ラベル 体温調節 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 体温調節 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2025/12/01

水溜りを泳ぎ回るヤマカガシはアメンボなど水生昆虫を捕食するか?

 

2024年9月上旬・午後12:28〜13:08・気温24.5℃ 

トレイルカメラの保守作業のために、里山に登って、湧き水や雨水の溜まった湿地帯に来ました。 
現場入りした私が静かに電池交換などの作業を始めると、干上がりかけた水溜まりSの方から水音が聞こえてきました。 
てっきりカエルやオタマジャクシが水溜りで跳びはねているのかと思いきや、ヘビが入水していました! 
ヤマカガシRhabdophis tigrinus)です。 
素人目にはなんとなく、まだ少し若い個体のような気がするのですけど、どうでしょうか? 

関連記事(8年前の撮影)▶ 水路を泳いで渡るヤマカガシ 


ヤマカガシは蛇行して水溜まりや岸辺の泥濘を右往左往しています。 
9月の水溜りには、ヘビの獲物となるオタマジャクシやカエルはもう1匹も居ません。 
どうやらアメンボなどの水生昆虫を狙って狩りをしているようです。 
ヤマカガシが目の前の獲物に襲いかかる瞬間を1.5倍に拡大した上で1/5倍速のスローモーションでリプレイ。 
射程距離に入ると突進して噛みつこうとしますが、何度やっても水面のアメンボはピョンピョン跳んで素早く逃げてしまいます。 
よく見ると、アメンボが逃げ出す動きに反応して襲っていることが分かりました。
表面張力を利用して水面に浮いているアメンボは、獲物を捕るために足先の感覚毛で波紋を敏感に感じています。
ヘビが水溜りで少しでも動くと波紋が立ちますから、どうしてもアメンボに気づかれて逃げられてしまうのです。
長い胴体を使ってヤマカガシがアメンボをゆっくりと囲い込み(アメンボの行く手を塞ぎ)、待ち伏せしている顔の方へ誘導する作戦を試みても、アメンボはヘビの胴体をピョンと跳び越えて脱出してしまいます。 
結局、狩りが成功して水生昆虫を捕食するシーンは一度も撮れませんでした。 

ヤマカガシがアメンボに襲いかかるかどうかは、とても気まぐれです。 
せっかく目の前にアメンボが近寄って来たり通り過ぎたりしても、ヤマカガシは知らん顔でやり過ごすことが多いです。 
襲ってもどうせ逃げられると分かり、諦めているのでしょうか。

浅い水溜りを蛇行するヤマカガシの右横で丸っこい小型の水生甲虫(ミズスマシ?)が慌てて潜水すると、水底のデトリタスに隠れました。(@10:40〜) 

活動中のヤマカガシが口を開閉したのは欠伸でしょうか? 
なんとも可愛らしい映像が撮れました。(@0:35、0:43〜) 
Perplexity AIに尋ねてみると、ヘビもアクビをするそうです。
ヤマカガシを含むヘビは欠伸をすることがあります。欠伸はヘビなど多くの脊椎動物に見られ、あくびとも呼ばれ、口を大きく開けて呼吸を整えたり、顎の筋肉をほぐしたりする行動です。特に捕食や休息の前後、または体温調整の一環として行われると考えられています。 ヤマカガシの求愛や警戒行動の中であくびが観察されることがあり、他のヘビと同様に生理的な意味を持っています。そのため、欠伸は単なる疲労サインだけでなく、体調維持や環境への適応行動の一部とみなせます。[2] 

撮影の合間に木陰で測った気温は24.5℃でした。 
ヘビが浸っている水溜りの水温を実際に測るべきだったのですが、この日に限って長靴を履いて来なかった私は、泥で靴が汚れるのが嫌で水溜りに近づけませんでした。 
こういうときこそ、離れた位置からも温度が測れるレーザー式のデジタル温度計が必要ですね。 
もし携行していれば、水温だけでなくヤマカガシの体温も測れたはずです。 
同じ水溜りでも日陰の部分と日向の部分では水温が微妙に違うのかもしれません。 
しかし映像を見る限り、ヤマカガシは水溜りの中で日向・日陰のいずれかを特に好んで留まる訳ではなさそうです。 
ヒトが暑いサウナと水風呂を交互に入るのと同じように、ヘビも日向と日陰に出入りして自分で体温調節しているのかもしれません。

泥濘を蛇行したり水溜りを泳いだりするヤマカガシがあまりにも美しく、夢中になって動画を撮りまくりました。 
これほど長時間ヘビを観察できたのは初めてかもしれません。 
さすがに飽きてきたので、水場を監視するトレイルカメラでも軽く撮影してみました。 
その映像が冒頭のシーンです。
(これだけ動画素材を撮影順から入れ替えました。) 
私が愛用しているデジカメは最近ズームの調子が悪くて現場の状況を引きの絵で撮れなかったので、代わりにトレイルカメラの映像を冒頭に差し込みました。
その後、トレイルカメラを監視モードに切り替えて私が現場を立ち去ると、水溜まりSの中に浸っているヤマカガシの活動はもう録画されていませんでした。 
爬虫類は変温動物ですから、いくら活発に蛇行してもトレイルカメラの熱源センサーが反応しないのです。 

