2012/03/17

雪山をラッセルして登るタヌキ



2012年2月中旬

里山の雪深い山腹を横切る獣を発見。
急いでカメラを向けるとホンドタヌキNyctereutes viverrinus)でした。
左手から現れ、右斜め上にトラバースしつつ登って行きます。
雪に半ば埋もれたトレイルを辿っているようにも見えます。
通い慣れた獣道があるのかもしれません。

ラッセルを止めたタヌキがこちらを見下ろし警戒しています。
再び登り始めると、深い新雪の中をもがくように前進します。
斜面が急なせいか何度も小刻みに蛇行して、つづら折れで登ります。
ヒトの登山テクニックと同じで驚きました。
最近目撃したニホンザルの雪山登山では急斜面のラッセルでもひたすら直登したので、少しでも楽をするためジグザグに登る知恵があるのはヒトだけなのかと思ってました。


どうやら斜面に立つ大木(樹種不明)を目指しているようです。
また小休止してこちらを見下ろすタヌキ。
最後の一頑張りでラッセルすると、大木の根元に到着しました。
ここが塒(ねぐら)なのかと思いきや、またすぐに出てきました。
溜め糞をする場所なのかな?
雪の壁を登れずに諦めて、大木を右に巻くように登り続けます。
潅木の茂みに隠れて姿が見えなくなりました。
これから尾根に向かうのかな?


こんな厳冬期に活動するタヌキを見たのは初めてです。
逞しく生きる姿に感動しました。



※ それまで三脚を立て冬景色のインターバル撮影をしていたのでカメラの諸設定を変えており、急に現れたタヌキに焦って動画撮影の操作を色々とミスしてしまいました…。

(つづく→「雪山でタヌキの足跡を追跡してみる」)




【追記】
ブルーバックス『狐狸学入門:キツネとタヌキはなぜ人を化かす』p193より
寒冷地で積雪の多い地方では、冬に土穴や樹洞に入って冬ごもりする。この習性をもつものは、イヌ科動物の中でタヌキだけである。(中略)穴の中には草や苔が敷き詰められ、居心地はいいらしい。冬ごもりしない地方のものでも、冬季には寒いと活動が鈍る。彼らの冬ごもりは、ヤマネのような真の冬眠ではなくて、クマやアナグマのような、体温の低下が二、三度といった、不活動状態といったほうがよい。眠りは浅く、シベリアなどでも天気の良い日は外へ出てくることもある。とくに秋に脂肪を蓄えられなかったようなときは、冬でも食物探しを行い、吹雪の日や厳冬期にのみ、巣穴に閉じこもるのである。
同書p232より
発情期は一~三月である。だからのんびり冬ごもりなんかしていられない。
wikipediaによると、
エゾタヌキは冬籠りをするが(ホンドタヌキ)本亜種は冬籠りはせず、真冬でも活動する。 
『日本動物大百科1:哺乳類I』p118によれば、
積雪の多い寒冷地では、冬に岩穴などの中で冬ごもりをする。真の冬眠ではなく、眠りは浅くて暖かい日には外出する。

2012/03/16

コカマキリの危険な情事(性的共食い未遂→マウント→交尾器結合)


コカマキリの飼育記録
2011年10月中旬・室温24℃

しばらく飼育してきたコカマキリStatilia maculata )♀bに婿入りさせようと、新たに採集してきた♂2匹と順番にペアリングしてみました。
初めに同居させた♂bとは相性が悪かったのか、マウントするものの交尾器の結合まで至りませんでした。
この♂bはぐったりしていて、ひどく体力の弱った個体のようでした。

諦めて次の♂c(左の触角が途中で折れ曲がった個体)と入れ替えました。
初めは飼育容器からとにかく逃げ出そうと暴れる♂c。
ガラス板を被せてしばらくするとようやく落ち着いてくれました。
♂cが身繕いする間、♀bは油断なく見張っていました。

煩雑なので以下は個体の記号を略して♀、♂と表記します。
(映像はここから。)



止り木で♂が動いた瞬間、♀が反射的に鎌で襲いかかりました。
(攻撃の決定的瞬間は撮り損ねてしまいました。)
驚いた♂は威嚇誇示。
翅を目一杯広げ、腹部を膨らませつつ反らせシューシュー♪と威嚇音を発しています。
下にいる♀と互いに鎌が絡まっています。
軽量の♂は下に引きずり下ろされた格好。
♀の射程距離ですけど、♀の側に追撃、捕食の意志は無いようです。
しばらくすると♀が呆然と♂を離しました。
この♀は産卵間近でここ数日は食欲が無いのです。
性的共食い」はカマキリの交尾行動の代名詞のように言われていますが、未遂に終わりました。
隅に追い詰められた♂は身がすくんだのか、まるで擬死したみたいに全く動かず♀と対峙。
どこかに致命傷を負ったようには見えないので、おそらくショック状態(動物催眠状態?)なのでしょう。
襲われるまで♀の存在に気づかなかったのかもしれません。
しばらくして♂がようやく復活し、身繕いを始めました。
果たしてこのトラウマを乗り越えてもう一度♀に挑むでしょうか?

