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2024/01/10

ホンドタヌキ幼獣6頭が巣穴の入口に出てきた!

 



2023年5月下旬・午後13:25頃・晴れ 

トレイルカメラを設置するため、巣穴の発見から数日後にホンドタヌキNyctereutes viverrinus)の営巣地にやって来ました。 
前回と同じく動画を撮りながらゆっくり巣穴に近づくと、無邪気なタヌキ幼獣が巣口aで出迎えてくれました。 
黒っぽい毛皮の幼獣は、もう自力で立って巣内を歩き回っています。 
幼獣の目は既に開いているのにヒトを恐れる素振りはあまりなく、鳴き声も発しませんでした。 
落ち着きなく動き回るのできっちり数えられませんでしたが、計5〜6頭の幼獣でした。 
 親ダヌキは巣内で寝ているのか、それとも採餌のために外出しているのかな? 
巣口aの外にはスギナが疎らに生えています。 

平凡社『日本動物大百科1哺乳類I』でタヌキの繁殖について調べると、
年1回出産、産子数18でふつう45子、交尾期24月、出産期5〜6月、妊娠期間59〜64日。(p116より引用)
今回観察した子ダヌキが5〜6頭ということは、ほぼ平均的(やや多め)な産仔数のようです。
隣りにあるもう一つの巣穴bには今回もタヌキは居ませんでした。 


ここはトレイルカメラを設置しにくい場所で、工夫が必要でした。 
いつもは立木の幹にトレイルカメラをくくりつけてハイアングルで設置するのですけど、巣穴まで少し遠くなってしまいます。 
今回はローアングルで設置することにしました。 
初夏の原っぱでは雑草の草丈が高く生い茂るので、ローアングルではなかなか視界を確保できません。 
もちろん草刈りするのは簡単ですけど、子育て中の親ダヌキを怖がらせたくありません。 
巣口付近の環境をあまり撹乱すると、親タヌキが警戒して引っ越してしまいそうです。 
仕方なく、巣穴から少し離れた地面にトレイルカメラを置いてみることにしました。 

普通の三脚を原っぱに立てて長期間置くと目立ってしまうので、目立たないようローアングルの三脚を自作しました。
工作というほどではありませんが、ペットボトルのキャップにキリで穴を開けます。
三脚と同じ直径のボルトをホームセンターで買ってきて、キャップの穴に通し、ナットやワッシャーで締めておきます。 
そのネジにトレイルカメラを固定しました。 
カメラが倒れないよう重りとしてペットボトルに水を満タンに入れました。 
穴を掘ってペットボトルを埋めれば更に安定したかもしれません。
この工作は私の発明ではなくて、確か動物写真家の本を読んで知りました。(思い出したら追記します。)

タヌキや誰かヒトがカメラを持ち去ったりしないように、盗難防止の対策が必要です。 
持参した重いコンクリートブロックを横に置いて、ワイヤーロックでカメラをくくりつけました。 
昼間は風揺れによる誤作動が多いだろうと予想し、夜間のみ監視するようタイマー設定しました。(午後18:00〜午前6:00 ) 
さて、どんな映像が写るか楽しみです。


実はトレイルカメラを設置した日はすぐに帰宅せずに、離れたところから望遠で隠し撮りを試みました。 
遠くの木陰にブラインドを張り、中に身を隠して日没まで粘ったものの、タヌキが巣穴に出入りする様子を撮影できませんでした。 
タヌキの営巣地を遠くから見ると雑草が背高く生い茂り、巣穴がほとんど見えませんでした。 
タヌキは主に夜行性ですから、やはり無人の自動センサーカメラに監視・撮影を任せた方が良さそうです。 



2023/08/21

雪国のホンドタヌキが黒い粘着ビニールテープを誤食【トレイルカメラ:暗視映像】タヌキとゴミ問題

 

2023年1月中旬

雪深い里山のスギ林道にある溜め糞場sに通ってくるホンドタヌキNyctereutes viverrinus)をトレイルカメラで監視していると、身近なゴミ問題について考えさせられる事件が起こりました。 


