2011/11/26

サガオニグモ幼体の造網(横糸張りと隠れ帯)



2011年10月下旬


里山の尾根道の横(標高約610m)で小さなクモがちょうど網を張っているところに出くわしました。
自然光下でクモの糸が光って見えるアングルを急いで探し、垂直円網に対して少し斜めの位置から手持ちカメラのまま動画撮影開始。


横糸を張りつつクモの回る向きは一定でした(時計回り)。
一気に横糸を張り終えて甑(こしき)の処理が済むと、小休止してから甑の上に白く目立つ隠れ帯(白帯※)を作り始めました。
細かいジグザグの隠れ帯を上から下へ縦に張り、甑にたどり着くとそのまま下向きに占座。
全く無駄のない所作に惚れ惚れします。
完成した垂直円網の直径は15cm、甑の高さは地上130cm。
枠糸の固定点は枯れた倒木。


風になびく円網を横から撮っていたら、クモがおもむろに甑の穴反転用通路(free zone)を潜り網の反対側に移動しました。
その結果、造網中からこちらに腹面を向けていたクモは、自ら背面も見せてくれました。
風向きや太陽の方向に応じて網のどちらに占座するか決めるのだろうか?

※【追記】
『クモを利用する策士、クモヒメバチ: 身近で起こる本当のエイリアンとプレデターの闘い』p207によれば、
白帯はかつて、クモを目立たせなくする機能があるとして日本では「隠れ帯」と呼ばれ、網を強化する機能があるとして英語では「stabilimentum(安定化させるもの)」と呼ばれていた。共通する普遍機能がないとわかった現在は、機能の意を含めない「白帯」と呼ばれるようになり、英語でも同じ理由で「web decoration」と呼ばれたりもする。




動画撮影後にクモを捕獲し、記録のため炭酸ガス麻酔下で接写しました。
体長5mmで外雌器も触肢の膨らみもありません。
いつもお世話になっている「クモ蟲画像掲示板」にて、サガオニグモEriophora astridae幼体とご教示頂きました。




2011/11/25

コカマキリ♀dの卵鞘作り@飼育容器天井(微速度撮影)

コカマキリ♀dの飼育記録
2011年10月下旬・室温20℃→18℃



身重のコカマキリ♀dが野外で鉄パイプの下面にぶら下がって何時間も静止して居ました。
いかにも卵鞘を産みそうな予感がしたので、飼育するため夕方に採集しました。
近くに居たアシグロツユムシ♀と同じ容器に入れて持ち帰ると、捕食していました(半分食べ残し)。
コカマキリ♀による卵嚢作製の微速度撮影をなんとか物にすることを今季の目標にしており、これが4匹目(a-d)の飼育です。



産卵を観察しやすいよう透明プラスチックのDVDスピンドル容器で飼うことにしました。
コカマキリ♀dは容器の天井に逆さまにぶら下がる姿勢で、なんとその日の晩に白い卵鞘を泡立て始めました。
夕方に鉄パイプの下にずっと止まっていたのは、やはり産卵の準備だったようです。


透明の容器越しに上から見下ろすアングルでカメラを三脚にセットし、3秒間隔のインターバル撮影を開始。
コカマキリ♀の腹面と卵鞘の裏側という珍しいアングルです(飼育下ならでは)。
まるで白い絵の具を塗るように泡立てていきます。
約2.5時間(PM19:40〜22:15)の行動を60倍速の早回しでお届けします。

卵鞘が完成するとコカマキリ♀は身繕いや徘徊を始めました。
一仕事を終えた♀の腹端に白い卵鞘の泡が付着しています。
ちなみに、この白い産卵痕は野生のコカマキリ♀にも認められます。


卵鞘は乾くと固くなって褐色になります。


2011/11/24

ヒロバネヒナバッタ♂の鳴き声♪



2011年10月下旬・気温25℃


里山の尾根に登り、日当たりの良い草地の横で弁当を食べていました。
落ち着くと辺りに茶色のバッタが何匹も居て鳴き交わしていることに気づきました。
シュリリリリ♪という乾いた(渋い)鳴き声です。
鳴いている様子をいざ動画に撮ろうとすると、優れた保護色のため落ち葉や枯葉を背景に静止していると、特に日向ではなかなか見つけられません。
こういうときはカメラの液晶画面ではなく光学ファインダーを直接覗く方が探しやすいです。
望遠で撮ってもすぐに枯葉の下に隠れたり跳ねたりして逃げてしまいます。
なんとか一匹に忍び寄って接写してみると、後脚と翅を擦り合わせて発音していました。
鳴く合間に顔を拭う様子(右前脚で複眼を撫でた)が可愛らしい。

