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2025/02/14

網にかかったトンボを捕食中のジョロウグモ♀と交接しようと何度も試みる臆病な♂(蜘蛛)

 

2023年9月下旬・午後12:10頃・晴れ 

里山の急斜面をつづら折れで登る山道の曲がり角(ヘアピンカーブ)で、ジョロウグモ♀♂(Nephila clavata)が同居する馬蹄形円網を見つけました。 
小型の♂は2匹います。 
♀は網に掛かったトンボ(種名不詳)を捕食中でした(獲物を噛んで体外消化)。 

♀の食事中に1匹の♂が網の上から(逆さまにぶら下がった♀の下から)忍び寄って♀の体に触れるものの、交接できずに慌てて逃げてしまいます。 
特に1回目の求愛が最も惜しくて、♂αが膨らんだ触肢を♀の外雌器になかなか挿入できずにもたついている間に、もう1匹の♂βが接近しました。 
♂αはライバル♂βを追い払うのかと思いきや、なぜか諦めて♀の元から立ち去りました。 
♂βに交接権を譲った訳ではなく、♂βも元の位置に戻りました。 
「色気より食い気」の♀は網上でほとんど静止しており、素人目には♀が嫌がって交尾(交接)拒否したようには見えません。 

同一個体の♂αが何度も♀に挑みますが、非常に慎重というか臆病で、なかなか交接してくれません。 
♂は必ず、網で下向きに占座した♀の後方から近づき、♂が逃げるときも必ず上に退散します。 
♂αは♀に共食いされるのをひどく恐れているようです。 
関連記事(15年前の撮影)▶ ジョロウグモの交接と性的共食い 
にもかかわらず、♂が♀に近づく前に網の糸を弾くなど、♀の攻撃性を宥める儀式的な求愛行動は何も見られませんでした。 

クモの種類によっては、♀と交尾(交接)できた♂は自分の触肢を自切して外雌器に残し、♀が次のライバル♂と交接(浮気)できないように物理的にブロックしてしまう者がいます。 
しかし、私が慎重に回り込んでこのジョロウグモ♀の外雌器にズームインしてみても、そのような貞操帯を付けてはいませんでした。 

同じ円網で2匹の成体♂が同居しているのに、交接相手の♀を巡る闘争にならないのが不思議でした。 
この2匹の♂の間では既に順位付けができていて、劣位の♂はライバル♂αが♀に共食いされるまで交接の順番を待っているのでしょう。 
♂αが♀と交尾できそうになったら邪魔して♀を挑発して共食いするようにしむける作戦なのかな?
もしも♂同士が激しく争う動物種なら、♂の方が♀よりも体格が大きくなるという、ジョロウグモとは逆の性的二型になるはずです。
非力なジョロウグモ♂は直接戦わなくても、ライバル♂を♀に早く殺してもらうように交尾を邪魔したり♀を苛立たせたりする作戦を進化させても不思議ではありません。
劣位の♂をよく見ると、触肢が未だあまり発達していないので、少し若いのかもしれません。 
平凡社『日本動物大百科8昆虫Ⅰ』によると、
ジョロウグモの♀の網には複数の♂がいることが多い。網をはさんで♀と向き合う位置にいる♂がふつういちばん大きく、交尾の優先権をもっている。網の周辺部にいる♂はまったく交尾できないわけではないが、確率は低い。(p18より引用)


関連記事(8年前の撮影)▶  


トンボの他には、1匹のオオハナアブPhytomia zonata)がジョロウグモ♀の円網に掛かって、弱々しく暴れていました(虫の息状態?)。 
多数の真っ黒い食べ滓が網上に残されたままになっています。 
ジョロウグモ♀の網にイソウロウグモの仲間を今回も見つけられませんでした。 

三脚を持参していれば、ジョロウグモ♀♂が交接に成功するまでじっくり長撮り・監視できたのですが、残念です。 
この日の山行でジョロウグモ♀の網を次々に見て回ると、♂が♀の網に同居している例はいくつも見つけたのですが、交接中の♀♂ペアは見つけられませんでした。 


小田英智、難波由城雄『網をはるクモ観察事典 (自然の観察事典 21)』によれば、
ジョロウグモの♂の80%近くが、♀の脱皮の時に、結婚のための交接を行います。のこりの20%は、♀がえさをたべて油断しているときをねらって交接します。こうしたときをえらぶのは、不用意に♀に近づくと、♂だって捕らえられ、たべられてしまうからです。そのために♂はしばらく巣にとどまり交接後ガードを行う。(p22より引用)
ジョロウグモの♂は一生に一回しか交接しません。でも♀は、ほかの♂と、2回目の交接を行うことがあります。(p23より引用)


ところで、この動画を撮影中に周囲の茂みでひっそり鳴いていた虫(直翅目)が気になります。 
コオロギの仲間だと思うのですが、名前が分かりません。 
どなたか教えてもらえると助かります。 


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2025/02/13

早春にトウホクサンショウウオの繁殖池をタイムラプス動画で監視してみると…#1:ニホンザルの登場

 

2024年3月上旬〜下旬

山中の湧き水が溜まる浅い池で毎年早春にトウホクサンショウウオHynobius lichenatus)が繁殖していることが分かっています。

産卵行動を観察・撮影するのが今季の目標です。 
3月上旬に現場入りしてみると、暖冬のためか池は雪に埋もれていませんでした。 
この日は未だヤマアカガエルやトウホクサンショウウオの卵嚢は1つも見つかりませんでした。 
親の姿もまったく見当たりません。 
繁殖期はまだ始まっていないようです。 
(ちなみに、標高の低い山麓の池ではヤマアカガエルの産卵が始まっていました。) 
前年は水中に半分沈んだアカマツの落枝にトウホクサンショウウオの卵嚢が産み付けられていたので、今年は産卵基質として常緑の葉の付いたスギの落枝を池に投入してみました。 
(私のこの行為が、余計なお世話だったかもしれません。)

両生類は変温動物ですから、いくら活発に動き回っても通常のトレイルカメラでは検知できません。 
仕方がないので、次善の策としてタイムラプス専用カメラを設置して繁殖池を監視することにしました。 
明るい昼間のみ1分間隔でインターバル撮影した連続写真をタイムラプス動画に加工しました。 
(この機種では、夜間の暗視撮影はできません。)
まる2週間のインターバル撮影で計4.7 GiBのAVIファイルが生成されました。