シーン1:1/13・午前0:35・気温2℃ 
深夜に雪道を歩いて来たタヌキが手前の死角に消えてから再び現れ、左に立ち去りました。
凍結した雪面が荒れているのは、スギ樹上からの落雪によって爆撃を受けたようなクレーターが並んでいるからです。 
しばらくすると、左から「フサ尾」のタヌキが戻って来ました。 

黒くて細長い物を口に咥え、引きずっています。 
越冬中のヘビを見つけて捕食したのか?と初め私は驚きました。 
しかし、タヌキが雪を少し掘っただけで見つかるような浅い場所でヘビが冬眠するはずがありません。 
タヌキは林道で立ち止まると、雪面に謎の獲物?を置きました。 
左の前脚で押さえ付けながらヘビ?をクチャクチャと噛み、食い千切って食べ始めました。 
ヘビは変温動物ですから、こんな低温下では逃げることも反撃することもできません。 

次にトレイルカメラが起動したときには、タヌキはなぜか食べかけの黒蛇?を雪上に残したまま、辺りをウロウロしていました。 
最後は雪道を右に立ち去りました。 


シーン2:1/13・午後23:42・気温3℃・(@1:33〜) 
23時間5分後の深夜にタヌキが再登場。 
低温でカメラの起動が遅れ、画面の右端を右に歩き去るタヌキの尻尾がちらっと写っただけでした。(赤い矢印➔に注目) 

前夜に運んできた黒ヘビの死骸?が雪面に残されたままなのに、タヌキはもはや全く興味を示しませんでした。 

さて、この謎の黒くて細長い物体は何だったのでしょう? 
この後、大雪が積もって埋もれてしまいます。 


2023年3月下旬 

春に現場入りすると、スギ林道の残雪の上に黒くて細長い謎の物体が再び現れていました。 
タヌキが放置する様子が動画に写っていた、まさにその地点です。 
ヘビの死骸ではなく、黒い粘着性ビニールテープの切れ端でした。 
このゴミには見覚えがあり、捨てた犯人は私でした。
もちろん私はゴミを意図的にポイ捨てしたりしません。 

15cm定規を並べた写真


言い訳になりますが、自戒を込めて経緯を説明します。 
トレイルカメラを立木に固定する際に、悪戯・盗難防止のためにワイヤーロックを掛けます。
雨水で濡れただけならステレス製の鍵穴が錆びることはありません。
しかし、鍵穴が凍ってしまうと鍵が差し込めなくなり大変です。
昨年まさにこの現場で起きた苦い経験なのですが、ワイヤーロックの鍵穴に雪が詰まって凍結し、春まで解錠できなくなってしまいました。
現場で鍵穴にお湯をかければ溶けるかもしれませんが、その日の晩にまた凍ってしまうでしょう。

その対策として、今年はまず鍵穴を下に向けて雨や雪が入りにくいようにしました。 
天から降ってくる雨雪だけでなく、樹上から滴り落ちる雪解け水も鍵穴を濡らす原因となります。 
次に粘着性のビニールテープをグルグル巻いて鍵穴を塞ぎます。 


それでも不安な雪山では、更にアルミホイルやビニール袋で鍵全体を覆って完全防水にします。 
これで鍵穴が凍結する恐れはなくなりましたが、毎回解錠する前に厳重なカバー(包装)を剥がすのが少し面倒です。
剥がしたゴミが風に飛ばされないうちに、しっかり拾って持ち帰らないといけません。 
素手ならウェストポーチのポケットのチャックを開けて拾ったゴミを入れる作業をノールックでも簡単にできます。(何回も繰り返し、手慣れた作業です) 
厳冬期は手袋をはめて作業するので、どうしても手先の感覚が鈍くなります。 
ノールックでゴミをポケットに入れたつもりなのに、手元が狂って粘着テープのゴミを知らず知らず落としてしまったようです。 
あるいはウェストポーチのチャックを閉め忘れてゴミを落としてしまったのかもしれません。 

