年草化栽培

2024/12/15

ユキツバキの熟した蒴果から種子を取る(雪椿)

 



2023年9月下旬・午後12:40頃・くもり 

里山で細い山道に沿って自生するユキツバキの群落を定点観察しています。 
秋も深まり果実の表面が赤く色づき始めましたが、未熟な果実は硬いままです。 
茶色に完熟した蒴果を1個だけ見つけました。 
既に開裂しかけた蒴果の中には種子が2個含まれていて、今にも零れ落ちそうです。 
ヤブツバキの種子は、主に重力散布で分布を広げると考えられているそうです。 
2個の種子が互いに密着した状態で、果皮から一緒に外れました。 
動画を撮りながら片手で種子の癒着を剥がそうとしたら、手元が狂って大事な種子をうっかり1個落としてしまい、林床で見失いました。 
(種子散布に私も少し貢献したことになります。) 
手元に残った1個のユキツバキ種子の歪な形状をお見せします。 
そのまま種子を採集して資料用に持ち帰りました。 

ヤブツバキなどツバキ属の実に産卵・寄生するツバキシギゾウムシを長年探しているのですが、私は未だ見つけたことがありません。 
そもそもツバキシギゾウムシは寒冷な雪国には分布しないのでしょうか。 
山形県はツバキシギゾウムシの分布域の北限に近いのだそうです。 
ツバキシギゾウムシ♀が産卵した痕跡を調べたかったのですが、ユキツバキの群落を見渡しても、そもそも果実がほとんど見つかりません。 
春にはあれほど多数の花が咲いていたのに、ユキツバキの結実率はとても低いようです。 
ユキツバキの花は鳥媒花でもあり虫媒花でもあると考えられるので、雪国の春でも送粉者の数が少ないとは考えにくいです。

Newton special issue 植物の世界 第1号 ナチュラルヒストリーへの招待』という本でユキツバキの生活史を特集した章を読むと、
林内の群落では、ユキツバキの着実率(花が果実になる割合)はきわめて低く、成熟した果実はまれにしかみられない。しかし、林のへりや伐採跡地など日のよくあたる条件下では花が多く咲くため、果実も比較的多くつく。(中略)  種子が成熟するころには、種子の中身を食べる甲虫であるツバキシギゾウムシ(Curculio camelliae)や落下した果実の果皮を破って中の種子を食べる動物などがおり、被害を受ける。 (p40より引用)
ユキツバキの種子散布には重力散布だけでなく貯食型の動物散布も関与するのではないか?と個人的に推測しています。 
ユキツバキの分布は、重力散布だけでは説明できないからです。
重力散布や水散布だけでは、ユキツバキの分布は標高が下がる一方です。
ところが、ユキツバキの群落は山中の谷だけでなく尾根にも見られます。(人為的な植栽の結果かもしれません)
動物散布を証明するために、ユキツバキの種子を拾い集めて野外の地表にまとめて放置して齧歯類や野鳥が捕食したり貯食のために持ち去るかどうか、トレイルカメラで監視する計画を立てています。 
ところがユキツバキの種子を給餌実験に充分な数だけ集めるのがとても大変なことが分かりました。 
これほど結実率が低いユキツバキは、絶滅に向かっているのでしょうか? 
挿し木でも増やせるそうですが、遺伝子多様性の低いクローンになってしまいます。
野ネズミの巣穴を発掘調査したり野生動物の糞分析をした際に、ユキツバキの種子が含まれているかどうか、注意して見ていくのも面白そうです。

新潟雪椿研究会による『ユキツバキの果実・種子』と題したPDF資料がインターネット上に公開されていました。
こうした平均値などの統計処理をできるぐらい多数の種子をフィールドで集めるのは、かなり大変そうです。
ユキツバキの種子から椿油を採油したら、希少価値から高級品になりそうです。

2024/12/06

ツルアリドオシの赤い実(液果)

2023年9月下旬・午後 

里山で急坂の細い山道を登っていたら、地表に赤い実が点々となっていました。 
赤く熟した果実を試しに味見してみたらうっすらと甘味を感じました。 
念のために、飲み込まず吐き出しました。 

名前を知らない植物で、コケモモの幼樹(超低木)なのかと初めは頓珍漢な予想をしていました。 
多雪地帯では丈高く生育できないのかな?
しかしコケモモは高山植物のはずで、標高の低い山には生えないはずです。 