せっかく三脚があるのですから、固定した定点カメラでヤマカガシが水溜りSの中を蛇行する様子をタイムラプス撮影(インターバル撮影)すれば面白かったかもしれません。 


【考察】
動画の他に写真でもヤマカガシを撮ったのですが、フラッシュを焚いたら目が光を強く反射していました。 
てっきりヤマカガシにもタペータムがあるのかと思いきや、Google AIによれば違うそうです。
フラッシュ撮影時にヤマカガシの目が光って見えたとのことですが、これはタペータム(輝板)によるものではなく、角膜の外側にある透明な膜(眼鏡板)への光の反射と考えられます。 ヤマカガシを含むヘビの仲間には、一般的にタペータムは存在しないと考えられています。 ヘビの目の特徴と目の反射 まぶたがない: ヘビにはまぶたがなく、常に目を開けた状態のように見えます。その代わりに、目全体が「眼鏡板(スペクタクル)」と呼ばれる透明なウロコで覆われています。 タペータムの有無: タペータムは、犬や猫などの多くの夜行性動物が持つ反射層で、わずかな光を効率よく利用するために光を反射させる役割があります。しかし、多くのヘビはタペータムを持っていません。 フラッシュ撮影時の反射: 昼夜を問わず、ヘビの目にフラッシュの光が当たった際に光って見えるのは、この目の表面を覆う眼鏡板が光を反射しているためです。 ヘビの目は独特な構造を持っており、視力はあまり良くないと言われていますが、その代わりにピット器官(赤外線感知器官)などで周囲の情報を補っています。

 

ヘビの角膜の外側にある透明な膜(眼鏡板)は、鳥の瞬膜と異なります。両者は機能は似ていますが、解剖学的・進化的な起源が異なる別の器官です。 眼鏡板と瞬膜の違い 特徴 ヘビの眼鏡板 (Brille, Spectacle) 鳥の瞬膜 (Nictitating membrane) 構造 動かない透明なウロコ状の皮膚。上下のまぶたが融合してできたものに由来する。 半透明の薄い膜状の「第三のまぶた」。 動き まったく動かない。脱皮時に一緒に剥がれ落ちる。 目頭から目尻へ水平方向に素早く動く。 役割 まぶたの代わりとして常に目を保護し、乾燥を防ぐ。 まばたきのように角膜表面を潤し、破片から目を守る「ワイパー」や「水中メガネ」のような役割。 起源 上下のまぶたの融合。 脊椎動物が持つ第三のまぶた。 まとめると、鳥の瞬膜は動くことによって目を保護・保湿する機能的な「まぶた」の一部であるのに対し、ヘビの眼鏡板は固定された透明な皮膚の層であり、根本的な構造と動作が異なります。



記事のタイトル「ヤマカガシはアメンボなど水生昆虫を捕食するか?」について、Perplexity AIを相手にブレインストーミングしました。

A1: ヤマカガシは主にカエルやオタマジャクシのような動く小動物を捕食し、動きのないものは獲物として認識しにくい可能性が高いです。


A2: ヤマカガシは獲物を探す際に視覚を部分的に利用しますが、主に嗅覚を使っていると考えられています。特にヤコブソン器官(舌を使った化学感覚)を使って餌を識別し、ヒキガエルなど特定の獲物を嗅覚的に認識するという研究報告があります。視覚においては動くものの認識や動きに敏感で、素早く動くものを感知して反応しますが、色覚や細かな視覚情報の利用は限られているともされます。oirase-fm+2

総じて、ヤマカガシは視覚より嗅覚に依存する捕食行動が強く、特に獲物の存在確認や識別には化学感覚が重要とされています。ただし、獲物の動きの検知などに視覚も役立っていると考えられるため、視覚を完全に使わないわけではありません。note+1

したがって、ヤマカガシは主に嗅覚で獲物を探しつつ、視覚で動きを検知するという補助的な役割で視覚を使っていると理解できます。


A3: ヤマカガシにはピット器官(熱を感知する赤外線受容器官)はありません。ピット器官はマムシ亜科やニシキヘビ科、ボア科の一部のヘビに見られる特徴で、目と鼻の間のくぼみに存在しますが、ヤマカガシはナミヘビ科に属し、この器官を持たないとされています。

A4: ヤマカガシは昆虫を捕食することはほとんどなく、その主な食性はカエルやオタマジャクシ、魚類、トカゲなどの小動物で構成されています。ヤマカガシは特に有毒なヒキガエルも捕食できることで知られており、昆虫は食餌の主要な対象には含まれていません。amaru+3

報告されている食物リストに昆虫は基本的に含まれていないため、昆虫を捕食する機会や頻度は非常に低いか、ほぼないと考えられます。

 

A5: ヤマカガシが浅い水溜りの中で舌を出し入れしながらゆっくりと蛇行し、目の前にいるアメンボに襲いかかる行動は、単なる反射的なものではなく、獲物の動きを認識して捕食を試みている可能性が高いです。ヤマカガシは化学感覚(ヤコブソン器官)で獲物の存在を探知しつつ、動きに反応して捕食行動を起こします。アメンボは素早く逃げる能力が高い水生昆虫であるため、捕食されにくいですが、ヤマカガシのこの行動は獲物として認識しての捕食努力と考えられます。bdcchiba+1

つまり、襲いかかるのは単なる偶発的な反射ではなく、獲物としての意識を持っての捕食行動の一部と見なせます。ただし、アメンボが逃げやすいため捕獲には成功しにくいということです。

 

A6: ヤマカガシが夏の山中の浅い水溜りに長く滞在していたのは、体温を下げるための水浴を兼ねていた可能性が高いです。ヤマカガシは特に夏季の高温期に水辺で行動することが知られており、捕食対象のカエルやオタマジャクシがいない場合でも、水中で体温を調節するために一定時間水に浸かることがあります。また、水辺環境は湿度を保ち、脱水を防ぐ役割も果たすため、暑さや乾燥対策として利用されていると考えられています。yahagigawa+1

