2021年1月中旬・午前11:25頃・晴れ
私がこの冬で一番興奮した大ニュース(収穫)はこれです。
スノーシュー(西洋かんじき)を履いて雪面が凍った里山をザクザクと登っていると、2頭のニホンイノシシ(Sus scrofa leucomystax)と遭遇しました。
この日は山麓の果樹園で雪面に残された蹄の跡を朝に見つけ、それをずっと辿って来たのですが、「カモシカにしては変だな〜」と違和感がありました。
初め2頭のイノシシはスギ木立の陰に隠れて鼻息荒く私の動向を伺っていましたが、縦列で逃走開始。
深雪に覆われた谷(沢)を慌てて渡ったところで立ち止まり、こちらを振り返りました。
肉付きの良い肥えた先頭個体にズームインすると牙(犬歯)が無いので、どうやら♀のようです。
目は小さく、体には剛毛が密生しています。
長い鼻面をこちらに向けて風の匂いを嗅いでいます。
縦列で行動しているこの2頭は、親子なのか、それとも♀♂番 なのでしょうか?
冬はイノシシの繁殖期らしいので、♂が♀を交尾前ガード(配偶者ガード)しているペアなのかな?
イノシシの交尾期は冬1月に始まり、約2ヶ月間続く。交尾期には♂が発情♀を探して活発に歩きまわる(中略)。♂は発情♀を見つけると、♀のそばを離れずに他の♂から守る。(川道武男、川道美枝子『けものウォッチング』p49より引用)イノシシは一般に性的二型で、体格が♀<♂らしいです。
ところが今回の2頭は、先導する個体の方が大きいのに牙(犬歯)が発達していませんでした。
後続の小さ目の個体にも牙は見えません。
したがって、私は親子(母子)ではないかと思います。
にわか仕込みの知識なので、もし間違っていたらご指摘ください。
若い♂(牙が短い)と♀のカップル、あるいは若い兄弟姉妹という可能性もありますかね?
イノシシの♂は単独生活をし、♀はその年生まれの子供とグループ(母子グループ)を形成している。ときには、血縁のある♀が数頭集まって大きな母子の集団をつくることもある。♂と♀はこのように別々に生活し、交尾期以外は接触を持たない。 母子グループは♀が出産するたびにつくりなおされ、前年の子供は母親から追い払われる。親から離れた子供は兄弟あるいは姉妹で一時的なグループをつくるが、成長するにつれてこのグループは解消される。♀の子供は出生地の近くにとどまり、ふつう2歳で出産し、新しい母子グループをつくる。一方、♂の子供はそれぞれ単独で出生地から出ていく。(同書p48より引用)ヒトの体臭を嗅ぎ取ったのか、先頭のニホンイノシシ(母親♀?)は沢の横の急斜面を斜めに登り始めました。
表面がクラストした深雪をラッセルするのはかなり歩きにくそうです。
ズボズボと脚の根元まで1歩ずつ雪に埋もれています。
かなり苦労して雪山をラッセルしながら逃げて行く様子をスギ林の木立の隙間から撮影することができました。
子どもと思われる小型の個体(牙なし)もその後ろを付いて歩きます。
ラッセルの先頭交代をせずに、従順について行くだけでした。
2頭のイノシシは雪山を越えて姿を消しました。
逃走中に威嚇の鳴き声や鼻息は聞き取れませんでした。
※ 動画編集時に音声を正規化して音量を強制的に上げています。
山形県で野生のイノシシは絶滅したと長らく考えられていて、私も実物を見たのは生まれて初めてです。
最近は県内の目撃例もポツポツと増えていたので、北上して分布を再び広げているようです。
足が短く雪が苦手なため、豪雪地帯には分布しないとされてきたが、日本海側では平年値の積雪が2mを超える福井県の山間部にも出没するようになった。(中略)山形県は2003年発行の「レッドデータブックやまがた」で「絶滅」に区分したが、2017年度時点で、県内に3200頭(推定)生息しているとみられる[33]。(wikipediaより引用)
それにしても、よりによって雪山で出会えるとは全くの予想外でした。
本来は南方系の動物であるニホンイノシシが厳冬期の雪国でも逞しく越冬できるとは知りませんでした。
素人目には充分に肥えていて健康そうです。(飢えていない)
熊谷さとし、安田守『哺乳類のフィールドサイン観察ガイド』でイノシシについて調べると、
里山から山地の森林に生息する雑食性の偶蹄類。本来は南方系の動物で、積雪の多い地域に分布していなかったが、近年は東北地方や北陸地方にも現れる。夜行性だが、日中に姿を見ることもある。(中略)♂は単独で暮らすが、♀は子どもを連れた5〜6頭の集団(バンド)で行動する。 (p78より引用)ポケット版『学研の図鑑9:フィールド動物観察:足あと、食べあと、ふん』には
イノシシは、雪が深く積もる地域にはあまりいません。と書いてありました。 (p25より引用)
ただし、主に西日本で研究・調査されてきたイノシシに関する知見が雪国・東北地方の個体群にそのまま当てはまる保証はありません。
千載一遇の機会なので、雪面に残された足跡を辿ってイノシシを更に追跡してみましょう。
まずは2頭が直前まで潜んでいた隠れ家?の現場検証です。 (標高335m地点)
つづく→ニホンイノシシ:雪山でのフィールドサイン(その1)寝床?、牙研ぎ跡、糞
【追記】
その後、秋にも同じ山系でイノシシが居ました。
関連記事(8ヶ月後の撮影)▶ 夜の林道で採食・穴掘りするニホンイノシシ@山形県【トレイルカメラ:暗視映像】
【追記2】
高橋春成『泳ぐイノシシの時代 (びわ湖の森の生き物)』によると、
冬季のイノシシの食料は地下の植物の根茎などが主となるため、長期間の積雪や凍結は食料の確保を困難にする。そのため、昔から積雪期では冬になるとイノシシが雪の少ない地域に移動するといわれてきた。(中略)
しかし、イノシシは積雪期においても、餌場へのアクセスと食料の確保が可能ならば生息することができる。イノシシは雪を押しのけながら行動することもできるので、斜面などの雪の少ない箇所の食料や木の樹皮などを食べることができる。 (p110より引用)
【追記3】
矢野誠人『Wild boar:知られざるイノシシの「棲」』によると、
かつて積雪が50cmを超える地域にはイノシシは生息しないとされていたが、最近は富山県など日本海側だけでなく、長野県などの山間部での生息が確認されている。 (林良博「イノシシを愛する同士へ」巻末の寄稿文より引用)
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