記録を遡ると、私が現場で黒ビニールテープをうっかり捨ててしまった翌日の夜に空腹のタヌキが拾ったことになります。 
ビニールテープに私の体臭がわずかに残っていたのか、匂いで餌と誤認したようです。 

もちろんタヌキがビニールテープ(の切れ端)を食べても消化されませんし、栄養価はありません。 
糞と一緒に正常に排泄されればよいのですが、消化されない大量のプラスチックごみが消化管に詰まってしまったり、ゴミに含まれる有害な化学物質を摂取したりする悪影響が懸念されています。 

タヌキの溜め糞場で糞分析をしたり、解剖で死体の胃内容物調査をしたりすると、ヒトが捨てたゴミをタヌキがよく誤食していることが分かるそうです。
本を読んで知っていましたが、実際に私も後日、河畔林の溜め糞場wnで大量の輪ゴムやビニール片を含んだタヌキの糞を見つけています。(別の記事で写真を公開予定) 
ヒトの生活域に近いところで暮らす個体は餌の多くをヒトの残飯に依存しているために、ゴミを誤食するリスクが高まります。

この事件で反省した私は、ゴミ袋を常に持ち歩くようになりました。
野外で自分が捨てたゴミに限らず、フィールドで見つけたゴミをなるべく拾って帰るようになりました。
実は日本の田舎は、河原も里山も農地もゴミだらけです。
誰かに褒められたくてゴミ拾いを始めた訳ではなくて、野生動物のゴミ誤食問題が深刻だと痛感したからです。
ゴミ問題のせいで野生動物が健康を害して数を減らし、観察できなくなると私も困ります。
ゴミ拾いも完璧主義だと疲れて長続きしませんから、やれる範囲で細々と続けていくつもりです。
たとえば金属製の空き缶よりも、プラスチックやビニール製のゴミを優先して拾っています。
プラスチック類は何年放置されても自然に分解されずに残るのが問題です。
誰かが丹念に拾い集めて適切に分別処理しなければ、いつまで経ってもフィールドからプラスチックごみは無くなりません。
大量消費されるプラスチック類を生分解性のものに早く切り替えて欲しいものです。
それから、日本は過剰包装や過剰サービスによるプラスチックごみが深刻です。
最近ストローをプラスチックから紙に切り替えた飲食店の是非が話題になりますが、そもそもボトルやコップ、グラスに口を付けて直接飲めば済むので私はストローを必要としません。
過剰包装を槍玉に上げましたけど、そもそも今回のタヌキ誤食事件は、私がワイヤーロックの鍵穴を(必要に迫られて)過剰包装したことが原因なので、皮肉なものです。




2023/08/13

交通事故死したホンドテンを解剖してみる

 



2022年12月下旬 

閲覧注意! モザイク処理なしの解剖写真が続きます。

交通事故死(ロードキル)が疑われるホンドテンMartes melampus melampus)の新鮮な死骸を家に持ち帰ったものの、師走は忙しくてすぐには解剖できませんでした。 
腐敗しないように野外で雪の下に埋めておきました。 
ようやく時間がとれた2日後に、剖検を始めました。 
雪の下からテンの死骸を掘り出すと、凍結しておらず、程よく冷蔵保存されていたようです。 
死後硬直は解けているのか、関節は柔らかいままでした。 

床にビニールシートと古新聞紙を敷き、その上にアルミ製トレーを置いて作業します。 
感染症予防のため、マスクとビニール手袋を装着しました。 
当然ながらロードキル死骸には絶対に素手で触れないように注意します。 
途中経過の写真を撮るのに毎回手袋を外すため、大量の使い捨て手袋が必要となります。 

この機会に解剖キットをネット通販で注文しようかと思ったのですが、良いメスは高価ですし年末年始は届くまでに時間がかかります。 
待っている間に死骸の腐敗が進みそうなので、普通のカッターナイフで代用することにしました。 
やってみると大型のカッターナイフ1本ですべて解剖できました。(弘法メスを選ばず) 
ピンセットやハサミなども使わずに済みました。 
切れにくい部位で力を入れるときは、自分の手指をカッターナイフで切らないよう刃の向きに注意します。 
死骸の血糊や脂肪で切れ味が悪くなったら、いちいち研がなくても刃先を折れば復活します。 

