2022/11/19

洪水が引いた後の川岸を通るホンドタヌキ【トレイルカメラ:暗視映像】

 

2022年8月上旬・午前3:50頃

線状降水帯による集中豪雨で川が増水した3日後。 
コンクリート護岸に沿った獣道には、すっかり水が引いた後、漂着した落枝や土砂、ゴミなどが散乱しています。 
深夜に単独行動のホンドタヌキNyctereutes viverrinus)がコンクリート護岸を左から右へ(下流方向へ)トラバースするように歩いて行きました。 
大雨・増水という水害でも難を逃れて無事だったようで、安心しました。 
ペアのパートナーはどうしているのでしょう?

画面の手前から奥に向かって緩やかなスロープになっている護岸の奥にはニセアカシアの河畔林が広がっていて、その中にはかつてタヌキの溜め糞場rvがありました。
しかし、タヌキは今回も溜め糞場に立ち寄らずに素通りしました。 

都合により、この地点でのトレイルカメラ調査を一旦打ち切ります。 
限られた台数のトレイルカメラでやり繰りするのは大変です。 

アナグマとタヌキの溜め糞に向かって歩く夜行性の糞虫【トレイルカメラ:暗視映像:5倍速】

 

2022年7月下旬 


里山にあるスギ林道上でホンドタヌキNyctereutes viverrinus)とニホンアナグマMeles anakuma)が共有している溜め糞場sをトレイルカメラ(自動撮影カメラ)で長期監視しています。 
林道上に転がっている長いスギ落枝のすぐ右隣(画面中央)に黒々と見えるのがアナグマの糞塊で、落枝の左下にあるのがタヌキの糞塊です。 
夜に記録された暗視映像の中で、糞虫の活動をまとめてみました。 
変温動物の糞虫が暗闇で動き回ってもトレイルカメラは反応しませんが、恒温動物(哺乳類)がたまたま林道を通りかかると熱源の動体検知センサーによって監視カメラが起動します。 

シーン1:7/21・午後22:07 
スギの落葉が大量に散乱している林道上を黒くて小さな謎の甲虫がゆっくり歩いていました。(赤い矢印に注目) 
5倍速の早回しでまずはご覧ください。(@0:00〜) 
後に等倍速でリプレイ。(@0:41〜) 
アナグマが排泄した溜め糞に向かっているようですが、到着前に録画が切れてしまい残念。
おそらく糞虫の仲間がアナグマの糞便臭に誘引されてきたのでしょう。 


シーン2:7/23・午前2:30 
2日後の深夜、カメラが何に反応して起動したのか不明です。 
林道を右から歩いて来た謎の甲虫がアナグマの溜め糞に到着しました。(赤い矢印が示す黒点に注目) 
5倍速の早回しでまずはご覧ください。 (@0:20〜) 
後に等倍速でリプレイ。(@2:08〜) 


シーン3:7/29・午後19:36  
更に6日後の晩、何が原因でカメラが起動したのか謎です。 
5倍速の早回しでご覧ください。(@3:41〜) 
林道上の巣穴から出てきた虫がタヌキの溜め糞に向かって歩いています。 (赤い矢印で示すのを忘れました…。)
地面がスギの落葉に覆われていて、かなり歩きにくそうです。 
糞塊に辿り着く前に残念ながら尻切れトンボになってしまいました。 



アナグマの糞に来る糞虫と、タヌキの糞に集まる糞虫では、種類が微妙に異なるのでしょうか? 
嗜好性があるのなら面白い話です。 
単純に糞の鮮度の問題かもしれません。

夜行性の糞虫が溜め糞に飛来するシーンはトレイルカメラで未だ撮れたことがありません。 
いつも必ず林床を歩いて溜め糞に向かいます。 
糞虫に関する本を読むと、「夜でも糞塊に飛来する」と書いてあるのですが、私のフィールドでは確認できていません。
新たに飛来した個体ではなく、近くに巣穴を構えている個体が夜も歩いて糞塊に通っているのでしょう。
夜に現場入りして糞虫の活動を直接観察したいところですが、この林道をツキノワグマが往来することが判明したので、無理は出来ません。 

