Σ こんちゅーぶ!
身近な生き物の行動を動画で記録して紹介するYouTube虫撮り日記です。
2026/10/16
山中の水溜りに飛来して水を飲み顔を洗うフクロウ【野鳥:トレイルカメラ:暗視映像】
コカマキリの死骸に群がり引きずって巣に運ぶ怪力のクロヤマアリ♀
はい。哺乳類に比べると、昆虫のロードキル研究はかなり少なく、分類群・地域・季節によって研究の空白も大きいです。ただし「研究がほとんどない」というより、近年は昆虫を対象にした研究が増えており、問題は調査・同定・個体数への影響評価が難しいため、実態が過小評価されやすいことです。
なぜ研究が少なく見えるのか
哺乳類は死体が比較的大きく、種同定や発見が容易です。一方、昆虫では次の問題があります。
- 車に轢かれると体が飛散し、短時間で乾燥・破壊される。
- アリ、ハエ、カラス、タヌキなどにすぐ除去される。
- 走行車両に付着したり、道路脇へ吹き飛ばされたりする。
- 種同定には顕微鏡や専門知識が必要で、科や目までしか同定できないことも多い。
- 死亡個体数が非常に多く、全数調査が難しい。
- 飛翔中に衝突した個体と、道路を歩いて横断中に轢かれた個体を区別しにくい。
そのため、哺乳類のロードキル本のように「種ごとの記録」が蓄積しにくく、研究ではしばしば「昆虫全体」「ハチ類」「チョウ類」「双翅目」といった大きな分類群で扱われます。無脊椎動物の道路死亡は、実際には多いのに、多くが科・属レベルにも同定されないという指摘があります。 mdpi
すでに分かっていること
代表的なのは、道路を飛び越える昆虫が車両に衝突する「vehicle strike」の研究です。カナダの高速道路で行われた調査では、約90 km/hの道路で10万匹以上の死んだ無脊椎動物が確認され、特にハチ類、チョウ類、ハエ類などが多く含まれていました。別の整理では、ハチ類が約26.9個体/km/日、チョウ類が約10.1個体/km/日という値が示されています。 anl.bayern
ただし、この数値は道路、速度、交通量、季節、天候、周辺植生によって大きく変動します。高交通量の道路では、1 kmあたり1日250個体程度という推定もあります。 cb.iee.unibe
また、道路脇の環境が昆虫を引き寄せる場合、道路は単なる移動障害ではなく、**「生息場所に見えるが、利用すると死亡しやすい生態学的わな」**になる可能性があります。花の多い草地や植生中央分離帯は、ハナバチやチョウを誘引する一方、道路横断や車両衝突を増やすことがあります。 link.springer
「昆虫全体が大きな影響を受ける」とは限らない
ここは重要です。道路上で大量の死骸が見つかっても、それだけで個体群への影響が大きいとは限りません。
2024年のレビューでは、道路を利用する成虫のうち、車両衝突で死亡するチョウの割合は、調査例ではおよそ0.6~7%と推定されています。これは道路脇を利用する成虫を分母にした値であり、地域全体の個体群への影響を直接示すものではありません。 academic.oup
一方で、影響が大きくなりやすいのは次のような昆虫です。
- 飛翔能力が低く、道路を歩いて横断する種。
- 飛べない種や地表性の種。
- 毎年、繁殖地・越冬地・餌場の間を道路横断する種。
- 生息地が道路によって分断された小個体群。
- 道路脇の花や灯火に誘引される種。
特に飛べない甲虫や大型の地表性昆虫では、直接の轢死だけでなく、道路が移動を妨げる「障壁」になることが問題になります。道路を避けることで、餌場や繁殖場所に到達できなくなったり、個体群が分断されたりするためです。 academia
日本で不足している点
日本でも、道路が昆虫に及ぼす影響についての研究はありますが、哺乳類・両生類・爬虫類のロードキル研究ほど体系化されていません。特に不足しているのは次の分野です。
- 日本の農道・林道・山間道路での昆虫死亡率の長期データ。
- コウチュウ目、バッタ目、カメムシ目など、飛翔性以外の分類群の比較。
- 水田、ため池、湿地周辺でのトンボ類・水生昆虫の道路影響。
- ヘイケボタルなど、成虫の移動距離が短い種への道路の障壁効果。
- 道路照明と昆虫の誘引・衝突・捕食リスクの関係。
- 車に付着して死ぬ個体と、道路上で轢死する個体の区別。
- 道路死亡が地域個体群の維持率や遺伝的交流に与える影響。
日本語で「昆虫のロードキル」と検索すると、哺乳類のロードキルに比べてまとまった単行本や一般向け記録が少なく見えるのは、このような調査上の難しさに加えて、研究テーマとして長期観測されにくかったためだと思われます。
観察するなら
身近な道路で調べる場合、単に死骸を拾うよりも、次のような設計にすると有用な記録になります。
- 同じ道路区間を固定し、毎回同じ距離を調査する。
- 調査時刻、気温、降雨、風、路面の湿り具合を記録する。
- 道路の幅、制限速度、交通量、周辺植生を記録する。
- 道路中央、路肩、側溝、植生側を分けて記録する。
- 同じ死骸を繰り返し数えないよう、チョークや小石などで位置を管理する。
- 可能なら調査前後を動画撮影し、清掃者や捕食者による死骸消失を確認する。
- 種同定に自信がなければ、無理に種名を付けず「ハナバチ類」「双翅目」「小型甲虫類」などに留める。
例えば、ため池へ向かう細い農道では、トンボやハナバチの衝突数だけでなく、道路を横断する個体数、横断方向、周辺の開花植物、時間帯を記録すると、「道路が殺している」のか、「道路脇の環境が誘引して横断を増やしている」のかを区別しやすくなります。
つまり、昆虫のロードキルは「研究がない」のではなく、死亡数の把握までは進んでいるが、種別・地域個体群・長期的影響まで結びつけた研究が不足している、というのが現状です。 link.springer