トレーに死骸を仰向けに寝かせてから、まずは足の裏に注目しました。 
足の裏が黒いのがテンの特徴です。 
川口敏『哺乳類のかたち ~種を識別する掟と鍵~』によれば、
・テンとイタチを見分けるポイントは足だ。足の裏を見てもいいし、毛の色でもいい。テンの足は黒いがイタチは黄褐色から茶褐色で黒ではない。 (p26より引用) 
・テンとイタチでは、足の裏の肉球の数や配列の違いで識別できる。  (p30より引用)
過去に撮ったイタチのロードキル写真と見比べると、確かにその通りでした。
関連記事(0、5年前の撮影)▶  
ニホンイタチの死骸 
車に轢かれたニホンイタチの死骸に群がるハエ他

指の本数は前足も後足も5本で、鋭い爪が生えています。 
肉球が白くなっているのは、雪道を歩いて毛が抜け落ちたのでしょうか?
手根球については写真にうまく撮れていません。

右前足裏

左前足裏

右後足裏

左後足裏


今後、足跡の付き方を見分けられるように資料としてホンドテンの足裏を写真で記録しておきましょう。 
熊谷さとし『動物の足跡学入門:‐形とつき方から推理する』という本のp165にテンの足の裏の細密画が掲載されていました。 
熊谷さとし・安田守『哺乳類のフィールドサイン観察ガイド』p58にはホンドテンの足の裏の写真が掲載されています。
掌球しょうきゅう手根球しゅこんきゅうにテン特有の特徴がある。前足は掌球がシンメトリーで、手根球がある。後ろ足の掌球(足底球(そくていきゅう))は、第1指側(親指側:しぐま註)に流れており、手根球がない。(p58より引用)


剥皮が下手糞で血管を傷つけてしまい、血が滲んできました。


次にいよいよ腹部正中線をカッターナイフで切開します。 
毛皮が意外に丈夫で厚く、刃先が最初に貫通するまで少し手間取りました。 
腹膜を破らないよう注意しながら、毛皮を少しずつ剥いでいきます。 
四肢の足先は靴下を脱がせるように毛皮をきれいに剥けるかと思いきや、途中で行き詰まりました。 
時間がないので、足の骨ごと強引にゴリゴリと切断しました。 
尻尾も途中までしか毛皮を剥げず、諦めて切断。 
全身骨格標本を作るのなら、剥皮作業をもっと丁寧にやる必要がありそうです。
テンの肩甲骨(軟骨?)は遊離していて、鎖骨や背骨に連結していませんでした。
肩甲骨の大部分は膜性骨化によって形成される。 周囲の部分には出生時には軟骨であり、その後軟骨内骨化によって形成されるものがある。(wikipedia:肩甲骨より引用)
前腕の骨をきれいに取り出すのは大変そうです。





腹膜を切開し、内臓を露出しても消化器官に内出血は認められませんでした。 
胃の上部を取り囲む赤黒い臓器が肝臓です。
肝表面の肉眼所見は正常で、毒入りの餌を食べた可能性は却下。 
胃の下部にある赤黒くて細長い臓器は脾臓です。 
興味深いことに、腎臓の位置が左右非対称でした。 
右側の腎臓が上で左が少し下にあります。 
心臓や肺を詳しく調べるのを忘れました。 

子宮や卵巣、精巣の有無など内部生殖器については勉強不足で、解剖してもよく分かりませんでした。 
下腹部(肛門周り)の内臓や脂肪をやみくもに切ると臭腺・肛門腺を傷つけてひどい悪臭を発するのではないかと恐れたからです。 
しかし後でネット検索してみると、テンに臭腺は無いそうです。 
あまり自信がないのですが、性別は若い♀だと思います。 
股間に陰茎や睾丸がありませんし、腹面に乳首も無いからです。 