つまり、ヤマカガシが浅い水溜りに長居したのは、単に餌のためだけでなく、夏の暑さ対策としての水浴の目的もあるためと理解できます。



つづく→水溜りを泳ぐヤマカガシが舌を出し入れして水面を舐めるとき舐めないとき【FHD動画&ハイスピード動画】

2025/11/29

喉をブルブル震わせて真夏の暑さをしのぐアオサギ(野鳥)体温調節

 

2024年8月下旬・午前10:20頃・晴れ(薄曇り)・気温35℃ 

水田とトウモロコシ畑(飼料用のデントコーン)に挟まれた農道に1羽のアオサギArdea cinerea jouyi)が佇んでいました。 
喉のたるんだ皮膚を絶えずプルプルと振るわせているのは、呼吸による唾液の蒸発を促進して体温を下げようとしているのでしょう。
鳥には汗腺が発達していないので、発汗で体温を冷やすことができないのです。
撮影現場の気温を測ると35℃で、とても蒸し暑く、不快指数も高そうです。 
炎天下の地面からは陽炎が立ち昇っています。 
カワウではよく見かける体温調節の行動ですが、アオサギでは初見です。 

関連記事(3、4年前の撮影)▶  

カメラを構えた途端にアオサギは私を警戒して歩き去り、飛び去りました。 
逃げる際に腹立たしげな鳴き声を発したり脱糞したりしませんでした。 
奥に向かって低空で少し飛んだだけで、同じ砂利道の中央草帯に着陸。 
私から離れると、再び喉袋を震わせています。 

やがてアオサギは砂利道を歩いて横断すると、用水路に近づきました。 
イネ科雑草の茂みに隠れ、アオサギの頭部しか見えなくなりました。 
草いきれの中で、依然として喉を震わせています。 
そんなに暑いのなら日陰(木陰)に入ったり、早く用水路に入水して涼んだりすればよいのに、と思ってしまいます。 
おそらく、私が立ち去るまで油断なく様子を窺っているのでしょう。 


【考察】 
夏の暑さを凌ぐ体温調節でカワウとアオサギが同じ放熱行動をしているのが興味深く思いました。 
しかし、カツオドリ目ウ科とペリカン目サギ科は系統的に近くはありません。
離れた系統で何度も独立に収斂進化した行動なのか、それとも共通の祖先の時代から始まった進化的に古い行動なのでしょうか? 
Perplexity AIに質問すると、前者なのだそうです。

カワウとアオサギが喉の皮膚を震わせて体温を下げる行動は、口の中の水分を蒸発させて放熱し、体温調節をするためのものです。この放熱行動は鳥にとって汗をかけない代わりの重要な体温調節手段であり、多くの鳥で独立に進化した適応の一つと考えられます。特に、カワウはカツオドリ目、アオサギはペリカン目(サギ科)に属し系統的には近くないため、この行動は共通の祖先から受け継がれたものではなく、収斂進化の結果と考えられます。

近縁のトキやペリカン、カツオドリなど大型の水鳥でも同様に口や喉を使った蒸発冷却の行動が観察されることが多く、この体温調節戦略は複数の鳥類系統群で収斂的に進化した生理行動である可能性が高いです。


大型の水鳥や鳥類全般で共通して見られる喉や口を震わせて蒸発冷却する体温調節行動が、進化的に古く共通の祖先から始まった可能性は確かにあります。こうした基本的な生理的適応は祖先的特徴として継承されることもあります。ただし、サギ類(ペリカン目)とカワウ(カツオドリ目)は系統的にかなり離れており、両者の共通祖先はかなり古いため、同じ蒸発冷却の行動が系統的継承によるものか、獲得した環境適応という別々の進化の結果かわかりにくいのが実情です。

しかし、詳細に比較すると形態的な違いや生理的な仕組みの面で差異もあり、それぞれの系統で独立に発達させた可能性(収斂進化)を考えるのが妥当とされます。これは鳥類に限らず、多くの恒温動物で暑熱ストレス対策として口や皮膚を使う蒸発冷却が複数系統で独立に進化したという進化生物学の一般的傾向です。



鳥が喉を震わせて放熱しているときは、イヌのパンティングのように激しく呼吸しているわけではありません。鳥が口を開けてハアハアと呼吸し、口内の水分を蒸発させて体温を下げる「パンティング」に似た行動はありますが、喉の皮膚を震わせる行動自体は、そこまで激しい呼吸とは別の微細な震えによる放熱作用が主体です。

カワウなどでは、喉の毛細血管が多くある部位を震わせることで効率よく放熱し、呼吸を激しくして熱を逃がす行動とは少し異なります。一方で、口を開けて浅く速い呼吸をする行動は鳥にも見られ、気道や口腔内の水分の蒸発で体温調節を助けています。このため、喉震わせ放熱中に激しく息をするイヌのパンティングのような呼吸とは若干異なり、両者の組み合わせや状況により違いがあります。


アオサギやカワウが喉を震わせて放熱するときには、主に喉周辺の薄い筋肉群を小刻みに収縮させています。この運動は喉の皮膚やその下の血管を振動させ、広い範囲で蒸発冷却を促進します。具体的には、喉の筋肉(例えば環甲筋や輪状甲状筋など喉頭を動かす筋群)が微細な振動運動を繰り返すことで、喉の皮膚を震わせています。

この動きはイヌのパンティングのような深くて激しい呼吸運動とは違い、比較的浅く速い収縮で繊細に制御されているため、呼吸とは独立しながらも放熱効果を高める微細な筋肉運動です。また、この振動運動が血管の近くで起きることで血液の熱交換が効率化され、蒸発冷却と共に体温引き下げに寄与しています。