徘徊性の甲虫にとって長いスギ落枝が障壁になっている可能性があります。 
例えば「糞転がし」をするオオセンチコガネは、道中にある太い落枝が障害物となり、乗り越えることができません。 
落枝を境にアナグマとタヌキが反対側に(少し離れて別々に)溜め糞を形成しています。 
夜行性の動物が暗闇でこの落枝に躓いたり、野ネズミが長い落枝を蛇だと勘違いしてパニックになったりしています。 
自然界の営みに私はなるべく介入したくないのですけど、後日この長いスギ落枝を林道上から取り除きました。



2022/11/18

日没直後に池畔の林道で採食するニホンイノシシ【トレイルカメラ:暗視映像】

 

2022年8月上旬・午後18:50頃・小雨(日の入り時刻は18:46) 

小雨がぱらつくと山中の泉の水面に波紋が広がります。 
薄暗い日没直後に対岸の奥の林道をニホンイノシシSus scrofa leucomystax)が通りかかりました。 
林道に生えた下草を採食しながら、左から右へゆっくり歩いて行きます。 
尻尾を左右に振っていますね。 
池から林道へ流れ出る水路の辺りでちょっと立ち止まりました。 
やはりヌタ場的な泥濘が好みらしい。 

それ以来、トレイルカメラ(自動撮影カメラ)を山中のあちこちに設置してみると、イノシシは決して珍しくないことが分かってきました。
同じ有蹄類のカモシカよりは生息数がずっと少ない印象です(撮影頻度が低い)。

野生のイノシシがヌタ場で泥浴びする様子を撮影するのが今季の目標です。 
この水場(池)をイノシシが毎回素通りするのが不思議でなりません。 
トレイルカメラの存在を警戒して近寄らないのか、それとも泥質を選り好みするのかな?

※ 動画編集時に自動色調補正を施しています。 



アカマツの樹上から聞こえるニイニイゼミ♂の鳴き声♪を声紋解析してみる

 

2022年7月中旬・午後15:25頃・晴れ 

里山で幅広い稜線を下山していると、アカマツの樹上からチィー♪というニイニイゼミ♂(Platypleura kaempferi)の特徴的な鳴き声が聞こえました。 
今回も鳴き声の主を見つけられませんでした。 (悔しいことに、セミプロじゃない私は一度も鳴いているニイニイゼミの姿を見つけたことがありません。) 
ニイニイゼミの体色は、木の幹に止まると見事に紛れる迷彩色になっています。 
近寄ってじっくり探そうとすると、警戒して鳴き止んでしまいます。 
仕方がないので、アカマツを見上げて鳴き声だけ採集(録音)しました。
耳を澄ますと、遠くでウグイス♂もかすかに鳴いていますね。

ニイニイゼミ♂の鳴き声を声紋解析してみる

オリジナルの動画ファイルから音声パートをWAVファイルに抽出してから、ノイズの少ない冒頭部を切り出してスペクトログラムを描いてみました。
音程が途中から上がります。
野鳥の囀りとは違い、きれいな倍音構造は認められませんでした。




 

↑【おまけの動画】 
「松尾芭蕉の詩が引き起こした蝉の大論争【ゆるむし学ラジオ】」

2022/11/17

洪水が引いた後に川岸の獣道を通る夏毛のニホンノウサギ【トレイルカメラ:暗視映像】

前回の記事:▶ 川沿いの護岸で夜に下草を食べる夏毛のニホンノウサギ【トレイルカメラ:暗視映像】

2022年8月上旬・午前00:40頃・ 

線状降水帯による集中豪雨で川が増水した2日後、コンクリート護岸に沿った獣道はすっかり水が引いていました。 
緩やかなスロープになっている護岸には、漂着した落枝や土砂、ゴミなどが散乱しています。
夏毛のニホンノウサギLepus brachyurus angustidens)が深夜に現れ、ゆっくりと左へ(上流側へ)トラバースして行きました。 
短い登場シーンを1/3倍速のスローモーションでリプレイ。 
水害でも難を逃れて無事だったようで一安心。