野生動物で唯一写っていたのは、 3/8の夕方(PM 17:10〜17:11)に登場した1頭のニホンザルMacaca fuscata fuscata)だけでした。 
他の季節にこの水場でニホンザルが飲水するシーンがときどきトレイルカメラで撮れていたので、今回も群れで遊動する途中に水を飲んだり水浴するために立ち寄ったのでしょうか? 
雪解け水の冷たい泉にわざわざ入ってジャブジャブ横断したということは、何か餌を探していたのかもしれません。 
早春は樹々が芽吹くまでニホンザルの餌がきわめて乏しい季節ですから、空腹の猿がカエルやサンショウウオの成体や卵嚢を探して捕食する可能性も十分あり得ます。 
しかし、ニホンザルが監視カメラに写ったのは、2週間でこの一度きりでした。 
もし捕食に成功していたら、味をしめて何度も同じ池に通っていたはずです。 
あるいは、カエルやサンショウウオの成体または卵嚢を味見したのに、ニホンザルの口に合わなかった(不味かった)のかもしれません。
ニホンザルの糞を分析して、両生類のDNAが検出できれば捕食した有力な証拠となるでしょう。 

低山でもときどき寒の戻りで雪が降っていました。 
早春の積雪量は少なく、すぐに溶けてしまいます。 
カメラのレンズに雪が付着しても、晴れると溶け落ちてすぐに視界は良好に戻ります。 
晴れると池の周囲の雑木林の影がまるで日時計のように刻々と移動しています。 

画面の下端に写っている、池畔に自生するスギ幼木の枯れた横枝が邪魔なのですが、上下に日周運動していることが分かりました。 
昼間に晴れると枝が立ち上がり、曇りや雨雪など悪天候になると垂れ下がります。 
つまり死んだ枯れ枝ではなく、生きているようです。 

水中に浸ったスギの落枝はいつまで経っても葉が緑色のままで、茶色に枯れることはありませんでした。 
いくら目を凝らして動画を見直しても、水中のスギ落枝にサンショウウオやカエルが集まって産卵する様子は写っていませんでした。 
たまに岸辺近くの水中で両生類?がウロチョロしていたかもしれませんが、タイムラプスの早回し映像ではあまりにも早すぎてよく分かりません。 

後に現場入りすると、監視カメラの画角の外の、対岸の水面に浮いていたスギの落ち葉にトウホクサンショウウオの卵鞘が産み付けられていました。(映像公開予定) 
スギの生葉から水に溶け出したエキスをトウホクサンショウウオが嫌って寄り付かなくなってしまった可能性なども懸念してしまいます。
完全に枯れたスギ枝葉を池に投入すべきだったかもしれません。 

期待外れの結果で残念でしたが、もう少し続行します。

つづく→ 


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2025/02/04

ウラナミシジミ♂の探雌飛翔とヤブツルアズキの花から飛んで逃げる♀【ハイスピード動画】

 

前回の記事:▶  


2023年9月中旬・午後16:00頃・晴れ 

民家の裏庭にはびこるヤブツルアズキの花で、翅をしっかり閉じて吸蜜しているウラナミシジミ♀(Lampides boeticus)を240-fpsのハイスピード動画で撮っていると、左上から別個体♂が飛来しました。 
すると、訪花中の個体はすかさず飛び立ちました。
2頭ともどこかに飛び去ってしまい、元の花には戻って来ませんでした。 

何が起きたのか、さらに1/5倍速のスローモーションでリプレイしてみましょう(最終的には1/40倍速になります)。 
訪花していた個体は、翅表の縁の暗色部が広いことから♀と分かりました。 
交尾する気がないのに♂から求愛されそうになったので、飛んで逃げたのでしょう。 
シジミチョウ科は、♂による儀式的な求愛飛翔や、止まったままの♀による交尾拒否行動をしないのかな?

2025/01/25

アナグマの溜め糞に集まり求愛と交尾拒否を繰り広げるベッコウバエ♀♂

 

2023年10月下旬・午後13:45頃・くもり 

平地のスギ防風林に残されたニホンアナグマMeles anakuma)の溜め糞場stmpを定点観察しています。 
秋になると、ベッコウバエ♀♂(Dryomyza formosa)が下痢便(軟便)状の糞塊に群がるようになりました。 
ベッコウバエの求愛・交尾拒否については、タヌキの溜め糞場でこれまで何度も(毎年のように)観察していますが、アナグマの溜め糞では初見です。 

ベッコウバエの性別を見分けるのは簡単で、配偶行動を観察するのに適しています。 
体長は♀<♂で、♀の腹部は黒いのに対して、♂の腹部は黄金色の剛毛で覆われています。 

泥状の糞塊の中を夥しい数のウジ虫が徘徊していました。 
ベッコウバエの幼虫も含まれているはずですが、キンバエやニクバエなど他種の幼虫も混じっているはずです。 
(私には幼虫の種類を見分けられません。)

溜め糞に居座る大型のベッコウバエ♂に注目して、その行動を動画撮影してみました。 
まるで「お山の大将」ですけど、実際には交尾できていない「あぶれ♂」です。 
交尾相手の♀を虎視眈々と待ち伏せしているのです。 
あぶれ♂は探雌求愛行動に忙しくて、獣糞を吸汁する暇がありません。 
溜め糞上でせかせかと歩き回り、ときどき立ち止まって身繕いします。 

ひっきりなしに翅を素早く開閉して斑点の斑紋を見せつけているのは、♀を誘引・誘惑するための求愛ディスプレイ(誇示行動)ではないかと思います。 
♂の翅を除去したり翅の斑紋(水玉模様)を改変したら、交尾の成功率が落ちるかどうか、実験したら面白そうです。

あぶれ♂は、近くに来る同種の個体に次々と飛びかかるものの、振られてばかりです。 
飛びつく相手の性別は問わず、とにかく誰にでも挑みかかります。 
ベッコウバエ♀♂の交尾は、早い者勝ち(スピード勝負)なのでしょう。 

♀の多くは既に交尾済みらしく、♂に求愛されても交尾を拒否し、振られた♂はあっさり諦めて離れます。 
一旦離れてから同一個体♀にすぐ再アタックすることもあり、また玉砕しました。 
近くで動くベッコウバエを見つけたら、♂はとにかく反射的に飛びついてしまうようです。 

ベッコウバエ♀による交尾拒否の意思表示が具体的に何なのか、私の知る限りでは解明されていません。 
おそらく胸部の飛翔筋を振動させるのではないかと、勝手に想像しています。 

ベッコウバエの♀は色気よりも食い気で、溜め糞上で吸汁や産卵に専念しています。 
ただし、ベッコウバエ♀の産卵行動を私はまだ実際に観察できていません。 
今回は時期が遅いのか、特徴的な形(扁平)をしたベッコウバエの卵は、アナグマの溜め糞上に見当たりませんでした。 
15日前に同所で定点観察した際には、ベッコウバエ♀が産み付けた大量の卵がニホンアナグマの糞の表面にまぶされてしました。(映像公開予定)