通りかかるたびにずっと気になっていたので、撮れた写真からGoogleレンズで画像検索してみたら、ツルアリドオシとすぐに分かりました。 
まさか蔓植物だという認識はありませんでした。 
常緑の葉が対生につき、赤い実の表面には必ず2つの凹みがあります。
果実は合着した二つの子房がまとまった形で膨らんだもので、左右2個の花の萼の痕が表面に残る(wikipediaより引用)
ツルアリドオシの赤い実(液果)は、おそらく鳥に食べられて種子散布されると予想されます。 
鳥の採食シーンを動画に撮るのが次の目標です。 
また、初夏に咲くというツルアリドオシの白い花の写真も撮ってみたいものです。


【追記】
2023年10月下旬にも同じ山道で写真に撮っていました。
苔(種名不詳)の群落に生えていて、熟したツルアリドオシ果実の赤色がいっそう映えていました。



2024/12/03

ユキツバキの花が咲く春の山道(雪椿)

 

2023年4月下旬・午後12:15頃・晴れ 

里山の急斜面を息を切らせて登っていると、細い山道の両側に自生するユキツバキの群落が花を咲かせていました。 
ウグイス♂(Horornis diphone)がホーホケキョ♪と繰り返しさえずる鳴き声も聞こえて、まさに春山の光景です。 

雪国の早春に咲くユキツバキの赤い花は芳香がほとんどないので、鳥媒花と予想しています。
しかし、ヒヨドリやメジロなど吸蜜に来る鳥を私は未だ一度も見たことがありません。 
ヒトを警戒して逃げてしまうのだとしたら、ブラインドを張って待ち伏せて隠し撮りするか、無人カメラ(トレイルカメラ)でユキツバキの花を監視しないと撮影は無理かもしれません。 
この日は山中の別な場所でビロウドツリアブという早春に現れる昆虫がユキツバキに訪花する様子もちらっと見かけたのですが、撮り損ねて悔しい思いをしました。 
また来季の宿題です。 




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2024/11/30

ヒメアオキ:斑入りの葉

2023年12月中旬

平地の二次林の林床には常緑低木のヒメアオキがパッチ状に点在しているのですが、斑入りの葉の群落を見つけました。 
緑色の葉全体に黄色い斑点が散りばめられています。 
このような斑入りは庭木の園芸植物としては見かけたことがあるのですが、ここでは完全に野生株です。 
斑入り群落の隣には、葉全体が緑色の正常株のヒメアオキ群落と隣接していました。

ヒメアオキは耐陰性の高い植物です。
植物の葉が斑入りになると、一般的に光合成の効率が落ちて耐陰性も下がります。
ヒメアオキの場合はなぜか例外で、逆に斑入り株のほうが耐陰性が優れていると言われているそうです。
この理屈が私にはさっぱり分かりません。
今回見つけた斑入り群落に隣接する正常株の群落のほうが少しだけ高く成長していたので、反証(一般論が正しい)になるかと思いました。
しかしAIのGeminiに相談すると、林床の日照条件が隣接する群落でも違う可能性が高いですし、各株の年齢も土壌の性質も揃っていないことから、反証にはならないと指摘されてしまいました。
厳密には採集・栽培して実験的に確かめるしかなさそうです。

ヒメアオキの自然史では種子散布や虫こぶの話も面白そうなので、自分なりに追々調べていけたらと思います。
 
手前が斑入りの群落、奥が正常株の群落(またはヒメユズリハかも?)

2024/11/24

花弁が黄緑色の桜(ウコン/ギョイコウ?)

2023年4月下旬・午後 ・晴れ

山麓の農村部で道端に植栽された桜の花が黄緑色で、珍しく思い写真に撮りました。 
園芸品種に疎いので帰ってから調べてみると、ウコンまたはギョイコウという2つの栽培品種が候補に出てきました。 
八重咲きの花弁に葉緑素が含まれ、花弁でも少し光合成しているらしい。 
ソメイヨシノとは違い、開花と一緒に赤みがかった若葉が展葉しています。 

ウコンとギョイコウのどちらでしょうか?
ウコンと違ってギョイコウは、開花が進むにつれて(葉が緑になる頃)花弁の中心部が赤くなるらしいのですが、この時期では見分けられません。 
これはウコンだろうと予想しているのですが、来季は現場に『桜ハンドブック』を持参した上で定点観察し、しっかり同定するつもりです。 