 

↑【参考動画】
「テンの解剖(グロ注意)」 by 高貴 
専門家による手際の良い解剖動画です。 
執刀者の実況を聞くと、どうやら同じく交通事故死した個体(ロードキル)のようです。 
毛皮をきれいに剥いだ状態から始まります。 
テン死骸の足先はやはり切断されていました。 
血抜きしてあるのか、素手で作業しても全く汚れていません。 
膀胱の近くにある内部生殖器(未発達の子宮)から若い♀とのことです。 

先にこの動画を閲覧して予習しておくべきでした。 
解剖中に手を止めて参考書やインターネット情報を調べたいのはやまやまですけど、汚れたゴム手袋をいちいち着脱するのが面倒臭くて、我流で一気に解剖しました。 
使い捨てゴム手袋の残量が少なかったので、無駄にできなかったのです。 
解剖の途中でゴム手袋を脱いで、写真に記録するだけで精一杯でした。 


頭蓋骨の頭頂部が大きく割れていて、脳が少し流出していました。 
死因は走行車にはねられた(正面衝突)衝撃による脳挫傷と推定しました。 
おそらく即死で、苦しまずに逝ったようです。 

体の他の部位は無傷で、内臓に内出血もありませんでした。 
罠にかかったテンの頭部を鈍器で殴って撲殺した可能性も考えましたが、四肢は無傷で罠にかかった痕跡がないので却下。 
この機会にホンドテンの頭骨標本を作りたかったのに、残念ながら損傷がひどくて試料に使えませんでした。 




両顎の歯式を記録するために、開口した内部を写真に撮りました。 

上顎の歯列

下顎の歯列


開口状態で下顎の歯列を撮る際に、下顎の小さな門歯(切歯)を私の指で隠してしまっています(痛恨のうっかりミス)。 
哺乳類の歯式は、左右片側について切歯I(門歯)・犬歯C・小臼歯P(前臼歯)・大臼歯Mの順で本数を表します(I,C,P,M)。 
分数のように表記され、分母が下顎、分子が上顎の歯です。 
ホンドテンの典型的な歯式をネット検索で調べると、切歯、犬歯、前臼歯、臼歯の順に I3/3,C1/1,P4/4,M1/2=38 とのことでした。 
私が調べた個体の歯式は、 I3/?,C1/1,P3/5,M2/2=? 
下顎の前臼歯および上顎の臼歯が普通よりも多いのが謎です。 
小さな乳歯が生え残っているのでしょうか? 
しかし常識的に考えると、永久歯よりも乳歯の数の方が少ないはずです。 
不慣れな素人ゆえに、歯の数え方が間違っているのかもしれません。 
それとも過剰歯の個体なのかな? 




次に摘出した胃の内容物を調べてみましょう。 
内臓の中で胃が最も大きく膨らんでいました。 
死亡時のホンドテンは空腹状態ではなかったことになります。 
胃を切開した途端に、解剖実習で馴染みのある生臭い悪臭が辺りに漂います。 
胃内容物は柔らかい泥状に消化されていて、指で丹念に探ってもめぼしい収穫はありませんでした。 
死後に低温冷蔵でも胃内で消化がゆっくり進行したのかもしれません。
今回は残渣を茶漉しで丹念に水洗いする余力がありませんでした。 






胃に残っていたオレンジ色の小さな破片は、熟柿の果肉と思われます。 



カキノキに特有のひらべったい種子が1個だけ出てきました。 
種子の先端が尖っていますが、全体的に無傷です。 
テンは液果の果肉ごと噛まずに種子も丸呑みしたのでしょう。 
この未消化のカキノキ種子を鉢植えで栽培すれば更に楽しみが広がったはずですが、熱湯消毒したので発芽は期待できなくなりました。 

ホンドテンは熟した液果を好んで食べることが知られています。 
そのお返しに、テンは果樹の種子散布に貢献しています。(共生関係) 
テンは食後に遠くまで移動してから、未消化の種子を糞と一緒に排泄するからです。 


