2015/11/07

隠れ家で蛾を捕食しつつ網を弾くトリノフンダマシ♀【蜘蛛:暗視映像】



2015年8月下旬・深夜00:10〜00:45

トリノフンダマシ♀の定点観察#5


夜通しの撮影で日付が変わりました。
トリノフンダマシ♀(Cyrtarachne bufo)が隠れ家で食べ続けている蛾a(種名不明)は体外消化ですっかり小さくなりました。

いつの間にか別の蛾cが近くにぶら下がっていました。
網にかかった瞬間を見逃してしまったようです。
(梱包ラッピングされていないので、私が知らぬ間にクモが隠れ家まで運んできたのではないはず。)
食事中のクモはときどき歩脚をしゃくって(糸を弾いて)網の状態(張力)を調べています。
(クモが繰り返し糸をしゃくる行動を特に抜粋して動画を編集しましたが、実際は退屈なシーンが続きます。)
遠くの水平円網にかかった獲物の有無を探っているのでしょう。
その度に蛾cが上下に揺れています。
蛾cはクモに気づかれないように擬死(フリーズ)しているようです。
それに対抗してクモも、網に獲物が未だかかっていることを確認しているのだろうと思いました。
網にかかったのがただのゴミなのか、それとも本当に獲物なのか、見分けようとしているのでしょう。
あるいは、遠くに居る別のクモと何か交信(コミュニケーション)していたら面白いです。

例えば網に侵入しようとしている♂を♀が追い払おうとしているのかもしれませんが、謎の侵入者とやらを私は見ていません。
クモが弾いている糸は円網の枠糸なのか、それとも信号糸と呼んで良いのか、横から見ただけでは分かりませんでした。
ちなみに、夜行性の蛾の複眼が光って見えるのは、蛾にもタペータム(輝板)があるのですかね?

しばらくすると、更に別の蛾dがいつの間にか網の右側にかかっていることに気づきました。(@3:00)
暗視動画では遠近感が分かりにくいのですが、蛾dには赤外線投光機の光も届かず、ピンぼけにしか写りません。
続々と蛾が網にかかり、大漁です。
今回、私は一度も撮影のために虫をクモの網に投げつけたり生き餌を給餌したりしていません。
獲物は全て飛来した蛾が自然に網にかかったものです。
トリノフンダマシが蛾の性フェロモンを放出して網に誘引しているのではないか(クモの化学擬態)と一時期疑われていたのも納得です。
しかし現在のクモ学の見解では否定されています。(CiNiiへのリンク、全文PDF

宮下直, 坂巻祥孝, and 新海明. "トリノフンダマシはガを誘引しない. Evidence against moth attraction by Cyrtarachne, a genus related to bolas spiders" Acta arachnologica: organ of the Arachnological Society of Eastern Asia 50.1 (2001): 1-4.
動画の合間に、網にかかった蛾cの写真を撮りました。
後で気づいたのですが、レンズフードを装着したままだとストロボ光が蹴られてしまい、下側に光が回りません。
蛾はなんとなく、ハマキガの仲間でしょうか?
(単なる当てずっぽうで、真面目に検討した訳ではありません。)
蛾の性別も不明です。

つづく→#6:食べ残しを捨て次の獲物を捕食するトリノフンダマシ♀【蜘蛛:暗視映像】



網戸で鳴く♪アブラゼミ♂2015



2015年8月中旬

網戸の外でアブラゼミ♂(Graptopsaltria nigrofuscata)が喧しく鳴いています。
カーテンを捲ってビデオカメラをそっと近づけたらセミは警戒して横歩きし、桟の陰に隠れようとしました。
網戸を少し登ると安心したように再び鳴き始めました。
(もしかするとセミには網戸の裏側なんか見えてなくて、鳴き声の一小節ごとに位置を変える習性があるのかもしれません。)
当然ながら逆光でしかも網戸越しなので、発音器の腹弁の動きがよく見えません。(ビデオカメラのライトを点灯したらセミは逃げてしまうかな?)
鳴き終えて飛び立つまで動画に記録しました。
気温を測り忘れました。
飛び立つ瞬間に小便を排泄していない…と思います。
セミの排尿シーンをハイスピード動画に撮ってみたいと常々思っているのですが、木で吸汁している個体を狙うべきなのでしょう。



