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2025/06/17

ヤマキヒゲナガ♂の群飛とレック形成【蛾:FHD動画&ハイスピード動画】

 

2024年5月下旬・午後13:20頃・くもり 

里山の急斜面をつづら折れの山道で登っていると、草むらの上を多数の小蛾がチラチラと飛び回っていました。 
この季節だと、てっきりオドリバエの群飛かと思いきや、下草に着陸した虫をよく見たらヤマキヒゲナガ♂(Nemophora japonica)でした。 
飛び疲れた個体なのか、近くのシダの葉や灌木の若葉に2頭ずつ並んで留まっていました。 
お気に入りの場所で交尾相手の♀を待ち伏せする作戦なのかもしれませんが、♂同士で止まり木を巡る争いにはなりませんでした。
(縄張り争いや占有行動はなし。)

飛翔シーンを高画質のFHD動画で撮影しても、体が小さい上にちらちらと羽ばたく動きが素早すぎてよく見えません。 
ヤマキヒゲナガ♂の群飛を240-fpsのハイスピード動画でも撮ってみました。(@0:51〜) 
少なくとも4頭以上の個体が激しく飛び回っています。 
最後まで飛んでいた個体が、シダの葉に着陸しました。 

同じレック型求愛でも、ユスリカの群飛(蚊柱)とは様子がまるで違いますね。 
関連記事(1、10年前の撮影)▶  

実は、今回撮影した動画素材の順番を入れ替えています。 
ハイスピード動画を一番初めに撮影していて、群飛が次第に解消しました。 


【考察】 
ヒゲナガガ科の仲間は、♂が求愛のために群飛をすることで有名です。 
私が山道を通りかかったせいで、ヤマキヒゲナガ♂の群れが警戒して下草から飛び立った訳ではありません。 
群飛を見つけた私がそっと近づいて、動画で撮影したのです。 

くらべてわかる蛾1704種』という図鑑にヤマキヒゲナガは非掲載でしたが、ヒゲナガガ科についての解説を読むと、
小型。♂の触角は前翅長の3倍以上と非常に長い。♀の触角は♂の半分以下と短く、基半部に黒い毛が生え太く見える種が多い。♂は昼間長い触角をたなびかせて競い合うように群飛する。 (p15より引用)
日本動物大百科9昆虫II』によれば、
ヒゲナガガ科には群飛する種と群飛しない種がいる。(中略)クロハネシロヒゲナガは、日中、草地を低くとびかうのが見られ、多数の♂が同じ場所で白い触角を目立たせて飛翔することもあるが、これらの♂は互いにまったく無関心で干渉がないように見える。 群飛をするホソオビヒゲナガでは、♂がからみあって上下するような飛翔をする。樹上のかなり高い位置で群飛することもあり、カ類の群飛と見まちがえることもある。(p71より引用)
ヒゲナガガ類の♂では極端に長くなっていて、前翅長の2〜3倍の長さがある。これは群飛のときバランスをとるのに役立つのかもしれない。(p25より引用)
ヒゲナガガ科の♂は多数が集まって求愛のためのレックを形成し、群飛で♀を誘引して飛びながら交尾するのだそうです。
資源とは特に関係の無い場所に集まった雄が、そこで小さな縄張りを作り、求愛のディスプレイを行う。 このような行動をする雄たちをレック (lek) という。レックが求愛のディスプレイで自分をアピールし、雌を呼び寄せて交尾をするというのがレック型一夫多妻である。
ヤマキヒゲナガ幼虫の食草が何なのか、解明されていないそうです。 
産卵に来る♀を待ち伏せするために、食草の付近で♂がレックを形成している可能性もあります。 
今回ヤマキヒゲナガ♂が留まっていた植物(シダ植物や灌木)の種類をまじめに同定すべきでしたね。 
また、羽化した直後の♀と交尾する可能性もありますが、どこで羽化するかも分かっていないらしい。 

ヤマキヒゲナガの群飛(求愛レック)で性フェロモンを放出している個体は♀♂どちらなのか、という点がとても大切な問題になります。 
そして、性的二型の触角の機能とも関連してきます。 
ヤマキヒゲナガの性フェロモン分子の実態はまだ化学的に同定されていません。 
他の多くの蛾の仲間と同様に、♀が性フェロモンを放出していると仮定した上で、♂の長い触角は空気中の微量な性フェロモンを検知しやすくするための進化適応だというのが、ネット上に流布する定説になっているようです。 
しかし、この定説を誰が言い出したのか、一次ソース(出典)や科学的根拠を見つけられませんでした。 

私はこの定説にどうしても納得できません。 
ヒゲナガガ触角の性的二型が長短の違いだけなら、私も定説に文句をつけたりしないのですが、そうではありません。
ヒゲナガガ♂の触角はただただ異様に長いだけで、単純な形状(糸状)だからです。 
一方、♀の触角は♂よりも短いものの、基部に黒い短毛が密生していて、太くなっています。 
つまり触角の表面積は♀の方が圧倒的に大きくて、微量な性フェロモンを検知しやすくなっています。 
性フェロモン受容体の分布を直接調べることが出来たら、解決するはずです。 
ヤマキヒゲナガ♂は群飛しながら性フェロモンを放出し、♀が視覚的および化学的(嗅覚的)シグナルで誘引されて群飛に飛び込み、1頭の♂と交尾する、というのが私の仮説です。

また、ヤマキヒゲナガの♂は何を頼りにして求愛レックを形成するのでしょうか? 
♀が来そうだと思う場所(目立つ茂みの近くなど)を個々の♂が判断し、結果として複数の♂が集まってくるだけかもしれませんが、いかにも効率が悪そうです。 
遠くまで聞こえる鳴き声(聴覚的なシグナル) を発している訳でもありません。
白くて長い触角や翅の金属光沢など視覚的なシグナルを頼りにして、♂たちが集まってくると考えられているそうです。 
集合フェロモンを放出しているかもしれない、と私は思いつきました。(嗅覚的、化学的なシグナル) 
♂が放出する(と個人的に仮定している)性フェロモンと集合フェロモンは別個の分子かもしれませんし、同じ分子が受け手の性別によって異なる効果をもたらすのかもしれません。 

ヒゲナガガの群飛はなかなか面白そうな研究テーマですが、配偶行動の観察だけでなく、食草や飼育法を確立するところから始める必要がありそうです。 
長い触角を実験的に切除すると、飛翔や配偶行動のどの過程に支障を来すでしょうか?

木の葉の表面に居座って周囲を360°見回していた♂個体は、これからまさに他の♂と合流してレックを形成し始めるところだったのかもしれません。 


今回もPerplexity AIを相談相手に調べ物をしたり、観察結果の解釈についてしつこく問答を繰り返しました。
ブレインストーミングの結果を以下のレポートに要約してもらいました。 (文言の一部を手直し済み)
もっともらしい専門用語を駆使して、かなり背伸びをした「それっぽいこと」を生成AIが言ってるだけなので、ご注意ください。
AI自身が私の動画を視聴した上でヤマキヒゲナガ♂の行動を独自に解釈している訳でもありません。
今後の展望についても、素人には手に余ることばかりです。
いずれ誰かが解明してくれることを期待します。


ヤマキヒゲナガ♂の群飛行動と配偶システムに関する考察

Ⅰ. 観察概要

  • 日時・場所:2024年5月下旬・山形県の里山(草木に覆われた山腹の急斜面)

  • 気象条件:曇天・無風状態

  • 行動特徴

    • 少なくとも4頭の♂が同一空間で緩やかな群飛

    • 飛翔個体に加え、シダ植物と広葉樹幼木(推定:ニワトコ・オシダ?)に静止する♂が混在

    • オス同士の闘争行動は確認されず

    • メスおよび交尾行動は未観察

Ⅱ. 行動生態学的解釈

1. 群飛の機能仮説

  • レック型配偶システム

    • オスが特定の微気象条件(風速・日照)下で集団飛翔し、メスの訪問を待機1

    • ヒロオビヒゲナガ(N. raddei)の日没前スウォーム行動との類似性

  • 待機戦略の多様性

    • 飛翔個体:視覚的アピールによるメス誘引

    • 静止個体:エネルギー節約型の待機戦略

2. 触角の形態と機能

  • オス触角の特徴

    • 体長の3倍に達する糸状触角(全長約15mm)