ツルフジバカマの花で採餌するクロマルハナバチ♀

 

2022年8月上旬・午後17:00頃・くもり 

線路沿いに咲いたツルフジバカマの群落でクロマルハナバチBombus ignitus)のワーカー♀が訪花していました。 
マメ科植物に特有の蝶形花に正当訪花を繰り返しています。 
吸蜜する蜂の後脚をよく見ると、花粉籠に白っぽい花粉団子を少量付けていました。 
近くに咲いているヒルガオには全く訪花しませんでした。 

関連記事(7年前の撮影)▶ クサフジの花で採餌するクロマルハナバチ♀

私は今までこの仲間を十把一絡げに「クサフジ」と認識していました。 
今回の植物は、小葉も花もクサフジより大振りなので帰化植物なのかと思い植物図鑑で調べると、よく似たツルフジバカマと知りました。 
これでまた身近な植物を見る解像度がひとつ上がりました。 
ピッキオ『花のおもしろフィールド図鑑:夏』によると、
クサフジ: 小葉は18〜24枚 小葉と呼ばれる細い葉が20枚ぐらいついていて、全部ひとかたまりで1枚の葉です。 ツルフジバカマ: 小葉は10〜16枚 花の大きさもクサフジにくらべて一回り大きいので、ちょっと立派に見えます。また、梅雨の頃咲き出すクサフジに比べて、ツルフジバカマは花の時期が遅く、夏から秋にかけてたくさん花をつけます。 (p54-55より引用)

2022/11/16

夜の杉林道を歩くニホンカモシカの母子【トレイルカメラ:暗視映像】

 

2022年8月上旬・午後22:38頃・気温24℃ 

里山のスギ植林地を通る林道に設置したトレイルカメラの前をニホンカモシカCapricornis crispus)の母子が右から左へ通り過ぎました。 
短い登場シーンを1/3倍速のスローモーションでリプレイ。 

母親♀が先導し、すぐ後を幼獣が付いて歩きます。 
先頭の成獣が♀と分かっていても、外見で性別を見分けることは無理です。 
タヌキとアナグマが共有している溜め糞場sに対してカモシカは全く興味を示さずに素通りしました。 
カモシカの親子がトレイルカメラで撮れたのは、これが初めてです。 

大雨で増水した夜の川に懸垂下降を試みるクモ(蜘蛛)【トレイルカメラ:暗視映像】

 

2022年8月上旬・午前00:10頃・ 雨上がり

停滞する線状降水帯がもたらした集中豪雨で、川が一気に増水しました。 
コンクリートブロックで覆われた護岸がすっかり水没しています。 

雨が一時止んだ深夜に、画面の上からツーっと糸を引きながら小さな造網性(?)クモが降りて来ました。 
河畔林の樹上に潜んで雨宿りしていたのでしょう。 
しおり糸にぶら下がったまま空中でしばらく静止したということは、無風のようです。 
やがて、意を決したように更に懸垂下降しました。 
そのまま激流に入水してしまうのではないか…と無謀な挑戦が心配になります。
しかし水面に触れたのか、慌てたように引き糸を登り返しました。
クモの種類は多様で水面を走って獲物を狩る者や水中で暮らす者もいますが、普通の造網性クモは水面を避けるようです。 


クモはたとえ昼間でも目がほとんど見えませんから、振動覚(風の動き)で周囲の状況を察知するしかありません。 
それでも水害の異変を感じて、安全な場所へ避難しようと試みたのでしょう。 
トレイルカメラをくくりつけていたニセアカシアの木は川岸の水際に立っていたのに、今回の増水でも流出や倒伏を免れました。
 
関連記事 ▶ 2022年8月3日〜4日:集中豪雨による最上川上流域の水位変化【100倍速・トレイルカメラ暗視映像】



※ クモは変温動物ですから本来はトレイルカメラで動体検知できないはずです。

激しい水流や揺れる枝葉などで誤作動した結果、たまたま撮れた映像です。 



【追記】

芥川龍之介の書いた有名な短編小説『蜘蛛の糸』で、お釈迦様はクモの糸を極楽から地獄に向かって垂らしました。

糸を吐いたクモがどうなったか、小説を読み返しても全く記述されていません。

実物のクモは自らがしおり糸の先端にぶら下がり、体重を利用して懸垂下降します。

クモの糸だけをどんどん下に降ろすということは不可能です。(風を利用してクモの糸を吹き流すことは可能ですけど、それなら極楽から地獄に向かって強風が吹いていないといけません。)

