2025/10/18

クズの葉の調位運動(向日回避運動)と蔓の旋回運動【6000倍速映像】

 

2024年7月下旬〜8月上旬 

動きが遅くてなかなか認識されにくいのですが、「植物の運動」も面白いテーマです。
この分野も開拓したダーウィンは、つくづく偉大な生物学者です。
『種の起源』(1859)を出版した後に『よじ登り植物ーその運動と習性』(1865)や『植物の運動力』(1880)を発表しました。

植物図鑑や本を読んでいたら、マメ科の蔓植物であるクズの葉は興味深い運動を毎日繰り返していると知りました。 
 『花のおもしろフィールド図鑑 (秋) 』によると、
クズの葉(夜だけでなく昼間も葉を閉じて眠ります。晴れた夏の昼下がり)(p97より引用)

POINT図鑑『フェンスの植物:はい回る蔓たち』によると、

クズの葉は日差しが強いと左右の小葉を合わせるように立てて昼寝する。(p166-167より引用) 



【参考サイト】 クズの葉の調位運動 @千葉県立中央博物館 生態園 
クズは陽当たりに応じて葉の角度を変える能力があり、これを調位運動といいます。直射日光が強い時、葉を立てることにより、日光を受ける実効面積を減らし、葉温の上昇を防ぎ、蒸散量を減らし、水ストレスの発生を抑え、結果的に光合成速度の低下を防ぐ、という効果があると考えられています。 

クズの葉の調位運動を可視化するために、タイムラプス専用カメラ(Brinno TLC200)を使って30秒間隔のインターバル撮影をしてみました。 
この機種にはストロボが内蔵されておらず、赤外線による夜間の暗視撮影もできないので、就眠運動の記録はできません。
明るい日中だけ(午前4:30〜午後19:00)自然光下で撮影するようにタイマーを設定しました。 

クズの群落が蔓延はびこってヒトが誰も来ない堤防で手すりにミニ三脚を使ってカメラを設置しました。 
西に面した土手(斜面)です。 

週間天気予報によると、そろそろ梅雨が明けそうですが、カメラが雨で濡れてもすぐに撥水して乾くように、防水ケースのレンズ部分に予めメガネの曇り止めスプレーを塗布しておきます。 
(念のために雨よけの庇を取り付けるべきだったかもしれません。) 

 クズの葉が夏の強い日差しを避けるために傾く日周運動を微速度撮影したい。 蔓の先端(成長点)が巻き付く足場を求めて旋回する運動もタイムラプスで撮れるかも? 

カメラを7日間(7/29〜8/5)放置して撮れた定点映像を早回し加工した、30x20x10=6000倍速動画をご覧ください。 
※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。 
透明プラスチックの防水ハウジングにカメラを格納して撮影すると、どうしても少しぼんやりした写真になってしまうのです。

1週間後に薮漕ぎしてタイムラプスカメラを回収すると、 炎天下の土手に放置されても熱暴走せずに健気にインターバル撮影を遂行してくれました。 
雨が降っても晴れればレンズの水滴はすぐに乾きます。

晴れて日差しが強いと葉の角度を立て、曇ると元に戻るという調位運動を繰り返しています。 
葉そのものが折り紙のように折り畳まれるのではなく、葉柄にある葉枕という部分が水圧ポンプの力で膨満と収縮を繰り返し、日光に対して平行になるように葉の角度を変えているのです。 

似たような運動として、マメ科植物は就眠運動を行います。 
夜になると同様に葉を閉じ、翌朝になると葉を開きます。 
今回は昼間しか撮影できませんでしたが、いつか赤外線で暗視できるトレイルカメラを使って夜も昼も(終日)インターバル撮影をしてみるつもりです。 
花の自然史:美しさの進化学』第14章『花の睡眠』によれば、
ほかのマメ科の葉と同じように、クズは日中は葉を開いているが、夜間は葉を折りたたんで就眠する。(p211より引用)
クズ(Pueraria lobata)の葉の運動は、日中の調位運動(paraheliotropism)も夜間の就眠運動(nyctinasty)も、どちらも葉柄の基部にある葉枕(pulvinus)による同一の運動機構で実現されています。 
違うのは制御する刺激と目的です。 
クズの葉の昼間の調位運動と夜間の就眠運動は、いずれも葉枕の膨圧変化による同一の屈曲機構によって生じますが、前者は強光や乾燥への即時的な応答(向日回避運動)、後者は概日時計に基づく周期的運動(就眠運動)です。 


ところで、今回のタイムラプス動画には、別の運動も記録されています。
クズの蔓の先端にある成長点が、植物から見て右回り(時計回り)で円を描くように旋回運動しています。 
何か構造物に触れるまで自律的な旋回を続けます。 
エンドウマメなどとは違ってクズには「巻きひげ」はなく、蔓自体が長く伸び、先端の成長点が旋回運動(circumnutation)しながら支えを探索します。

葉の就眠運動や調位運動とは異なり、蔓の旋回運動は昼夜を問わず絶え間なく続くらしいので、次は終日タイムラプス撮影して確認したいものです。


余談ですが、蔓植物の「マント群落」(mantle community)という植生学の用語について私は中途半端な理解をしていました。
林縁で木本植物を被覆するように蔓植物が蔓延る高さを持った群落に対してしか使えない、とChatGPTに教えてもらいました。
今回のように、土手(斜面)の草地を被覆するクズの群落に対しては高さ(高低差)があっても「マント群落」とは呼べません。
(例外として、草本植物である竹林の林縁に形成されるマント群落は正しい用語らしい。)
今回の動画画面の右上で土手に柳の木が生えていて、それをクズが覆い尽くしているのですが、この場合も木が孤立しているためにマント群落とは呼べません。



つづく→ 


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 ↑【おまけの動画】 

早回し加工する前のオリジナル素材の600倍速映像です。 
変化が遅くて長い動画なので(20:08)、ブログ限定で公開しておきます。

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