    • 表面積は♀触角(毛密生)の1/5以下

  • 機能仮説

    • フェロモン検知:未検証(従来説の再考必要)

    • 飛翔安定装置:長い触角が「生物学的スタビライザー」として機能6

    • 視覚シグナル:光反射による個体間通信

3. フェロモンシステムの特殊性

  • 従来説との矛盾

    • ヒゲナガガ科では♀発信型フェロモンが主流とされる

    • 本種では♂がフェロモンを放出している可能性

  • 二重機能仮説

    • オスフェロモンが同性を集合させ(集合フェロモン)、同時に♀を誘引

Ⅲ. 未解決問題と研究課題

1. 行動メカニズム

  • 群飛形成の誘引要因(化学的/視覚的/地形的)

  • 静止個体と飛翔個体の役割分業

  • メスの出現パターンと時間帯依存性

2. 生理学的課題

  • 触角切除実験による飛翔安定性の定量評価

  • 分泌物質のGC-MS分析によるフェロモン同定

  • 触角感覚器の走査型電子顕微鏡観察

3. 進化的意義

  • 小型化(体長5-7mm)と触角長大化の相関

  • レイノルズ数(慣性力と粘性力の比)低下環境(体長比Re≈100)での飛翔制御適応

  • 種特異的フェロモンシステムの分子基盤

Ⅳ. 今後の観察指針

  1. 時間帯別行動記録:日出~日没まで1時間毎の個体数変動

  2. 環境要因記録

    • 気温・湿度・風速の連続測定

    • 植物フェノロジー(開花・新芽展開)との関連

  3. 標識再捕法

    • 蛍光粉末による個体追跡

    • 行動圏と移動距離の推定


総括

本観察はヒゲナガガ科の配偶システム解明において以下を示唆:

  • 従来の「♀発信型フェロモン」モデルに当てはまらない可能性

  • 触角の多機能性(感覚・飛翔制御・視覚信号)の共存

  • レック行動の多様性(闘争なき集団形成)

今後の詳細な行動観察と化学分析が、昆虫の微小環境適応戦略解明に貢献すると期待されます。216

  1. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9939265/
  2. https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/kenmin/ao-kendo/files/H24dmns-1.pdf
  3. https://www.city.hiroshima.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/011/855/45554.pdf
  4. https://hs-gakko.org/wp-content/uploads/2024/03/ikimono.pdf
  5. http://www.esj.ne.jp/meeting/51/pdf/book/jes51p2.pdf
  6. interests.insect_physiology
  7. http://www.jpmoth.org/Adelidae/Adelinae/Nemophora_japonica.html
  8. https://company.jr-central.co.jp/chuoshinkansen/assessment/document1408/kanagawa/_pdf/eis2_kanagawah14.pdf
  9. https://www.city.minokamo.lg.jp/uploaded/attachment/2441.pdf
  10. https://www.city.nobeoka.miyazaki.jp/uploaded/attachment/8659.pdf
  11. https://www.ars.usda.gov/ARSUserFiles/20200500/Pubs%202020/HullFonagy%202019.pdf

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2025/06/10

池畔のマユミ枝先に集まって次々と泡巣を作り産卵するモリアオガエル♀♂【微速度撮影#1】

 

2024年5月下旬〜6月上旬

モリアオガエル♀♂(Rhacophorus arboreus)が繁殖期に樹上で次々と産卵する様子を長期間の微速度撮影してみました。 
里山にある繁殖池に行ってみると、前年と全く同じ場所に白い泡巣が早くも作られていました。 
池畔に自生するマユミ灌木の葉に白い泡状の塊が付着しています。 

BrinnoタイムラプスカメラTLC200を専用の防水ケースに格納し、水際のマユミを狙って設置しました。 
この機種TLC200の最短撮影距離は約75cmで、接写にはあまり向いていません。 
しかし、モリアオガエルがマユミの枝葉のどこに次の泡巣を作るか予想できませんから、広角で狙う方が好都合です。 
明るい昼間だけ(午前6:00〜午後17:30)1分間隔でインターバル撮影するように設定しました。 
モリアオガエルの繁殖行動は夜通し行われるのですが、残念ながらこのカメラ機種には暗視機能がないため、明るい日中のみの撮影になります。 
トレイルカメラを使えば昼も夜も連続してインターバル撮影が可能になるのですが、手持ちのトレイルカメラは全て他のプロジェクトで使っているので仕方がないのです。 
天気予報通り、夕方から雨が降り出しました。 

さて、6日間(5/30〜6/4)インターバル撮影してみたタイムラプス動画を見てみましょう。 
マユミの樹上でモリアオガエルが作る泡巣の数が増えていました。
マユミの左隣のハルニレ?灌木にも産卵していました。 
その重みで枝葉が垂れ下がり、撮影後半にはカメラの視界を遮ってしまいました。 
被写体(泡巣)までの距離が近過ぎてピンぼけになるかと心配でしたが、大丈夫でした。 
モリアオガエル♀♂がマユミの木に登って集まり、抱接しながら白い粘液を泡立てて泡巣を作り、その中に産卵・受精します。 
しばらくすると泡巣の表面は乾いて固くなり、内部の受精卵を乾燥や捕食者から守ります。 
やがて卵から幼生が孵化すると泡巣の耐水性は次第に失われ、雨で溶けた泡巣からオタマジャクシが脱出して下の池に落ちます。 
晴れたに日は、溶けかけた古い泡巣にハエなどの虫が集まっていました。 

昼間の池には、カルガモAnas zonorhyncha)の♀♂つがいが水面を泳ぎ回っていました。 

曇ったり雨が降ったり夕方になったりすると、マユミの横枝が垂れ下がることが分かりました。 
晴れると光合成が活発になり、横枝もピンと持ち上がります。 
生きた植物はゆっくりながらも活発に動いていることが、タイムラプス動画にすると一目瞭然です。 
池を取り囲むスギ林の影が日時計のように刻々と移動します。 

モリアオガエルの繁殖期は、梅雨の初め(雨季)と重なっています。 
カメラの設置場所が水際なので、湿度が高くて気温が下がる朝晩にはレンズに結露したり霧が発生するかと心配でしたが、それは大丈夫でした。 
激しい雨が降るとレンズの表面に水滴が付着します。 
しかし晴れると水滴が自然に蒸発して、きれいに乾きました。 
Brinno専用の防水ケースの撥水性はかなり優秀でした。 
防水ハウジングの内部に雨が浸水することもなく、結露もしていませんでした。 
それでもレンズの水滴対策が必要だと分かったので、次回からは雨よけの庇を取り付け、防水ケースのレンズの部分には曇り止めの撥水スプレーを噴霧した方が良さそうです。 


つづく→#2


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2025/04/26

キリウジガガンボ♀♂の交尾と連結飛翔【FHD動画&ハイスピード動画】

 

2024年4月中旬・午前10:40頃・くもり 

早春の田んぼで私が農道を歩いていると、前方で交尾していたキリウジガガンボ♀♂(Tipula aino)がおどろいて少しだけ飛び、横の刈田に逃げ込みました。 
互いに反対向きで交尾器を連結したまま、翅を横に広げて、稲ワラの上に静止していました。 
左の個体が♂で、右の個体が♀です。 (体格は♂<♀) 

交尾中の♀♂ペアが飛び立つ瞬間を狙って、240-fpsのハイスピード動画でも撮ってみました。(@0:21〜) 
私が靴の爪先で蹴る素振りをしたら、右の♀が先に反応して飛び立ち、♂を引き連れて飛び去りました。

2025/04/23

ニワハンミョウ♂の求愛と♀による交尾拒否

 