アブラゼミ♂の鳴き声を声紋解析してみる



オリジナルのMOVファイルから音声をWAVファイルにデコードしてからスペクトログラムを描いてみました。


まず全体の波形を見ると、最大音量で鳴き続けるサビのパートは毎回約30秒間と決まっているようです。
セミも疲れてしまうのでしょうか?

音量を抑えた間奏もほぼ同じ時間(少し長い)でした。
次に最後のサビの前後だけ切り出したスペクトログラムを描いてみます。



今回使用したビデオカメラは内蔵マイクで録音した音声を圧縮・劣化せずに保存しているという特長があります。
3年前に別のカメラで調べた声紋では非可聴域の高音部がカットされていたので、この点でささやかながら進歩しました。

2015/11/06

網にかかった蛾を梱包し隠れ家に運ぶトリノフンダマシ♀【蜘蛛:暗視映像】



2015年8月下旬・深夜23:44〜23:59

トリノフンダマシ♀の定点観察#4


トリノフンダマシ♀(Cyrtarachne bufo)の水平円網が完成してほどなくすると、獲物が網にかかりました。
クモは甑から駆けつけると、片側が切れた粘着糸に吊り下げられた蛾aを手元に引き上げます。
噛まれて毒液を注入されたのか、蛾は暴れません。
クモが梱包ラッピングを始めたのに、ピントが合わなくなりもどかしい…。
本種はコガネグモ科なのに、捕帯があまり発達していないらしい。(粘着糸に投資した結果)
手際よく梱包した獲物を糸で吊り下げたまま甑を経由して隠れ家に戻り始めました。
綱渡りの途中で、別の蛾bが網にかかる決定的瞬間がたまたま撮れました。(@2:01)

蛾の自衛戦略として、剥がれやすい鱗粉を身に纏うことで通常のクモの網にかかっても逃れる確率を高めています。
しかしトリノフンダマシの水平円網にかかった蛾は激しく暴れても強力な粘着糸から逃れることができません。
トリノフンダマシの水平円網は飛来する夜蛾を捕らえる罠としておそろしく効率が良いようです。(※追記参照)
暗視カメラによる撮影ですから、光で蛾が誘引された可能性は低いです。(ただし、ビデオカメラの液晶画面だけ明るい。)
クモは新しい獲物に急行せず無視し、ひたすら隠れ家を目指します。
円網の左端にある隠れ家(ヤマグワの葉先)に到着しました。(@2:20)
獲物を吊り下げた糸を桑の葉裏の不規則網にしっかり固定してから、その糸を手繰り寄せました。
早速、獲物に噛み付いて体外消化を開始。



右にパンすると、先ほど網にかかった蛾bがぶら下がっています。
恐らく擬死(フリーズ)しているのでしょう。
下手に暴れると振動でクモに気取られてしまいます。
動画撮影の合間にストロボを焚いて写真撮影したら、網にかかっていた蛾bが突如激しく暴れだし、自力で粘着糸を振り切り脱出してしまいました。
隠れ家のクモは異変を感知したはずですが、食餌に夢中で駆けつけたりしませんでした。




最後は白色LEDを点灯して撮影。
2つの卵嚢が吊り下げられた隠れ家でクモはぶら下がった体勢で獲物から吸汁しています。
獲物をくるくると回しながら噛む場所を微妙に変えています。
ラッピングされた獲物は体外消化されて、もはや原型を留めていません。
蛾の種類は分からず仕舞いでした。

トリノフンダマシ♀が甑に占座していたのは水平円網が完成してから最初の獲物がかかるまでの短い時間だけでした。

円網の中心(こしき)で食事を摂らず、隠れ家に持ち帰って捕食するのは卵嚢ガードの一環でしょうか?
未交接の処女♀や産卵前の♀は甑に留まって捕食するのかな?
昼行性の造網性クモが天敵を恐れて隠れ家で食事をするのは分かるのですが、夜行性のトリノフンダマシが恐れる天敵は何でしょう?(コウモリ?)