独身♂が他のあぶれ♂にも飛びついているのは、同性愛的な誤認求愛のように見えて、実はライバル♂を一番良い餌場から追い払っているのかもしれません。(闘争による占有行動) 

首尾よく交尾に成功した♂は、交尾後も♀にマウントしたまま配偶者ガードを続けて、ライバルのあぶれ♂から♀を奪われないように守っています。 
交尾中(あるいは交尾後ガード中)の♀♂ペアに対しても、あぶれ♂は構わず飛びかかります。 
しかし横恋慕しても♀の強奪に成功して交尾に至った例を私は見たことがありません。 

体格の小さなベッコウバエ♂は、♀を巡る♂同士の争いで不利なはずですから、サテライト戦略やスニーカー戦略を発達させても不思議ではありません。 
次回は小柄なベッコウバエ♂に注目して、その繁殖戦略をじっくり観察するのも面白そうです。


余談ですが、今回の記事を書くために調べ物をしているときに、ベッコウバエの学名がNeuroctena formosaではなく正しくはDryomyza formosaだとPerplexity AIから教えてもらい、訂正しました。
Neuroctenaという属名自体が後発異名で無効らしい。

2025/01/04

落葉した木の上で交尾するニホンザル♀♂

 

2023年12月下旬・午後14:40頃・くもり 

山麓の道端の落葉樹(樹種不明)にニホンザルMacaca fuscata fuscata)の♀♂ペアが登っていました。 
樹上で2頭が仲良く寄り添い、♂が♀の背後から軽くマウントしたものの、本格的な交尾には至らなかったようです。 
発情期のニホンザルは外性器が紅潮しています。 
この♀は乳首が短く、育児(授乳)経験のない若い♀個体のようです。 

現場は民家の裏庭で、室内犬がガラス窓越しに外のニホンザルに対して激しく吠えています♪(犬猿の仲) ※追記参照
それでもニホンザル♀♂は、室内のイヌを全く恐れる素振りはありませんでした。

この後も♀♂ペアが樹上で交尾を繰り返していたのですが、生憎カメラのバッテリーが切れてしまい、これ以上は記録できませんでした。 
気温の低い冬には、スペアのバッテリーも保温しながら携帯した方がよいかもしれません。


※【追記】
サルは犬を見ると激しく警戒し「クワン」「カン」という高い声を出す。かつての天敵であるオオカミに対する、警戒行動のなごりなのだろう。(p182より引用)

しかし、私はまだそのような警戒声を実際に聞いたことはありません。 


2024/12/30

野生ニホンザル♀の同性愛行動#2(若い♀同士の抱擁、マウンティング、正常位の擬似交尾など)

 

2023年12月中旬・午後15:55頃・くもり 

夕方に山麓を遊動する野生ニホンザルMacaca fuscata fuscata)の群れを慎重に追跡していたら、太い風倒木(樹種はオニグルミ、隣の立木はハンノキ)の上に並んで毛繕いしているペアを見つけました。 
相互毛繕いではなく、片方の個体が一方的に甲斐甲斐しく毛繕い(ノミ取り)しています。 

気持ち良さそうに目を瞑って毛繕い(頭皮マッサージ?)を受けていた個体が急に顔を上げると、互いに対面したまま抱き合いました。
抱擁(ハグ)したまま相手を押し倒すと、下になった個体が腰を動かして陰部を相手に擦り付けました。 
正常位の性行動(疑似交尾)と思われます。 
倒木上で仰向けに寝た個体は、ゴツゴツして寝心地が悪いと思うのですが、短時間で終わりました。 
続けて、再び対他毛繕いに戻りました。 

このとき私が立っていた地面の足場がとても不安定で、猿の手前にある枝が撮影の邪魔だったこともあり、動画を撮りながら少し移動しました。
(映像がひどく手ブレして申し訳ありません。) 
幸い、ニホンザル♀のペアは私が動いても、すぐには逃げ出しませんでした。 

次にペアの一方が立ち上がると、パートナー♀の背後に回り込み、マウンティングしながら腰を動かしました。(pelvic thrust) 
マウントされた♀は、振り返って相手の顔を仰ぎ見たものの、両手は倒木の上に付いたままでした。 
最後の点が、典型的な異性間交尾時の♀の行動とは違いました。
(片手で♂の体に触れたり引き寄せたりするはず) 
短い疑似交尾が終わると、ペアは倒木上で再び対面で座り抱き合いながら体を軽く揺すりました。 
このとき口を少しもぐもぐ咀嚼しています。 
頬袋の中に詰め込んでおいた食料を食べているようです。 

無粋な出歯亀(私)がじっと見ているせいで落ち着かないのか、倒木上のペアが移動を始めました。 
倒木から地面に降りる際に股間がちらっと見えて、ようやく性別が♀と分かりました。 
尻の色が真っ赤ではなくてピンクだったことから、発情していない若い♀のようです。 

もう1頭も倒木から降りて、パートナーを追いかけました。 
土手の途中で追いつくと、背後からマウンティングしました。 
今回も両足を相手の膝の裏に乗せてマウントし、腰を動かしました。 
マウントした個体の股間に睾丸が見えないことから、やはり♀同士のようです。 
マウンティングを終えた直後に、目を凝らしてよく見たのですが、マウントされた♀の尻に白い精液は付着していないようです。(異性間の交尾ではない) 

土手を登って用水路沿いの小径に移動すると、横に並んで座って一方的な対他毛繕いを始めました。 
手前にあるオニグルミの倒木が邪魔で見えにくいのですが、その背後でニホンザル♀のペアが再びマウンティングしました。 
このとき、マウンティングの攻守交代をした点が興味深く思いました。(異性間では決して見られない?)
今回も、マウントされた個体は振り返って相手を仰ぎ見るだけで、パートナーを片手で掴んで引き寄せる動きはしませんでした。 

マウンティングの次は、また熱い抱擁に戻りました。 
♀同士でよくみられるこの行動を、ニホンザルの研究者は「ハグハグ」と呼んでいるのだそうです。(※ 追記参照)
一素人の擬人化した解釈ですが、ハグハグは♀同士の前戯のようなもので、性的な興奮が高まるとマウンティング(後背位)や正常位に移行するようです。 
ハグハグから相手を押し倒し、正常位になりました。 
今度は倒木の上ではなく地面なので、仰向けになっても安定していて背中が痛くありません。 

私に気づいたようで、警戒した個体が左奥へ歩き去り始めました。 
それを追いかけた別個体が背後からマウンティングしました。 
マウントを止めた若い♀のペアは、用水路沿いに設置された転落防止のフェンス(金網)を相次いで身軽に登り、手摺を伝って歩き始めました。 
ここで群れの仲間と合流したことになります。 
それまで、群れの仲間は若い♀同士の同性愛行動に何も干渉しませんでした。 