2024年4月下旬・午後14:55・くもり 

田園地帯の舗装された農道で交尾を始めたばかりのニワハンミョウ♂♀(Cicindela japana)を見つけました。 
♀に背後からマウントした♂は、♀の胸部と腹部の間を大顎で咥えてしっかり掴まえ、腹端から茶色くて細長い交尾器(陰茎)を伸ばして♀の交尾嚢に挿入しようとしています。 

しかし、♀は激しく暴れて♂を振り落とそうとしています。 
この♀個体は、明らかに交尾拒否の行動をしています。 
前回の記事で観察した、♀が交尾を終了しようと暴れる行動(post-copulation struggle)よりも激しくて、横に転げ回る動き(ローリング)もしました。 
♂はじゃじゃ馬に振り落とされないように必死にしがみつき、まるで激しいロデオを見ているようです。 
♀も茶色の腹端を伸ばしながら下に屈曲しているのは、♂の交尾器が届かないようにしているのでしょう。 
普段は鞘翅の下に隠れている腹背が♀♂ともにメタリック・グリーンに美しく輝いて見えました。 
うまく交尾できた♀♂ペアの場合、♀は腹端を伸ばしていませんでした。 

激しく暴れている♀♂ペアに、左から別個体が登場しました。 
スロー再生すると(@2:49〜)あぶれ♂のようですが、♀の争奪戦にはならず、すぐに離れて行きました。 
獲物と誤認して近寄ってきたのかもしれません。 

♀に激しく抵抗された♂は結局交尾を諦めて、♀から離れて行きました。 
正面から見ると、♂の上唇および大顎は白いので容易に見分けられます。 
まるでホワイトニングした歯のように見えます。 
一方、♀は♂よりも体格が少し大きく、上唇と大顎が少し黄ばんで見えます。 
ハンミョウは肉食性ですが、怒った♀による性的共食いは起こりませんでした。 

♂から解放された♀が路上をうろつく様子をしばらく撮り続けていたのですが、しばらくするとさっきの♂(それとも別個体?)が別の♀個体の背中に挑みかかっていました。 
交尾する気満々の♂は腹端の交尾器を伸ばしていますが、この♀も激しく抵抗しています。 
今回の♀は、獲物(おそらくアリの一種)を咀嚼中でした。 
このペアも体格に明確な性差ありました(♀>♂)。 
交尾拒否されて一旦振りほどかれた♂が再び♀の斜め背後から近づこうとしたら、嫌がる♀は走って逃げました。 

ニワハンミョウの♀をひたすら動画に撮り続ければ、♂が駆け寄って交尾を挑むはずだ(効率よく撮れる)と気づきました。 
そこで、路上に立ち止まって身繕いしている個体を背側から撮り始めました。(@0:52〜) 
上から背側を見下ろすアングルでは顔色が見えにくくて撮影中は気づかなかったのですが、この個体は♂でした。 
さて、この♂はこれから獲物を狩りに行くのか、それとも♀を探すのでしょうか? 
ところが、背後から別個体(驚いたことに♀でした)がすばやく駆け寄りました。 
マウントしたかと思いきや、すぐに一旦離れました。 (背中を通り過ぎただけ) 
ところが直後に攻守交代で♂が♀に素早く駆け寄り、背後からマウントしました。
マウントされた♀が腹端を伸ばしてすのが交尾拒否の意思表示のようです。 
今回は♀が♂を振り落とそうと激しく暴れることなく、♂はあっさり諦めて離れて行きました。 

♂に解放された♀を撮り続けます。 
この♀個体の背中の中央付近に一対の黒い丸の斑紋があって(●●)、個体識別ができそうです。 
さっきの♂にはなかった目立つ模様です。 
♀は立ち止まって触角を前脚で拭い、化粧しました。 
同側の前脚と中脚を互いに擦り合わせる身繕いもしています。 
♀は再び路上徘徊。 

ところが私は途中で目移りしてしまい、少し離れた位置に佇んでいた♂に被写体を切り替えてしまいました。(@2:04〜) 
どんどん遠ざかる個体よりも、近くに来た個体をなるべく撮りたい、という理由もあります。 
この♂個体は大顎を大きく開閉し、クチャクチャと噛みほぐしていた獲物(クロアリ?)の残渣を吐き出して捨ててから、農道をうろつき始めました。 

ここまでのニワハンミョウ♀♂の行動を、1/5倍速のスローモーションでリプレイするので、じっくりご覧ください。(@2:16〜) 


【考察】 
ニワハンミョウの♂が出会った♀と交尾を始める瞬間をいつも見逃してしまいます。 
どうやら、ニワハンミョウには交尾前の儀式化された求愛行動というのはないようです。 
♀の背後から♂が隙を見て挑みかかり、いきなり交尾を試みるのでしょう。 
しかし交尾成否の決定権は♀にあり、♀が交尾拒否すれば♂はやがて諦めて離してくれます。 
♀が♂との交尾を受け入れる瞬間の撮影は、今後の課題です。 

ニワハンミョウの♀は、羽化後に一度交尾をするだけで、その後は♂に迫られてもひたすら拒否するのでしょうか? 
交尾後の♀は獲物(アリ)の捕食に努め、産卵に備えて栄養を蓄えるのでしょう。 
獲物を探し歩いている既交尾♀にとって、次々に交尾を挑んでくる♂の存在は煩わしいだけでしょう(セクハラ)。 
ここで問題になるのは、ニワハンミョウ♀の交尾回数です。
Perplexity AIに質問してみると、
ニワハンミョウ(Cicindela japana)の交尾回数に関する直接的なデータは限られていますが、ハンミョウ類全般の生態から推察すると、♀は複数回交尾する可能性が高いと考えられます。(後略)

日本のナミハンミョウでは、交尾後に再び同じ個体と交尾する事例が報告されています。 (参考ブログ記事 by 年金暮し団塊世代さん)

また、Perplexityが教えてくれた次の論文(Pseudoxycheila属の同所性ハンミョウ2種の交尾行動について)も面白そうなので、これからPDFをダウンロードして読んでみます。

TIGREROS, Natasha; KATTAN, Gustavo H. Mating behavior in two sympatric species of Andean tiger beetles (Cicindelidae). Bol Mus Entomol Univ Valle, 2008, 9: 22-28.

もしも♀が卵の遺伝的多様性を確保するために複数♂と何度も交尾するとしたら、今回見られたような交尾拒否行動は、交尾相手の♂を♀が厳しく選り好みしていることを示唆しています。 
その選別基準を知りたいものです。 
少し考えてみると、♂の体格でふるいにかけることは可能そうです。 
まず、大顎で♀の体をしっかり保定できない♂は論外でしょう。
体格があまりにもミスマッチ(♀>>♂)のカップルは、マウントした♂の交尾器が♀の交尾嚢に届きません。 
♀はちょっと交尾拒否してみて(precopulation struggle)、なるべく体格の大きな♂とだけ交尾するのかもしれません。 
交尾してもらえるように、小柄な♂が求愛給餌行動を進化させたら面白いのになー。 

♀を巡る♂同士の争いは、一度も見られませんでした。 

 一度だけ♂の背後から♀が駆け寄って一瞬マウントした(ように見えた)のが興味深く思いました。 
意中の♂を見つけて♀の方からモーションをかけた(ナンパした)のなら面白いのですが、その気になった♂が交尾を挑んでも♀は断固拒否して別れました。 
♀の尻を追いかけ回す探雌モードの♂と違って、狩りモードの♀は、動くものは全て獲物に見えてしまう(誤認)のかもしれません。 

今後は野外で片っ端から一時捕獲したニワハンミョウを個体標識(マーキング)した上で、配偶行動を観察すれば、もっと面白くなりそうです。 
しかし飼育下で♀♂ペアを交尾させる方が楽かもしれません。


2025/04/17

ニワハンミョウ♀♂の交尾行動:早く終わらせて別れたい♀と続けたい♂の性的対立

 

