2024年4月下旬・午後13:15頃・晴れ
田園地帯の舗装された農道で、交尾中のニワハンミョウ(Cicindela japana)♀♂ペアを見つけました。
♀に背後からマウントするために、♂は白い大顎を大きく開き、♀の胸部と腹部の間を挟んでしっかり保定しています。
♀の背中に乗った♂の腹端をよく見ると、細長くて明るい茶色の交尾器を伸ばして、♀と結合していました。
♂は腹部を少し前方に曲げているため、鞘翅に隠れていたメタリック・グリーンの腹背が覗いて見えます。
一方で♂を背負った♀は、大顎を開閉しながら路上を走り回り、獲物を探しているようです。
ときどき♂を振り落とそうとするものの、マウントした♂は♀に必死にしがみついたまま離れようとしません。
求愛行動を見ていませんが、♂が♀にいきなりマウントして交尾を始めるのだろう。
この機会に、ニワハンミョウの性差がある形質を探してみましょう。
体格はやや♀>♂で、♂の前脚および中脚の腿節に白い剛毛が密生している気がするのですが、いずれも微妙な差で、これだけで単独個体の性別を見分けられる気がしません。
鞘翅の鈍い金属光沢の色が♂は緑っぽく、♀が赤っぽいのですが、これは偶然の個体差かもしれません。
比較的分かりやすいのは、大顎および上唇の色で、♂は白っぽく♀は黄ばんでいます。
(訂正:頭楯ではなく上唇の間違いでした。)
交尾中のペアが路上で佇んでいると、右から風に飛ばされてきた小さなゴミが♀の眼の前を横切りました。
それを♀が反射的に咥えました。
獲物のアリではないと気づくとすぐに吐き出し、ゴミはそのまま風に吹き飛ばされました。
1/5倍速のスローモーションでリプレイ。(@0:22〜)
ニワハンミョウの優れた動体視力と反射神経に驚かされます。
もしかするとニワハンミョウが食べ残したアリの捕食残渣かと思ったのですが、そうではなく植物質のゴミだったようです。
やがて、♀は♂を背負ったまま方向転換し農道をうろつき始めたのですが、その前に♀がクチャクチャ噛んでいた獲物の食べ滓を路上に吐き捨てました。
1/5倍速のスローモーションでリプレイ。(@1:04〜)
捨てた物体は黒いので、おそらくアリのクチクラ(捕食残渣)のようです。
♀は食後の身繕いを始めました。
左右の触角を同時に足で拭ったり、同側の脚を互いに擦り合わせたりしています。
残念ながら、後ろ姿では化粧シーンがよく見えません。
次に、♀は立ち止まると、マウントした♂を後脚を使って払い落とそうと暴れ始めました。(@1:57〜)
♂はじゃじゃ馬に乗ったロデオのように、♀から振り落とされまいと必死にしがみついたままで、交尾を続けます。(♂交尾器を挿入したまま。)
農道を断続的に走り回った後で、再び♀が暴れ始めました。
♀が激しく暴れても、♂の細い陰茎が折れたり外れたりすることはありませんでした。
ニワハンミョウ♀の大顎の先端が黒いので、獲物のアリをまだ咥えたままのように誤解しがちですが、正面からしっかり見ると何も食べていないことが分かります。
また交尾中の♀♂ペアを見つけて新たに動画を撮り始めました。(@2:45〜)
同一ペアの続きなのか、覚えていません。
鞘翅の白紋を見る限り、同一ペアに見えます。
しかし鞘翅の色が♀♂共に赤系なので、さっきとは別のペアのような気もするのですけど、光の当たる角度によって構造色の見え方が変わってくるのかもしれません。
♀が♂との交尾を早く打ち切ろうと暴れているときに、左から別個体が乱入しました。
1/5倍速のスローモーションでリプレイ。(@4:13〜)
新参者のニワハンミョウは、鞘翅が緑色っぽくて、上唇や大顎が白っぽいので、どうやら♂のようです。
てっきり「あぶれ♂」が乱入して♀の争奪戦が始まるかと期待したのですが、ニアミスしても何事もなく離れて行きました。
交尾していること自体が、最強の配偶者ガードになっているのかもしれません。(あぶれ♂に勝ち目なし)
♂を振り落とそうと暴れながら歩き続ける♀は、次に路上に落ちていたゴミを咥えたものの、数口咀嚼しただけですぐに吐き出して捨てました。(@5:53〜)
アリのように素早く逃げる獲物が相手ですから、たとえゴミであっても、餌らしい物体を見つけたら、反射的に噛み付いて口に入れてしまうのでしょう(誤認捕食)。
このゴミはもしかすると、別個体のニワハンミョウが吐き捨てた食べ残し(残渣)かもしれません。
1/5倍速のスローモーションでリプレイ。(@5:58〜)
路上を徘徊する交尾ペアと別の単独個体がまたすれ違いました。
ニアミスしても小競り合いにはなりませんでした。
1/5倍速のスローモーションでリプレイ。(@6:47〜)
あまりにも一瞬のすれ違いで、相手の性別を見分けられませんでした。
交尾中の♀♂ペアは、路肩の土壌がある地点に辿り着いてから、舗装路に引き返しました。
【考察】
ニワハンミョウ♀♂の交尾行動は初見です。
交尾を早く打ち切りたい♀の行動と、必死で交尾を続ける♂が、ロデオを見ているようで面白かったです。
重い♂を背負ったままでは敏捷なアリを狩るのに邪魔(足枷)になりますし、鳥などの天敵(捕食者)に襲われたときも逃げ足が遅くなってしまいます。
つまり♀にとって、いつまでも交尾を続ける♂は大迷惑です。
一方♂としては、たとえ♀と交尾できても自分の精子が確実に次世代に受け継がれるとは限りません。
♀が産卵するまでライバル♂との浮気を防ぐ必要があり、交尾時間が長くなるのでしょう。
昆虫の種類によっては、♂が前回に交尾したライバル♂の精子を♀の体内から陰茎を使って掻き出したり、自分の精子を大量に送り込んで精子置換したりしてする例が知られています。(ハンミョウも同じなのかどうかは、知りません。)
つまり雌雄で繁殖戦略の思惑が異なるために、典型的な性的対立が生じます。
ニワハンミョウの♀♂ペアが交尾を解消して離れる瞬間まで見届けられませんでした。
♀が獲物を咀嚼している間はおとなしく交尾を受け入れてくれるなら、♂が♀に求愛給餌する行動が進化してもよさそうな気がします。
しかし、ハンミョウが狩ったばかりの新鮮な獲物しか捕食しないのだとしたら、無理ですね。
次は求愛から交尾に至る過程を観察したいものです。
つづく→
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