また、懸垂下降で地獄の血の池まで来たクモは、着水前に水面を怖がって引き返してしまうはずです。

その前にカンダタは素早く腕を伸ばしてクモの糸を掴まないと助かりません。

小説のオチでは、クモの糸にすがって極楽へ登る途中でクモの糸が切れてしまい、他の罪人もろとも地獄に再び落ちてしまいました。

このとき、糸の下端にぶら下がって居たクモも巻き添えを食って地獄の血の池に(真っ先に)落ちた訳ですから、お釈迦様は罪のないクモを見殺しにしたことになります。

以上、腐朽の文学作品に対して野暮な生物学的つっこみを入れてみました。

2022/11/15

毛の抜けたニホンイノシシ♂が夜のスギ林道を徘徊【トレイルカメラ:暗視映像】

前回の記事(8ヶ月前の撮影)▶雪山の杉林を通るニホンイノシシ【トレイルカメラ:暗視映像】

2022年8月上旬・午後21:30頃・気温25℃ 

タヌキとアナグマの溜め糞場sがある里山のスギ林道を監視するトレイルカメラにニホンイノシシSus scrofa leucomystax)が写りました。 
晴れた夜に林道をゆっくり歩いて右から登場しました。 
カメラを見上げた両目が白く光り、隻眼の個体ではありません。
▼関連記事(1週間前の撮影) 
右目を失明したニホンイノシシが夜霧の水場に登場【トレイルカメラ:暗視映像】
この個体は体毛が非常に薄く、皮膚に斑模様が浮かび上がっています。 
ほとんど無毛で、睫毛しかありません。
イノシシの夏毛がここまで薄いという話は聞いたことがありません。 
野生イノシシの観察歴が浅い私には良く分からないのですが、疥癬などの皮膚病に感染して脱毛したのですかね? 
それとも養豚場から逃げた豚が野生化した野ブタなのかな?
YouTubeのコメント欄にて、「養豚場から逃げた家畜の豚なら耳にタグが付いているはずだが、映像の個体には無い」とのご指摘がありました。 
これぐらい分かりやすい特徴があれば、今後も個体識別できそうです。
しかし体毛が無いのでは、雪国の寒い冬はとても越せないでしょう。

トレイルカメラの真下で疥癬イノシシが何をしているのか気になります。 
私の残り香に興味があるのでしょうか? 
カメラを固定したスギの幹の根元は法面の土が崖のように露出しています。 
同じ場所を通りかかるツキノワグマやニホンカモシカも同様に寄り道していくので、それらの野生動物は崖の土を舐めて塩分補給しているのではないか?と推測してみました。 
(カモシカについては、その仮説は後に否定されます。) 

録画が一旦終了してから再び起動しました。 
その間に下草の匂いを嗅ぎながら林道を右に戻って行く疥癬イノシシの後ろ姿がちらっと写っていました。 
(イノシシの不在時を5倍速で早回し。) 
しばらくすると同一個体の疥癬イノシシが再び右から戻って来ました。 
林道の真ん中に黒々と残されているタヌキの溜め糞sを匂いで嗅ぎつけると、暗闇でも踏まないように注意しながら通過しました。 
一方、アナグマの溜め糞には無反応でした。 

口元に牙が見えたので、どうやら♂のようです。 
最後は急に何かに驚いて(踏んだ感触が変だった?)林道を左に走り去りました。 

※ 後半のみ動画編集時に自動色調補正を施して明るく加工しています。 
カメラのレンズのすぐ近くにザトウムシの一種が陣取っているようで、長い歩脚で何やら手招き(徘徊?)している動きが目障りですね。 