この日は晴れていたのに、黄緑の桜に訪花昆虫を見かけませんでした。 
しつこく定点観察してみれば、訪花昆虫の送粉行動を観察できるかもしれません。 
緑色がかった花弁では春の花として視覚的にあまり目立たたず、訪花昆虫を誘引するシグナルが弱いと予想されます。 
可視光ではなくUV写真に撮ってみれば、目立つ蜜標があるのかもしれません。
その代償にウコンやギョイコウの花に強い芳香があるという話も聞いたことがありません。 
栽培品種ではこのように、自然界では淘汰される形質も人為選択されてしまうことがあります。 
八重咲きなのに雄しべや雌しべが正常で結実するという点も、花の形態形成の常識に反していて不思議です。


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2024/10/14

ワタ(綿花)の種子散布を考える

2023年10月上旬・午後 

民家の庭に置かれた植木鉢にフワフワの白い綿が実っていました。 
ワタの綿花を実際に見るのは初めてです。 
綿花と言っても花ではなく、熟して裂けた果実(蒴果)から出てきた綿毛です。 
天然コットンの手触りや中に含まれる種子を調べてみたかったのですが、他人様の庭に勝手に入れないので、公道から写真に撮るだけにしました。 
夏に咲くワタの花(アオイ科)を見逃したのが残念です。 

綿花で思い出すのは、幼少期に図書室で読んだ『アンクル・トムの小屋』というストウ夫人の小説です。
米国南部の大規模なプランテーションで黒人奴隷に綿摘み(綿花の収穫)をさせたという知識をこの本から得たので、てっきりワタは南国の植物だと思い込んでました。
日本のこんな北国(雪国)でもワタが育つとは知りませんでした。
現状では日本で使われる綿(コットン)の国内自給率はほぼ0%で、全て輸入に頼っているのだそうです。
国産のワタを栽培しようという試みが少しずつ広がっているらしい。

さて、ワタの種子散布について考えてみましょう。 
植物の白い綿毛と言えば、てっきり風散布されるための適応進化なのかと初めは思いました。 
しかし念のためにネット検索で調べてみると、綿花の種子は比較的重く、風に乗って遠くまで飛ぶことができないのだそうです。 
むしろヤナギの綿毛(柳絮りゅうじょ)のように、水に浮いて水流散布されるためのものと考えられているそうです。 
もしかすると、「ひっつき虫」のように、通りかかった動物の毛皮に綿毛ごと絡みついて種子が遠くに運ばれる可能性もありそうです。(動物付着散布)
誰か実験してみて下さい。

2024/10/07

ナツメの落果を拾って種子を採集

前回の記事:▶ ナツメの種子散布者としてのホンドタヌキ 


2023年12月上旬 

民家の庭に植栽されたナツメの木を新たに見つけました。 
樹高が高くなり過ぎないように上部が伐採されていて、痛々しい樹形です。 
完全に落葉し終わった枝先に、茶色に熟した核果が鈴なりに実っています。 
木の下には多数の落果が散乱していました。 

撮れた写真を見ると、クロヤマアリFormica japonica)のワーカー♀が1匹、ナツメの落果に乗っていました。 
撮影したときには気づかず、ナツメの果汁を吸汁しに来ていたのかどうか、不明です。 

スギ防風林にあるタヌキの溜め糞場wbcに未消化のまま排泄されたナツメの果皮および種子がまとまって見つかったことから、ホンドタヌキがこの庭まで遠征してきてナツメの落果を食べ漁った可能性があります。 
2点間の直線距離は約550mでした。
もっと遠い地点(約800m)にもナツメの庭木がありました。
トレイルカメラを設置して、秋の夜長にナツメの落果を食べに来る野生動物を撮影できたら面白そうです。 

クロヤマアリ♀が1匹、ナツメの落果に乗っていました。

公道に転がっていたナツメの落果を3個だけ拾って持ち帰りました。 
果肉を水で洗い流して細長い種子を取り出し、よく乾燥させました。 
ナツメの種子の標本として保存します。 
今後、野生動物の糞分析や胃内容物調査で種子散布を調べる際に比較対照となります。 

山渓ハンディ図鑑4『樹に咲く花:離弁花2』でナツメを調べると、
果実/核果。長さ1.5〜2.5cmの楕円形で、10〜11月に暗紅色に熟す。核は卵形〜長楕円形で両端が鋭くとがり、不規則な縦の溝がある。核は長さ1〜1.2cm(p511より引用)

私が採取した種子は、図鑑の記述よりも少し大きい(長い)ようです。



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