2011/10/01

垂直円網に横糸を張るオニグモ♀:最終段階とこしきの処理



2011年9月中旬・夕方・気温25℃
(つづき)
前編はこちら→「垂直円網に横糸を張るオニグモ♀:15倍速
いよいよ暗くなってきたので望遠での撮影を諦め、最後の10分間は網の近くに立ってライトで照らしながら手持ちカメラのマクロモードで造網作業を記録することにしました。
懐中電灯の光に反射してクモの単眼が白く光ります。
糸や網もなんとか光って映ります。
辺りでアマガエルが鳴き始めたと思ったら、あと少しというところで雨がしとしと降ってきました。
カメラとライトで両手が塞がっており、傘をさせません!
カメラが濡れるのを気にしつつ我慢して完成まで見届けました。


甑(こしき)の処理に興味があったのですが、雨のせいでじっくり観察する余裕はありませんでした。
網の裏面から見てないとよく分かりませんね。

クモ生理生態事典 2010』でオニグモの項を参照すると、
造網作業の最後に,網の緊張を平均化するために,中心部(こしき)にほぼ円形に穴をあけたり, 2~3の放射糸に糸を継ぎ足してひきしめたりするので,不正形の穴があいている.これはオニグモ類には共通した習性である.
同じ場所に張られた円網の甑部分を別な日の朝に撮影。
主は一晩捕食活動をして隠れ家に帰った後。



最後に完成した作品中央に占座するオニグモ♀の写真を慌しく撮って帰りました。
それにしても立派な網の出来栄えに感嘆しました。

甑の高さは目測で地上約185cm。

円網の直径は目測で1m以上。

垂直円網と言いつつも、やや斜めに張られていました。






恥ずかしながら私は未だにオニグモとイエオニグモの区別※があやふやです…。
いつもお世話になっているクモ蟲画像掲示板にて写真鑑定してもらうとオニグモと教えて頂きました。
以下はきどばんさんの回答です。
腹部背面の葉上斑形状および腹部腹面の白斑の出方が異なります。オニグモの腹背肩部はなで肩~いかり肩で変異がありますが、イエオニグモの腹背前縁はまんまるな感じですね。
大きさが判るはずもないのですが軽く20mmを超えていそうな・・・イエオニグモは大きくても12mm程度で小柄な印象を受けます。

捕食行動や網の撤去行動など観察したいことはいくらでもあったので翌日も楽しみに訪れると、なんと境内の草がきれいに刈られていて残念ながらクモの網も無くなっていました。

オニグモが毎日網を張り始める時刻も気になります。
同じく『クモ生理生態事典 2010』によると、オニグモが網を張りに現われる時刻は日入り時刻と共に早まるらしい。
実は今回撮影した日の前日にも同一個体と思われるオニグモ♀の横糸張りを見ました(カメラなし)。
一日違うだけで開始時刻や完成時刻が30〜60分ほど早いのです。
二日目は余裕を持って早めに見に行ったのに、既に造網が始まっていて焦りました。

クモは正確な時刻(生物時計)ではなく、周囲の照度を感じて薄暗くなったら造網を始めるのかもしれません。
二日目は夜に天気が崩れたせいで、日没時の暗くなり方が早まりました。
あるいはクモの空腹状態も関係するのかもしれません。
「今日は腹が減ってないから店開きは後にしよう」

【追記】

似たもの同士の簡単識別法(9)『オニグモとイエオニグモ』という分かりやすい解説サイトを見つけました。







2011/09/30

垂直円網に横糸を張るオニグモ♀:15倍速動画



2011年9月中旬・夕方・気温26℃

山の麓の神社仏閣にて、丸々と太ったオニグモ♀成体が巨大な網を張っていました。

大きく店開きした枠糸を辿って固定点を調べてみると、

  1. 下草のエノコログサの茎や穂先
  2. 境内の木柱、屋根の軒先
  3. 杉の大木の葉先

夕方に様子を見に行くと、毎日行われるらしい網の張り替え作業で新しい横糸を張り始めたところでした。
自然光でクモの糸や網がきちんとカメラに写るアングルを探すのに苦労しましたが、垂直円網の斜め下から見上げるアングルだと西日に当たって光って見えます。
三脚を据えカメラのピントを網の甑(こしき)部分に固定しました。
円網の正面から撮るには本格的な照明機材を持ち込み強い光を当て続けないといけないようです。
写真でインターバル撮影するか迷ったのですが、結局は動画でひたすら長撮りすることに。
15倍速の早回し映像をご覧下さい。