腸の内容物も回収して糞から未消化の種子や残渣を調べるべきでした。 (糞内容物調査と同じ手法) 
初めての解剖で疲労困憊していた私は、そこまでやり遂げる余力がありませんでした。 


冬毛のホンドテンは毛皮がとても美しいのですけど、長期保存するにはタンパク質が腐らないように毛皮のなめし方を学ぶ必要があります。 
忙しくて今回は泣く泣く諦めました。 
ゆくゆくは毛皮の剥製や全身骨格標本を自分で作れるようになりたいものです。

解剖する前にホンドテンを身体測定するのを忘れていました。 
仕方がないので、剥皮した毛皮(背側)に巻き尺を当てて採寸。 
正式な測定法よりも少し誤差がありそうです。
全長73cm(鼻先から伸ばした尾端まで)。 
尾長は30cm。 
したがって、頭胴長(体長)は43cm。 
前脚を左右に広げた幅は42cm。 
体高(四足で立ったときの前足の裏から肩までの高さ)を測り忘れましたが、前脚を左右に広げた幅42cmの半分だとすると約21cmでしょうか? 

解剖に使った道具類を熱湯消毒して終了。 
暖房のない極寒の部屋で慣れない解剖を長時間やったので、疲労困憊しました。 
手抜きが多く、細かい点で色々と不備がありますが、それでも1例目の解剖でこれだけ出来れば上出来です。(自画自賛) 
死因をロードキルと確定できました。
これで経験値が一気に上がりました。 
本で動物解剖学を学ぶだけよりも、実際に自分の手で解剖してみると、より深く理解できて記憶に残ります。




2023/04/08

路上で毛繕いする野生ニホンザル♀♂にどれだけ近づけるか「ダルマさんが転んだ」チャレンジ!

 



2022年10月上旬・午後13:55頃・くもり 

山間部の峠道にニホンザルMacaca fuscata fuscata)の♀♂ペアが居座って、長々と相互毛繕いしています。 
普段の私なら離れた位置に留まって野生動物を動画でじっくり長撮りするのですが、この日はどうしても猿の横を通り過ぎて道を先に進まないといけない用事があり、少し急いでいました。 
どのぐらい効果があるか分かりませんが、ニホンザルを警戒させないように、まず迷彩柄のマスクを装着しました。 
猿が油断して2頭とも下を向いたときに忍び足でゆっくり近づき、顔を上げたら停止する、という「ダルマさんが転んだ」作戦のスタートです。 
逃げられても仕方がないと思いつつやってみたら、「餌付け」しなくても至近距離(2〜3m)まで近づくことができました。 
ブラインドに隠れるのではなく、野生動物に自分の身をあえて晒して丸見え状態で慣れてもらう「ヒト付け」はフィールドワーカーの達人の極意ですが、その真似事に成功したようです。 
もしかすると、これまで山中で何度も遭遇したことのある群れの一員で、私のことはすっかり顔馴染みだったのかもしれません。(「またアイツか…」) 

注意点としては、餌を決して与えないことと、決して猿の目を直視しないことです。 
手元のデジカメのバックモニターまたはファインダーを常に見るようにします。 
ニホンザルと直に視線を合わせてしまうと、彼らの世界では喧嘩を売ってることになります。 
「何だてめぇー、ガンつけやがったな!」
女子供の場合は怒った猿に襲われるリスクさえありますから、真似するときは自己責任でご注意ください。 
女性や子供は大人の男性に付き添ってもらうか、サファリパークのように車中から観察するようにした方が安全でしょう。
(私が女子供に差別意識がある訳ではなく、ニホンザルの習性として現実がそうなので、ヒトの世界のポリコレをニホンザルの世界に持ち込んでもどうにもできません。)
こちらが常にゆっくり動く姿を見せることで「いざとなったら自分たちの方が素早く逃げられる」という自信を猿にもたせることができます。
「鈍臭い奴だな〜」と良い意味で舐めてくれたら、ニホンザルに近づいても怖がらなくなります。