水平円網の写真を撮ると、獲物がかかったせいで網が一部破損していました。


網を横から
網を下から見上げる

徹夜の観察中は藪蚊の襲来に悩まされました。
虫除けスプレーを噴霧する際は、クモや獲物(蛾)の行動に悪影響を及ぼすことを恐れて、トリノフンダマシの網から風下に離れてから使用しました。(杞憂かもしれません)

つづく→#5:隠れ家で蛾を捕食しながら網を弾くトリノフンダマシ♀【蜘蛛:暗視映像】



※【追記】
『スパイダー・ウォーズ』p69によると、
このクモの主な餌はガの仲間ですが、ガの得意の逃避術、すなわち鱗粉を残しての逃亡は、トリノフンダマシには通用しません。それほどヨコ糸の粘着性がつよく、外れたヨコ糸が身体に絡み付くからです。クモはその威力に自信を持っており、ゆっくりと歩み寄ってヨコ糸を引き上げ、ガを捕らえてしまいます。

【追記2】
『クモの科学最前線』p52によれば、
蛾は一般にクモが最も捕えにくい昆虫である。クモでは蛾への明確な特殊化が、コガネグモ科で2回起きているだけなのは、そのためであろう。トリノフンダマシ亜科は、全てが蛾の専食者である。

石灯籠内に営巣するムモンホソアシナガバチ



2015年7月下旬

石灯籠内で営巣するムモンホソアシナガバチの定点観測記録#1


神社の境内にある石灯籠に蜂が出入りしているので不審に思い中を覗くと、ムモンホソアシナガバチParapolybia indica)がひっそりと営巣していました。
内部の壁面に巣柄が横向きに取り付けられています。
地上からの高さは124cm。
石灯籠の内部なら目立たないので、駆除されずに済みそうです。
在巣の蜂は、創設女王およびワーカー♀の計2匹。
羽化直後のアシナガバチは複眼が黒いのですぐに見分けられます。

▼関連記事
ムモンホソアシナガバチの巣で個体標識してみる


昼間でも石灯籠の中は暗いので、初めは赤外線の暗視カメラで撮影しました。
1匹は身繕いしています。
もう1匹は巣盤上部を歩き回った後、飛んで外出しました。
この2匹は 複眼の色が違います(薄い青と薄い黄色)。
羽化後の日齢で目の色が変わるのだと理解しているのですけど、体長はなぜか青目>黄目。
途中からビデオカメラの白色LEDを点灯しても、静かに観察している分には襲ってくることはありませんでした。
巣の色は薄い褐色でした。
別アングルの小窓から撮っていると、別個体が帰巣しました。
育房を点検している蜂の頭楯をなんとか確認できました。
これでようやくムモンホソアシナガバチと確定。
出巣してもすぐに戻って来るのは、私のことを警戒しているのかもしれません。

巣盤天井部と石灯籠壁面の隙間に1匹が身を潜めています。

つづく→#2:石灯籠内の巣で警戒するムモンホソアシナガバチ♀


2015/11/05

歩き去るネコ



2015年8月中旬

たまにはネコFelis silvestris catus)も撮ってみます。
太り気味で、近所で飼われている猫なのでしょう。
田舎道の脇の原っぱをノシノシ歩く様は貫禄がありますけど、野性味が乏しいなー。



早朝に鳴く♪ハシブトガラス(野鳥)の小群



2015年8月下旬・早朝(5:03〜5:51)