2024年4月下旬・午後13:15頃・晴れ 

田園地帯の舗装された農道で、交尾中のニワハンミョウCicindela japana)♀♂ペアを見つけました。 
♀に背後からマウントするために、♂は白い大顎を大きく開き、♀の胸部と腹部の間を挟んでしっかり保定しています。 
♀の背中に乗った♂の腹端をよく見ると、細長くて明るい茶色の交尾器を伸ばして、♀と結合していました。 
♂は腹部を少し前方に曲げているため、鞘翅に隠れていたメタリック・グリーンの腹背が覗いて見えます。 

一方で♂を背負った♀は、大顎を開閉しながら路上を走り回り、獲物を探しているようです。 
ときどき♂を振り落とそうとするものの、マウントした♂は♀に必死にしがみついたまま離れようとしません。 
求愛行動を見ていませんが、♂が♀にいきなりマウントして交尾を始めるのだろう。 


この機会に、ニワハンミョウの性差がある形質を探してみましょう。 
体格はやや♀>♂で、♂の前脚および中脚の腿節に白い剛毛が密生している気がするのですが、いずれも微妙な差で、これだけで単独個体の性別を見分けられる気がしません。 
鞘翅の鈍い金属光沢の色が♂は緑っぽく、♀が赤っぽいのですが、これは偶然の個体差かもしれません。 
比較的分かりやすいのは、大顎および上唇の色で、♂は白っぽく♀は黄ばんでいます。
(訂正:頭楯ではなく上唇の間違いでした。)

交尾中のペアが路上で佇んでいると、右から風に飛ばされてきた小さなゴミが♀の眼の前を横切りました。
それを♀が反射的に咥えました。 
獲物のアリではないと気づくとすぐに吐き出し、ゴミはそのまま風に吹き飛ばされました。 
1/5倍速のスローモーションでリプレイ。(@0:22〜) 
ニワハンミョウの優れた動体視力と反射神経に驚かされます。 
もしかするとニワハンミョウが食べ残したアリの捕食残渣かと思ったのですが、そうではなく植物質のゴミだったようです。 

やがて、♀は♂を背負ったまま方向転換し農道をうろつき始めたのですが、その前に♀がクチャクチャ噛んでいた獲物の食べ滓を路上に吐き捨てました。 
1/5倍速のスローモーションでリプレイ。(@1:04〜) 
捨てた物体は黒いので、おそらくアリのクチクラ(捕食残渣)のようです。 

♀は食後の身繕いを始めました。 
左右の触角を同時に足で拭ったり、同側の脚を互いに擦り合わせたりしています。 
残念ながら、後ろ姿では化粧シーンがよく見えません。 

次に、♀は立ち止まると、マウントした♂を後脚を使って払い落とそうと暴れ始めました。(@1:57〜) 
♂はじゃじゃ馬に乗ったロデオのように、♀から振り落とされまいと必死にしがみついたままで、交尾を続けます。(♂交尾器を挿入したまま。) 
農道を断続的に走り回った後で、再び♀が暴れ始めました。 
♀が激しく暴れても、♂の細い陰茎が折れたり外れたりすることはありませんでした。

ニワハンミョウ♀の大顎の先端が黒いので、獲物のアリをまだ咥えたままのように誤解しがちですが、正面からしっかり見ると何も食べていないことが分かります。 


また交尾中の♀♂ペアを見つけて新たに動画を撮り始めました。(@2:45〜) 
同一ペアの続きなのか、覚えていません。 
鞘翅の白紋を見る限り、同一ペアに見えます。 
しかし鞘翅の色が♀♂共に赤系なので、さっきとは別のペアのような気もするのですけど、光の当たる角度によって構造色の見え方が変わってくるのかもしれません。 

♀が♂との交尾を早く打ち切ろうと暴れているときに、左から別個体が乱入しました。 
1/5倍速のスローモーションでリプレイ。(@4:13〜) 
新参者のニワハンミョウは、鞘翅が緑色っぽくて、上唇や大顎が白っぽいので、どうやら♂のようです。 
てっきり「あぶれ♂」が乱入して♀の争奪戦が始まるかと期待したのですが、ニアミスしても何事もなく離れて行きました。 
交尾していること自体が、最強の配偶者ガードになっているのかもしれません。(あぶれ♂に勝ち目なし) 

♂を振り落とそうと暴れながら歩き続ける♀は、次に路上に落ちていたゴミを咥えたものの、数口咀嚼しただけですぐに吐き出して捨てました。(@5:53〜) 
アリのように素早く逃げる獲物が相手ですから、たとえゴミであっても、餌らしい物体を見つけたら、反射的に噛み付いて口に入れてしまうのでしょう(誤認捕食)。 
このゴミはもしかすると、別個体のニワハンミョウが吐き捨てた食べ残し(残渣)かもしれません。 
1/5倍速のスローモーションでリプレイ。(@5:58〜) 

路上を徘徊する交尾ペアと別の単独個体がまたすれ違いました。 
ニアミスしても小競り合いにはなりませんでした。 
1/5倍速のスローモーションでリプレイ。(@6:47〜) 
あまりにも一瞬のすれ違いで、相手の性別を見分けられませんでした。 
交尾中の♀♂ペアは、路肩の土壌がある地点に辿り着いてから、舗装路に引き返しました。 


【考察】
ニワハンミョウ♀♂の交尾行動は初見です。
交尾を早く打ち切りたい♀の行動と、必死で交尾を続ける♂が、ロデオを見ているようで面白かったです。
重い♂を背負ったままでは敏捷なアリを狩るのに邪魔(足枷)になりますし、鳥などの天敵(捕食者)に襲われたときも逃げ足が遅くなってしまいます。 
つまり♀にとって、いつまでも交尾を続ける♂は大迷惑です。

一方♂としては、たとえ♀と交尾できても自分の精子が確実に次世代に受け継がれるとは限りません。 
♀が産卵するまでライバル♂との浮気を防ぐ必要があり、交尾時間が長くなるのでしょう。 
昆虫の種類によっては、♂が前回に交尾したライバル♂の精子を♀の体内から陰茎を使って掻き出したり、自分の精子を大量に送り込んで精子置換したりしてする例が知られています。(ハンミョウも同じなのかどうかは、知りません。) 
つまり雌雄で繁殖戦略の思惑が異なるために、典型的な性的対立が生じます。

ニワハンミョウの♀♂ペアが交尾を解消して離れる瞬間まで見届けられませんでした。 
♀が獲物を咀嚼している間はおとなしく交尾を受け入れてくれるなら、♂が♀に求愛給餌する行動が進化してもよさそうな気がします。 
しかし、ハンミョウが狩ったばかりの新鮮な獲物しか捕食しないのだとしたら、無理ですね。 

次は求愛から交尾に至る過程を観察したいものです。



【アフィリエイト】 

2025/04/11

カルガモの♀♂つがい外強制交尾と配偶者ガード(野鳥)

 

2024年4月下旬・午後16:20頃・くもり 

平地の溜池の方から、激しい水音が聞こえました。 
水鳥が夕方に水浴しているのかと思ってそっと近づいてみると、3羽のカルガモAnas zonorhyncha)が水面で激しい喧嘩を繰り広げていました。 
普段カルガモは警戒心が強いのですが、今回は痴話喧嘩に夢中で、池畔で観察する私のことなど眼中にありませんでした。 

外見によるカルガモの性別判定は難しくて、私はまだスローモーションにしないと自信がないのですが、どうやら1羽の♀を巡って2羽の♂が交尾しようと争っているようです。 
【参考サイト】

