2023年9月下旬・午後12:10頃・晴れ
里山の急斜面をつづら折れで登る山道の曲がり角(ヘアピンカーブ)で、ジョロウグモ♀♂(Nephila clavata)が同居する馬蹄形円網を見つけました。
小型の♂は2匹います。
♀は網に掛かったトンボ(種名不詳)を捕食中でした(獲物を噛んで体外消化)。
♀の食事中に1匹の♂が網の上から(逆さまにぶら下がった♀の下から)忍び寄って♀の体に触れるものの、交接できずに慌てて逃げてしまいます。
特に1回目の求愛が最も惜しくて、♂αが膨らんだ触肢を♀の外雌器になかなか挿入できずにもたついている間に、もう1匹の♂βが接近しました。
♂αはライバル♂βを追い払うのかと思いきや、なぜか諦めて♀の元から立ち去りました。
♂βに交接権を譲った訳ではなく、♂βも元の位置に戻りました。
「色気より食い気」の♀は網上でほとんど静止しており、素人目には♀が嫌がって交尾(交接)拒否したようには見えません。
同一個体の♂αが何度も♀に挑みますが、非常に慎重というか臆病で、なかなか交接してくれません。
♂は必ず、網で下向きに占座した♀の後方から近づき、♂が逃げるときも必ず上に退散します。
♂αは♀に共食いされるのをひどく恐れているようです。
にもかかわらず、♂が♀に近づく前に網の糸を弾くなど、♀の攻撃性を宥める儀式的な求愛行動は何も見られませんでした。
クモの種類によっては、♀と交尾(交接)できた♂は自分の触肢を自切して外雌器に残し、♀が次のライバル♂と交接(浮気)できないように物理的にブロックしてしまう者がいます。
しかし、私が慎重に回り込んでこのジョロウグモ♀の外雌器にズームインしてみても、そのような貞操帯を付けてはいませんでした。
同じ円網で2匹の成体♂が同居しているのに、交接相手の♀を巡る闘争にならないのが不思議でした。
この2匹の♂の間では既に順位付けができていて、劣位の♂はライバル♂αが♀に共食いされるまで交接の順番を待っているのでしょう。
♂αが♀と交尾できそうになったら邪魔して♀を挑発して共食いするようにしむける作戦なのかな?
もしも♂同士が激しく争う動物種なら、♂の方が♀よりも体格が大きくなるという、ジョロウグモとは逆の性的二型になるはずです。
非力なジョロウグモ♂は直接戦わなくても、ライバル♂を♀に早く殺してもらうように交尾を邪魔したり♀を苛立たせたりする作戦を進化させても不思議ではありません。
劣位の♂をよく見ると、触肢が未だあまり発達していないので、少し若いのかもしれません。
平凡社『日本動物大百科8昆虫Ⅰ』によると、
ジョロウグモの♀の網には複数の♂がいることが多い。網をはさんで♀と向き合う位置にいる♂がふつういちばん大きく、交尾の優先権をもっている。網の周辺部にいる♂はまったく交尾できないわけではないが、確率は低い。(p18より引用)
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トンボの他には、1匹のオオハナアブ(Phytomia zonata)がジョロウグモ♀の円網に掛かって、弱々しく暴れていました(虫の息状態?)。
多数の真っ黒い食べ滓が網上に残されたままになっています。
ジョロウグモ♀の網にイソウロウグモの仲間を今回も見つけられませんでした。
三脚を持参していれば、ジョロウグモ♀♂が交接に成功するまでじっくり長撮り・監視できたのですが、残念です。
この日の山行でジョロウグモ♀の網を次々に見て回ると、♂が♀の網に同居している例はいくつも見つけたのですが、交接中の♀♂ペアは見つけられませんでした。
小田英智、難波由城雄『網をはるクモ観察事典 (自然の観察事典 21)』によれば、
ジョロウグモの♂の80%近くが、♀の脱皮の時に、結婚のための交接を行います。のこりの20%は、♀がえさをたべて油断しているときをねらって交接します。こうしたときをえらぶのは、不用意に♀に近づくと、♂だって捕らえられ、たべられてしまうからです。そのために♂はしばらく巣にとどまり交接後ガードを行う。(p22より引用)
ジョロウグモの♂は一生に一回しか交接しません。でも♀は、ほかの♂と、2回目の交接を行うことがあります。(p23より引用)
ところで、この動画を撮影中に周囲の茂みでひっそり鳴いていた虫(直翅目)が気になります。
コオロギの仲間だと思うのですが、名前が分かりません。
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