この喉震え(喉振動)運動は、どちらも水鳥の体温調節適応として観察されており、夏の暑さや高温環境の中で特に重要な放熱行動です.midorinotori


喉を震わせて放熱する行動がカラスで見られないのはなぜでしょうか? 
全身真っ黒な羽根に覆われたカラスは夏にとても暑いはずです。
カラスは餌を運ぶために伸縮可能な喉袋も持っているはずです。
しかしスズメ目カラス科では喉を震わせる放熱行動が進化しなかったようで、別の行動で暑さを凌いでいるそうです。

カラスが夏に喉を震わせて放熱する行動をあまり見られない理由は、カラスが体温調節に多様な方法を組み合わせているためです。カラスは口を開けて浅く速い呼吸(パンティング)をして口腔や喉の湿った部分から水分を蒸発させて気化熱を利用し放熱します。また、翼をわずかに開いて脇の下に風を通し放熱効率を上げたり、日陰でじっとして活動時間を早朝や夕方に集中させることで直射日光と暑さを避けています。

喉袋はカラスにはなく、サギなどのような明確な喉袋をもつ種とは異なります。カラスは羽毛の黒さによる熱吸収があるものの、羽毛の空気層が断熱層の役割も果たし体幹の温度上昇を抑えます。黒羽は熱を吸収しやすい反面放熱も良いため、日陰に入れば比較的効率的に体熱を放散できます。

したがって、喉を震わせるような明確な放熱行動はカラスでは観察されにくく、代わりにパンティングや翼を広げるなど複合的な行動で体温調節するのが特徴です。このため、喉の震えを伴う放熱はカラスではあまり見られないだけで、暑さ対策はしっかり行われています。

まとめると、

  • カラスは喉袋を持たず、喉を震わせて放熱する行動は基本的に見られない。

  • 口を開けてパンティングし口腔で水分蒸発を利用して冷却。

  • 翼を広げて腋下に風を通し、活動時間帯や場所の選択で熱ストレスを避ける。

  • 黒い羽毛は熱吸収と断熱の両方の特性を持ち、日陰入りなどで効率的に放熱。

この適応戦略により、カラスは暑い夏も体温調節を可能にしています.getridofpestanimals+4


気温が高くても風が吹いている気象条件、あるいは湿度が高くて蒸散効果が期待できない条件下で、鳥の体温調節行動がどう変化するか、観察するのも面白そうです。


【アフィリエイト】 

2025/11/24

夏の暑い昼間に扇風行動で巣を冷やすモンスズメバチ♀の群れ【FHD動画&ハイスピード動画】

 


2024年8月下旬・午後12:30頃・気温32℃ 

破風板に営巣した(引っ越してきた)モンスズメバチVespa crabro flavofasciata)のコロニーを定点観察しようと、暑い昼下がりに来てみました。 
巣の周囲では多数の蜂が飛び回り、巣に出入りしていました。 
営巣地に白昼堂々近づく私に対して警戒していたのかもしれませんが、大顎をカチカチ鳴らして警告したり私に攻撃してきたりする個体はいませんでした。 

カメラで巣口にズームインしてみると、数匹(4〜6匹)のワーカー♀が巣口の縁に陣取って外向きに並び、各自がその場で猛烈に羽ばたき続けていました。 
これは、暑い夏に巣内の温度を冷やすための扇風行動で、気温が30℃以上になると発動します。 
私が立って撮影した地点の気温を測ると、32℃でした。 
「レーザーポインタ付きの非接触式赤外線放射温度計」を持ってくるのを忘れたので、モンスズメバチの巣口の温度を測ることはできませんでした。 
気温が高くなり過ぎると育房内の幼虫や蛹が正常に発生しなくなるので、巣内に外気を送風して冷やしているのです。 
扇風行動だけでは対処できないほどの酷暑になると、水を飲んできたワーカー♀が巣内で吐き戻して湿らせ、気化熱で効果的に冷却するのだそうです。 

身繕いしながら扇風している個体もいます。 
他の外役ワーカー♀たちは続々と巣から飛び去ったり、帰巣したりしています。 

240-fpsのハイスピード動画でも撮ってみました。(@1:01〜) 
扇風行動の羽ばたきがスーパースローにするとよく見えるようになりました。 
帰巣する♀は獲物の肉団子や巣材のパルプを抱えておらず、空荷でした。 
もしかすると、外で水を飲んできて、巣を冷やすために運んできたのかもしれません。


※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。 


関連記事(10年前の撮影)▶  

モンスズメバチ♀群れ@巣口:破風板a+扇風行動
モンスズメバチ巣@破風板b

破風板の裏側がどうなっているのか調べたくても、屋根裏に勝手に登ることはできませんし、そもそも私はスズメバチの攻撃から身を守る防護服を持っていません。 
横から覗いて駄目元でストロボ写真を撮ってみたら、破風板の裏側からもモンスズメバチの巣の外皮の一部が見えていました。

巣内にいるモンスズメバチ成虫の腹部の縞模様が外皮の縁から覗いて見えます。



つづく→

2025/08/27

営巣地で寝そべって土を浴びるニホンアナグマ♀【トレイルカメラ:暗視映像】

 



2024年6月下旬

シーン0:6/26・午後13:46・くもり・気温31℃(@0:00〜) 
明るい日中にたまたま撮れた現場の様子です。 
平地の二次林でニホンアナグマMeles anakuma)の母親♀と4頭の幼獣が転入してきた営巣地(セット)を自動撮影カメラで見張っています。 