よほど私のことを人畜無害と信頼してくれたのか、互いに毛繕いしながらチラチラとこちらを見つつも、全く逃げようとしませんでした。 
目の前の路上に黄色い落ち葉がハラハラと舞い散っても、ニホンザルは気にしません。 
後半はさすがに緊張したように起き上がって逃げ腰になりましたが、それでも対他毛繕いを続けています。
ひょっとすると私から餌をもらえるのかと期待していた可能性もありますが、深刻な猿害問題を知っている私は野生ニホンザルに給餌したことは一度もありません。






2021/03/31

コガタスズメバチの巣を晩秋に採集したら中から蜂が出てきた!【暗視映像】

 

2020年11月上旬・午前2:30頃・晴れ・気温10.8℃・湿度69% 

民家の庭に植栽された落葉性広葉樹の灌木(テマリカンボク)にコガタスズメバチVespa analis insularis)の巣が作られていました。 
昼間も巣に出入りする蜂の姿は無く、コロニーの活動が終了・解散した巣のように見えました。 
次世代の新女王は既に巣立った後のようです。 
誰かに駆除(破壊)される前に巣を採らせてもらうことになりました。 

蜂に刺されないよう安全策として、最低気温近くまで気温が下がる深夜の時刻に現場入り。 
地上からの高さ約2mと意外に低い位置の枝に丸い巣が吊り下げられていました。 
持参した脚立に乗れば、易々と蜂の巣に手が届きます。 
赤外線の暗視カメラで動画に撮りながら営巣木の枝を軽く揺すっても、蜂は巣の外に出て来ませんでした。 
空巣だとすっかり安心して、剪定バサミで枝ごと慎重に切り落としました。 
巣の周囲に密生する細い小枝も何本か外皮に取り込まれている(一体化)のは、巣を補強する役目がありそうです。 

白色光LEDの照明に切り替えて、採取した巣を動画に記録していると、巣口から2匹のワーカー♀が相次いで這い出てきたので焦りました。 
しかし巣内に最後まで残留していたコガタスズメバチ♀は寒さで動きが非常に鈍く、私を毒針で攻撃するどころか、光に向かって飛ぶことも出来ませんでした。 
棒を使って蜂を巣の外皮から剥がしてやると、地面に転がってもがいています。 
腹端をよく見ても毒針を伸ばしていません。 
低体温のせいで、仰向けにされても自力で起き上がれませんでした。 
外気温は10.8℃とそれほど寒くないのに、コガタスズメバチ成虫の活動性が著しく低下していました。 
晩秋で獲物が取れなくなり、飢えて寒さに弱くなっている可能性も考えられます。

映像ではまるで私が殺虫剤を使ったように見えるかもしれませんが、そうではありません。 
今回も殺虫剤は全く使わず、無事に(蜂に刺されず安全に)コガタスズメバチの巣を採集することができました。 
スズメバチの習性を熟知していれば、防護服も不要でした。 
(真似する人は居ないと思いますが、くれぐれも自己責任でお願いします。) 
対スズメバチ専用のしっかりした防護服があれば、わざわざ寒くて暗い深夜に作業する必要はありません。 
採集した巣を大きなビニール袋に包み、急いで持ち帰って冷凍庫に一晩放り込みました。 
巣内にもっと蜂が残っている可能性があるので、巣ごと冷凍処理して安楽死させます。 
これを怠ると、昼間に気温が上がれば蜂が再び元気に活動を始めてしまい、非常に危険です。 
スズメバチの巣は多重の外皮による断熱効果が優れているので、冷凍処理は十分な時間をかける必要があります。

営巣木の樹種を知りたいところですが、完全に落葉した状態では分かりませんでした。 
何種類かの灌木が混み合って植栽されています。
春になって樹種が判明すれば追記します。 

つづく→コガタスズメバチの巣の標本作り


 