正確には、♀♂ペアの間にあぶれ♂が割り込んで、強引に♀と婚外強制交尾を試みているようです。 
つがい外交尾:extra-pair copulation
強制交尾:forced copulation
つまり、♀aと強引に交尾しようとする♂bと、それを阻止しようとする(配偶者ガード)♂aとが激しく争っているのです。 
♀♂異性間の交尾行動の後半部分と、♂♂同性間の闘争行動とが似ていて紛らわしいです。 
ただし、カルガモの♀♂ペアが両性同意のもとで交尾する前には、必ず儀式的な行動をします。 
今回のあぶれ♂は、そのような求愛ディスプレイをまったくしないで、いきなり♀に背後からマウントしていました。 
関連記事(5、6年前の撮影)▶  
八木力『冬鳥の行動記:Ethology of Wild Ducks』でカモ類の交尾行動を調べると、 交尾には♀との合意が必要なので、♂が♀に近づきながら頭部を上下させるヘッドトッシングを行なって交尾を促し、これに♀が同調して頭部を上下させれば同意の合図。  ♀は交尾受け入れの姿勢をとります。♂は♀の後頭部をくわえてマウンティング。  交尾終了後、♀は必ず(儀式的水浴びと)転移性羽ばたきを行ない、♂はまれに行なうことがあります。 (p58より引用)


カルガモ♂aは配偶者♀aを守りたくても、ライバルの独身♂bを撃退するのに苦労しています。 
カルガモの嘴の先端は丸く、敵をつついて攻撃することはありません。 
足にも鋭い爪が無くて水かきしかないので、有効な武器をもっていないのです。
羽ばたく翼で相手を打ち付けたり、(異性間交尾のように)背後からマウントして相手の後頭部を嘴で咥えて押さえつけて、強制交尾を妨害するぐらいしか対抗策がありません。 
そのため、ひたすら体力勝負の消耗戦が続きます。

♀aに♂bが背後からマウントし、その上から更に♂aがのしかかるので、一番下に押さえつけられた♀aは重みで水没しています。 
♀aが何度も溺れそうになっているので、擬人化するとどうしても可哀想に感じてしまいます。 
しかしカルガモには表情がありませんから、♀aが本当に嫌がっているかどうか、定かではありません。 
(♀は意外とケロッとしているように見えなくもありません。)
酷い目にあっているのなら、♂同士が喧嘩している間に♀は池からさっさと飛び去って遠くへ逃げればいいのに、池に留まっているのが不思議でなりません。 
交尾相手の♀を巡る争いなら♂同士でとことん喧嘩するはずだと思うのですが、あぶれ♂は執拗に♀だけを狙って挑みかかります。
我々ヒトの価値観・倫理観では卑怯な振る舞いですけど、進化的に遠く離れたカルガモに無理に適応して憤慨しても仕方がありません。 
もし♀が辟易して逃げ出せば、パートナー♂もついて行かざるを得なくなり、縄張りを失いかねません。
「カルガモ♀は♂同士を密かにけしかけて喧嘩で決着を付けてもらい、より強い♂と交尾したいのではないか?」と穿った見方をしたくなります。 
あるいは、♀はパートナー♂の近くに留まった方が、あぶれ♂の執拗なハラスメントから守ってもらえる確率が高いのでしょうか。

この池にはカルガモの群れがもっと居るのですが、この騒ぎに乱入する個体はおらず、関係のない個体は飛んで逃げ出しました。 
初めは2組の♀♂ペアが池で縄張り争いをしているのかと思い、ライバル♂bのパートナー♀bが途中で助太刀に来るかと期待したのですが、そのような展開(4羽での喧嘩)にはなりませんでした。
喧嘩に巻き込まれそうになった周囲のカルガモ個体が慌てて逃げていくだけです。 

ようやく、♀aに付きまとうあぶれ♂bをパートナー♂aが背後から完全に組み伏せて♀を離させ、追い払いました。 
♂同士の喧嘩に決着が付いたように見えました。
しかし、「あぶれ♂b」は隙を見て再び♀aに突進すると、しつこく強制交尾を試みようとします。 

ようやくあぶれ♂bを追い払って配偶者ガードに成功したパートナー♂aは、水面で小刻みに方向を変えながら♀aの周囲を警戒し、勝利の凱歌を上げています。
短く連続的な「ガッガッガッ♪」という鳴き声は、縄張り宣言の示威行動なのだそうです。 
このとき鳴くのはいつも♂aだけで、♀aは黙っています。 
難を逃れた♀aは、♂aの斜め後ろをぴったり寄り添うように追随し、嘴を水面につけながら遊泳しています(緊張緩和の転移行動)。 
やがて♀aは水浴してから水面で伸び上がって羽ばたき(水切り行動)、自分で羽繕いを始めました。 
それに釣られるように、♂aも隣で同じく水浴と羽繕いを始めました。(♀a♂aペアの絆強化) 

♀a♂aペアが仲良く横に並んで水面を泳ぎ去りました。 
これで一見落着かと思いきや、♀a♂aペアの背後からしつこい「あぶれ♂b」が急いで追いかけてきました。(@4:10〜) 
敵の接近に気づくと一触即発で、3羽がほぼ同時に水面から慌てて飛び上がりました。 (@26:20〜)
すぐに着水すると、三つ巴の大騒動が再び勃発します。 
襲われた♀aは、緊急避難のため自発的に潜水しました。 
しかし独身♂bがすぐに背後から追いかけ、2羽ともしばらく水中に潜っていました。 
再び水面に浮上したときには、あぶれ♂bが♀aを掴まえて背後からマウントしていました。 
♀aを見失っていたパートナー♂aがようやく気づいて慌てて駆けつけ、救出を試みます。 
喧嘩に決着がついて、あぶれ♂bが少し飛んで逃げました。

配偶者ガードに成功した♂が、興奮したように勝利の鳴き声♪を上げながら水面を忙しなく泳ぎ回ります。 
パートナーの♀がすぐに駆けつけ、パートナー♂の斜め背後に寄り添うように遊泳します。
♂に付き従う♀は、尾羽を左右にフリフリしながら、嘴を水面に付けて遊泳しました(緊張緩和の転移行動)。 
それが♀による求愛ポーズなのかと思ったのですが、♂aは♀aを見ていません。 
♀aは水面で伸び上がって羽ばたき(水浴行動の省略)、パートナーの♂aに見せつけるように自分で羽繕いを始めました。 
♂aはようやくパートナー♀aに向き合ったものの、まだ興奮が収まらず、小声で鳴き続けています。 



一連の騒動を1/5倍速のスローモーションでリプレイ。(@5:20〜)
後頭部から首の後ろを通る黒い縦筋模様が♀では薄れかけていて、それが目印になります。
繁殖期の♀は背後から♂に繰り返しマウントされて、その度に後頭部や首筋を嘴で噛まれますから、黒い羽毛がどんどん抜けてしまうのでしょうか?
あぶれ♂bの後頭部を嘴で咥えた♂aが羽根をむしり取ることもありました。
この「黒いたてがみ」に注目すると、3羽の個体識別ができそうです。

少し離れた相手に急いで襲いかかるときは、左右の翼を水面に同時に打ち付けながら両足で交互に水を蹴って進みます。 


※ 水飛沫の音や鳴き声が聞き取れるように、動画編集時に音声を正規化して音量を強制的に上げています。 



【考察】
カルガモの繁殖期は通常4~7月です。 
今回観察した4月下旬は、ペア形成が完了して巣作りおよび産卵を開始する前の時期に相当します。 
カルガモの♂は育雛(子育て)には全く参加しませんが、造巣の段階では♀に協力し、抱卵中の♀を警護するらしい。 
婚外強制交尾は巣作り前の時期(4〜5月)に頻発し、産卵開始後は激減するらしい。 
カルガモ♀が巣作りを開始する直前になると、パートナーの♂は特に警戒行動を強め、配偶者ガードを強化するそうです。 

カルガモは社会的単婚(一夫一婦制)を形成しますが、DNA検査で調べると婚外交尾も一定の割合で行われているらしい。
今回の調べ物で初めて知ったのですが、鳥類にしては珍しくカモ類の♂は螺旋型の長い陰茎をもつそうです。(参考サイトにすばらしい図解が掲載されています。)
短時間の交尾の際に、♀と前に交尾したライバル♂の精子を物理的に掻き出した上で自分の精子で置換するらしい。
また、強制交尾した♂が必ずしも次世代を残せるとは限らないそうです。
♀が複雑な形状の生殖器内で♂の精子を選別しているらしく、強制交尾した♂の精子は使われないことが多いそうです。
つまり、あぶれ♂の強制交尾がたとえ成功しても、寝取られた元の♀♂ペアは別れずに済むらしい。
精子競争の観点でもカルガモの配偶行動は奥が深くて、とても面白いです。