接写した同一個体(映像で冒頭の4分間に登場)を素手で捕獲し、同定のため持ち帰りました。
体長を採寸すると22mm(頭頂⇔翅端)または19mm(頭頂⇔腹端)。
名前を調べてみるとヒロバネヒナバッタ♂(Stenobothrus fumatus)のようです。
虫の音WORLDサイトから鳴き声♪も聞けます。







2011/11/23

コガネグモダマシ♀の造網:足場糸と横糸張り(15倍速映像)



2011年10月中旬・気温15℃

クズとススキが生い茂る堤防の草むらで夕方になるとコガネグモダマシがあちこちで店開きします。
縦糸を張っているクモを一匹見つけたものの、三脚を準備している間にどんどん次の作業に移ってしまいました。
(次回はチャンスを逃さぬよう、取りあえず手持ちカメラで撮ろうと思います。)
放射状の縦糸の次は、網の中央から外側へ足場糸を螺旋状に張ります。
横糸に比べて一時的な足場糸は粗いのですぐ張り終えてしまいます。
次に外側から中心に向かって螺旋状に粘着性の横糸を張り始めました。
このとき足場糸を切りながら作業を進めます。
クモはこちらに背面を向けています。
網の外側部分では螺旋運動の向きを何度か変えていました。
後半になると一定の向きで回ります。
曇り空で夕方のせいか(薄暗い)、自然光では細い糸があまりよくカメラに写りません。
網と糸を可視化するためにもし霧吹きしたらクモは造網作業を中断してしまうだろうか?と思いつつも動画で長撮り。
早回し映像の部分は15倍速です。

クモは途中まで横糸を張り終えると甑に戻って網を引き締め、下向きに占座しました。
このとき一匹の虫を網から取り逃がしています(追い払った?)。
これで完成なのかと思いきや、少し休むと再び横糸を張り始めました。
最後の仕上げが残っていたらしい。
螺旋運動の向きは変わらず(背面を向け反時計回り)。
今度こそ横糸を張り終えました。
クモは完成した円網全体を歩脚で引き締め、ようやく落ち着きました(下向きに占座)。
甑の処理は網の裏側(クモの腹面)から観察しないと分かりませんね。

完成した垂直円網の甑の高さは地上約110cm、枠糸は周囲のススキに固定されています。


撮影後にクモを一時捕獲してみると、体長8mmの♀成体でした。




2年前の観察よりは少し進歩したものの、なんとか造網過程の一部始終を動画に記録したいものです。



2011/11/22

スズメバチに似たスズキナガハナアブ♀の身繕い【ベーツ擬態】



2011年10月下旬

里山でつづら折りの山道を登っていたら、スズメバチにそっくりなアブが羽音を立てて飛来しました。
なぜか私のウェストポーチに興味を示し、二回もまとわり付いて来ました。
一瞬スズメバチかと焦って身を固くしましたが、すぐに擬態(虎の威を借る狐)と気づきました。
アブは近くのクズの葉に止まり、身繕いを始めました。
胸部背面後半にハの字型の黄色紋があり、スズキナガハナアブSpilomyia suzukii)と判明。
左右の複眼が接していないことから♀と思われます。
ベーツ型擬態の見事な一例ですね。
スズキナガハナアブ♀は化粧が済むと飛び去りました。
スズメバチのように刺す真似をするか(行動擬態)確認したかったのに、生憎この日は捕虫網を持参しておらず、指を咥えて見送りました。



2011/11/21

クワコ♀(蛾)の羽化と性フェロモン放出



クワコの飼育記録#4
2011年10月下旬・室温22℃


二頭のクワコBombyx mandarina)終齢幼虫から飼育を始め、繭を紡いでから53日後にようやく一頭の成虫(先に営繭した個体a)が室内で羽化しました。

羽化の過程を撮影したかったのに見逃してしまい残念。
それまで繭の中で蛹がひとりでにガサガサ動く音がときどき聞こえていたものの、羽化の前兆などは気づきませんでした。
実験室の自然日長条件で(クワゴの:しぐま註)羽化時刻を調べると、♂と♀でまったく異なる。♂は午前8時〜10時を中心に羽化し、♀は午後2時〜5時を中心に羽化した。筆者は、今までこのように♂と♀で羽化時刻の異なる昆虫を知らない。ちなみにカイコは雌雄同時に羽化する。 (桑原保正『性フェロモン:オスを誘惑する物質の秘密』p57より引用)
繭の上側の絹糸をコクナーゼという酵素で溶かしてから穴を押し広げて脱出したようです。