朝帰りの途中2箇所で撮ったハシブトガラスCorvus macrorhynchos)をまとめてみました。
ちなみにこの日の日の出時刻は5:01。
夜のねぐらはどこにあるのか不明ですが、早朝から郊外の電柱や電線に集まって鳴き交わしていました。
ハシブトガラスはカーカー♪と澄んだ声で鳴きます。
単独で居た個体は下でビデオカメラを構えている私を警戒しているのか、電線から電線へ落ち着きなく飛び移っていました。


2015/11/04

深夜に水平円網を張るトリノフンダマシ♀【蜘蛛:暗視映像】



2015年8月下旬

トリノフンダマシ♀の定点観察#3


午後22:56に気づいたら、隠れ家(ヤマグワ灌木の葉先)にクモの姿が無くなっていました。
遂にトリノフンダマシ♀(Cyrtarachne bufo)が水平円網を張り始めたのです。
赤外線の暗視カメラで造網過程を記録しました。

理想を言えば、三脚を立てて固定カメラで微速度撮影したいところです。
ところが、手持ちの機材ではどうしてもそのようなアングルを確保できない場所でした。
画面の奥をコンクリート三面張りの細い農業用水路(幅130cm)が左から右へ流れています。

両岸から雑草や灌木が繁茂して水面をほぼ覆い隠しています。
撮影地点から画面奥の用水路に向かって短い急斜面になって下っているため、土手の草むらに下手に踏み込めないのです。
水平円網の枠糸をクモがどこに固定しているか見えないので、私が下手に動いたり三脚を立てたりするとクモの糸を切って台無しにしてしまいそうです。

超巨大な(背の高い)三脚を立ててカメラを吊り下げれば良いかもしれません。
しかし、上から見下ろすと網やクモにピントを合わせるのが非常に困難です。(AF頼みの私のカメラでは無理!)
土手の草むらに予め黒布を敷いておけば、上から撮っても水平円網にピントを合わせやすくなるかもしれません。
あるいは逆に、水平円網の下に潜り込んで見上げるアングルも考えました。
それには地上すれすれにカメラを固定する背の低いコンパクトな三脚を急斜面に設置する必要があります。
また、暗視カメラの赤外線が届く範囲は限られています。
現場で試行錯誤した結果、水平円網に対して横から手持ちカメラで撮影しました。(深夜22:57〜23:43)
用水路脇の地表に置いた温度計で測った気温は23:07には18.2℃で、23:31には16.3℃まで下がりました。

トリノフンダマシの水平円網は非常に風変わりな作りになっているそうです。

  • 放射糸をかけると、足場糸を張らずに直接、粘着性のある横糸を張り始める。
  • 横糸は螺旋状の一筆書きで張るのではなく、同心円状に張る。
参考サイト(名著『クモの巣と網の不思議』の抜粋):トリノフンダマシの同心円状の円網


要点を予習していったものの、現場で初めて実際に観察すると、横からのアングルでは奥行きが分かり難く、今どの作業工程なのか把握できませんでした。

(どこからどこまでが放射糸を張っている工程なのか、いつから横糸を張り始めたのか、もし見分けられていたら長編動画を分割したいところです。)
動画撮影に拘らず、ライトで照らしながら観察に専念すれば造網過程を理解できたかもしれませんが、両立できないので難しいところです。
造網中も辺りを夜蛾が盛んに飛び回っています。
クモがスルスルと綱渡りする意外な速さに驚きました。



午後23:31、ようやくクモが水平円網の中心(こしき)にぶら下がり動かなくなりました。
遂に網が完成したようです。
所要時間は約34分間。
トリノフンダマシが腹面を上に向け円網の甑に占座している姿は昼間は絶対に見られないので、とても新鮮な光景でした。(私は初めて見ました!)
バッテリーが弱った赤外線投光機を交換したら急に明るくなり、弛んだ横糸(粘着糸)も見えるようになりました。
使用する糸の本数をかなり節約した円網ですが、鱗粉の多い蛾を捕らえるため粘着糸にかなり投資しているらしい。
写真で数えると、放射糸(縦糸)は7本?でした。
トリノフンダマシ類が網を張る一部始終を観察するという長年の目標が叶って感無量です。

