2015年9月下旬
アカオニグモ♀の定点観察#3
深夜3:00に現場に着くと、晴れた星空が広がり月は沈んだ後でした(月齢8.8)。
午前3:03に赤外線の暗視カメラで撮影を始めたときには、タニウツギの葉裏に作られた巣(隠れ家)にアカオニグモ亜成体♀(Araneus pinguis)は潜んでいました。
日中に獲物を捕らえた円網は既に取り壊されていて、枠糸と最小限の縦糸のみが残されていました。
殆ど何もないスカスカの網にピントを合わせて撮るのはとても難しい…。
午前3:26、遂にクモが隠れ家を出て造網を始めました。
今か今かと待ち構えた私が隠れ家のクモに白色LEDライトを何度も照射したので、夜明けが近いとクモが勘違いした可能性があるかもしれません。
(虫の目に見えにくい赤色ライトを使うべきなのですが、最近フィールドで紛失してしまいました。)
非粘着性の縦糸を一本張り終える度にクモは必ず甑で網の縦糸を歩脚で引き締め、全体の張力のバランスを測ってから次にどの方向に縦糸を張るか決めているように見えます。
縦糸を360°全方向に張るわけだが、順番に張っていってはこしきにかかる負荷が偏ってしまうので、こしき上で回転しながらすでに張られた様々な方向の縦糸を前脚で引っ張って、最も張力の低い方向に向かって縦糸を張る。(『クモを利用する策士、クモヒメバチ: 身近で起こる本当のエイリアンとプレデターの闘い 』p80より)
このまま一気呵成に造網するのかと思いきや、縦糸を張り終えたクモは隠れ家に戻ってしまいました。
(クモを驚かすようなことは何もしていません。)
このときクモは、甑から隠れ家まで信号糸を張っています。
天敵が少ないはずの夜間も一休みする際には甑に占座するのではなく隠れ家に戻るとは用心深いですね。
夜はコウモリの捕食圧があるのでしょうか?(※追記参照)
気象条件:
横の地面で測った気温は午前3:15で14.1℃、湿度68%。
午前3:37には11.2℃、83%でした。
つづく→#4:夜中に垂直円網の足場糸と横糸を張るアカオニグモ♀【蜘蛛:暗視映像】
【追記】
『クモの科学最前線』p64-65によると、
・コウモリ類がクモの天敵としてトップダウン効果を与えていることが示唆されている。
・クモを専門に食べるコウモリもわずかに報告されている。(しぐま註:海外の研究)
・クモ類に特殊化したコウモリはいるものの、コウモリ類にとっってクモ類が普遍的な餌資源とまではいえない。
・コウモリの飛翔する昆虫を捕食する習性は、同じく飛翔昆虫を専食する円網性クモ類にとって強力な資源競争相手になっている可能性は高い。
2015年9月下旬
アカオニグモ♀の定点観察#2
農道と用水路の間に挟まれた草むらでアカオニグモ亜成体♀(Araneus pinguis)の垂直円網を見つけました。
アカオニグモは網を毎日張り替えるようですが、造網は夜明け前に行われるそうです。
4年前の早朝にアカオニグモの造網を後半だけ撮影しています。
▼関連記事
垂直円網に横糸を張るアカオニグモ♀(蜘蛛)
なんとか造網の一部始終を動画に記録したくて、徹夜の撮影準備や防寒具を整えてから、草木も眠る丑三つ時に出撃しました。
前回と同じ隠れ家(タニウツギの葉裏)にクモを発見して一安心。
円網は既に取り壊されています。
写真は失敗しましたが、枠糸と最小限の縦糸のみが残されていました。
赤外線の暗視カメラで撮った素材を15倍速に加工した早回し映像をご覧ください。
撮影時刻は午前3:04〜6:08。
ちなみにこの日の日の出時刻は5:25、月齢8.8。
本格的に微速度撮影するにはビデオカメラを三脚に固定しなければなりません。
また、AF頼みのカメラでは背景の茂みのせいで肝心の網にピントが合わず奥ピンになってしまうため、仰角で暗い空を背景にする必要があります。
ところが手持ちの三脚は高さが大き過ぎて使えないことが現場で判明。
地面すれすれにカメラを固定できる自由雲台付きのコンパクトなローアングル三脚が欲しいところです。
仕方がないので、網の前で座ったままビデオカメラを手で持って動画撮影することにしました。
通常のカメラで撮れる明るさになってからは三脚を使いました。
夜が明けて早朝に完成した垂直円網の大きさを測ると、直径約30cm。
網上端の水平(よりやや斜め)に張られた枠糸の長さは83cm。
その枠糸の左端はタニウツギの葉裏(隠れ家)に固定されており、その高さは地上85cm。
逆に右端はヨモギの花穂に固定されており、その高さは地上60cm。
ところで、本種はなぜ夜明け前に徹夜で造網するのでしょうか?