クモのドキュメンタリーなどでありがちな定番のネタですけど、自分でいざ実際に撮ろうとするとそれなりに難しくやりがいのある課題(テーマ)でした。
くるくるくるっと中心に収束していく動きは見ていてとても気持ち良いです。


網の外側から内側へと螺旋状に粘着性の横糸を張りながらクモが旋回する向きは最後まで一定でした(反時計周り)。
クモは途中で休むことなく一気に造網しました。
日没後の終盤はつるべ落としに暗くなったので、白色LEDの懐中電灯でクモを照らしながら撮影を続行しました。
晴れの予報だったのに怪しい蜘蛛行き雲行きとなり、次第に風が吹き始めました。
風で激しく網が揺れてもクモは平気で、淡々と網の完成を急ぎます。


(つづく→「垂直円網に横糸を張るオニグモ♀:最終段階とこしきの処理」)


2011/09/29

タヌキの死骸を土に還す者たち



自然の営みとはいえ、かなりグロい映像です。お食事前、お食事中の方は決して視聴されないことをお勧めします。


2011年9月上旬

道端でホンドタヌキNyctereutes viverrinus)の新鮮な死骸が横たわっていました。
おそらく夜に車にはねられ輪禍の犠牲となった(ロードキル)と思われます。
未だ腐臭はありません。
外性器もよく見えず、勉強不足の私にはタヌキの性別は分かりませんでした。
成獣の♀ならあるはずの乳首が見当たらないので、若い個体か♂なのかもしれません。
左前足の膝の辺りに外傷が認められますが、古傷なのかも。
早速、キンバエやニクバエの仲間が集まり始めました。
タヌキ死体の開いた口に一番よく集まるようです。


死体に集まる虫の種類やウジ虫の発育状態などから法医昆虫学者は被害者の死亡時刻を推定できるのだそうです。
人気TVドラマCSIに登場するグリッソム主任の得意とする捜査手法ですね。






千載一遇のチャンスなので、死骸が土に還るまでの過程を定点観察することに。
・分解にともなって、遺体を利用する生きものが次々と入れ替わっていく現象は「遷移」とよばれます。 (大園享司『生き物はどのように土にかえるのか: 動植物の死骸をめぐる分解の生物学』より引用) 
・分解者の活動が、温度に依存しているため、日平均気温を積算した積算温度が遺体の分解の速さとよく合致する。 (同書p44-45より)

出来る限り頻繁に通ってみたのですが、連日暑いこともあって生物分解の進行の早さに驚きました。
ハエが産んだ大量の卵がすぐに孵化し※、幼虫(蛆虫)が強力な消化液で腐った肉や内臓を一気に食べてくれます。
(※このハエの仲間は直接幼虫を産み付ける卵胎生だったかも?…うろ覚え。)
死体はぺしゃんこになり、文字通り骨と皮だけになりました。
毛皮から抜けた毛が四散しました。
ご馳走を食べて成長した蛆虫は周囲の土に潜って蛹になるようです。
私が観察したのはハエだけで、なぜか掃除屋シデムシの仲間は見つけられませんでした。


できれば綺麗に白骨化したタヌキの死体を採集して標本にするつもりでした。
残念ながらやがて誰かに死体を悪戯されるようになり(カラスが啄いて裏返した?)、最後は持ち去られてしまいました。
いつか誰にも邪魔されない所でひっそりと、仏画の九相図のように動物の死体が生物分解されていく一部始終を微速度撮影で記録してみるのが私のささやかな夢です。





2011/09/28

網の張り替えで横糸を張るジョロウグモ♀



2011年9月中旬・早朝・気温22℃

承前。
前編はこちら→「網の張り替えで足場糸を張るジョロウグモ♀」。


3年前の晩秋にジョロウグモの同じ行動を夜撮影しましたが、明るい状態の方が糸や網の視認性が高いです。


新旧の網の境目で少しズームアウトすると、横糸を螺旋状ではなく扇状に張っている(一筆書きの折り返し)ことがよく分かります。
粘着性の横糸を張る際に非粘着性の足場糸を切らないで残すのがジョロウグモNephila clavata特有の「仕事の流儀」です。

隣り合う足場糸の間には大体4本の横糸を張るようです。
(場所によって3本や5本のことも。)
このため完成したジョロウグモの網は「五線譜」によく例えられます。


縦糸への固定点が横糸の場合は足場糸のようにジグザグしないで真っ直ぐになります。
眺めていると、ときどき横糸が明らかに脱線することがあるのがなんとも微笑ましい。
足場糸を跨いでしまっています。
クモも完璧なプログラムに従っているのではなく、ミスをしたり結構適当(大雑把)だったりするのかもしれません(融通性)。
あるいは、ひょっとすると造網には習熟性があるのかも。(成熟するにつれて上達する?)