同じ日に繰り返し見られたアナグマ♀の砂浴び行動について以下にまとめます。 


シーン1:6/30・午前2:07(@0:03〜) 
深夜にアナグマの母子家族が巣外で活動しています。 
母親♀は林縁に横臥して右前脚で土を掘り、自分の体にかけています(砂浴び?)。 


一方、4頭の幼獣はセットに散開し、格闘遊びを繰り広げたり、木登りに挑戦したり、採食したりと、思い思いに過ごしています。
取っ組み合いをしている幼獣2頭が近くに来ると、母親♀は掴まえて毛繕いしてやっています。 


シーン2:6/30・午前4:28・気温18℃(@1:03〜)日の出時刻は午前4:17。 
日の出時刻は過ぎましたが、辺りはまだ薄暗いようで、トレイルカメラがモノクロで起動しました。 
林縁のミズキの根元で横臥していた母親♀がガバッと起き上がって左奥を凝視しています。 
やがて警戒を解くと、前足で地面を掻いて再び横たわりました。 
寝ながらたまに身震いしたり砂浴びしたりしています。 
そのまま少し居眠りしたのか、ときどき寝ぼけてビクッとジャーキングしています。 


シーン3:6/30・午前6:53・気温18℃(@1:38〜) 
すっかり明るくなった営巣地を母親♀がうろついています。 
林縁を右からセットに戻ってきたのか、それとも巣穴Rから外に出てきた直後なのかもしれません。 
いつものお気に入りの場所で(林縁のミズキの下)再び横臥しました。 

手持ち無沙汰なのか、前足で地面を掻いて少し掘り、その土を自分の体に掛けました。(砂浴び行動?) 

アナグマ♀の砂浴び(土浴び)行動を、1.5倍に拡大した上でリプレイ。(@2:38〜) 


【考察】
この地点で長期間ひたすら定点観察しているのに、アナグマの砂浴び行動を見たのはこれが2回目です。


つまり、滅多に見られない珍しい行動です。
観察例が少な過ぎる(n=2)のですが、今のところ成獣に特有の行動で、幼獣はやりません。 
しかし、アナグマの砂浴び行動は翌月にも観察できました。(映像公開予定)

暇つぶしの独り遊びのため、あるいは前足の爪を研ぐために、地面を引っ掻いているだけなのでしょうか?

鳥の砂浴びと同じく、アナグマも体についた体外寄生虫や余分な脂分を取り除くために土を浴びるのでしょう。
砂や土の粒子との摩擦で体外寄生虫が寄主の体表から物理的に剥がれ落ちることが期待できます。
また、砂浴び後の体毛は乾燥します。

体外寄生虫が蔓延しているのなら、体が痒くて頻繁に掻くはずです。
しかし、砂浴びを繰り返したアナグマ♀個体は、特に体が痒そうというわけでもありませんでした。
したがって、体外寄生虫に寄生されていると自覚したから対策として砂浴びを始めたのではない、ということになります。

アナグマの土浴びは渇水期でなくても行われることから、単なる水浴び不足の代替とは言えません。

サラサラの土を自分の体にかけると、体温よりもひんやりして気持ちが良いのだろうか?
土や砂は体の熱を吸収し肌表面を冷やす効果があるとされています。
ニホンアナグマは汗腺が発達していない動物なので、土浴びにより直接的に体温調節ができる利点がありそうです。


2025/08/24

山道から飛び立つミヤマセセリ♂【FHD動画&ハイスピード動画】

 

2024年5月上旬・午前11:30頃・くもり 

里山を登る山道で、ミヤマセセリ♂(Erynnis montanus)が翅を全開にして地面に止まっていました。 
枯れ葉(落葉)の上で静止していると、広げた翅の斑紋が目立たない保護色になっています。 
そのため、ちょっと目を離しただけで、見失いそうになります。 

曇天なので、日光浴ではなさそうです。 
晴れていても曇っていても、いつも翅を広げて止まるミヤマセセリの場合、日光浴しているかどうか翅形では判断できません。 
近年の分子系統解析によると、セセリチョウ科はタテハチョウ科やアゲハチョウ科よりもやや早い段階で分岐したグループで、やや原始的な特徴を持つのだそうです。 
翅の開閉で体温を調節する行動がセセリチョウ科では発達しなかったのだろうか。 

関連記事(16年前の撮影)▶ ミヤマセセリの日光浴

口元に注目すると、ゼンマイ状の口吻を少しだけ伸縮させたものの、地面や落ち葉を舐めてミネラル摂取をしている訳ではありませんでした。 

飛び立つ瞬間を狙って、240-fpsのハイスピード動画でも撮ってみました。(@1:00〜) 
すばやく羽ばたいて飛び去りました。 
しかし少し飛んだだけで、同じ山道に着陸します。 
♂は山道に沿って縄張りを占有し、交尾相手の♀が来るのを待ち伏せしているのかもしれません。 


2025/08/21

ブロック塀の下で昼寝するイエネコ(キジトラ)

 

2024年5月中旬・午後12:35頃・晴れ 

郊外の住宅地で、ブロック塀の下、側溝(融雪溝)の横の細いスペースにイエネコFelis silvestris catus)がのんびり寝そべっていました。 
目をつぶって昼寝しています。 
寝顔にズームインすると、口から舌を少し出していました。 
焦げ茶色の濃淡が複雑な毛並み(太り気味のキジトラ?)でした。
ブロック塀の下は日向と日陰の微妙な境界になっていて、ほどよく温かくて暑すぎない場所なのでしょう。