【追記】
2021年4月下旬

周囲に生い茂る細い灌木は黄色い花が咲いて八重ヤマブキ(ヤエヤマブキ)と判明。
肝心の営巣木(メインの太い灌木)は展葉し始めたものの未だ不明です。


【追記2】
2021年5月中旬

営巣木にアジサイのような白い花(装飾花)が咲き、遂に樹種がテマリカンボクと判明しました。
東北地方や北海道に多い品種なのだそうです。
葉はカエデのように3裂していて鋸歯があり、独特の形状です。
花が咲く前は葉だけ見てカラコギカエデなのかと迷いました。







最後は、5日前に撮った蕾の写真も載せておきます。







2021/03/26

アカタテハ蛹の体内寄生チェック

 

アカタテハの飼育記録#9

前回の記事:▶ 巣の無い無防備なアカタテハ垂蛹の威嚇行動
2020年10月下旬・午後20:30頃・室温21.3℃・湿度54% 

野外のカラムシ群落で新たに採集してきた3個のアカタテハVanessa indica)垂蛹が体内寄生されているかどうかチェックしてみました。 
蛹を指で軽く摘んでみると、身を捩って暴れ威嚇します。 

 ▼関連記事(1頭目の正常個体aの記録) 

2個の垂蛹bとc(画面の左および中央の個体)は正常に蠕動威嚇しました。
それに対して、右端の個体dはしつこくいじっても無反応でした。 
外見では全く正常なのですが、おそらくこの垂蛹dはハエやハチに体内寄生されて死んでいる(虫の息)だろうと判断し、密閉容器に隔離することにしました。

この触診による予想は後に的中します。
計4頭のアカタテハ垂蛹を採集して飼育した結果、被寄生率は1/4=25%でした。

つづく→#10:


2020/12/01

モンスズメバチの巣内温度を測る【樹洞内の暗視映像】

 

八重桜の樹洞に営巣するモンスズメバチ:#7

▼前回の記事 
巣内の幼虫と栄養交換する夜のモンスズメバチ♀【暗視映像】

2020年8月中旬・午前1:30頃・晴れ 

赤外線デジタル温度計モンスズメバチVespa crabro)の巣内温度を測定してみました。
使い方は簡単で、引き金のようなスイッチを握ると赤いレーザーポインタが前方に光り、その地点の温度が液晶画面に表示されます。 
赤外線の暗視カメラで動画に撮りながら実演してみましょう。  
非接触式なので、スズメバチの巣のような危険物の温度も離れた位置から安全に測ることが可能です。 
この夢のような秘密兵器を6年前に欲しかったなぁ…。 
(ついでに対象物との距離も測定してくれると便利だと思います。) 

それまで樹洞内の巣盤を暗視カメラで動画撮影するために、補助照明として樹洞の底に赤外線投光器を2台設置していました。 
細かいことを言うと、この投光器の発熱で樹洞内の気温がわずかに上昇したかもしれませんが、誤差の範囲内でしょう。 
この赤外線投光器を撤去してから温度測定しました。 
桜の幹をワラジムシが徘徊していました。 

測定結果: 
樹洞(巣門付近)の内壁の表面温度は24.7℃。 
樹洞入り口の上部を塞いでいた外皮が破れた箇所の奥の温度は24.5℃。 
いよいよ肝心のモンスズメバチの巣盤内で育房の温度は25.1℃。 
(ビデオカメラで巣盤にズームインすると、温度計の液晶画面にピントが合わなくなってしまいました。) 

樹洞内の巣内温度は外気温とほとんど変わりませんでした。
昆虫は基本的に変温動物ですが、多数の個体が密集して暮らす蜂の巣は断熱材で作られていることもあり、自身の呼吸熱で少しだけ暖かくなるようです。 
熱帯夜ではなく気温が30℃よりも低いので、モンスズメバチが扇風行動で巣を冷却する必要はありません。 
実際に、扇風行動はしていませんでした。 
反省としては、この赤外線温度計は物体の表面温度しか測れないので、外気温を測る普通の温度計は別に持参すべきでした。


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