水面で激しく動き回る3羽のカルガモをしっかり個体識別できていないので、本当に配偶者ガードに成功したのか、それとも「あぶれ♂」による婚外強制交尾が成功したり♀を強奪できたのか、判断できません。 
しかし、池に残った♀♂ペアの行動から、独身♂による強制交尾は失敗に終わったと思われます。 
交尾に成功したペアが必ずやる儀式的行動(♂が「首反らし→円形泳ぎ」をする間に、♀が羽ばたきで水をかける)が見られなかったからです。
参考サイト:カルガモ 交尾行動
また、あぶれ♂による強制交尾が成功していれば、パートナー♂がただちに対抗して♀と再交尾を行い、精子を置換するはずです。

カルガモは身近にいる普通種の水鳥ですが、造巣行動や抱卵などを私はまだ観察できていません。
今回の撮影で、繁殖期の重要なミッシング・リンクがようやく一つ埋まりました。

今回の記事をまとめるにあたり、Perplexity AIを使った調べ物やブレイン・ストーミング*1 、*2 、*3)がとても役立ちました。
おかげで、動画に撮ったカルガモ3羽の行動をすっきりと(正しく?)解釈することができそうです。
Perplexityの助けがなければ、3羽のカルガモによる激しい乱闘はただ混沌としていて、素人には何がなんだかさっぱり理解できませんでした。
新たに勉強したことが多くて、AIに要約してもらおうか迷ったのですが、脳が退化しないように、なるべく自力で記事をまとめるように心がけました。
この記事が分かりにくかったら、私の責任です。



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2025/04/07

交尾相手♀を探しに来たニホンアナグマ♂が空き巣周辺で念入りにスクワットマーキングして帰る【トレイルカメラ:暗視映像】

 



2024年4月中旬 

シーン0:4/10・午後14:06・晴れ(@0:00〜) 
シーン0:4/10・午後14:26・晴れ(@0:03〜) 
明るい時間帯にたまたま撮れた現場の状況です。 
ニホンアナグマMeles anakuma)の死後も、二次林にある営巣地(セット)を2台の自動センサーカメラで見張り続けています。 
春になり、落葉樹に新緑の若葉が開き始めました。 


シーン1:4/16・午後23:36・気温9℃(@0:07〜) 
監視カメラの起動が遅れ、獣道を左へ立ち去るアナグマの下半身だけが写っていました。 


シーン2:4/16・午後23:36・気温10℃(@0:14〜) 
別アングルに設置したトレイルカメラで、ニホンアナグ♂の雄姿がしっかり撮れていました。 
発情期の♂が7日ぶりに♀の巣穴を探して遠征してきたようです。 
立ち止まると尻を地面に擦りつけ、縄張り宣言の匂い付けをしました(スクワットマーキング)。 
歩きながら、巣口Rの縁、アクセストレンチ、落枝、林内の獣道とあちこちでスクワットマーキングを繰り返しています。
巣穴の中に侵入してアナグマ♀の存在(あるいは不在)を確かめることはなく、紳士的に立ち去りました。
巣口Lではなく巣口R付近に重点的にマーキングした点が興味深いです。

約6時間前までセットで長居していたネコ(キジトラ白足袋)の残り香に対抗して、アナグマ♂がマーキングしたのかな? 



※ 動画の一部は編集時に自動色調補正を施しています。 


2025/03/23

早春の雨夜にニホンアナグマ♂が死んだアナグマの営巣地で♀を探索【トレイルカメラ:暗視映像】

 



2024年4月上旬・午前1:05頃・気温13℃ 

越冬中に死んだニホンアナグマMeles anakuma)の営巣地(セット)がある二次林に今季初の夜這い♂がやって来ました。 
アナグマは普段、成獣の♀と♂は別々に暮らしています。
アナグマの交尾期は春で、近隣の♂たちが♀の巣穴へ夜這いに来て交尾を試みるのです。
♀が発情するずっと前の早春から♂は近隣を精力的に歩き回り、♀の住む巣穴を探り当てると、巡回するようになります。 



雨夜に獣道を右から来たらしいアナグマ♂は、通りすがりに立ち止まって巣口Lを見下ろしています。 
アクセストレンチを辿って慎重に匂いを嗅ぎながら巣口Lに近づきました。 
しかし、生きたアナグマ♀の巣穴ではないと判断したようで、獣道を左に走り去りました。 
むしろ、最近ここに住み着いたタヌキの匂いを嗅ぎ取ったのかもしれません。 
(交通事故に遭って?)下半身の麻痺した「いざりタヌキ」が巣穴Lの奥で餓死したのではないか?と私は疑っていて、アナグマ♂はその死臭を嗅ぎ取ったのかもしれません。 

上半身の筋肉が隆々としていることと、顔つき(鼻面が寸詰まり)から、このアナグマ個体は♂と分かります。 
この巣穴で越冬していたアナグマ個体とは明らかに違います。 
たとえ別個体でも、このトレイルカメラに生きたアナグマが写るとホッとします。
私の喪失感(アナグマ・ロス)も少し解消されました。 
監視を打ち切ろうかと迷っていたのですが、次のアナグマが住み着いてくれるまで、トレイルカメラによる定点観察を続けることにします。
アナグマの新しい営巣地(セット)を他所で見つけたら、そちらの観察に切り替えるかもしれません。



2025/03/16

交尾器を結合したまま飛んで逃げるミドリヒョウモン♀♂【FHD動画&ハイスピード動画】

 

2023年6月中旬・午前11:55頃・晴れ 

里山の林道沿いでヨモギの葉に乗って交尾中のミドリヒョウモン♀♂(Argynnis paphia)を見つけました。 
翅を閉じたまま互いに逆向きで交尾器を結合しています。(反向型交尾体位) 
よく見ると、連結した腹端だけヒクヒクと動いています。 
葉の上なので、当然ながら口吻は縮めたままでした。 

左の個体Lが♂で、右の個体Rが♀でした。 
♀の翅裏の地色は緑味が強く暗化しており、前翅の翅頂に三角形の白班が透けて見えます。 

私は交尾中の蝶の連結飛翔に興味があるので、240-fpsのハイスピード動画に切り替えて撮ってみました。(@0:29〜) 
物を投げつけて強制的に飛び立たせると、ミドリヒョウモン♀Rの方が先に反応して羽ばたきを開始しました。 
交尾器を連結したまま♀が主導権を握って♂を引っ張って飛び去りました。 
つまり、今回の連結飛翔は「←♀+♂」タイプでした。 
♂Lも少し遅れて反応したものの、すぐに翅を閉じて♀に身を任せます。 

緊急避難で♀♂ペアが同時に羽ばたくと逆方向に飛ぶことになり、上手く逃げられないどころか、交尾器が引きちぎられてしまいます。 
たとえ身の危険が迫っても、結合した交尾器は簡単には外れないようです。
したがって、蝶の連結飛翔では必ず♀♂どちらかが主導権を握らなければなりません。 
「チョウの種類によって、♀♂どちらが主導して連結飛翔するかタイプが違う」と本で読んだので、実例を少しずつ撮り貯めています。 