野鳥やクモバチなどの天敵が寝ている時間帯を狙って作業をすると言われています。
しかしせっかく網に張った横糸に夜露が付いて粘着力が落ちてしまう心配はないのかな?
今回はまず造網作業の全貌をざっとご覧頂きました。
次回からは各過程を詳しく振り返ります。
つづく→#3:垂直円網に縦糸を張るアカオニグモ♀【蜘蛛:暗視映像】
2015年7月下旬
雨上がりの峠道でリョウブの花蜜を吸いにスジグロシロチョウ(Pieris melete)、またはエゾスジグロシロチョウ(Pieris napi)が来ていました。
2015年9月中旬
アカオニグモ♀の定点観察#1
農道と用水路の間に挟まれた草むらでアカオニグモ♀(Araneus pinguis)が垂直円網を張っていました。
腹部の色が黄色で赤くないので未だ亜成体と思われます。(外雌器の状態を見ていません。)
枠糸の左端を固定したタニウツギの葉裏が隠れ家となっています。
逆に枠糸の右側はヨモギの花穂の先端部に固定されていました。
円網にかかった獲物(食べ残し?)を盗みにコガタスズメバチ(Vespa analis insularis)のワーカー♀が来ていました。
獲物の正体は、なんとなくシオヤアブかな?
こうした労働寄生(盗み寄生)は餌不足になりがちな秋のスズメバチによく見られる行動です。
コガタスズメバチ♀は獲物に噛み付き、その場で肉団子にしています。
しばらくすると、網の主であるアカオニグモ♀が引き糸を伝ってスルスルと甑へ登り返しました。(@0:33)
アカオニグモ♀はおそらく網の中央で食事していたときにスズメバチが飛来した羽音に驚いて網から緊急落下し、避難していたのでしょう。
円網の糸を歩脚で引き締めて揺すり、状況を探りました。
コガタスズメバチは気にせずに肉団子作りを続けています。
招かざれざる客が危険な敵と察したのか、アカオニグモはスズメバチを追い払ったり獲物を奪い返そうと対決したりせずに、左上の隠れ家に慌てて退散。(@0:44)
一方、スズメバチの方はようやく獲物を網から引き剥がし、戦利品を咥えて巣へ飛び去りました。(@1:14)
『スパイダーウォーズ:クモのおもしろ生態学』p160-161によると、
ハチ、トンボ、ハチドリなど、クモの網から餌を奪う動物たちには共通の特長があります。それはヘリコプターのように飛びながら空中で停止する能力で、彼らはクモの網にくっつくようなへまをせずにその餌を奪うのです。
初めにコガタスズメバチが飛来してからアカオニグモが逃げ出すまでの顛末を見逃したのがつくづく残念です。
アカオニグモは天敵のクモバチ(キスジベッコウ、キスジクモバチ)が相手だと網に踏みとどまり積極的に反撃すると本で読んだのですが※、スズメバチが相手だとあっさり網から逃げ出すようです。
(※『月刊たくさんのふしぎ:まちぼうけの生態学:アカオニグモと草むらの虫たち』p31より。『クモのはなしII:糸と織りなす不思議な世界への旅』p162には「アカオニグモの防衛姿勢」と題した見事な生態写真が掲載されています。)
盗人スズメバチが去ってから、アカオニグモの円網と隠れ家を動画に記録しました。
円網のあちこちに穴が開いているものの、未だ全体の形状は保っています。
タニウツギ灌木の葉を軽く丸めて隠れ家にして、その奥にクモは避難していました。
隠れ家から伸びる糸を辿ってみると、水平の枠糸の他に、信号糸も甑に向かって伸びています。
スズメバチのおかげで見つけられたこのアカオニグモを定点観察することにしました。
つづく→#2:明け方に垂直円網を張るアカオニグモ♀(蜘蛛)【15倍速・暗視映像】
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2015年9月中旬
飼育を始めたカシノシマメイガ♀(Pyralis farinalis)が容器内で海老反り姿勢で静止しています。
以前飼育したノシメマダラメイガでは♀が性フェロモンを放出するコーリング姿勢なのですが、カシノシマメイガではどうなのでしょう?