タヌキの溜め糞を食べながら自らも排泄するクロボシヒラタシデムシ

 

2022年7月中旬・午前11:10頃・晴れ 

スギが植林された里山の斜面をトラバースする小道にホンドタヌキNyctereutes viverrinus)の溜め糞場dが復活していました※。 
新鮮な下痢便に食糞性の昆虫が集まっています。 
日溜まりの溜め糞で一番目立つのは2匹のクロボシヒラタシデムシOiceoptoma nigropunctatum)です。 
体格に差がありますけど、求愛や交尾をしてないので、性別が分かりません。(見分け方を私は知りません。) 
糞塊がときどき上下にモコモコ動いているということは、下に潜む糞虫が活動しているのでしょう。 
糞塊が激しく揺れ動いても、飛来したニクバエの一種に背中を踏まれても、クロボシヒラタシデムシは全く気にせずに食糞を続けています。 

途中で1匹のクロボシヒラタシデムシが腹端から排泄しました。(@2:32〜) 
固形の糞ではなく、泥水のような液状の便でした。 
本種の排泄行動は初見です。
関連記事(9年前の撮影@里山の稜線)▶ タヌキの溜め糞で婚活するクロボシヒラタシデムシの群れ


ニクバエは糞塊を少し離れ、両手を擦り合わせて身繕いに余念がありません。  


※ 糞の形状などから、アナグマではなくタヌキの溜め糞場だろうと推察し、昨年からときどき定点観察しています。 
後日(秋になってから)この現場にトレイルカメラを設置したところ、確かに夜な夜なホンドタヌキが排便していることを確認できました。(映像公開予定)

2022/11/14

野ネズミに川の洪水を予知する第六感があるか?【トレイルカメラ:暗視映像】

 

2022年8月上旬 

獣道になっている川沿いのコンクリート護岸をトレイルカメラで監視していると、集中豪雨による川の増水前後に常連の野ネズミ(ノネズミ)が登場しました。 

シーン1:8/3・午前3:47 
コンクリートブロックが敷き詰められた護岸を野ネズミが右へ(下流方向へ)移動しています。 
短い登場なので、1/3倍速のスローモーションでリプレイ。 

その日の晩から停滞する線状降水帯によって激しい大雨が降り続き、川の水位が急上昇しました。 
増水した川の水がコンクリート護岸を越えてあわや河川敷に氾濫する前に、水位が下がり始めました。 

大災害を予知したネズミが大群で一斉に逃げ出すという有名な都市伝説があります。 
しかしこの映像を見る限り、野ネズミは決してパニック状態ではなく、単独個体がいつものようにゆっくりと餌を探し歩いていました。 
大雨や川の洪水を予測して逃げ出したようには見えません。 


シーン2:8/6・午前2:01 
川の増水がすっかり引いた3日後、野ネズミが再び監視カメラに写りました。 
護岸スロープを元気に駆け上がり、河畔林に向かいました。 
水害があっても難を逃れて無事だったようで一安心。 


野ネズミなど野生動物に川の洪水を予知する第六感があるのでしょうか? 
オカルト嫌いの私は個人的に懐疑派ですが、この1例だけでは実証したことにはなりません。
今回の増水は堤防が決壊するほどではありませんでしたし、野ネズミが生息する河川敷や河畔林まで氾濫することもありませんでした。
それを予知した野ネズミが、「慌てて避難するまでもない」と判断したかもしれないからです。
川沿いや河畔林のあちこちに多数のトレイルカメラを設置して増水の前後で野ネズミの動向を調べないといけません。 
日本全国津々浦々でトレイルカメラを使った調査がもっと盛んになれば、自ずとデータが蓄積されてくるはずです。 
結局のところ「大山鳴動して鼠一匹」という結果になるかもしれません。

地球温暖化の進行で近年は甚大な水害が頻発するようになりました。 
洪水が発生する度に川沿いの生き物たちへの影響を丹念に調べれば、「撹乱の生態学」になりそうです。 
私は未だ全然勉強不足ですけど、野生動物や水鳥は生息流域の環境が自然災害で大きく撹乱されても意外と逞しく生きている印象を受けつつあります。 
流域に暮らすヒトを守るために最近の川は治水工事でガチガチに護岸したり、河畔林の伐採が進行しており、むしろ人為的な撹乱の方が野生動物へ悪影響を与えている気がします。 