 仲間が何匹も手摺に並んでいた。♀aもフェンスを登って手摺へ。 用水路の対岸の林縁から伸びた落葉性広葉樹(クリ?)の枝に飛びつくと、ターザンのようにブランコ遊びをしながら、対岸に渡りました。 

この辺りから私はもう誰が誰だかニホンザルを個体識別できなくなりました。
手摺に座って体を掻いていた個体が振り返って仲良しのパートナーを見つけると、駆け寄りました。 
フェンスから地面に相次いで戻ると、そのまま地上でマウンティングしました。 
フェンスの手摺(断面が丸い、金属の横棒)の上では足場が不安定で、マウンティングしたくてもできないのでしょう。 
マウンティングに続けてハグハグを繰り返したということは、♀同士のようです。 

私が少し移動してペアに近づき、なんとか撮影アングルを確保しました。 
(ちょっとだけ目を離して空白時間があったので、さっきと同一の♀ペアかどうか確証がありません。) 
ペアは相変わらず水路横の小径に座り、対面でハグハグしていました。 
立ち上がると背後からマウンティングしました。 
このとき♀の外性器はピンク色でした(未発情)。

マウントを解除した2頭は、相次いで横のフェンスによじ登り、手摺から頭上の落葉樹の横枝に飛びつきました。 
先行個体は、枝にぶら下がったままターザンのように対岸のフェンスに移り、地面に降りました。 
ところが後続個体は体重が軽いのか、ブランコの振幅が小さくて対岸のフェンスには手が届きませんでした。 
どうするのかと思って見守ると、臨機応変にそのまま横枝をよじ登ってから、対岸のスギ横枝に飛び移りました。 
無事に対岸の地上に降りると、先行するパートナーの後を追って遊動を続けます。 
ニホンザルの群れは、全体としてねぐらとなる森を目指しているようでしたが、私が追いかけるので警戒してどんどん逃げているのかもしれません。 

ニホンザル♀同士の同性愛行動を観察したのはこの日が始めてでした。
しかも、同じ山系の少し離れた地点で同じ日に何度も観察できたので、とても興奮しました(interestingという意味で)。 

関連記事(同日の撮影)▶  

もしかすると、発情期なのにこの群れには成獣♂が居なくて(♂不足)、交尾相手の♂が見つからない♀たちが性的に欲求不満になっているのかと、現場では安直に推測しました。
猿害対策でなぜか♂ばかりが駆除されてしまったのか、などと先走って考えたりもしました。 
ところが、この日に撮れた動画をすべて見直すと、発情した成獣♂(αアルファ♂?)も群れと一緒に遊動している様子がしっかり写っていました。 
この日♀の同性愛行動を初めて撮影できて夢中になっていた私は、♂の存在が目に入らなかった(記憶に残らなかった)ようです。 


※ 夕方で薄暗いので、動画の画質が少し粗いです。 


※【追記】
今回見られた前戯のような抱擁は、ハグハグ行動と呼ばれるのだそうです。 
少し長いのですが、文献検索で見つけた学会発表の抄録を引用させてもらいます。
中川尚史, et al. ニホンザルにおける “ハグハグ” 行動パタンの地域変異. In: 霊長類研究 Supplement 第 22 回日本霊長類学会大会. 日本霊長類学会, 2006. p. 28-28.

 

【抄録】演者のひとり下岡は、金華山のニホンザルの“ハグハグ”行動について報告した(下岡、1998)。“ハグハグ”は、「2個体が対面で抱き合い、お互いの体を前後に揺さぶる行動」であり、以下のような特徴が認められた。1)2個体の行動が同調する、2)リップスマックを伴う、3)平均持続時間は17秒である、4)主にオトナ雌によって行われ、血縁の有無によらない、5)グルーミングの中断後や闘争後に見られる。以上の特徴から下岡はこの行動には、個体間の緊張を緩和する機能があると考えた。本発表では、金華山の“ハグハグ”行動と相同と思われる行動が屋久島のニホンザルでも観察されたので報告する。 当該行動は、2005年9月から12月、屋久島西部林道域のニホンザルE群を対象に、演者を含む総勢8名で行った性行動の調査中に観察された。 観察された行動は、下岡が報告した1)~5)の特徴、および機能を持っており、“ハグハグ”と相同の行動とみなすことができた。しかし一方で、行動パタンにわずかな変異が認められた。屋久島の“ハグハグ”も「2個体が抱き合い、お互いの体を前後に揺さぶる行動」であるが、必ずしも「対面で抱き合」うのではなく、一方の個体は他方の側面から抱きつく場合があった。さらに、屋久島の“ハグハグ”は、他個体を抱いた手を握ったり緩めたりいう動作を伴ったが、金華山ではそうした動作は見られていない。 行動の革新が見られ、集団中に伝播し、世代を超えて伝承することを文化と定義すれば、文化の存在を野生霊長類で証明することはかなりの困難を伴う。そこで、1)行動の地域毎の有無、2)行動を示す個体の増加、3)行動のパタンの一致などがその傍証として用いられてきた。金華山の“ハグハグ”とは微妙に異なるパタンで屋久島においても相同の行動が発見されたことは、上記3)の文化の傍証に相当する。今後、1)、2)の傍証についての情報を収集していく予定である。

今回の私の撮影地は山形県で、鹿児島県の屋久島よりも宮城県の金華山にずっと近いです。 ハグハグ行動のパターンが、金華山の個体群と近い事がわかりました。 
屋久島の個体群で記述されたハグハグのバリエーションとは全く違います。
ハグハグが緊張緩和のための行動という解釈には、個人的に納得できません。
今回、私の耳には、同性愛行動に耽るニホンザル♀の鳴き声やリップスマック(唇で鳴らす音)をまったく聞き取れませんでした。 


【追記2】
観察に不慣れな私が若いニホンザル♂を♀と誤認しているだけかもしれません。
だとすれば、同性愛でない可能性が出てきます。
子猿♂は睾丸が未発達だとしたら、私には性別を見分けるのはお手上げです。

2024/12/17

ウラギンスジヒョウモン♂同士の誤認求愛?