前編で見たように、先程クモが足場糸を張りながらときどき中断しては短い縦糸を追加していました。
確かに所々で縦糸が分岐しています。


観察中に素朴な疑問がもう一つ浮かびました。
網を張り替えているジョロウグモは新旧の網の境目(折り返し点)に到達したことをどのように知るのでしょう?
編み物をするように縦糸の本数を数えている可能性もありますが、ちょっと考えにくい気がします。
横に移動しつつ足元を探っている第一、二脚で古い網に触れたことを感じているように思います。

  • 粘着性の横糸に触れたことを感知?
  • 使い古しの糸になったことを感知?
  • 糸を弾く振動の違いで未完の網の領域ではないことを感知?




♀がせっせと網を張り替えている間、♂らしき二匹がいかにも居候らしく網でじっとしていました。






撮影終了後に失礼して同一個体♀を一時捕獲しました。
この時期にしてはそれほど肥えた♀ではないものの、体長19mmで腹面に外雌器を認めたので成体だと思います。
(亜成体だったりして…?)


捕獲時に容器の蓋に挟んでしまい歩脚欠損


『カラー自然シリーズ60:ジョロウグモ』 p24より引用。
(ジョロウグモ♀)亜成体の生殖口は、膜で保護されています。成体になると保護膜がとれ、2つのくぼみのようなものができます。この生殖口の奥には精子を保存する受精嚢という袋があり、産卵のときに卵と精子を受精させます。






2011/09/27

網の張り替えで足場糸を張るジョロウグモ♀



2011年9月中旬・早朝・気温22℃

水門の下でジョロウグモNephila clavata)が何匹も大きな網を構えています。
そのうちの♀一匹が朝のお勤めで網の左半分を張り替えていました。
辺りはクズが生い茂っています。
破れたり粘着性の無くなった古い網は既に取り壊され、残った縦糸にジグザグの足場糸を張っているところでした。
クモは腹面を向けていますが、右側の網は取り壊されずに残っています。


ジョロウグモは螺旋状にグルグル回るのではなく、上を向いたまま左右に(振子状に)往復しつつ下へ下へ(外側へ)と張り進みます。

新旧の網の境界で粘らない足場糸を折り返します。
縦糸に付けられていく足場糸は横一直線ではなくジグザグになるのがジョロウグモの特徴です。


張り方を観察していると、足場糸の間隔は体長と比例する(成長とともに増大する)だろうと予測が付きます。
まさに身の丈に合ったweb管理。



時折それまでの作業を中断して縦糸を伝い降りる行動が目を引きました。
縦糸の補強・追加だろうか。
新しい縦糸を枠糸に固定して元の位置に戻り、足場糸を張る作業を再開します。
後に粘着性の横糸を張り始めてからは決して縦糸補強を行いませんでした。
ジョロウグモ特有の行動で縦糸を張る際に糸を分割する※と本で読みましたが、これがそうなのかいまいち良く分かりませんでした(関係ないかも)
※『クモの巣と網の不思議』 p154より
職人の丹念な仕事ぶりに魅了され、また長々と動画に撮ってしまいました。

下限の枠糸に達して足場糸を張り終えると、休むことなく粘着性の横糸を張り始めました。
(つづく→次は横糸張り






2011/09/26

垂直円網に横糸を張るアカオニグモ♀(蜘蛛)



お忙しい方は動画の冒頭を飛ばして途中から(5:57〜)ご覧下さい。


2011年9月中旬・早朝・気温22℃

水辺に近いクズの茂みで造網中のクモを発見。
こちらからは腹面しか見えないものの、丸々と太った♀のアカオニグモAraneus pinguisだと思います。
昨年も10月中旬にほぼ同じ場所で本種を見ています。
関連記事はこちら→「アカオニグモ♀
見つけたときはもう垂直円網に横糸を張り巡らしている最後の段階で、網を一から作っているのか張り替え作業(メンテナンス)なのか不明です※。
※甑(こしき)の部分をよく見れば区別できるのかもしれません。
予め螺旋状に粗く張っておいた足場糸(非粘着性)を切りながら糸疣から出した横糸(粘着性)を縦糸(非粘着性)に固定していきます。
(…はずですが、なかなか網にうまくピントが合わず足場糸まで映っていません。)