山中の池でトレイルカメラが捉えたオニヤンマ♀の産卵

 

2022年7月下旬・午後14:35頃・晴れ
前回の記事:▶ 山中の池でトレイルカメラが捉えたオニヤンマ♂の縄張り巡回飛翔

山中の泉をトレイルカメラ(無人センサーカメラ)で監視していると、オニヤンマAnotogaster sieboldii)が飛来しました。 
池の上空を低く飛んでから、池の奥の端でホバリングしながら腹端を水面にチョンチョンと2回ひたしました。 
てっきりいつもの♂による縄張り占有飛翔かと思いきや、今回は♀の単独打泥産卵でした。
その後は奥に見える林道を左へ飛び去りました。 

オニヤンマ♀が産卵した地点は、湧き水が溜まった池から流れ出る水路になっています(沢の源流)。 
その浅い水底に卵を産み付けたようです。
▼関連記事(11、13年前の撮影) 
オニヤンマ♀の挿泥飛翔産卵 
オニヤンマ♀の連続打水産卵
せっかくオニヤンマ♀が珍しく水場に飛来したのに、いつもは縄張りをパトロールしている♂が肝心なときに不在でした。 
オニヤンマ♂が♀に飛びかかって交尾を始める決定的瞬間が撮れるチャンスだったのに、残念です。 
オニヤンマ♀♂は交尾後に尾繋がりにならない(連結飛翔しない)ので、♀は単独で産卵しないといけません。 
そのとき♂に見つかると再び交尾を迫られて、貴重な産卵時間を無駄にしてしまいます。 
しつこい♂のハラスメントを回避するために、オニヤンマ♀は♂が居ない隙を狙って素早く産卵するようになったのでしょう。



2022/11/13

沢の源流で水を飲み排尿する夏毛のホンドテン♂(キテン)

 

2022年8月上旬・午後14:10頃・晴れ 

山中の湧き水が溜まっている泉で私がオタマジャクシの定点観察をしたり、池畔に設置したトレイルカメラの電池を交換したりと、独り静かに長時間作業していると、意外な珍客が現れました。 
野生のホンドテンMartes melampus melampus)です。 
いわゆるキテン(黄貂)と呼ばれる夏毛の個体でした。 

スルスルと崖を降りて、池から流れ出る小川の右岸まで来ると、首を伸ばして水面に口を付け、冷たい流水を飲み始めました。 
途中で私を見上げても、逃げたり恐れたりする素振りが全く無くて、無邪気な様子でした。

次にホンドテンは草むらをかき分けて水路に入ると、下流を向いてチョロチョロと小便を排泄しました。 
テンが水洗トイレで用を足すとは知らず、衝撃を受けました。 
飲み水となる水場を汚染しないように、ちゃんと池から流れ出る水路に小便しています。
他の多くの哺乳類のように、尿で匂い付けマーキングしないのは不思議です。 
テンは肉食獣ですから(厳密には雑食性)、獲物となる小動物に尿の匂いで自分の存在を知られたくないのかもしれません。 
テンは尿ではなく糞で縄張りのマーキングを行うのでしょう。
▼関連記事(2ヶ月前の撮影) 
ホンドテンの糞を舐めて吸汁するイチモンジチョウとニクバエ
野生動物のフィールドサインに関する書籍を読むと、テンの糞のことはサインポストとして有名でも尿については何も書いていません。

排尿を済ませたホンドテンは、林道へと歩き去りました。 
ミゾソバなどの下草がテンの目線より高く生い茂っている林道を、長い胴体でピョコピョコ飛び跳ねるように走ります。 
名残惜しい私は、テンが立ち止まってくれないかと(テンの気を引こうと)撮影しながら舌を鳴らしてみたのですが、全く無視されました。 
後ろ姿で尾を上げたときに股間に白毛で覆われた睾丸が見えたので、どうやら♂のようです。 
林道を横断すると、スギ植林地の斜面を下って谷へ降りて行きました。 