 




2023年7月中旬・午前11:55頃・晴れ(強風) 

民家の裏庭に咲いたオレガノ(別名ハナハッカ)で花蜜を吸っているウラギンスジヒョウモン♂a(Argyronome laodice japonica)を動画に撮っていると、同種の別個体♂bが飛来し、訪花中の個体♂aも直ちに飛び去りました。 

何が起きたのか、1/10倍速のスローモーションでリプレイしてみましょう。(@0:07〜) 
酷い風揺れを我慢しながら撮影したのですが、スローモーションに加工すれば、それなりに見れる動画になります。 
まず、2頭とも翅表に黒い性斑(性標)がある♂でした。 
♂aは迎撃のために飛び立ったのでしょうか? 
 蜜源植物を巡る縄張り争いがあるのかな? 
しかし、手前で訪花していたキタテハ♀(Polygonia c-aureum)夏型に対してウラギンスジヒョウモン♂は全く興味を示しませんでした。 
したがって、同種の♂同士の誤認求愛だろうと思われます。 
ウラギンスジヒョウモン♀がオレガノの花に来たら求愛交尾しようと♂は待ち伏せしていたのでしょう。 

直後にオオフタオビドロバチAnterhynchium flavomarginatum)もオレガノの花壇から飛び去りました。

2024/11/27

ニホンザルのペアが初冬の夕方に林縁でマウンティング(若い♀の同性愛行動?)

 

2023年12月中旬・午後15:35頃・くもり・日の入り時刻は午後16:24 

夕方に遊動する野生ニホンザルMacaca fuscata fuscata)の群れを慎重に追うと、山麓のスギ植林地までやって来ました。 
おそらくここにねぐら入りするようです。 
猿もだいぶ私に慣れてくれて、リラックスした行動を示すようになりました。 
(ニホンザルに「餌付け」は全くしておらず、根気強く観察者に慣れてもらう「人付け」の手法です。) 

薄暗いスギ林縁に座ってうつむき、自分で蚤取り(毛繕い)している個体aを撮り始めました。 
その左隣に別個体bが並んで座っているのですが、手前のスギ立木の陰に隠れて姿がほとんど見えません。 
ただでさえスギ林は薄暗いのに、山麓の夕方なのでかなり暗く、動画の画質が粗くなってしまいました。 
カメラの設定でゲインを上げてから撮り直します。 

やがて、2頭とも立ち上がると、bがaの背後に回り込み、マウンティングして腰を振りました(pelvic thrust)。 
マウンティングされた個体aの後ろ姿の尻を見る限り、♀であることは間違いないものの、尻が赤く腫脹してないことから、発情期ではない若い♀と分かります。 
マウンティングされながら♀aが振り返って相手の顔を仰ぎ見たり、片手で相手を引き寄せる動きをやりませんでした。 
したがって、これは交尾ではなくて、群れ内で順位を決める儀式的な優劣行動なのでしょうか? 
問題なのは、マウンティングした個体bの性別です。 
これも発情していない若い個体のようですが、素人目には♀に見えます。 
もし間違っていたら、ご指摘願います。 
若い♂だと睾丸が小さいのですかね?
とにかく薄暗くて、観察しにくい条件でした。 
短いマウンティングを済ませると、2頭は前後してスギ林の奥へ遊動して行きました。 


※ 動画の後半は編集時に明るく加工しています。 


実は同じ日の昼前にニホンザル♀同士(年齢差あり)の同性愛行動を観察したばかりだったので、今回も若い♀の同性愛行動ではないか?と気になりました。 



2024/11/20

山中の池で交尾するエゾコセアカアメンボ♀♂?

 

2023年6月上旬・午後13:25頃・晴れ 

里山で湧き水が溜まった泉の水面で2組のアメンボ♀♂が交尾していました。 
エゾコセアカアメンボ(Gerris yezoensis)だと嬉しいのですが、アメンボを見分ける図鑑などをもってないので、真面目に検討したわけではありません。 
もし間違っていたら、ご指摘願います。 
ヤスマツアメンボ(Gerris insularis)ですかね? 

交尾中のペアの上にさらに別のペアがのしかかりました。 
縄張り争いやパートナーの強奪戦があるのでしょうか? 
それにしては、その後の展開がありません。
捕食(共食い)でもありませんでした。 

水中ではアズマヒキガエルの幼生(黒いオタマジャクシ)およびトウホクサンショウウオの幼生が泳いでいます。

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2024/11/07

野生ニホンザル♀の同性愛行動(雌同士の抱擁、マウンティング、正常位の擬似交尾など)

 

2023年12月中旬・午前11:40:頃・晴れ 

里山の麓に流れる沢を治水する砂防ダムのコンクリート堰堤で2頭のニホンザルMacaca fuscata fuscata)が毛繕いしていました。 
このペアは体格に少し差があり、大柄な個体が小柄な個体に対して甲斐甲斐しく対他毛繕いをしています。 
大柄な個体は、胸にピンク色の細長い乳首があることから、経産♀(オトナメス)とすぐに分かりました。 
小柄な個体は対他毛繕いを一方的に受けながらも自分でも蚤取りをしていて、お返しの毛繕い(相互毛繕い)を全くしませんでした。 
初めは小柄な個体の性別を見分けられなかったものの、胸に乳首が見えないことは確かです。(この時点では若い♂または子育て未経験の若い♀だと思っていました。)

谷(渓流)を挟んで対岸に座って居るニホンザルと私は、充分に距離が離れているのですが、私に対して少し警戒しているようです。 
周囲をキョロキョロと見回して、物音がするとビクッと怯えました。 
群れの仲間が近くに居るのかもしれませんが、私には姿が見えませんでした。 

砂防堰堤に座ったまま至近距離から互いにちょっと見つめ合ってから、正面から抱き合いました(ハグ)。 
すぐにまた対他毛繕いを続けます。 
抱擁したのは心理的な不安を和らげるための行動なのか?と微笑ましく思いつつ撮影を続けると、驚きの展開が待っていました。 

毛繕いを受けていた小柄な個体が立ち去ろうとすると、大柄な年長♀が相手を抱きかかえるように引き留めて、2頭はハグしたまま後足で立ち上がりました。(@1:00〜) 
抱き合ったまま年長♀が後ろに倒れ込んだ結果、正常位の交尾行動?が始まりました。 
年長♀が後ろに倒れ込む際に、左手で近くの枝を掴んでいました。 
このとき初めて小柄な個体の股間がしっかり見えたのですが、外性器から♀だと分かって驚愕しました(睾丸も陰茎もない)。 
もしも若い個体の性別判定が間違っていたら以下の解釈は全て台無しなので、ご指摘願います。
小柄な若い♂が年増の♀を押し倒して正常位の交尾を始めたのではなくて、明らかに年長♀が若い♀を誘い込んでいました。 
♀同士の同性愛行動なのでしょうか? 
正常位で下になった年長♀が腰をスラストして下腹部の外性器を若い♀の体に擦り付けています。 
ここまでの行動から、年長♀の方が性的にかなり積極的で、明らかに発情しているようです。 
異性間の交尾なら正常位の上になった♂が腰をスラストさせるはずですが、上になった若い♀は棒立ち(四足)のまま腰を動かしませんでした。 

