2024年4月下旬・午後14:55・くもり
田園地帯の舗装された農道で交尾を始めたばかりのニワハンミョウ♂♀(Cicindela japana)を見つけました。
♀に背後からマウントした♂は、♀の胸部と腹部の間を大顎で咥えてしっかり掴まえ、腹端から茶色くて細長い交尾器(陰茎)を伸ばして♀の交尾嚢に挿入しようとしています。
しかし、♀は激しく暴れて♂を振り落とそうとしています。
この♀個体は、明らかに交尾拒否の行動をしています。
前回の記事で観察した、♀が交尾を終了しようと暴れる行動(post-copulation struggle)よりも激しくて、横に転げ回る動き(ローリング)もしました。
♂はじゃじゃ馬に振り落とされないように必死にしがみつき、まるで激しいロデオを見ているようです。
♀も茶色の腹端を伸ばしながら下に屈曲しているのは、♂の交尾器が届かないようにしているのでしょう。
普段は鞘翅の下に隠れている腹背が♀♂ともにメタリック・グリーンに美しく輝いて見えました。
うまく交尾できた♀♂ペアの場合、♀は腹端を伸ばしていませんでした。
激しく暴れている♀♂ペアに、左から別個体が登場しました。
スロー再生すると(@2:49〜)あぶれ♂のようですが、♀の争奪戦にはならず、すぐに離れて行きました。
獲物と誤認して近寄ってきたのかもしれません。
♀に激しく抵抗された♂は結局交尾を諦めて、♀から離れて行きました。
正面から見ると、♂の上唇および大顎は白いので容易に見分けられます。
まるでホワイトニングした歯のように見えます。
一方、♀は♂よりも体格が少し大きく、上唇と大顎が少し黄ばんで見えます。
ハンミョウは肉食性ですが、怒った♀による性的共食いは起こりませんでした。
♂から解放された♀が路上をうろつく様子をしばらく撮り続けていたのですが、しばらくするとさっきの♂(それとも別個体?)が別の♀個体の背中に挑みかかっていました。
交尾する気満々の♂は腹端の交尾器を伸ばしていますが、この♀も激しく抵抗しています。
今回の♀は、獲物(おそらくアリの一種)を咀嚼中でした。
このペアも体格に明確な性差ありました(♀>♂)。
交尾拒否されて一旦振りほどかれた♂が再び♀の斜め背後から近づこうとしたら、嫌がる♀は走って逃げました。
ニワハンミョウの♀をひたすら動画に撮り続ければ、♂が駆け寄って交尾を挑むはずだ(効率よく撮れる)と気づきました。
そこで、路上に立ち止まって身繕いしている個体を背側から撮り始めました。(@0:52〜)
上から背側を見下ろすアングルでは顔色が見えにくくて撮影中は気づかなかったのですが、この個体は♂でした。
さて、この♂はこれから獲物を狩りに行くのか、それとも♀を探すのでしょうか?