止り木の端に妙な姿勢でぶら下がっている♀に♂がアプローチ。
♀は油断無く睨みつけています。
緊張感のある対峙が続きます。
今度の♂は慎重です。
ここで♂は鎌(前脚)を揃えて謎の「前ならえ運動」を行いました。
これは採集前に単独の♂が野外でやった前ならえ運動と同じです。
♀との距離を測るための行動でしょうか。
それとも「同種の♂だよ」と求愛ディスプレーを行い、♀の攻撃性を宥めようとしているのだろうか。
この間、♀は静止したままです。

♀は壁を登ろうともがいています。
それを止り木から見下ろす♂。
遂に♂が意を決して、♀に飛びつきざまに鎌で♀の胴体を捕獲しました。
♀は特に驚いた素振りは示さず、咄嗟に反撃することもありませんでした。

♀が妙な体勢でいるため(止り木から中途半端にぶら下がっている)、♂がうまく背中に乗り移れないでいます。
♂が完全に止り木を離れたものの、♀の背に前後逆に乗ってしまいました。
♂を背負ったまま遂に♀が床へ落下すると、その隙に♂がマウントの向きを変えました。
これ以降、♀は落ち着いて交尾できる場所を探してしばらく徘徊を続けます。

マクロレンズの装着にもたついている間に交尾器が結合する肝心の瞬間は撮り損ねてしまいました。
♀は大人しく静止しており、ときたま暇そうに身繕いします。
この♂は経験豊富(床上手)なのか♀との相性が良いのか、一発でがっちり結合に成功。
長時間の交尾中、鎌で♀の背にしがみついたままの♂がときどき身震いするのが気になりました。
移精に伴う運動なのだろうか。
それとも♀の徘徊を抑制したり攻撃性を宥めたりする合図なのかな?と想像を逞しくしました。

(映像はここまで。)

翌朝も同じ姿勢で交尾を続けていました。
やがて♂は♀に食われることなく無事に離れました。
隔離した♀に水と生き餌を与えると、その日の晩に産卵していました。
本個体は前回も交尾直後に産卵しています。



2012/03/15

ニホンザル群れのラッセル跡と糞@雪山



2012年2月中旬

野生ニホンザルを追ってスノーシューで雪山を進みます。
一部の猿が直登した急斜面のルートは下を覗くのも足がすくみました。
先刻群れが林道を横切った地点に到着すると、猿がラッセルした跡が雪面に残っていました。
また、杉の根元周辺に新鮮な糞が多数残されていました。
(我ながら静物の撮影がどうも未だ下手糞…。状況説明の記録映像はカメラをもっとゆっくり動かさないと画面酔いしますね...。)

この後、猿の群れをしつこく追って道なき雪山を直登するべきか迷いました。
土地勘と体力にあまり自信が無かったので、無理せず安全で通い慣れた林道を進むことにしました。
迂回してニホンザルとの再会を期待したのですが、行き先が違ったようで果たせませんでした。
それでもこの日の山行は大成功で、かなり自信が付きました。



2012/03/14

樹上で採食するヒヨドリ【野鳥】



2012年1月下旬

川べりの雑木林でヒヨドリHypsipetes amaurotisの群れが騒々しく鳴いています。
樹上で何かを啄んでいる個体を撮影しました(樹種不明)。
被写体の手前に生い茂った枝が邪魔というカメラのAFが苦手とする状況で、なかなかピントが合いません。
ようやくピントが合ったらすぐに飛び立ってしまいました。

ヒヨドリが口にしたのはクズの豆果かと現場では思ったのですが、映像を見直すとただの枯葉のような気もしてきました。



2012/03/13

雪中行軍中にマウンティングするニホンザル



2012年2月中旬・気温10℃

杉を植林した斜面の林縁を野生ニホンザルMacaca fuscata fuscata)の群れが次々に登って来ます。
群れに近づこうと撮影の合間に私が少しずつ前進したので、警戒した猿たちが雪の絶壁直登ルートから林縁ルートに変更したのかもしれません。
沢の奥の広場を経由して小群が遊動を始めました。
子猿が高い枝から身軽に飛び降りました(@0:12)。
すごい跳躍力ですね!
白毛の猿もいます。
周りは銀世界ですけど、白猿も完全な保護色とは言い難いようです。
斜面の途中を切り開いて作られた林道をサルが続々と横切ります。
遊動中に一頭が別の個体に背後から近づきマウントしました(@2:00、 3:13)。
遠くて性別まで見分けられませんが、この時期はニホンザルの交尾期ではないので、群れ内での優位行動と思われます。
wikipediaによると、「繁殖形態は胎生。主に秋季から冬季にかけて交尾を行い、妊娠期間は161-186日。春季から夏季に1回に1頭(まれに2頭)の幼獣を2-3年に1回産む。」

高崎山のニホンザルは11月から3月までが交尾期です。 
(『サルの子どもは立派に育つ:生態観察30年の記録』p36より) 