私が横を歩いて通り過ぎても猫は起きなかったので、振り返ってから撮影しました。
昼寝しながらも私の足音を油断なく聞いているはずですが、野生動物では考えられないほど飼い猫は無防備です。


【アフィリエイト】 

2025/08/12

林道で大量に吸水しながら排尿するミヤマカラスアゲハ♂

 

2024年6月下旬・午後14:10頃・くもり 

里山で砂利が敷かれたつづら折れの林道に沿って低く飛び回っていたミヤマカラスアゲハ♂(Papilio maackii)が着地すると、翅を全開にしたまま静止しました。 
前翅の翅表に黒いビロード状の性斑(性標)があるので、♂と見分けられます。 
伸ばした口吻を激しく動かして、濡れた砂利の表面を舐めています。 
かるく羽ばたきながら方向転換した際に、後翅の裏面に不明瞭な白帯がちらっと見えたので、夏型♂のようです。 
少し飛んで移動すると、林道のあちこちで小石の味見をしています。 
林道の傍らにはウツボグサドクダミの花が咲いているのに、ミヤマカラスアゲハ♂は花蜜にまったく興味を示しません。 
濡れた砂利やスギの落ち葉などを舐めて吸水し、性成熟に必要なミネラル成分を摂取しているのでしょう。 
飛び立ってもしばらくすると同じ地点に舞い戻り、吸水を再開します。 

よく見ると、ミヤマカラスアゲハ♂は吸水しながら、腹端から透明な液体をポタポタと排泄しています。 
水に薄く溶けている微量なミネラル成分を摂取するには、水を大量に飲まないといけないので、余った水分をどんどん排出しているのです。 

吸水しているミヤマカラスアゲハ♂の顔を正面からアップで撮ったストロボ写真をよく見ると、口吻の表面に水滴が点々と付いているのが興味深く思いました。 
口吻の接合部から水漏れしているのでしょうか? 
気化熱で冷やした水を飲んで体を効率よく冷やそうとしているのなら、面白い話です(水冷式の体温調節)。 


【アフィリエイト】 



ミヤマカラスアゲハ♂が飛び去ってから現場検証すると、林道の路肩の草むらに獣糞を見つけました。 
糞の色は黒く、未消化の種子がたくさん含まれています。 
テンの糞にしては太いですし、なんとなくツキノワグマUrsus thibetanus)が残した糞ではないかと思うのですが、あまり大きな糞ではありません。 

クロボシヒラタシデムシOiceoptoma nigropunctatum)の成虫1匹と、ニクバエの一種が獣糞に集まっていました。 

実はミヤマカラスアゲハ♂も初め、この獣糞に誘引されていた(舐めていた?)ようなのですが、草むらが邪魔で撮影できませんでした。 
私が回り込んで撮影アングルを確保しようとしたら、砂利を踏む音に警戒したチョウが警戒して飛び去り、吸水行動に切り替えたようなのです。 
今回は悔しい思いをしたのですが、次の年になってようやく、ミヤマカラスアゲハが獣糞で吸汁する証拠動画を撮ることが出来ました。(映像公開予定)

2025/07/29

砂利道で休み、準備運動後に飛び立つクジャクチョウ【FHD動画&ハイスピード動画】

 

2024年6月下旬・午後13:55頃・くもり 

里山の砂利が敷かれた林道で、美しいクジャクチョウInachis io geisha)と出会いました。 
翅を全開に広げて砂利道に静止していますが、曇天で日差しがないので、体温を上げるための日光浴ではなさそうです。 

翅に破損がない、きれいな個体でした。 
さすがに越冬明けの個体ではなく、羽化直後の個体と思われます。 
寒冷地では年一化なのだそうです。 

腹部をかすかに上下動させています。 
途中から翅をピクピクと動かし始めたのは、飛び立つ前の準備運動なのでしょうか? 
やがてクジャクチョウは翅を閉じて、小刻みに翅を震わせています。 
赤く美しい翅表が見えなくなり、黒い地味な翅裏を見せてくれました。 
タテハチョウ科なので、昆虫なのに脚は4本しか見えません。(前脚が退化している) 

準備運動で体温が十分に上がったのか、素早く飛び去りました。 
温度計を持ってこなかったので、このときの気温は不明です。 
私の体感では、別に肌寒い日ではありませんでした。 
大型の蛾ならともかく、気温の高い初夏に飛翔前の準備運動が必要とは知りませんでした。 
クジャクチョウは北方系の蝶なので、気温の低い山地でも活動できるように適応しているのでしょう。 

クジャクチョウは飛び立っても、砂利道の林道を少し往復しただけで、ほぼ同じ地点に着陸する印象でした。 
縄張りを張っているのでしょうか?(占有行動)
クジャクチョウの成虫は外見に性差が乏しく、フィールドで単独個体の性別を見分けるのは至難の技なのだそうです。

少し飛んだだけで、砂利道の少し離れた地点に留まり直しました。 
今度は斜め前方から撮れたのですが、クジャクチョウはゼンマイ状の口吻を縮めたままでした。 
小石を舐めてミネラル摂取している訳ではありません。 

クジャクチョウが飛び立つ瞬間を狙って、240-fpsのハイスピード動画でも撮ってみました。(@2:02〜) 
閉じた翅を小刻みに震わせていたのですが(準備運動?)、警戒を解いたのか、翅を全開に戻しました。 
急に力強く羽ばたいて、飛び立ちました。 


※ 説明のために、撮れた映像素材の順番を入れ替えました。 
本来なら、冒頭のただ翅を広げて静止しているだけの退屈なシーンは編集でコンパクトにカットすべきなのは分かっています。 
久しぶりに出会えた憧れのクジャクチョウが息を呑むほど美しく、見とれてしまったので、あえてノーカットでお届けします。 

もう細かいことは覚えていないのですが、「林道を下山中に複数個体を撮影」と野帳には書き残してあります。



2025/07/10

日光浴していた農道から蛇行して逃げるシマヘビの幼蛇

 

2024年6月中旬・午前9:50頃・晴れ 

郊外を流れる川の堤防路(農道)でシマヘビElaphe quadrivirgata)の幼蛇がウネウネと伸びた状態で農道に静止していました。 
しばらく待ってもシマヘビ幼蛇は動きません。
舌の出し入れもなく、まさか死んでいるのでしょうか?