同じメイガ科だし、てっきり行動も同じかと思いこみ、この動画もカシノシマメイガ♀のコーリングを撮ったつもりでいました。
ところが、どうも違うようです。
DMOTHサイトを参照するとカシノシマメイガ性別の見分け方が解説されていました。
触角♂は微毛状, ♀は糸状. 一般に♂は小さく, ♀は大きいが, 大きさの変異は著しい. 成虫は家屋内で見られ, 壁などに静止しているときは,腹部を強く曲げて特異な姿勢をとる.
♂♀ともに鯱のような海老反り姿勢になる、という解釈で良いのかな?
英語版wikipediaにも次の記述がありました。
At rest, adult moths (imagines) typically hold the tip of their abdomen at 90° to their body.
顔を接写してみると、複眼が緑褐色で美しいですね。
※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。
車庫で連日捕獲したカシノシマメイガを片端から容器に投入して、計17匹もなりました。
しかし容器内での求愛・交尾行動はなぜか見られないまま次々に死んでいきます。
待てど暮らせど幼虫が孵化してこないのは何故だろうと不思議でした。(採集した成虫の性比が偏っているのか?)
成虫の死骸を調べると、ノシメマダラメイガとは異なりカシノシマメイガ成虫には口吻があることにようやく気づきました。
ノシメマダラメイガは口吻が退化しており成虫の餌は不要でした。
それに対してカシノシマメイガの場合は成虫にも餌(花蜜、砂糖水?)を与えないと飼えないのだと分かりました。
【追記1】
桑原保正『性フェロモン:オスを誘惑する物質の秘密』によると、
(シマメイガ亜科カシノシマメイガの)性フェロモンの存在が生物試験で確認できており、マダラメイガ亜科とは性フェロモンの構造が違うだろうと予想していた(中略)。この虫は飼育ができないためか、現在もまだフェロモンの化学構造はわかっていない。 (p122より引用)
【追記2】
2015年12月上旬
飼育を諦めて容器を放置していたら、容器の蓋の裏に3匹の老熟幼虫が糸を綴った巣を作り、中で越冬していました。
片手間に飼育していたので、幼虫の成長を見逃してしまったのが残念です。
DMOTHサイトでカシノシマメイガの解説を参照すると
幼虫は貯穀, 菓子, 干果, 乾燥した動物の糞などを食べ, 幼虫態で越冬する.
2015年9月中旬
山間部の峠道で遭遇した野生ニホンザル(Macaca fuscata fuscata)の群れ。
路肩からガードレールにひらりと跳び乗り腰掛けたり、ガードレールの上を四足で平均台のように伝い歩いたりする様子をまとめてみました。
鞍馬のようにガードレール上で座る向きをひらりと180°変える技も披露してくれました。
※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。
2015年9月中旬
セグロアシナガバチ巣の定点観察#7
※ このコロニーの蜂はセグロアシナガバチ(Polistes jokahamae)ではなく、キアシナガバチ(Polistes rothneyi)の前伸腹節の黄紋が無い斑紋変異なのかもしれません。
4週間(27日)ぶりに様子を見に行くと、状況は一変しひっそりと静まり返っていました。
恐れていたように、今年もいつの間にか巣に寄生蛾が産卵し蛾の幼虫に食害されてしまったようです。
育房内に寄生蛾の幼虫の張り巡らした糸や糞が見え、汚らしい状態です。
前回の写真を見直すと蜂が多数居る時から既に寄生されていたようで、コロニー解散後の空き巣になってから寄生されたのではありません。
空き巣かと思いきや、巣盤の上(画面左上)に1匹の♀がちらっと見えました。
このコロニーは全滅する前に少数でも新女王を輩出したのでしょうか?
古巣を採集できれば寄生蛾の成虫が羽化するまで飼育して正体を突き止められるでしょう(例年通りならおそらくマダラトガリホソガの一種Anatrachyntis sp.と予想)。
しかし、とても手が届かない高所に営巣しているので、指を咥えて見ているしかありません。
※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。
シリーズ完
2015年9月中旬
山間部の峠道で遭遇した野生ニホンザル(Macaca fuscata fuscata)の群れ.