抱擁を解くと若い♀は少し離れ、砂防堰堤に身を伏せました。 
このとき若い個体の股間に見えたピンク色の陰部は、やはり♂ではなく♀の外性器でした。 
年長♀は若い♀に対して再び対他毛繕いをしてやります。 

辺りをしばらく見回してから、年長♀が若い♀の背後からマウンティングしました。(@2:13〜) 
両足で相手の腰の上に乗った年長♀は、左手で近くの木の幹を掴んでバランスを取りながら、下腹部の外性器を若い♀に擦り付けました。 
マウンティングされた若い♀は体をねじって相手の顔を見上げ、右手で相手を掴んで引き寄せています。 
この行動は、異性間交尾でマウントされた♀がやる行動と同じでした。 

若い♀の腰に乗った年増♀が地面に跳び下りると、少し離れて座って休みます。 
日当たりの良いコンクリート堰堤は暖かそうです。 
小柄な若い♀個体は、痒い体を掻いたり自分で毛繕いしたりしています。 
年長♀は、対岸で撮影している私を気にしてチラチラと見ています。 
一方、若い♀は周囲をそれほど警戒しません。 

短い休憩を挟んだだけで、すぐにまた年長♀が立ち上がると若い♀の背後に回り込み、マウンティングしました。(@2:50〜) 
年長♀が近づくと、座っていた若い♀は立ち上がり、四足で迎え入れました。 
これが交尾を促す積極的なプレゼンティングなのかどうか、観察経験の浅い私には判断できません。 
少なくとも、マウントされることを嫌がっていないのは確かです。 
今回もマウントされながら若い♀は振り返って相手を仰ぎ見ながら片手で触れました。 
若い♀が前に歩きながらのマウンティングになってしまい、バランスが不安定ですぐに離れました。 

少し離れて座ると、各々が毛繕いをしています。 
耳を澄ますと周囲からニホンザルの鳴き声がかすかに聞こえます。 
近くで遊動・採食している群れの仲間が鳴いている声なのか、それとも被写体の♀同士が鳴き交わしているのか、遠くて分かりませんでした。 

これで観察を打ち切りましたが、ニホンザル♀のペアが同性愛の行動を繰り返しながら少しずつ奥へ奥へと移動しているのは、私を警戒して物陰に隠れようとしているのかもしれません。 
群れの仲間に邪魔されないように、群れから離れて安全な砂防ダムの上で同性愛行動を始めたようです。 
ちなみにニホンザルでは異性間の交尾行動でも、繁殖期に仲良くなった♀♂ペアはライバルに邪魔されないように群れから離れて逢引することが多いです。

今回のペアが役割を入れ替えて、若いニホンザル♀が年長♀に対して逆にマウンティングしたり対他毛繕いしたりすることは一度もありませんでした。
一連の行動を見ると、群れ内での順位を決めるための優劣行動として年長♀が若い♀に対してマウンティングしただけとはとても思えません。

ボノボ(別名ピグミーチンパンジー)というアフリカの類人猿は、異性愛だけでなく同性愛も大っぴらに行う猿、正常位で性行動をする猿ということで有名で、テレビの動物番組で何度も紹介されています。 
個体間で緊張が高まると擬似的な交尾行動(マウンティング)、オス同士で尻をつけあう(尻つけ)、メス同士で性皮をこすりつけあう(ホカホカ)などの行動により緊張をほぐす[5][6]。(中略)体位については、人間だけが行うと考えられていた正常位での性行動を行うことが発見されている。 (wikipediaより引用)
ボノボの♀同士がやる有名なホカホカ行動を今回ニホンザルで初めて観察できて、びっくりしました。
ボノボは喧嘩・対立した当事者間の緊張をほぐすために儀式的な同性愛行動をするそうです。
今回私が観察したニホンザル♀の事例ではその解釈は当てはまらず、年長♀の性的衝動から始まった性行動だと思います。
撮影時期はニホンザルの交尾期(発情期)ですし、撮影直前にこの2頭のニホンザル♀が喧嘩をしていたようには見えません。
年長♀は乳首が長いことから、過去に出産・育児をして授乳経験があると考えられます。
したがって、この年長♀個体は異性♂と交尾した経験があり両性愛者です。 

Google Scholarで文献検索して、ニホンザルの♀同士の同性愛行動について調べてみました。
全文PDFが無料で閲覧できる論文をざっと斜め読みしただけでも勉強になりました。

中川尚史, 中道正之, and 山田一憲. "ニホンザルにおける稀にしか見られない行動に関するアンケート調査結果報告." 霊長類研究 27.2 (2011): 111-125.
メスのメスに対するマウンティングに代表されるメス間の同性愛行動にも個体群間変異が知られている。Vasey & Jiskoot (2010) は,メスの同性愛行動が嵐山,箕面,地獄谷の3個体群で知られ,これらはいずれもミトコンドリア DNA の型で言えば東日本タイプのうちの同じサブタイプ(A1)に属することから,遺伝的なバックグラウンドがある可能性を指摘している。しかし,メスのメスに対するマウンティングが,西日本タイプに属する屋久島(Kawamoto et al., 2007)で比較的高い観察頻度で認められたことは,この可能性を否定するものである。
Vasey, Paul L., and Hester Jiskoot. "The biogeography and evolution of female homosexual behavior in Japanese macaques." Archives of Sexual Behavior 39 (2010): 1439-1441. 
カナダのレスブリッジ大学のVasey氏がこの分野における第一人者なのか、ニホンザルの同性愛行動に関する論文を何本も精力的に発表しています。

今回観察したニホンザル♀のペアは母と娘または姉妹なのでしょうか?
群れを長期間追いかけて個体識別で家系調査をするかDNA鑑定をしないと、血縁関係は分かりません。
驚くべきことに、ニホンザル♀の同性愛行動でもインセスト・タブー が守られている(近親者を忌避する)という研究結果が報告されていました。
Chapais B, Mignault C. Homosexual incest avoidance among females in captive Japanese macaques. Am J Primatol. 1991;23(3):171-183. doi: 10.1002/ajp.1350230304. PMID: 31952407.
つまり、今回のニホンザル♀2頭は母娘や姉妹ではなく、同じ群れで年齢差があって血縁関係のない仲良しから同性愛行動に発展したと考えられます。

ヒトの同性愛に対する価値判断を伴わない純粋な動物行動学の文脈であっても、「同性愛」という手垢のついた用語を軽々しく使うことに強い抵抗を示す人々がいます。
安易な擬人化をなるべく避けるためにも、「同性間性行動」と言い換えるべきかもしれません。
交尾の体位を説明する「正常位」という用語も人間中心主義的で、ある種の価値判断が含まれているように思うのですが、中立的な用語に言い換えられるのでしょうか?
「マウントを取る(マウンティング)」というサル学の用語も最近では日本人の日常会話によく登場する比喩表現になり、すっかり手垢がついてしまいました。


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2024/09/10

電柱の天辺で熱烈なキスを交わすドバト♀♂(野鳥)

 

2023年9月下旬・午前11:05頃・くもり 

田園地帯の端に立つ電信柱の天辺に並んで止まった2羽のカワラバト(=ドバト;Columba livia)が、何度もキスを交わしていました。(billing) 
擬人化して愛情表現のキスと解釈したくなりますが、ピジョンミルク(素嚢乳)を吐き戻して与える求愛給餌なのでしょうか?