動画の最後に、水場の全景を記録しておきます。 
湧き水(地下水)の溜まった池から流れ出る小川が蛇行しながら林道を横断し、杉林の斜面を下る沢の源流となっています。 

トレイルカメラを池畔に設置し直す直前だったので、ホンドテンの出没シーンを別アングルの映像で撮れてないのが残念です。 
それでも、この夏一番嬉しい野生動物との出会いでした。 

ヒトを全く恐れないということは、生まれてから一度もヒトを見たことがないウブな個体なのかな? 
平凡社『日本動物大百科1:哺乳類I』の記述を読むと、今回私はとんでもなく幸運だったようです。
 テンはきわめて神経質な動物で、観察者の衣服のこすれる音にも敏感に反応する。日中に人前に姿を見せることはあまりないため、完全な夜行性と思われがちである。野生のツシマテンに電波発信機を装着させたテレメトリー調査により1日の活動を追跡すると、森の中では日中でもかなり活動していることがわかった。(p138より引用)
この日の私の出で立ちは、本格的な迷彩服ではないものの、目立たない服装が奏功したようです。 
 テンは夏の間は動物食が強く、小鳥やネズミ、リスやムササビなどを襲っている。いわば毎日「命のやりとり」をしているわけだから、警戒心も強くてなかなか姿を見ることもできない。 (熊谷さとし『動物の足跡学入門 ‐形とつき方から推理する‐』p164より引用)
もしかすると、それまで水場で私が作業する様子をテンが崖の上からじっと見ていて、人畜無害だと判断してくれたのかもしれません。 
あるいは暑い夏に喉の渇きを我慢し切れずに水場にやって来たのでしょうか? 

この水場を監視するトレイルカメラに以前記録されていた謎の獣の正体は、アナグマではなくホンドテンだったのかもしれません。
関連記事(1月前の撮影)▶ 夜霧が立ち込める山中の池に現れた謎の野生動物!【トレイルカメラ:暗視映像】



【追記】

今回の個体が小川で排尿したのは、私が見ていたせいで草むらに隠れて用を足しただけかもしれません。 

一般的な排泄行動なのかどうか、もっと観察例を増やさないといけませんね。


つづく→深夜の水場で排便する夏毛のホンドテン【トレイルカメラ:暗視映像】

ブラックベリーの完熟果実から吸汁するモンスズメバチ♀

 

2022年8月上旬・午前10:20頃および午後17:00頃・くもり 

民家の庭に植栽されたブラックベリー(=セイヨウヤブイチゴ)の群落で果実(液果)が熟すと赤から黒くなります。 
甘い熟果を目当てに様々なスズメバチ類が集まり、食害していました。 
どの個体を撮るか目移りするぐらいでしたが、まずはモンスズメバチVespa crabro)を紹介します。 

ワーカー♀が黒い熟果を噛んで滲み出る果汁を舐めています。 
齧られたブラックベリーには食痕が残ります。 
ブラックベリーを大規模に栽培する農家にしてみれば、せっかく熟した液果を食害するスズメバチ類は害虫扱いになってしまうでしょう。 
同じ日の夕方に再訪しても、モンスズメバチ♀は夢中で吸汁していました。 
一度モンスズメバチ♀が大顎でブラックベリー熟果から一粒をもぎ取って咥えたのですが、 そのまま惜しげもなく落として捨てました。 

吸汁しながら排尿するのではないかと期待して長撮りしてみても、モンスズメバチ♀のオシッコは観察できませんでした。 
最後はキイロスズメバチ♀が飛来したものの、餌をめぐる争い(占有行動)にはならずに近くの別なブラックベリー熟果に降り立ちました。 


他にはショウジョウバエの仲間とキンバエの仲間もブラックベリーの甘い香りに誘われて熟果に来ていました。 
餌資源が潤沢にあるので、モンスズメバチ♀は横に居るキンバエを追い払うことはしませんでした。 
キンバエもモンスズメバチ♀が近づいたら少し横にどくだけです。

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