比較のために、次は通常の水平円網を張る種類のクモの造網も観察してみたいものです。


【参考】
岩波新書『クモの不思議』p105-106によると、トリノフンダマシの造網は

まず土台糸を引いてから枠をつくり、その中心から周りへ、放射糸を7〜15本かけていく。それが終わると、足場糸をかけないで、いきなり周りから粘着糸をかけていく。まず一本の放射糸に粘着糸をつけると、その糸を引きながら網の中心までいき、隣の放射糸へ移る。それから中心を離れて周りの方へ、適当な所まで行って、そこに引いてきた糸をつける。こうして両放射糸間に粘着糸がかけられるわけだが、それはかなりたるんでいる。
 このような動作を繰り返しながら、次々と粘着糸を放射糸にかけていく。一番外側の粘着糸をかけ終わったとき、その着点を見ると、それは最初に出発したときの起点に一致している。つまり円になっているのである。次にそこから網の中心寄りに少し位置をずらして、前と反対の方向に、つまり前が右回りであったなら、今度は左回りに、前と同様な方法で粘着糸をかけていく。粘着糸をかけていくときの回り方は、その後も左右交互になる。それはジョロウグモが網をはるとき、振子のように体を右に左に移して、次々と粘着糸をかけていく―あの動作によく似ていて興味深い。
 粘着糸をかけるときには、一々網の中心まで行くのでたいへん時間がかかる。4〜6回まわりが多く、糸は外側に粗く、中心に近づくにつれ密になる。粘着糸はとてもよく粘る。虫がかかって粘着糸の一端が切れても、虫はそれから逃げられない。



つづく→#4:網にかかった蛾を梱包し隠れ家に運ぶトリノフンダマシ♀【蜘蛛:暗視映像】



完成した水平円網を下から見上げる
上から見下ろすと網の下の草むらにピントが合ってしまう
【追記】
『クモを利用する策士、クモヒメバチ: 身近で起こる本当のエイリアンとプレデターの闘い 』p201を読んでいたら、飼育下でクモの網を動画撮影する貴重なノウハウが書かれていました。
今後の参考になりそうなので、個人的な覚書としてポイントを抜粋しておきます。
色のない網は背景とのコントラストが大事で、背景を飛ばすために黒のカラーボードを網の後ろに置き、赤色LEDを網に照射して暗闇に網が浮き上がるようにする(節足動物は長波長の赤色光を認識することができず、クモやハチの概日周期に影響を与えないとされている)。その上で、カメラの露光を最大にし、赤色を拾わないように白黒モードで撮影すれば、クモの造網行動を含めかなりきれいに動画を撮れるようになっていた。



深夜のシロヒトリ(蛾)を捕獲



2015年8月下旬・深夜4:06

山麓のキャンプ場でログハウスの灯火下を白い蛾が飛び回っていました。
手掴みで一時捕獲してみると、シロヒトリChionarctia nivea)でした。
純白の翅に対して腹部と脚の赤い紋様が映えて綺麗ですね。

wikipediaの情報によると「(シロヒトリ)成虫は、敵が近付くと翅を上げ、威嚇する」らしいのですが、それらしい行動は見られませんでした。


2015/11/03

トリノフンダマシ♀(蜘蛛)の造網準備(枠糸張り?)【暗視映像】



2015年8月下旬

トリノフンダマシ♀の定点観察#2


農道と用水路に挟まれた茂みで見つけたトリノフンダマシ♀(Cyrtarachne bufo)は昼間、桑の灌木の葉裏に隠れています。
夜間行われる造網を観察したくて、準備万端でやって来ました。
19:40に観察開始。 (気温23.8℃、湿度59%)
トリノフンダマシ♀は2個の卵嚢をガードするように、近くの葉裏を隠れ家としています。

初めトリノフンダマシ♀は隠れ家のヤマグワの葉先にしがみついています。
頭を右に向いているので、糸を吹き流している行動ではありません。
左下に卵嚢がひとつ見えます。
夜空にパンして月を写しました(月齢12.5)。