この2羽は♀♂ペアだと思うのですが、やや体格差があります(左L<右R)。 
やや小柄なRの方が積極的にLへキスしています。 
このR個体が♂なのかな? 
調べてみると一般にドバトの体長に性差は無いとされているので、今回の体格差はたまたまだったようです。 

キスの合間に♂Rが儀式的な羽繕いをして、首元の羽毛の構造色を相手に見せつけているようです。 
やがて♀Lも羽繕いして、自分の胸元の羽毛を整えました。 
 遠いせいか、この間にドバトが鳴き交わす声は聞き取れませんでした。 

このまま求愛行動が盛り上がって交尾が始まるかと期待して見守ったのですが、♂Rは飛び去ってしまいました。 
素人目には♀Lが交尾拒否をしたようには見えなかったのですが、♂Rは「脈なし」だとあっさり諦めたようです。 

巣立った幼鳥に親鳥がピジョンミルクを巣外給餌したという別の解釈もあり得ますかね?(※ 追記参照)
ドバトは外見で性別を見分けられず、交尾が成立したときしか性別を確定できないのが問題です。


電柱の天辺に独り残された個体♀Lは、羽繕いを続けています。 
首をひねって背中の羽毛も嘴で整えています。 
落ち着き払って飛び立つ気配がなく、私がすぐ下を通り過ぎても逃げませんでした。 

※ 逆光なので、動画編集時にコントラストではなく彩度を少し上げました。


※【追記】
親鳥が雛にピジョンミルクを口移しで与えるのは、雛が巣内にいるときだけで、巣立ち後の幼鳥は固形物の餌を自分で食べるようになるのだそうです。



2024/06/13

モエギザトウムシ?♀♂の求愛と交尾拒否

 



2023年9月上旬・午後12:40頃・晴れ 

ホンドタヌキNyctereutes viverrinus)の溜め糞場phがある周辺のスギ林床で多数のモエギザトウムシ♀♂(Leiobunum japonicum)?が活動していました。 
基本情報として、ザトウムシは体格に性的二型があり、基本的に♀の方が大きいのだそうです。(♀>♂) 
また、鋏角は♂の方が大きいらしい。(♀<♂) 
つまり外見でザトウムシの性別を見分けることが出来ます。 

下草(ヤブコウジ実生の葉)の上に居たモエギザトウムシ?♀個体が方向転換し、移動を始めました。 
林床を奥から歩いて来た別個体♂がこの♀を見つけると、♀に向かって積極的に突進してきました。 
そのまま正面から向き合うと、いきなりがっぷりと組み合いました。 
体格差があるのに、長い歩脚を屈伸しながら口器で互いに噛み合っているようです。 
短いキスを交わしただけで、♀♂2匹はすぐに別れました。 
今までこんな行動を見たことがなかった私はてっきり喧嘩(闘争)なのかと思ったのですが、調べてみると求愛行動だったと分かりました。 
クモの♂は触肢に移精してから♀の外雌器に挿入します(交接)。 
それに対して、ザトウムシ♂は陰茎を♀の交尾器に挿入する点で配偶行動が大きく異なります。 

林床を逃げていく♀個体に注目して撮り続けると、すぐにまた別個体の♂と遭遇しました。 
♀の背後から追いかけてきた♂は回り込んで、今回も互いに正面から向かい合って口器でがっちり噛み合いました。 
数秒後にはすぐ♀♂ペアを解消して別れました。 
しかし長い歩脚が絡み合って、別れるのに少し苦労しているようです。 

しばらくすると、一旦別れた♂が再び♀に迫りました。 
♀は嫌がっているようですが、そこへ3匹目が乱入してきました。 
この混乱に乗じて、♀は♂のしつこいセクハラから逃げ延びたようです。 

 一連の求愛行動および交尾拒否を1/5倍速のスローモーションでリプレイしてみましょう。(@2:02〜) 
ポイントとなるのは、♂が陰茎を伸ばして♀と結合したかどうか、です。 
1回戦で♀と正面から組み合った際に、♂が白い陰茎を伸ばしかけたように見えたのですが、どうでしょうか?(@3:04〜) 
2回戦は背側からの撮影アングルだったので、交尾に成功したのかどうか、素人目には分かりませんでした。
うまくいく場合は、オスはススッとメスの脚をすり抜け(メスが寛容になる)胴体を潜らせ胴体を鉢合わせます。(関連動画『ザトウムシのコミュニケーション』by 生きもの観察記録さんの解説より引用)
私の動画では♀♂ペアが互いに腹面を合わせなかったので、今回も♀が交尾拒否したようです。
♀が受け入れても、ザトウムシの交尾はせいぜい5秒ぐらいで終わってしまうのだと教えてもらいました。
ザトウムシ♂は既交尾♀と交尾する前に陰茎を使ってライバル♂の精子を♀の性器から掻き出す行動(精子置換)をしないのでしょうか?


【参考動画】
↑「モエギザトウムシの求愛(拒絶するメス)①」 by 生きもの観察記録さん

モエギザトウムシのメスが交尾を拒絶する場合、胴体を倒立させることがある(他には前脚でオスの胴体をはさむ等)。

オスはちょこまか動くメスの脚をくぐり抜け、最後にはこの鉄壁の拒絶を突破していかないといけない。オスメスの頭と頭が付き合わさらないと、交尾に至らない。

「モエギザトウムシの求愛(メスの交尾拒絶行動)」と題した同じ動画が別サイト「動物行動の映像データベース」にも掲載されていました。

ちなみに、私の動画では、♀は倒立による交尾拒否はしていません。

↑「モエギザトウムシの求愛(拒絶するメス)②」

オス(下側)のからの交尾を拒絶するメス(上側)のモエギザトウムシ。第1脚を閉じてオスの胴体の侵入を防いでいる。
これまでの飼育下では、メスの交尾拒絶行動は①胴体を倒立させる、②脚を閉じる、の2パターンが観察された。
私の動画で、モエギザトウムシ♀が脚を閉じて♂の求愛を拒絶したかどうか、素人目には見分けられませんでした。