関連記事(9ヶ月前の撮影:←♂+♀タイプ)▶ ミドリヒョウモン♀♂の交尾と連結飛翔【FHD動画&ハイスピード動画】

しかし、その定説はどうも眉唾のような気がしてきました。 
交尾中の♀♂ペアはとても無防備なので、互いに逆を向いて見張りを分担し、360°油断なく見張っているはずです。 
物を投げつけたり敵が襲ってきたりした場合、それを先に見つけた個体が性別に関係なく逃避行動を開始するのが自然ではないでしょうか? 
主導権を握って羽ばたく個体が離陸直後に切り替わる♀♂ペアを私は今まで一度も見たことがありません。 
つまり、試行回数(観察サンプル数)を充分に増やせば、連結飛翔のタイプはチョウの種類に関係なく半々の確率に落ち着くのではないかと私は予想しています。
スローモーションで動画が手軽に撮れる時代が来る前に、いにしえの先人たちが少ないサンプル数の直接観察から早まった結論に達したのではないかと私は密かに疑っています。
物を投げつけて交尾ペアを飛び立たせた場合は、どちらの方向からどこを目がけて物を投げたのか(♀♂どちらが先に危険に気づくか)も、記録しておく必要がありそうです。 
交尾中の♀♂ペアが自発的に飛んだ場合でも、上空を別のお邪魔虫や鳥がどの方向から飛来したのか、などの条件によって連結飛翔の結果が影響されそうです。 





2025/03/14

ニホンアナグマの溜め糞に産み付けられたベッコウバエの卵

 

2023年10月中旬・午後13:15頃・くもり 

平地のスギ防風林に長年放置された手押し車の錆びたフレームの中にニホンアナグマ♀♂(Meles anakuma)の溜め糞場stmpがあります。 
定点観察に来てみると、新鮮な黒い下痢便が残されていました。 

ベッコウバエ♀♂(Dryomyza formosa)がアナグマの溜め糞に群がっていました。 
糞塊上に居たのは交尾後ガード中の♀♂ペアが3組と、単独個体の♀が1匹です。 
すぐ横の細い落枝の上にもベッコウバエがもう1匹(性別不明)、止まっていました。 
(腹部の色でベッコウバエの性別判定が可能です。) 

♀の背後からマウントしている♂は交尾器を結合していないので、正確には交尾中ではありません。 
交尾を済ませた後も配偶者♀がライバル♂と交尾しないよう、♀が自分の精子で確実に受精した卵を産むまでガードしているのです。 
ベッコウバエ♀が獣糞から吸汁している間、交尾後ガード中の♂はおとなしくしています。 
やはり、ベッコウバエ♂が翅を素早く開閉して翅の斑点模様を誇示するディスプレイ行動は求愛誇示(あるいは♂同士の威嚇誇示)なのでしょう。 

糞塊の表面に大量に付着している白っぽい薄片はベッコウバエの卵です。 
ベッコウバエ♀の産卵行動を観察・撮影してみたいのですが、じっくり腰を据えて取り組む必要がありそうです。 
今回のように少し離れた位置から溜め糞を見下ろすように撮っても、ベッコウバエ♀の腹端がしっかり見えません。 
ベッコウバエ♀の真横からローアングルのマクロレンズで狙って待ち構える必要があるのですが、私がカメラをセッティングしている間にベッコウバエの群れは警戒して散り散りに飛び去ってしまうのです。 
ハエが溜め糞場stmpに戻ってくるまで辛抱強く待てるかどうかがポイントです。 
ベッコウバエの卵を採集して持ち帰り、1齢幼虫が孵化する様子を観察するのも面白そうです。 

他には、ハクサンベッコウバエNeuroctena analis)が1匹とキンバエ類(種名不詳)が2匹、アナグマの溜め糞上で吸汁していました。 
また、オオヒラタシデムシNecrophila japonica)の成虫が1匹、食糞していました。 

鬱蒼としたスギ林の中は昼間でもかなり薄暗いので、望遠マクロではどうしても画質が粗くなります。 
光量不足でAFが被写体に合焦しにくいのです。 
マクロレンズを装着したら更に暗くなることが予想されます。
強力な照明を使うと、その熱で溜め糞が乾燥したり、眩しい光をハエが嫌がって逃げたりしてしまうかもしれません。
静止画の写真を撮るだけなら薄暗くてもストロボを焚くだけで済むのですけど、動画で記録したい私はいつも悩むことになります。
いっそのこと、赤外線の暗視カメラで動画撮影する方が楽かもしれません。



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2025/03/10

早春にトウホクサンショウウオの繁殖池をタイムラプス動画で監視してみると…#2

 



2024年3月下旬 

里山の湧き水が溜まった小さな泉が毎年早春にはトウホクサンショウウオHynobius lichenatus)やヤマアカガエルRana ornativentris)の繁殖池になっています。
両生類の産卵行動を観察するために、インターバル撮影専門のカメラで監視してみました。 
明るい昼間だけ1分間隔で撮影する設定にしました。

残念ながら、3/22〜27の6日間しか撮れていませんでした。 
その後は寒の戻りで大雪が降った日に、カメラの上に積もった雪の重みで固定したカメラの画角が下にずれてしまい、池を監視できなくなりました。 

スギの落枝(生葉および枯葉)を池の水中に沈めておいたのですが、後日に現場入りして調べても、トウホクサンショウウオの卵嚢は落枝に全く産み付けられていませんでした。 
対岸に少しだけトウホクサンショウウオの卵嚢が見つかりました。 
やはりスギの生葉から溶けだす未知の成分が両生類にとって忌避物質(弱毒)なのかもしれません。 

タイムラプス動画を見直すと、ときどき池の水中に両生類が出没していました。 
しかし、映像の早回しスピードが早すぎて、カエルかサンショウウオか、よく分かりません。 
落枝に産卵を始めればもっと長居するはずです。 

今季の作戦は失敗に終わりました。 
トウホクサンショウウオやヤマアカガエルはもしかすると夜の方が活発に産卵するかもしれないので、次回は赤外線で暗視できるトレイルカメラを使って終日のタイムラプス撮影をしてみるつもりです。



2025/03/01

アナグマから奪った営巣地で早春にホンドタヌキ♂がパートナー♀の発情チェック【トレイルカメラ】

 



2024年3月下旬 

シーン1:3/24・午後12:56・晴れ・気温22℃(@0:00〜) 

平地の二次林で、ホンドタヌキNyctereutes viverrinus)が死んだニホンアナグマから奪った営巣地(セット)を自動撮影カメラで見張っています。
♀♂つがいと思われる2頭のタヌキがようやく昼寝から起きました。
右の個体が左の個体に近寄ると、つきまといながら相手の尻の匂いを頻りに嗅いだり舐めたりしました。 
相互毛繕いではなく、一方的な行動でした。 
早春の時期ですから、おそらく♂がパートナー♀の発情状態を調べているのでしょう。 
その間、♀は嫌がらずに尻尾を持ち上げました。 
交尾前の前戯なのかと思ったのですが、残念ながらここで録画が打ち切られていました。 

実は同じ日の早朝にも、♂は♀の発情の有無を調べています。 


シーン2:3/24・午後13:18・晴れ・気温25℃(@1:00〜) 
しばらくすると、タヌキ♀♂は相次いで右へのそのそと立ち去りました。 




2025/02/14

網にかかったトンボを捕食中のジョロウグモ♀と交接しようと何度も試みる臆病な♂(蜘蛛)

 

2023年9月下旬・午後12:10頃・晴れ 

里山の急斜面をつづら折れで登る山道の曲がり角(ヘアピンカーブ)で、ジョロウグモ♀♂(Nephila clavata)が同居する馬蹄形円網を見つけました。 
小型の♂は2匹います。 
♀は網に掛かったトンボ(種名不詳)を捕食中でした(獲物を噛んで体外消化)。 

♀の食事中に1匹の♂が網の上から(逆さまにぶら下がった♀の下から)忍び寄って♀の体に触れるものの、交接できずに慌てて逃げてしまいます。 
特に1回目の求愛が最も惜しくて、♂αが膨らんだ触肢を♀の外雌器になかなか挿入できずにもたついている間に、もう1匹の♂βが接近しました。 
♂αはライバル♂βを追い払うのかと思いきや、なぜか諦めて♀の元から立ち去りました。 
♂βに交接権を譲った訳ではなく、♂βも元の位置に戻りました。 
「色気より食い気」の♀は網上でほとんど静止しており、素人目には♀が嫌がって交尾(交接)拒否したようには見えません。 