次に気づくと、クモは糸にぶら下がっていました。
よく見ると、糸は隠れ家から斜め下に張られているようです。
糸疣を右に向けているので、糸を風に乗せて吹き流しているのかもしれません。
右に伸びた糸はどこに付着しているのか、暗闇では見えません。

ようやく、水平に張られた枠糸を右に渡り始めました。
クモの自重で糸が少し弛みます。
風で揺れる中、クモはなぜか綱渡りを中断して元の隠れ家に引き返しました。
枠糸を二重に張り直して補強したのかもしれませんが、よく分かりません。
風や周囲の明るさをチェックして、造網時刻には未だ早いと判断したのですかね?
桑の葉先から糸でぶら下がると、再び静止。

ぶら下がった糸の先でクモはくるくる回っています。(回転ではなく偏揺れ)
歩脚の動きが何やら糸を繰り出しているようにも見えます。
動きが止まりました。

右に伸びた枠を手繰り寄せています。
少し懸垂下降した位置で静止。
糸疣を広げているように見えるので、吹き流し中なのかも。

以上、19:40〜22:42に断続的に撮った赤外線の暗視映像をまとめました。
徹夜で観察してみて一番辛かったのは、本格的に造網を始めるまでのこの時間帯でした。
クモが何をしているのか、いまいち解釈不能です。
退屈で睡魔との戦いでした。
付近を夜蛾が飛び回っているというのに、クモは未だ造網を初めません。

ちなみに、この日の月の出時刻は16:14、月南中時は21:33、月の入りは1:50、月齢12.5でした。
満月に近いため、月明かりで地面に影がくっきりできるほどでした。
周囲は林に囲まれ町の明かりも見えないのに、一晩中、完全な真っ暗闇にはなりませんでした。
我ながらヒトの暗視順応に感心しました。
後半は雲が多くなり、月も星も見えなくなりました。
流れ星を目撃したので、何か良いことありそう…。

▼関連記事(4年前も造網を観察できず仕舞いでした。)オオトリノフンダマシ♀の造網準備(枠糸吹き流し?)

つづく→#3:深夜に水平円網を張るトリノフンダマシ♀【蜘蛛:暗視映像】



【追記】
『クモの科学最前線』p53によると、
トリノフンダマシでは、糸の粘性が数時間で低下し、その後はまったく粘らなくなってしまう。(中略)ただ、トリノフンダマシの糸でも実験的に湿度を100%近くに保つと、粘性は数時間しても低下しない。言い換えると、トリノフンダマシの糸は、高湿度でしか機能しないのである。そのためか、トリノフンダマシの造網の時間帯は不規則で、湿度が95%以上にならないと造網しない。湿った日は日没直後に造網するが、夏の乾燥した日には朝露が下りる午前3時頃まで網を張らない。他の円網クモでは規則正しい時間に網を張るのとは好対照である。



電線に離着陸するムクドリの群れ【野鳥:ハイスピード動画】



2015年8月中旬

飛来したムクドリSturnus cineraceus)の群れが郊外の電線に鈴なりに集結しました。
群れで離着陸する飛翔シーンを240-fpsのハイスピード動画に撮ってみました。
特に群れで電線に吸い込まれるように続々と着陸する様子は圧巻で、なぜか見とれてしまいます。
逆に飛び立ちは三々五々行います。
辺りに点在するパッチ状の林に向かったようです。
カメラの仕様でハイスピード撮影中はムクドリの賑やかな鳴き声が録音されていないのは残念。

▼関連記事
飛べ!ムクドリの群れ【野鳥:ハイスピード動画】



2015/11/02

キボシアシナガバチの巣に寄生したトビスジアツバ♂(蛾)



2015年8月下旬

キボシアシナガバチ巣の定点観察@柳#16


コロニーが早期解散した後のキボシアシナガバチPolistes nipponensis)の巣を採集して密閉容器に隔離しました。
室内に放置して10日後の早朝、今まで見たことのない地味な寄生蛾が羽化してきてビックリ仰天。
前翅長11.5mm。

