2023/08/08

雪道で車に轢かれたホンドテンの死骸

 

2022年12月下旬・午後14:45頃・くもり 

雪山から下山した帰り道、意外なものを見つけました。 
山麓の別荘地帯で車道をきれいに除雪した道端の雪の上に野生動物の亡骸が横たわっています。 
毛皮が黄色っぽいので初めはキツネ(ホンドギツネ)かと思ったのですが、近づいてよく見ると冬毛のホンドテンMartes melampus melampus)でした。 
目立った外傷はなく、金色の毛皮が美しいです。 
雪山で夜に活動するホンドテンをトレイルカメラで撮影していますが、モノクロの暗視映像なので冬毛の色はこんなにきれいなのかと感動しました。
毛皮目当てに乱獲されるのも納得です。
 
関連記事(同時期の撮影)▶ 冬毛のホンドテンが夜に出歩く雪山のスギ林道【トレイルカメラ:暗視映像】

毛並みが乱れているのは、濡れているからでしょう。 
足が黒いのがテンの特徴です。 
死後間もないようで、口から滴り落ちる鮮血が路肩の腐れ雪を赤く染めています。(吐血?)

周囲の雪面にテンの足跡が全く残されていないということは、除雪された車道でテンを車ではねた(轢いた)ドライバーが死骸を道端に投げ捨てた(車道から邪魔にならないように移動した)のだろう、と推理できます。 
車がいくら猛スピードで走っていたとしても、路上ではねたテンがこれほど遠くまで飛んで路肩の雪に着地したとは考えにくいです。
ちなみに、入山のため午前中に現場を通りかかった際には、テンの死骸はありませんでした。 
したがって、明るい日中に活動していたテンが死んだことになります。 
テンは基本的に夜行性だと思っていたので、昼間にこんな里まで降りてきたのは意外でした。 



実は、この死骸を見つける直前に、冬季閉鎖された近くの某山麓公園でホンドテンが残したと思しき糞を雪面に見つけています。 
複数のヒトが歩いた足跡(クロスカントリースキーおよび長靴の跡)の横に残されていました。 
散歩に連れてこられた飼い犬(小型犬)が排便した可能性もありますが、たぶんテンが生前に残した最後の糞だと思います。 
テン?の足跡は不鮮明でよく分かりませんでした。
餌(獲物)を探して山麓の公園をパトロール・脱糞してから更に里へ降りてきたホンドテンが車道を走って渡ろうとして、対向車にぶつかったのでしょう。 

吉見光治『テン:種をまく森のハンター』によると、
テンが成獣になる前、車との接触によって命を落とす事故が多発しています。動物が安全に道路を渡れるような注意標識や、アンダーパスの設置も積極的に検討をして頂けることを願っています。(p63より引用)

死後間もないホンドテンの状態が比較的きれいだったので、持ち帰って詳しく調べることにしました。 
こういうときのために、私は常に丈夫なビニール袋(米袋)を持ち歩いています。 
ビニール製の米袋は非常に優秀で、分厚くて匂いやドリップ(血液・体液)も通しません。 
素手で死骸に触れないように注意します。 
テンの死骸を持ち上げると、死後硬直しておらず、グニャグニャ(ぐったり)でした。 

必ずしもロードキルとは決めつけられず、コロナウイルスなどの病原体に感染して吐血死したのか?という可能性も頭をよぎりました。
しかし、野生のテンがコロナウイルスに罹患した事例は報告されていないそうです。 
他には毒入りの餌を食べてしまった?…など死因を妄想し出すと切りがないので、解剖して死因を突き止めます。 
そもそも行き倒れなら、雪面にテンの足跡が残っているはずです。







剖検の結論を先に言うと、死因はやはり走行車と頭から正面衝突したようです。 
私は衝突事故の瞬間を目撃していませんし、もちろん私が運転していた車ではありません。
もし私が車でテンを跳ねたのなら、ドライブレコーダーの映像を一緒に公開しています。 

交通事故で野生動物が死ぬ瞬間の動画を投稿するのは悪趣味だと非難されそうですが、不幸な事故を減らすためにも、ドライブレコーダーの映像を闇に葬らずに公開して蓄積するのは重要だと考えています。
AIによる自動運転が進歩すれば、急に車道へ飛び出してきた野生動物を緊急回避する超絶ドライビングテクニックが開発されるはずです。 
そのためには大量のデータ(ビッグデータ分析)が必要です。
冬の雪道でドライバー(運転者)が咄嗟に急ブレーキを踏むのはスリップして危険ですから、衝突回避の自動運転に期待しています。 
ちなみに現場は坂道でした。
車道に出てきたテンは車が走ってくると立ちすくんでしまう(擬死)のか、それともパニックになって逆に車のヘッドライトに向かってくるのか、クラクションを鳴らすとどう反応するのか、など緊急時の行動習性も誰かが調べないと分かってきません。 
野生動物の種類によっても挙動が違うはずです。 
離島ではとくに天然記念物のイリオモテヤマネコやアマミノクロウサギがロードキルで毎年かなり死んでいて、種の存続が危ぶまれています。
野生動物を轢き殺してしまった運転者を過剰に責めたり罪に問うのではなく、免責してドライブレコーダーの映像提出を求めて対策に役立てるべきです。
データが蓄積すれば、野生動物の生息状況や事故多発現場の傾向も見えてくるでしょう。
輪禍の死を無駄にしてはいけません。


↑【おまけの動画】
【タヌキ死にすぎ】動物が轢かれるデータがヤバい。生態系が心配になる【道路生態学1】#28 by ゆる生態学ラジオ



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