動画を撮りながら私がゆっくり近づいたら、シマヘビ幼蛇は身を翻して道端の草むらに姿を消しました。 
細長い体のほとんどは日向に出ていたので、おそらく日光浴をしていたのでしょう。

逃走シーンを1/5倍速のスローモーションでリプレイ。 
すばやく蛇行して草むらに隠れました。 
威嚇行動は見られず、舌の出し入れなども観察できませんでした。

関連記事(3、5年前の撮影)▶  


【考察】 
シマヘビは無毒ですが、幼体の時期だけ有毒のマムシにベーツ擬態していると考えられています。 
しかし、私の感覚ではフィールドでマムシに出会う頻度(≒生息数)は近年激減しています。 
その状況で無毒のヘビがモデルの有毒マムシにベーツ擬態しても効果ないはずです。 
捕食者が擬態のモデルとなったマムシを食べようとして毒で痛い目に遭い、その体色パターンを学習しなければ、シマヘビ幼蛇を忌避する行動も起こらないからです。
また、ベーツ擬態が成立するためには、「モデル(マムシ)」と「ミミック(シマヘビ幼蛇)」が同じ捕食者に遭遇しやすい環境で共存していることが重要です(同所性)。
マムシとシマヘビの生息環境は少し違うので、捕食者がマムシを学習する機会が少なくなり、擬態の効果が薄れる可能性が高いでしょう。

そもそも、シマヘビの幼蛇がマムシをモデルとしたベーツ擬態であることを、捕食者を使った実験で本当に証明した研究はないそうです。 
実は一部のヒトが「似てる」と主観的に思っているだけかもしれません。
擬態をテーマとした写真集は昔から人気があります。
ロマンがあって面白いのですが、捕食者への忌避効果があるか実証していないのに、動物写真家や自然愛好家が安易に「擬態だ!」と決めつけた例が実は多いのではないかと私は疑っています。 
実証が難しいのは百も承知です。
例えば捕食者が紫外線領域も見えるのであれば、その視覚特性を考慮した上でモデルとミミックの見た目が似ているかどうかをせめて検討すべきでしょう。
ヒトの見る可視光の世界だけで決めつけているのは問題です。

もし本当にマムシへの擬態が捕食者対策として有効なら、幼体の時期だけでなく成体になってもマムシに似せ続ければよいはずです。 
成体になってシマヘビ特有の体色パターンが現れるのは、マムシとの異種間誤認交尾を避けるため(生殖隔離)かと私は思ったのですが、それは違うらしい。 
以下はPerplexity AIの回答です。
成体でマムシに似せ続けない理由として有力なのは、捕食リスクや生態的背景の違いです。 幼蛇は体が小さく、捕食者(鳥や哺乳類など)に狙われやすいため、擬態による捕食回避効果が強く働くと考えられています。 成体になると体が大きくなり、捕食リスクが減少し、また行動範囲や生息環境も変化するため、幼体時に必要だった擬態的模様が不要になる可能性があります。 さらに、成体の体色や模様は「隠蔽(カモフラージュ)」や「環境への適応」といった別の選択圧が働いていると考えられています。 生殖隔離のために体色が変化するという説は、ヘビ類では一般的に支持されていません。 また、マムシとシマヘビは生殖行動や生息環境、繁殖時期が大きく異なるため、異種間交尾のリスク自体が極めて低いと考えられます。 まとめると、シマヘビ幼蛇が成体になるとマムシ的な外見を失うのは、捕食圧や生態的適応の変化によるものであり、「生殖隔離」のためではないと考えられています。

2025/06/27

初期巣で抱卵するコガタスズメバチの創設女王と謎のエントツドロバチ♀

 

2024年5月下旬・午前11:15頃 

某山寺の境内に木造の小さな祠があり、その軒下で毎年のようにコガタスズメバチが営巣しています。 
今季も様子を見に来たら、コガタスズメバチVespa analis insularis)の初期巣が作りかけで見つかりました。 
まだ巣盤は小さくて1層しか作られていません。
六角形の育房は6室?で、そのうち2室の中には白い卵が産み付けられていました。 
巣盤を丸く覆う外皮も天井から作り始めたばかりで、巣盤は剥き出しの状態です。 

昼間でも薄暗い軒下で、創設女王が初期巣の天井部に乗って抱卵していました。 
腹式呼吸の激しい収縮運動が見えます。 
巣盤を吊り下げる巣柄に体を巻き付けながら(カーリング)巣盤の上に乗って、自分の体温を卵に伝えて温めているのです。 
昆虫は一般に変温動物と思われがちですが、抱卵する女王蜂は胸部の飛翔筋を活発に収縮させて(羽そのものは動かさず)発熱しているそうです。 
抱卵中の創設女王をサーモグラフィカメラで撮り、本当に発熱しているのかどうか確かめてみたいものです。
鳥は卵殻が丈夫なので、孵化するまで母親♀が卵の上に座って温めることが可能です(抱卵)。
一方スズメバチの卵や幼虫は柔らかいので、潰れないように、育房の薄い巣材を通して女王蜂♀が体温を伝えて温める点が鳥の抱卵や抱雛とは異なります。

関連記事(14年前の撮影)▶ ホオナガスズメバチ女王の抱卵


余談ですが、コガタスズメバチ初期巣の少し右奥の天井裏の板にヤマトゴキブリPeriplaneta japonica)の卵鞘が付着しているのが写真に写っていました。
撮影中は気づかず、ピンぼけでよく見えませんが、形状がそっくりです。 



右奥の天井裏に、ヤマトゴキブリの卵鞘が産み付けられている?