ときどき左手の谷から猿がギャーギャー騒ぐ鳴き声が聞こえてきます。
一ヶ月前に平地の雪原(田んぼ)や車道を遊動していたニホンザルの群れとは違い、傾斜のきつい山中では子猿も母猿におんぶせず自力で歩いて付いくようです。

群れの中には首輪を付けた猿が少なくとも2頭、映像に写っていたような気がしました(@5:30、 7:48)。
遠いので私の眼の錯覚かもしれません。


(つづく→「ニホンザル群れのラッセル跡と糞@雪山」)



2012/03/12

音痴になったエンマコオロギ♂の鳴き声を解析してみる

エンマコオロギの飼育記録(♂2♀1)

エンマコオロギTeleogryllus emma)♂♀一匹ずつのペアでしばらく飼ってみてから、新たに採集してきた♂1匹を追加してみました。
♂2匹には明らかな体長差があり、新顔の♂は小柄です。
投入前に胸背に油性ペンで白点を描き、はっきり個体識別できるようにしました。
♀を巡る♂同士の争いなど興味深い行動が見られました。
体格通りに順位がα♂(無印)>β♂(白)と決まりました。
後日、映像付きのブログ記事を書く予定です。


飼育記録の時系列が前後しますが、更に飼い続けると…。
(映像はここから。)



2011年10月中旬・室温20℃

この日の晩もβ♂(白)が頻りに鳴いています。
しかし、どうも鳴き声が変です。
エンマコオロギのこんな掠れた鳴き声は聞いたことがありません。
あんなに美声で夜毎鳴いていたのに、濁ったような嗄れ声になり、酒焼けしたようなハスキーボイス。
発音器である前翅の翅脈が劣化(老化)して擦り切れてきたのだろうか。
(走査型電子顕微鏡で翅の劣化を調べることが出来たら楽しそうです。)
ずっと優位だったα♂(無印)も衰えたのか、いつの間にか鳴かなく(鳴けなく?)なりました。
それと共に順位が逆転したようで、α♂(無印)はβ♂(白)をあまり攻撃しなくなりました。
以前α♂(無印)が元気な時は、β♂(白)が♀に近づくことも許さず少しでも求愛歌を鳴くとすごい剣幕で激しい攻撃を仕掛けてきたのに…。
それとも音痴な掠れ声はエンマコオロギの耳には同種の鳴き声と認識されないのだろうか?
産卵管を持つ♀の横で♂(白)が鳴き続けても、♀は無視してカボチャを食べています。
もはや求愛目的ではなく、惰性で鳴いているのかな?



近くに居るα♂(無印)は不干渉…と思ったら終盤、背後からβ♂(白)に伸し掛かって邪魔をしました(@2:18)。
優位行動の名残りかもしれません。
それでもβ♂(白)はめげずに少し移動しただけで鳴き続けます。



※ 撮影のため、飼育容器内のシェルター(隠れ家)を一時的に全て取り除いてあります。
ちなみに3匹の寿命は、早く死んだ順に♂(白)、♀、♂(無印)でした。



試しにこの掠れた鳴き声を声紋分析してみました(スペクトログラム)。
読図を未だあまりよく分かってないのですが、確かに素人目にもノイズの成分が多いようです。


比較対照のため、正常な鳴き声のスペクトログラムを描いてみると下図のようになります。
これは同居させている別個体α♂(無印)が単独で鳴いているときの声です。
(8月下旬・室温24℃。映像はこちら。)
耳で聞くと窓の外で鳴く虫の音が混じっているものの、声紋パターンは比較的明瞭です。


残念ながら同一個体β♂(白)の正常な鳴き声は記録していませんでした。
(鳴き始めるとすぐにα♂が邪魔するため。)
これから本格的に研究するには録音条件や機材などを整備しないといけませんね。


【追記】
大谷剛『昆虫―大きくなれない擬態者たち』という本を読んでいたら、第7章「存在をアピールする鳴く虫たち」にとても興味深いことが書いてありました。
集合に役立つ鳴き方を「呼び鳴き」とか「独り鳴き」と呼んでいる。その後、♂が自分のごく近くにいる♀の存在に気が付けば、多くの鳴く虫は鳴く調子を変えて交尾を誘う。これを「誘い鳴き」とか「くどき鳴き」とか呼んでいる。
(中略)大きくてどこにでもいる声のいいエンマコオロギでも、♀がそばにくると、急にかすれ声になり、調子も変わる。(p116より引用)
p115の図7.3には、エンマコオロギの呼び鳴き(ヒリヒリヒリ、リーリーリー、ヒリヒリヒリ、リーリーリー♪)と誘い鳴き(ヒリヒリ、リーーー、ヒリヒリ、リーーー♪)のオッシログラフが掲載されていました。
書籍では実際の音声を聞けないのが残念です。

私はてっきり発音器の翅が劣化したことで掠れ声になったのかと思ったのですが、そうではないのかもしれません。
改めて真剣に検討し直す必要がありそうです。





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