近くの線路で列車が通過すると、クモは警戒して造網作業を一時中断しました。
これは先日観察したドヨウオニグモでも同じでしたので、造網性クモは振動と騒音に敏感なのでしょう。



円網の外側から中央に向かって螺旋状にグルグル回りながら一筆書きで横糸を張っていくのが一般的なコガネグモ科のセオリーのはずです(私の予備知識では)。
ところが観察していると、この個体は回る向きを頻繁に変えることに気づきました。
一方向の螺旋運動ではなく振り子のような動きで横糸を折り返して行きます。
この動きはジョロウグモ(ジョロウグモ科)が横糸を張る動きと似ています。
関連記事と映像はこちら→「ジョロウグモ♀の造網:横糸張り
ぐるりと一周する部分もあり、何か規則性があるのか気紛れなのかよく分かりません※。
これは意外な発見か!と興奮して帰りました。
しかしクモの本を読み返してみると、実は結構よくあることらしく「なーんだ!」と拍子抜け。
「右に回転していたクモはあるところまで来ると、今度は左回りに逆回転して横糸を張っていきます。種類によって異なるでしょうが、横糸を張り終えるまでに1〜2回は回転の向きを変化するものが普通のようです。」 
『クモの巣と網の不思議:多様な網とクモの面白い生活』p150より引用







※ この問題に関して「クモ蟲画像掲示板」にて次のようなコメントを頂きました。
種や個体によって造網場所が異なり、スパイラルでないことは特に珍しいわけではありません。同じ個体でも開けた場所で何らかの物理的障害・外部干渉を受けない造網過程であれば完全なスパイラルとなる可能性が高い・・・一般の人はスパイラルな網を見る確率が高いのかもしれません。「規則性」については同種2個体がまったく同じ状況に置かれても折り返す個体とそうでない個体がいるかもしれません。これは各個体の経験やコンディション等に基づく判断であり「気紛れ」ということではないと思います。


網が完成したらクモを捕獲して同定用の写真を撮るつもりでした。
ところが動画撮影の合間にうっかりカメラでクモの網に触れてしまい、クモは造網作業を中断して隠れ家にすばやく退散してしまいました。
辺りの草葉の陰を探しても住居がどこにあるか見つけられませんでした。
しばらく待ってもクモは網に戻ってくれず、未採集・未採寸。
なにより造網の過程を最後まで見届けられず残念無念。
せっかく無風で絶好のコンディションだったのにー。
この日に限って三脚とマクロレンズを忘れるという痛恨のミス。


写真を拡大すると外雌器に垂体らしきものが見えるので、♀成体だと思います。


組写真の右下は網の中央部



2011/09/25

エンマコオロギ♂の求愛歌♪と♀の交尾拒否



2011年9月上旬・深夜

エンマコオロギ♂♀(Teleogryllus emma)ペアの飼育記録

♂は交尾直後こそ大人しいものの、すぐに情熱的な求愛歌を奏で始めます。
ところが♀は今回その気がないようで、しつこく迫られても知らぬ顔で、面倒臭そうに逃げ回ります。
♀が求愛を受け入れて♂にマウントしないとコオロギの交尾は始まらないので、主導権・選択権は♀にあります。
振られ続けても交尾拒否されてもめげずに頑張る♂の様子をご覧下さい。




実は♀の腹端近くの左側には前回の交尾で受け取った精包がぶら下がっています。
持ち歩いている間に汚れたのか、白色から褐色に変化しています。
精包には♀の交尾をしばらく抑制する成分が含まれているのだろうか。


※コオロギ♀が産卵するためには飼育容器に土を入れておく必要があります。撮影時は未だ入れてませんが、後日ちゃんと土を入れてやりました。

【追記】
ネット上で見つけた専門的な論文※を一読すると、どうやらエンマコオロギ♀による求愛行動拒否と求愛行動無視とを専門家は使い分けているようです。しかしその区別が記述されておらず、素人の私が少し観察しただけでは違いが未だよく分かりません。

※「人工再生音が生体へ及ぼす影響 : 2種の求愛歌BGMがエンマコオロギの求愛・交尾行動へ与える効果(2006)








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