ところが、背後から別個体(驚いたことに♀でした)がすばやく駆け寄りました。
マウントしたかと思いきや、すぐに一旦離れました。
(背中を通り過ぎただけ)
ところが直後に攻守交代で♂が♀に素早く駆け寄り、背後からマウントしました。
マウントされた♀が腹端を伸ばしてすのが交尾拒否の意思表示のようです。
今回は♀が♂を振り落とそうと激しく暴れることなく、♂はあっさり諦めて離れて行きました。
♂に解放された♀を撮り続けます。
この♀個体の背中の中央付近に一対の黒い丸の斑紋があって(●●)、個体識別ができそうです。
さっきの♂にはなかった目立つ模様です。
♀は立ち止まって触角を前脚で拭い、化粧しました。
同側の前脚と中脚を互いに擦り合わせる身繕いもしています。
♀は再び路上徘徊。
ところが私は途中で目移りしてしまい、少し離れた位置に佇んでいた♂に被写体を切り替えてしまいました。(@2:04〜)
どんどん遠ざかる個体よりも、近くに来た個体をなるべく撮りたい、という理由もあります。
この♂個体は大顎を大きく開閉し、クチャクチャと噛みほぐしていた獲物(クロアリ?)の残渣を吐き出して捨ててから、農道をうろつき始めました。
ここまでのニワハンミョウ♀♂の行動を、1/5倍速のスローモーションでリプレイするので、じっくりご覧ください。(@2:16〜)
【考察】
ニワハンミョウの♂が出会った♀と交尾を始める瞬間をいつも見逃してしまいます。
どうやら、ニワハンミョウには交尾前の儀式化された求愛行動というのはないようです。
♀の背後から♂が隙を見て挑みかかり、いきなり交尾を試みるのでしょう。
しかし交尾成否の決定権は♀にあり、♀が交尾拒否すれば♂はやがて諦めて離してくれます。
♀が♂との交尾を受け入れる瞬間の撮影は、今後の課題です。
ニワハンミョウの♀は、羽化後に一度交尾をするだけで、その後は♂に迫られてもひたすら拒否するのでしょうか?
交尾後の♀は獲物(アリ)の捕食に努め、産卵に備えて栄養を蓄えるのでしょう。
獲物を探し歩いている既交尾♀にとって、次々に交尾を挑んでくる♂の存在は煩わしいだけでしょう(セクハラ)。
ここで問題になるのは、ニワハンミョウ♀の交尾回数です。
Perplexity AIに質問してみると、
ニワハンミョウ(Cicindela japana)の交尾回数に関する直接的なデータは限られていますが、ハンミョウ類全般の生態から推察すると、♀は複数回交尾する可能性が高いと考えられます。(後略)
日本のナミハンミョウでは、交尾後に再び同じ個体と交尾する事例が報告されています。 (参考ブログ記事 by 年金暮し団塊世代さん)
また、Perplexityが教えてくれた次の論文(Pseudoxycheila属の同所性ハンミョウ2種の交尾行動について)も面白そうなので、これからPDFをダウンロードして読んでみます。
TIGREROS, Natasha; KATTAN, Gustavo H. Mating behavior in two sympatric species of Andean tiger beetles (Cicindelidae). Bol Mus Entomol Univ Valle, 2008, 9: 22-28.
もしも♀が卵の遺伝的多様性を確保するために複数♂と何度も交尾するとしたら、今回見られたような交尾拒否行動は、交尾相手の♂を♀が厳しく選り好みしていることを示唆しています。
その選別基準を知りたいものです。
少し考えてみると、♂の体格でふるいにかけることは可能そうです。
まず、大顎で♀の体をしっかり保定できない♂は論外でしょう。
体格があまりにもミスマッチ(♀>>♂)のカップルは、マウントした♂の交尾器が♀の交尾嚢に届きません。
♀はちょっと交尾拒否してみて(precopulation struggle)、なるべく体格の大きな♂とだけ交尾するのかもしれません。
交尾してもらえるように、小柄な♂が求愛給餌行動を進化させたら面白いのになー。
♀を巡る♂同士の争いは、一度も見られませんでした。
一度だけ♂の背後から♀が駆け寄って一瞬マウントした(ように見えた)のが興味深く思いました。
意中の♂を見つけて♀の方からモーションをかけた(ナンパした)のなら面白いのですが、その気になった♂が交尾を挑んでも♀は断固拒否して別れました。
♀の尻を追いかけ回す探雌モードの♂と違って、狩りモードの♀は、動くものは全て獲物に見えてしまう(誤認)のかもしれません。
今後は野外で片っ端から一時捕獲したニワハンミョウを個体標識(マーキング)した上で、配偶行動を観察すれば、もっと面白くなりそうです。
しかし飼育下で♀♂ペアを交尾させる方が楽かもしれません。