同一個体の♂αが何度も♀に挑みますが、非常に慎重というか臆病で、なかなか交接してくれません。 
♂は必ず、網で下向きに占座した♀の後方から近づき、♂が逃げるときも必ず上に退散します。 
♂αは♀に共食いされるのをひどく恐れているようです。 
関連記事(15年前の撮影)▶ ジョロウグモの交接と性的共食い 
にもかかわらず、♂が♀に近づく前に網の糸を弾くなど、♀の攻撃性を宥める儀式的な求愛行動は何も見られませんでした。 

クモの種類によっては、♀と交尾(交接)できた♂は自分の触肢を自切して外雌器に残し、♀が次のライバル♂と交接(浮気)できないように物理的にブロックしてしまう者がいます。 
しかし、私が慎重に回り込んでこのジョロウグモ♀の外雌器にズームインしてみても、そのような貞操帯を付けてはいませんでした。 

同じ円網で2匹の成体♂が同居しているのに、交接相手の♀を巡る闘争にならないのが不思議でした。 
この2匹の♂の間では既に順位付けができていて、劣位の♂はライバル♂αが♀に共食いされるまで交接の順番を待っているのでしょう。 
♂αが♀と交尾できそうになったら邪魔して♀を挑発して共食いするようにしむける作戦なのかな?
もしも♂同士が激しく争う動物種なら、♂の方が♀よりも体格が大きくなるという、ジョロウグモとは逆の性的二型になるはずです。
非力なジョロウグモ♂は直接戦わなくても、ライバル♂を♀に早く殺してもらうように交尾を邪魔したり♀を苛立たせたりする作戦を進化させても不思議ではありません。
劣位の♂をよく見ると、触肢が未だあまり発達していないので、少し若いのかもしれません。 
平凡社『日本動物大百科8昆虫Ⅰ』によると、
ジョロウグモの♀の網には複数の♂がいることが多い。網をはさんで♀と向き合う位置にいる♂がふつういちばん大きく、交尾の優先権をもっている。網の周辺部にいる♂はまったく交尾できないわけではないが、確率は低い。(p18より引用)


関連記事(8年前の撮影)▶  


トンボの他には、1匹のオオハナアブPhytomia zonata)がジョロウグモ♀の円網に掛かって、弱々しく暴れていました(虫の息状態?)。 
多数の真っ黒い食べ滓が網上に残されたままになっています。 
ジョロウグモ♀の網にイソウロウグモの仲間を今回も見つけられませんでした。 

三脚を持参していれば、ジョロウグモ♀♂が交接に成功するまでじっくり長撮り・監視できたのですが、残念です。 
この日の山行でジョロウグモ♀の網を次々に見て回ると、♂が♀の網に同居している例はいくつも見つけたのですが、交接中の♀♂ペアは見つけられませんでした。 


小田英智、難波由城雄『網をはるクモ観察事典 (自然の観察事典 21)』によれば、
ジョロウグモの♂の80%近くが、♀の脱皮の時に、結婚のための交接を行います。のこりの20%は、♀がえさをたべて油断しているときをねらって交接します。こうしたときをえらぶのは、不用意に♀に近づくと、♂だって捕らえられ、たべられてしまうからです。そのために♂はしばらく巣にとどまり交接後ガードを行う。(p22より引用)
ジョロウグモの♂は一生に一回しか交接しません。でも♀は、ほかの♂と、2回目の交接を行うことがあります。(p23より引用)


ところで、この動画を撮影中に周囲の茂みでひっそり鳴いていた虫(直翅目)が気になります。 
コオロギの仲間だと思うのですが、名前が分かりません。 
どなたか教えてもらえると助かります。 


【アフィリエイト】 

2025/02/13

早春にトウホクサンショウウオの繁殖池をタイムラプス動画で監視してみると…#1:ニホンザルの登場

 

2024年3月上旬〜下旬

山中の湧き水が溜まる浅い池で毎年早春にトウホクサンショウウオHynobius lichenatus)が繁殖していることが分かっています。

産卵行動を観察・撮影するのが今季の目標です。 
3月上旬に現場入りしてみると、暖冬のためか池は雪に埋もれていませんでした。 
この日は未だヤマアカガエルやトウホクサンショウウオの卵嚢は1つも見つかりませんでした。 
親の姿もまったく見当たりません。 
繁殖期はまだ始まっていないようです。 
(ちなみに、標高の低い山麓の池ではヤマアカガエルの産卵が始まっていました。) 
前年は水中に半分沈んだアカマツの落枝にトウホクサンショウウオの卵嚢が産み付けられていたので、今年は産卵基質として常緑の葉の付いたスギの落枝を池に投入してみました。 
(私のこの行為が、余計なお世話だったかもしれません。)

両生類は変温動物ですから、いくら活発に動き回っても通常のトレイルカメラでは検知できません。 
仕方がないので、次善の策としてタイムラプス専用カメラを設置して繁殖池を監視することにしました。 
明るい昼間のみ1分間隔でインターバル撮影した連続写真をタイムラプス動画に加工しました。 
(トウホクサンショウウオ♀は夜に産卵するのかもしれませんが、この機種では夜間の暗視撮影はできません。)
まる2週間のインターバル撮影で計4.7 GiBのAVIファイルが生成されました。
トレイルカメラの動画撮影と比べると、電池の消費は驚くほど少なくて済みました。

野生動物で唯一写っていたのは、 3/8の夕方(PM 17:10〜17:11)に登場した1頭のニホンザルMacaca fuscata fuscata)だけでした。 
他の季節にこの水場でニホンザルが飲水するシーンがときどきトレイルカメラで撮れていたので、今回も群れで遊動する途中に水を飲んだり水浴するために立ち寄ったのでしょうか? 
雪解け水の冷たい泉にわざわざ入ってジャブジャブ横断したということは、何か餌を探していたのかもしれません。 
早春は樹々が芽吹くまでニホンザルの餌がきわめて乏しい季節ですから、空腹の猿がカエルやサンショウウオの成体や卵嚢を探して捕食する可能性も十分あり得ます。 
しかし、ニホンザルが監視カメラに写ったのは、2週間でこの一度きりでした。 
もし捕食に成功していたら、味をしめて何度も同じ池に通っていたはずです。 
あるいは、カエルやサンショウウオの成体または卵嚢を味見したのに、ニホンザルの口に合わなかった(不味かった)のかもしれません。
ニホンザルの糞を分析して、両生類のDNAが検出できれば捕食した有力な証拠となるでしょう。 

タイムラプス動画を見ると、低山でもときどき寒の戻りで雪が降っていました。 
早春の積雪量は少なく、すぐに溶けてしまいます。 
カメラのレンズに雪が付着しても、晴れると溶け落ちてすぐに視界は良好に戻ります。 
晴れると池の周囲の雑木林の影がまるで日時計のように刻々と移動しています。 

画面の下端に写っている、池畔に自生するスギ幼木の枯れた横枝が邪魔なのですが、上下に日周運動していることが分かりました。 
昼間に晴れると枝が立ち上がり、曇りや雨雪など悪天候になると垂れ下がります。 
つまり死んだ枯れ枝ではなく、生きているようです。 

水中に浸ったスギの落枝はいつまで経っても葉が緑色のままで、茶色に枯れることはありませんでした。 
いくら目を凝らして動画を見直しても、水中のスギ落枝にサンショウウオやカエルが集まって産卵する様子は写っていませんでした。 
たまに岸辺近くの水中で両生類?がウロチョロしていたかもしれませんが、タイムラプスの早回し映像ではあまりにも早すぎてよく分かりません。 

後に現場入りすると、監視カメラの画角の外の、対岸の水面に浮いていたスギの落ち葉にトウホクサンショウウオの卵鞘が少しだけ産み付けられていました。
スギの生葉から水に溶け出したエキスをトウホクサンショウウオが嫌って寄り付かなくなってしまった可能性なども懸念してしまいます。
完全に枯れたスギ枝葉を池に投入すべきだったかもしれません。 

期待外れの結果で残念でしたが、もう少し続行します。




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