※ 映像で照明なしの薄暗い前半部は動画編集時に自動色調補正を施してあります。



いつもお世話になっている蛾像掲示板に投稿して問い合わせてみると、おそらくトビスジアツバ♂(Herminia tarsicrinalis)だろうとhitoriさんから教えてもらいました。

まさかヤガ科のアツバ類がアシナガバチの巣に寄生していたとは、意外な新発見でした。
これまでの知見では、Herminia属の幼虫は枯葉を食すらしい。
ちなみにトビスジアツバに近縁な(同じHerminia属)クロスジアツバの幼虫が枯葉以外にオトシブミ(おそらく葉を巻いた揺籃を指すのでしょう)を食べることがあるというのは、とても興味深く思いました。

今回の件でひねくれた解釈をすれば、柳の枯葉を食べて育ったトビスジアツバの終齢幼虫が蜂の空き巣にたまたま潜り込んで蛹化したのかもしれません。
しかし状況証拠からアシナガバチの巣を食害したと考えるのが自然だと思います。
蜂の巣を採集した際は細い巣柄をカットして古巣だけを採取しました。
柳の枝葉は飼育容器に全く入れておらず、枯葉の混入もあり得ません。
同種の蛾がもう一頭羽化してくれば寄生説が有利になるはずですが、古巣の飼育を続けても柳の下に二匹目のドジョウは居ませんでした。

今季定点観察してきたこのコロニーはなぜか早く解散してしまいました。
古巣をよく見ると、一部の育房の内部は寄生蛾の幼虫が張り巡らしたような不規則網で汚れていました。
また、巣盤の側面に幾つか虫喰い穴が開いていました。
今回の蛾が羽化したことで蜂の巣に新しい穴は開いていないようです。
別の可能性としては、寄生蜂が羽化して食い破ったり、野鳥がつついたり、天敵ヒメスズメバチに襲撃されたりして出来た穴なのかもしれませんが、私には分かりません。

実は古巣を採取した夜に、明らかに蜂の子とは異なる謎のイモムシが中で蠢いている気がしました。
飼育中に蛾の幼虫が蜂の巣を食害するシーンを動画に撮っていれば決定的な証拠になるのですけど、忙しくて手が回らないうちに蛾の成虫が羽化してしまいました。
これまで私のフィールドで採集したキアシナガバチおよびコアシナガバチの古巣から、寄生蛾としてカザリバガ科マダラトガリホソガの一種Anatrachyntis sp.を得ています。
今回もどうせマダラトガリホソガが羽化してくるのだろうと予想していたのです。
キボシアシナガバチのコロニーが早期に解散したのは、蛾の幼虫が巣に寄生したせいで逃去した(営巣地を変更した)のだろうと想像しました。

フィールドで採集したトビスジアツバ♀から採卵し、アシナガバチの巣を与えてトビスジアツバ幼虫が成虫まで育つかどうか確認できれば完璧でしょう。

YAMKENさんの助言に従い、食害された巣材について考察してみます。
キボシアシナガバチが巣材を集めるシーンは未だ直接観察できていません。
一般論で言うと、アシナガバチ類は木の樹皮を齧り取って唾液分泌物と混ぜたパルプで紙製の巣を造ります。
Polistes属のアシナガバチは死んだ木の繊維を巣材とすることが多いようです。
木の杭(木柱)とかベニヤ板、材木の表面などをよく齧っています。
アシナガバチの巣がセルロースを含むという点は、トビスジアツバ幼虫が好む枯葉と共通していそうです。
ただし、元々が木質なのでリグニンを枯葉よりもかなり多く含んでいるはずです。
これを食べて分解するには専門の消化酵素(または腸内細菌)が必要になる気がします。
樹皮や材を好んで食べるのでなければ、本来枯葉好きとされる幼虫がアシナガバチの巣を食べるのは考えにくい、と反論されるかもしれません。