道端の斜面の灌木の茂みで子猿が何かを採食しています。
手前にノブドウ?の実が見えますけど、これがメニューかどうか不明です。
アケビの実の可能性もありそうです。
そのまま撮り続ければよかったのですが、カメラを右下にパンすると♀成獣が路上に座っていました。
メスザルを見て、これほど美人で色っぽいと思ったのは初めてです。
こちらを気にしながら体を掻き、最後は茂みに逃げ込みました。
※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。
2015年9月中旬
カシノシマメイガの飼育記録#1
車庫になぜかカシノシマメイガ♀(Pyralis farinalis)をよく見かけるようになりました。
貯穀害虫として有名ですから室内にどこか発生源があるのか、それとも外から迷い込んで来るのか、不明です。
同じく貯穀害虫であるノシメマダラメイガを飼育してみて非常に面白かったので、カシノシマメイガも飼ってみることにしました。
車庫の天井で静止している(コーリング?)個体を見つける度に捕獲して、計6頭を容器に閉じ込めました。(1頭は死んでるかも)
産卵基質(幼虫の餌)として、ありあわせの白米、黒胡麻、およびピーナッツチョコを投入しました。
(実はノシメマダラメイガとは異なり、これだけでカシノシマメイガは飼えないことが後に判明します。)
円筒形のプラスチック容器内で成虫が飛び回るシーンを240-fpsのハイスピード動画に撮ってみました。
容器にしつこく振動を与えて飛び立たせました。
互いにぶつかり合う連鎖反応で飛び回ります。
つづく→カシノシマメイガ♀(蛾)の海老反り姿勢
2015年9月中旬
山間部の峠道で遭遇した野生ニホンザル(Macaca fuscata fuscata)の群れの中に、黒い首輪を装着した♂成獣を見つけました。
テレメトリー調査や害獣対策のために、小型の電波発信器やGPSで位置を追跡しているのでしょう。
発達した睾丸と顔が紅潮しているので、そろそろ発情期のようです。
樹上で何かを採食しましたが、メニューは不明です。
いつの間にかこの首輪♂は路上に降りて来たようです。
私の背後の何かに警戒して2本足で起立すると、道端のガードレールに登りました。
右上の森からカケス(Garrulus glandarius)がジェージェー♪と耳障りな警戒声を発し始めると、サルたちは明らかにこれに反応して何事かと気にしているようです(周囲の危険の有無をチェック)。
全く異なる生物なのに警戒声だということを認識して、利用しているのは流石です。
一体何に対して警戒しているのか振り返ってみたい衝動を抑えて私は撮影を続けました。
(カケスは私の存在を気にして騒いでいるのだろうと、なんとなく思いました。)
この首輪♂は、遊動する群れの殿を最後まで務めていました。
尾をピンと上げて堂々と歩き回る風情は貫禄があり、素人目にはボス猿と呼びたくなります。
しかし、現在のサル学の知見ではニホンザルの群れにいわゆるボスらしい振る舞いをする猿(統率者)は居ないことになっています。
2015年9月中旬
ソバ畑でオオハラナガツチバチ♀(Megacampsomeris grossa matsumurai)が訪花していました。
頭楯の毛が少ないです。
2015年9月中旬
山間部の峠道で遭遇した野生ニホンザル(Macaca fuscata fuscata)の群れが車道を続々と横断しています。
かなり大きな群れのようです。
路上に立つ私の前からも背後からも次々に横断するので、どの猿を撮ろうか目移りしてしまいます。
私を警戒して道端の茂みへ一目散に駆け込む者、路上で一旦立ち止まり(座り)こちらを見る者と様々です。
子猿の中でも自分の足で元気に走れる者もいれば、母親に未だしがみついている幼い子猿も居ます。
母猿が抱いて運ぶ(子猿が腹にしがみついている)方法と、母猿が背負って運ぶ(おんぶというよりも子猿が腰にしがみついている)二通りがあります。
ガードレールを四足で素早くくぐる際に、おんぶ式で運ばれる子猿が頭をガードレールに打つんじゃないかと冷や冷やしましたが、野生の猿はそんなヘマはしませんでした。
子連れの母親は日頃からこの状態で木に登ったり山野を駆け巡っているはずなので、障害物を避けるなんてお茶の子さいさいなのでしょう。
同じ群れ(母系社会)でも色んな顔つきの猿がいて面白いですね。
顔馴染みになって個体識別できたら楽しそうです。
※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。
2015年9月中旬
石灯籠内で営巣するムモンホソアシナガバチの定点観測記録#4
石灯籠内は昼間でも薄暗いので、赤外線の暗視カメラで撮ります。
27日ぶりの定点観察なのに、ムモンホソアシナガバチ(Parapolybia indica)の巣は大きくなっていませんでした。
残念ながら、このコロニーはこれ以上発達する見込みが無さそうです。
巣が寄生蛾の幼虫に食害されている様子もないので、もしかすると創設女王が早死してしまったのかもしれません。
在巣の蜂は♀2匹だけで、♂が居なくなっていました。
雄蜂は巣立った後なのでしょう。
巣上で静止した♀は貧乏揺すりのように脚をピクピク動かしています。
後半は白色LEDを点灯。
いつの間にか1匹の蜂が巣盤上で向きを変えていました。
つづく→#5:ムモンホソアシナガバチの古巣と謎の食痕