「ザトウムシの交尾」で画像検索してみると、交尾中のザトウムシ(モエギザトウムシとは別種)を接写した見事な写真が土壌動物写真家ジーク氏のブログ記事に掲載されていました。
♂が長い陰茎を伸ばして♀と結合した様子が側面からしっかり見えます。
私も次回はザトウムシの交尾に成功するシーンを動画で記録したいものです。


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 ・鶴崎展巨『ザトウムシ』  ザトウムシ・ファン待望の書籍が発売予定です!(予約受付中) 

2024/05/10

タヌキの溜め糞場で必死に配偶者ガードするオオヒラタシデムシ♂

 

2023年7月下旬・午後14:35頃・ 晴れ 

防風林でスギ倒木の横にホンドタヌキNyctereutes viverrinus)が残した溜め糞場phでオオヒラタシデムシNecrophila japonica)が三つ巴で組んずほぐれつしていました。 
どうやら、交尾中の♀♂ペアにライバル♂が横恋慕して♀を強奪しようとしているようです。 
横倒しになった♀♂ペアもマウントしているだけで交尾器は結合していません。 
交尾した後も♀が産卵するまで浮気しないように♂は配偶者ガードしているのでしょう。 

♀にマウントした♂が腹端を左右に激しく振っているのは、ライバル♂に対する威嚇牽制のつもりだと思うのですが、有効な反撃になっているとは思えません。 
腹端から何か刺激臭でも放出しているのかな? 
そんなことよりも早く(再び)♀と交尾して結合を続ければ、何よりも有効な浮気防止になると思うのですけど…。
溜め糞場で栄養を摂取して産卵したい♀にとっては迷惑なだけかもしれません。 

武器を持たないオオヒラタシデムシ♂同士は♀を巡る闘争に一体どうやって決着をつけるのでしょう?
早い者勝ちで交尾するしかない気がします。 
他に急ぐ用事のあった私は、この3匹の成り行きを見届ける余裕がありませんでした。

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2024/03/23

モクゲンジを訪花中に求愛してくるオオチャバネセセリ♂と交尾拒否する♀

 

2023年7月上旬・午後16:10頃・晴れ 

民家の裏庭に咲いたモクゲンジに複数個体のオオチャバネセセリ♀♂(Zinaida pellucida)が訪花していました。 

まず、クゲンジの葉に乗っている個体に注目しました。 
♀が飛来するのを待ち伏せしている♂なのでしょうか? 
それとは別に、右の枝で訪花中の個体♀がいました。 
その♀が花から花へと少し飛ぶと、葉上の個体♂が目敏く見つけて追尾開始。 
花に止まった♀の周囲を♂がホバリング(停空飛翔)しながら飛び回りました。 
2頭はすぐに別れてしまったのですが、何が起きたのか1/5倍速のスローモーションでリプレイしてみましょう。(@0:24〜) 
ホバリングする♂の激しい羽ばたきで♀の翅にバシバシと何度も軽く触れていました。 
求愛を受けても♀は翅をしっかり閉じたままです。 
これが交尾拒否の姿勢なのでしょう。 
♂は諦めてすぐ飛び去りました。 

独りになった♀はようやく落ち着いて口吻を伸ばすと、モクゲンジの花蜜を吸い始めました。 
しばらくすると♀も次の花に飛び去りました。 
オオチャバネセセリは羽ばたきが速過ぎて、ハイスピード動画で撮らないと翅表の斑紋がしっかり見えませんね。



オオチャバネセセリ♀@モクゲンジ訪花吸蜜

2024/01/25

ハルニレ樹上で交尾するヨツモンカメムシ♀♂

 

2023年5月下旬・午前11:15頃・くもり

平地のスギ植林地に自生する若いハルニレ灌木の枝先でヨツモンカメムシ♀♂(Urochela quadrinotata)が交尾していました。 
動画で撮っても、逆向きで交尾するカメムシの♀♂ペアに動きはありませんでした。 
しばらくして私が撮影アングルを変えたら、V字姿勢で交尾していました。 
性別の見分け方を知らないのですが、腹部がやや膨満している個体が♀なのでしょう。 

関連記事(6年前の撮影)▶ ヨツモンカメムシ♀♂交尾中の綱引き 


以前もハルニレ樹上でヨツモンカメムシ♀♂が交尾していたので調べてみると、ニレ科植物を寄主(食樹)とするらしく、納得しました。 
余談ですが、ヨツモンカメムシは日本のクヌギカメムシ科では唯一、成虫で越冬するそうです。(一般的には卵越冬。)

2024/01/09

タヌキの溜め糞場に集まって婚活するクロボシヒラタシデムシ♀♂

 

2023年5月上旬・午後15:05頃・晴れ 

平地でスギ防風林を通り抜ける獣道の途中にホンドタヌキNyctereutes viverrinus)が長年使っている大きな溜め糞場wbcがあります。 
定点観察に来ると、新鮮な糞が追加されていました。 

未消化の獣毛が大量に混じった糞が気になります。 
タヌキが野ネズミなど哺乳類の獲物を狩って捕食したのでしょうか? 
死骸を食べたのかな?(腐肉食) 
あるいは、季節の変わり目でどんどん抜け落ちる冬毛を自分で毛繕いする際に誤飲してしまったのかもしれません。 
糞分析の専門家は、体毛だけでも顕微鏡で調べることで種類を見分けられるのだそうです。 
糞虫の中には、糞そのものというよりも糞やペレットに含まれる獣毛や羽毛を専門に食べる種類がいるらしいですけど、見慣れない糞虫は来ていませんでした。

糞に含まれる紫色の人工物の破片は、人家から盗んできた長靴を噛んだ際に誤飲したのでしょう。 
野生タヌキの行動圏を解明するために、マーキングしたプラスチック片を仕込んだ餌を与えて各地の溜め糞場で回収されるかどうか調べるマーキング実験を連想しました。 

タヌキの溜め糞にクロボシヒラタシデムシOiceoptoma nigropunctatum)の成虫が群がっていました。 
これほど多数の群れを見たのは初めてかもしれません。 
マウントした♂を背負いながら♀が歩き回っています。 
クロボシヒラタシデムシのあぶれ♂が交尾相手の♀を求めて忙しなく動き回り、互いにマウントし合っています。 
誤認求愛に気づくとあっさり離れるのですが、鳴き声(リリースコール♪)を発している訳でもありませんし、交尾拒否の合図がよく分かりません。 

赤っぽいダニ(種名不詳)がクロボシヒラタシデムシの体表を徘徊していました。 
他にはハエ類とカメムシがタヌキの溜め糞に集まっていました。 

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