食性の問題が解決しても、トビスジアツバ幼虫の体表がアシナガバチに化学擬態しているのか?という問題もあります。
スズメバチ科の巣に寄生する蛾は数種類知られていますが、その幼虫で不思議なのは、巣を食い荒らしても蜂に排除されないことです。
もし寄主に発見されれば直ちに殺され肉団子にされてしまいそうです。
キボシアシナガバチ成虫が別の原因で逃去(コロニー解散)した後でトビスジアツバ♀が空き巣に産卵したのでしょうか?
定点観察をさぼって謎の空白期間ができてしまったことが悔やまれます。




ところで、腹面の顔の下に伸びた一対の太い物体が何なのか気になりました。
前脚ではないと思うのですが、口器(顎?)の一部ですかね?
この疑問に対してもhitoriさんより以下のご教示を頂きました。

太い物体は前脚の一部だと思います。
クルマアツバ亜科には♂の前脚が太くなるという特徴をもつ種が結構います。トビスジアツバもその一種です。
写真では前脚が別にあるように見えたのですが、こんな太い前脚が♂だけにある(性的二型)なんて面白いですね。
♀をめぐる争いで♂同士が腕相撲でもするのかと思ったら、その実態は毛束なのですね。
きっとヘアペンシルみたいに性フェロモンを出すのでしょう。
求愛交尾行動を観察してみたいものです。



シリーズ完。


トリノフンダマシ(蜘蛛)卵嚢と隠れ家の♀



2015年8月下旬

トリノフンダマシ♀の定点観察#1


農地の用水路脇に生えたヤマグワの灌木でトリノフンダマシCyrtarachne bufo)の卵嚢を早朝の散歩中に見つけました。
球形の卵嚢が2個吊り下げられた近くを探してみると、予想通り桑の葉裏を隠れ家として♀が潜んでいました。
卵を食べる天敵が来たら♀はガードするのでしょうか?
同心円状の水平円網を夜に張るらしいのですが、既に取り壊さています。

この日は朝から台風が接近中で、強風のため撮影できなくなりました。
定点観察に通うことにしました。
台風が去るまでトリノフンダマシが居なくなりませんように!

▼関連記事(7年前!の同時期に撮影)
トリノフンダマシ♀(蜘蛛)と卵嚢


つづく→#2:トリノフンダマシ♀(蜘蛛)の造網準備(枠糸張り?)【暗視映像】


2015/11/01

キボシアシナガバチ古巣の虫喰い穴



キボシアシナガバチ巣の定点観察@柳#15

2015年8月中旬・午後20:02

前回からだいぶ間が空いて26日ぶりの観察になってしまいました。
キボシアシナガバチPolistes nipponensis)の巣は小さいままコロニーが解散していました。
在巣の蜂は一匹もおらず、もぬけの殻です。
動画を撮りながら柳の茂みをかき分けたら照明に驚いて逃げて飛び去った虫は、蜂ではなくガガンボです。
黄色の繭キャップは全て羽化済みでした。
少数ながらも新女王を産出したのかな?

巣盤をよく見ると育房の側面および天井部が何者かに食い荒らされているようです。
寄生蛾の幼虫に食害されたのか、寄生蜂が羽化した跡なのか、それともヒメスズメバチに襲撃されたのでしょうか?
古巣を採集して持ち帰りました。

つづく→#16:キボシアシナガバチの巣に寄生したトビスジアツバ♂(蛾)



夜のムラサキトビケラと美しい後翅


2015年8月下旬・深夜4:00頃

山麓にあるキャンプ場の灯火下でムラサキトビケラEubasilissa regina)を見つけました。
指で触れると逃げ回り、羽ばたいて少し飛びました。
飛翔力が弱いのは、気温が低いせいかもしれません。
最後に一時捕獲し、紫色の後翅に美しい黄色の帯があることを確認できました。
地味な前翅と対照的です。

前後半で別個体(2匹)を撮影。


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