『繭ハンドブック』p29によると、クワコの羽化前の繭上部には予め出口は開いていないらしい。




午前中に気づいたときは既に翅が伸び切っており(前翅長〜20mm)、繭の下にぶら下がって静止していました。
直下に垂れた赤い液体は、翅伸展後に排泄した蛹便でしょう。
櫛状触角の形状に性差があるらしいのですが、私にはよく分かりません。
♂の触角は♀より櫛歯が長いらしい。)
幼虫期はあれほど大食漢だったのに、クワコ成虫の口器は退化しています。



やがて繭に掴まって静止したまま、腹端から何やら黄色い内臓器官を出し入れし始めました。
ヘアーペンシルの形状ではありませんが、フェロモン放出のコーリングを連想しました。
クワコはカイコの原種(交雑可能)※ですから、よく調べられているカイコの配偶行動を参照してみることに。
科学のアルバム『カイコ:まゆからまゆまで』を紐解くとp14に解説が載っていました。
「♂の蛾を激しく引き寄せた、特別の匂いは、♀の腹の中にある、誘引腺という黄色い袋から出されます。♀は羽化するとすぐに、この誘引腺を腹の先から出して、特別の匂いを辺りにまき散らします。♂はこの匂いを辿って♀を見つけるのです。」

これでようやく私にも♀だと分かりました。
クワコの雌性フェロモン(カイコと同じボンビコール:bombykol)を嗅いでも私の鼻には無臭でした。
空中に拡散する微量なフェロモンを検知するために♂の触角は♀よりも発達しているのです。
しかし『ファーブル昆虫記』の有名なエピソード「オオクジャクヤママユの夜」のように、室内に囚われた♀の元に窓の外から♂のクワコが殺到するということはありませんでした。
そのまま♀を飼い続けると後日、産卵シーンも観察できました。
(つづく→シリーズ#5




※【追記】
鈴木知之『さなぎ(見ながら学習・調べてなっとく)』によると、
カイコは中国のクワコを品種改良したものらしく、日本のクワコとは染色体の数やDNA配列が異なるようです。  (p83より引用)




【追記2】
桑原保正『性フェロモン:オスを誘惑する物質の秘密』によると、

 (カイコの)未交尾の♀(処女♀)を♂と交尾できないように隔離しておくと、♀は腹部末端を斜め上後方に突き出し、先端の産卵管壁に一対ある黄色球状の側胞腺(フェロモンを分泌・発散する部分。フェロモン腺)を突出させる。この時、側胞腺は数秒毎の周期的な膨張と収縮をくり返す。この行動はコーリング行動(求愛行動)とよばれ、フェロモンの分泌発散行動である。(p23〜24より引用)
 クワゴの♀はカイコと同じように、昼間に腹部末端にある側胞腺を膨らませてコーリング(求愛行動)し、性フェロモンを分泌する。 (p47より引用)
クワゴは野外の自然状態では、おそらく前日の午後羽化した成熟♀に、翌日午前に羽化した♂が求婚するのではないか (p57より引用)
コーリング中の♀を嗅いでも微量のためフェロモンの香りはまったくない。化学合成したフェロモンは、高濃度の時だけ人間に、弱い油臭さとして感じられる。当然であるが人間には何の作用もない。 (p239より引用) 









2011/11/20

ナシケンモン終齢幼虫(蛾)の徘徊@鉄パイプ



2011年10月下旬・気温12℃



林縁で鉄パイプの上を毛虫が一匹這い回っていました。
ナシケンモンViminia rumicisというヤガ科の幼虫(黒色型)です。
現場で採寸すると、体長31mm。
図鑑『イモムシハンドブック』によると終齢幼虫の体長は30-35mmらしいので、おそらく終齢なのでしょう。

真っ黒な頭楯を左右に振って辺りを探りUターンを試みます。
長い白髪の生えた頭をときどき高々と持ち上げて様子を窺います。
夕刻で冷えてきたのか、動きが鈍くなりました。
我々のような温血動物が鉄パイプに触れると体温が奪われ殊更に冷たく感じますが、毛虫のような変温動物にとっては気温と同じ体感のはずです。


10月上旬に撮った褐色型のナシケンモン幼虫@ヤナギ葉 












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