2015年8月下旬・深夜23:44〜23:59
トリノフンダマシ♀の定点観察#4
トリノフンダマシ♀(Cyrtarachne bufo)の水平円網が完成してほどなくすると、獲物が網にかかりました。
クモは甑から駆けつけると、片側が切れた粘着糸に吊り下げられた蛾aを手元に引き上げます。
噛まれて毒液を注入されたのか、蛾は暴れません。
クモが梱包ラッピングを始めたのに、ピントが合わなくなりもどかしい…。
本種はコガネグモ科なのに、捕帯があまり発達していないらしい。(粘着糸に投資した結果)
手際よく梱包した獲物を糸で吊り下げたまま甑を経由して隠れ家に戻り始めました。
綱渡りの途中で、別の蛾bが網にかかる決定的瞬間がたまたま撮れました。(@2:01)
蛾の自衛戦略として、剥がれやすい鱗粉を身に纏うことで通常のクモの網にかかっても逃れる確率を高めています。
しかしトリノフンダマシの水平円網にかかった蛾は激しく暴れても強力な粘着糸から逃れることができません。
トリノフンダマシの水平円網は飛来する夜蛾を捕らえる罠としておそろしく効率が良いようです。(※追記参照)
暗視カメラによる撮影ですから、光で蛾が誘引された可能性は低いです。(ただし、ビデオカメラの液晶画面だけ明るい。)
クモは新しい獲物に急行せず無視し、ひたすら隠れ家を目指します。
円網の左端にある隠れ家(ヤマグワの葉先)に到着しました。(@2:20)
獲物を吊り下げた糸を桑の葉裏の不規則網にしっかり固定してから、その糸を手繰り寄せました。
早速、獲物に噛み付いて体外消化を開始。
右にパンすると、先ほど網にかかった蛾bがぶら下がっています。
恐らく擬死(フリーズ)しているのでしょう。
下手に暴れると振動でクモに気取られてしまいます。
動画撮影の合間にストロボを焚いて写真撮影したら、網にかかっていた蛾bが突如激しく暴れだし、自力で粘着糸を振り切り脱出してしまいました。
隠れ家のクモは異変を感知したはずですが、食餌に夢中で駆けつけたりしませんでした。
最後は白色LEDを点灯して撮影。
2つの卵嚢が吊り下げられた隠れ家でクモはぶら下がった体勢で獲物から吸汁しています。
獲物をくるくると回しながら噛む場所を微妙に変えています。
ラッピングされた獲物は体外消化されて、もはや原型を留めていません。
蛾の種類は分からず仕舞いでした。
トリノフンダマシ♀が甑に占座していたのは水平円網が完成してから最初の獲物がかかるまでの短い時間だけでした。
円網の中心(
未交接の処女♀や産卵前の♀は甑に留まって捕食するのかな?
昼行性の造網性クモが天敵を恐れて隠れ家で食事をするのは分かるのですが、夜行性のトリノフンダマシが恐れる天敵は何でしょう?(コウモリ?)
水平円網の写真を撮ると、獲物がかかったせいで網が一部破損していました。
網を横から |
網を下から見上げる |
徹夜の観察中は藪蚊の襲来に悩まされました。
虫除けスプレーを噴霧する際は、クモや獲物(蛾)の行動に悪影響を及ぼすことを恐れて、トリノフンダマシの網から風下に離れてから使用しました。(杞憂かもしれません)
つづく→#5:隠れ家で蛾を捕食しながら網を弾くトリノフンダマシ♀【蜘蛛:暗視映像】
※【追記】
『スパイダー・ウォーズ』p69によると、
このクモの主な餌はガの仲間ですが、ガの得意の逃避術、すなわち鱗粉を残しての逃亡は、トリノフンダマシには通用しません。それほどヨコ糸の粘着性がつよく、外れたヨコ糸が身体に絡み付くからです。クモはその威力に自信を持っており、ゆっくりと歩み寄ってヨコ糸を引き上げ、ガを捕らえてしまいます。
【追記2】
『クモの科学最前線』p52によれば、
蛾は一般にクモが最も捕えにくい昆虫である。クモでは蛾への明確な特殊化が、コガネグモ科で2回起きているだけなのは、そのためであろう。トリノフンダマシ亜科は、全てが蛾の専食者である。
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