祠の梁の下面には、過去にコガタスズメバチが営巣と駆除を繰り返した古巣の跡が多数残っています。(写真なし)






同じ祠の反対側の軒下で、さらに興味深い発見がありました。 
そこにもコガタスズメバチの初期巣が作りかけられていて、同様に抱卵(カーリング)している蜂がいたのですが、どうも普通のコガタスズメバチではありません。 
日陰の軒下はあまりにも暗いので動画には撮れず、ストロボを焚いて写真に撮ってみました。
真っ黒な蜂で、腹部にオレンジ色の横縞が1本だけあります。
まるでエントツドロバチ♀(別名オオカバフスジドロバチ;Orancistrocerus drewseni)のようです。
エントツドロバチは幼虫や前蛹で越冬し、春になると成虫が羽化してきます。
5月下旬にエントツドロバチ♀が活動していても、おかしくありません。

しかし、エントツドロバチは名前の通り泥を巣材として煙突状の泥巣を作り上げますから、コガタスズメバチがパルプで作った初期巣を乗っ取る理由がありません。
たまたま軒下に侵入して、隠れ家として過ごしているだけかもしれません。
エントツドロバチだとしたら、初期巣の主であるコガタスズメバチ創設女王と喧嘩にならないのが不思議です。
謎の黒い蜂に少し動いてもらって、全身像をしっかり撮りたかったのですが、脚立がないと手が届かない高所に初期巣が架けられていました。 

コガタスズメバチが作る育房の平均的なサイズは、直径が約5~7mmです。
写真で育房と比べると、謎の黒い蜂の体長は育房4~5個分以上に見積もられ、25mm前後と推定されます。
エントツドロバチ♀の体長は約16~19.5mmであり、コガタスズメバチ創設女王(25~28mm)より明らかに小さいです。

コガタスズメバチの創設女王で、このような黒化変異の個体は知られていないそうです。
しかし同属のヒメスズメバチVespa ducalis pulchra)は、体色の個体変異が大きいらしく、

腹部の斑紋には個体変異があって、黒化の程度が強いものから、綺麗な黄色と赤と黒のしましま模様の個体まで変異します。

黒化の程度が強い個体では、肩の部分(前胸背板と中胸背板前部)と胸部後半部がほぼ黒色で、腹部末端3節も全て黒色です。腹部前半部の黒帯も拡大し、腹部全体で黄色の筋が3本+腹部前半に若干の赤褐色部となります。
参考サイト:スズメバチ事典:ヒメスズメバチ より引用

今回は蜂の側面しか写真が撮れなかったのですが、もしかするとヒメスズメバチ創設女王の黒化変異かもしれません。
ヒメスズメバチの可能性を検討してみましょう。
ヒメスズメバチの創設女王が、木造家屋の軒下など開放空間に初期巣を吊り下げることは極めて稀で、ほとんどは土中や閉鎖空間に営巣します。
また、ヒメスズメバチの営巣開始時期は5月下旬~6月で、他のスズメバチより遅いです。
写真に写った謎の黒い蜂(推定された体長〜25mm)は、ヒメスズメバチ創設女王(平均的な体長は30~35mm)にしては小さすぎます。

以上から、エントツドロバチやヒメスズメバチの可能性は除外され、おそらくコガタスズメバチ創設女王の黒化変異というきわめて珍しい事例だろうと思われます。
定点観察に通いたかったのですが、残念ながらその後に初期巣が駆除されてしまい、謎は未解明のまま残りました。
(※ 追記参照)

謎の黒い蜂の正体について、いつものようにPerplexityとブレインストーミングしました。


※【追記】
17日後の6月上旬に現場の祠を再訪すると、初期巣の2つとも外皮が完成していました。
コガタスズメバチの初期巣に特有の細長い円筒状の巣口が下向きに伸びていました。
蜂の出入りを観察する時間がなかったので、初期巣の写真だけ撮って帰りました。

その後も定点観察したかったのですが、誰かが巣を駆除してしまいました。

コガタスズメバチ初期巣a@祠軒下

コガタスズメバチ初期巣b@祠軒下

ここで重要なポイントは、17日前に謎のエントツドロバチ?が抱卵していた初期巣bも作ったのはコガタスズメバチと判明したことです。
つまり、ヒメスズメバチ黒化変異の創設女王である可能性は否定できました。
ヒメスズメバチの初期巣は、解放空間に吊り下げるレアケースでも、このような逆向きのフラスコ状(徳利状)にはなりません。
やはり、コガタスズメバチ創設女王の黒化変異が作ったようです。




【アフィリエイト】 
・『スズメバチ類の比較行動学』 カーリング行動@p44 
・『スズメバチはなぜ刺すか』 北海道大学図書刊行会 p192 




ランダムに記事を読む