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2025/09/11

野ネズミはアンズの落果を食べるか?【トレイルカメラ:暗視映像】

 

2024年7月上旬〜中旬

シーン0:7/5・午後15:20・晴れ(@0:00〜) 
明るい日中にたまたま撮れた現場の様子です。 
郊外に1本だけ植栽されたアンズ(杏)の木から黄色く熟した果実が落ちて散乱していました。 
放置されたまま誰も収穫に来ないので、野生動物がアンズの落果を食べに来る様子を自動撮影カメラで監視することにしました。 
撮影しやすいように、落果を拾い集めてアンズの木の下の1箇所にまとめました。 
ニホンザルやタヌキ、テンが拾い食いするのではないかと予想しています。 
野鳥では果実食のヒヨドリが甘い果肉を啄むかもしれません。 
昆虫では昼間にスズメバチ類が飛来して果肉を齧るかな? 

ちなみに、アンズの木の横の草地に野生動物が座り込んだ形跡がありました。 
カモシカやイノシシのねぐらではないかと予想しています。
そっちも気になるのですが、トレイルカメラの数が足りないので、アンズ落果の方を優先することにします。 

この餌場に野ネズミ(ノネズミ)が夜な夜な通ってくる様子を以下にまとめました。 


シーン1:7/7・午前0:21(@0:05〜) 
深夜に1匹の野ネズミが登場しました。 
ごちそうの山に前足を掛けてアンズ落果の匂いを嗅いでいました。 

黒い徘徊性甲虫(種名不要:オサムシ? カミキリムシ?)も落果に誘引されていたのですが、少し離れているので野ネズミは暗闇で気づいていないようです。 
もし野ネズミが甲虫を見つけていれば、獲物として捕食したはずです。 
謎の甲虫は、アンズ熟果の傷に頭部を突っ込んで甘い果肉を食べているのでしょうか? 
(発酵した果汁を吸汁しているのかな? )

野ネズミは手前に立ち去りました。 
1.5倍に拡大した上でリプレイ。(@0:31〜) 


シーン2:7/8・午後18:45(@0:56〜)日の入り時刻は午後19:07。 
翌日も日没前の夕方に早くも野ネズミが餌場に来ていました。 
アンズ落果の匂いを嗅ぎ回り、少し味見したようです。 

しかし野ネズミは何かに驚いたのか、落果の山から手前に素早く飛び降りて姿を消しました。 
アンズ落果に野ネズミの歯型が残っているかどうか、食痕を確認すべきでしたね。 


シーン3:7/9・午後19:45(@1:39〜) 
その次の日も、晩に野ネズミがチョロチョロと餌場に登場しました。 
手前からアンズ落果の山に来ると、落果(腐果)を少し食べたようです。 


シーン4:7/10・午前0:44(@2:38〜) 
日付が変わった深夜に、野ネズミが再び登場。 
しかし、なぜか餌場には近寄らずに立ち去りました。 


シーン5:7/10・午前0:57(@2:56〜) 
約10分後に、野ネズミがアンズ落果の山に通りかかりました。 
ところがアンズにはあまり興味を示さず、林床をうろついて餌を探しています。 


シーン6:7/10・午前2:13(@3:18〜) 
アンズ落果の少し右、下草の陰に野ネズミが来ていたのですが、奥へ立ち去りました。 


シーン7:7/10・午前3:33(@3:40〜) 
野ネズミがアンズ落果の匂いを嗅いでいました。 
果肉を食べていると、画面の左下から黒い甲虫(種名不詳)が歩いて登場。 
ニアミスしたものの、アンズに夢中の野ネズミは甲虫には見向きもせず、何事もなくすれ違いました。 


シーン8:7/10・午前3:40(@4:40〜) 
野ネズミはアンズ落果の山の上で少し場所を変え、別な落果を齧っていました。 

最後に画面の上端の草むらから別個体の野ネズミが現れたようで、白い目が光っています。(@5:35〜) 
餌資源を巡って野ネズミ同士が争うのか、成り行きを見届ける前に残念ながら1分間の録画が終わってしまいました。 


シーン9:7/10・午前3:46(@5:40〜)
アンズ落果の山の上に野ネズミが陣取って、食事をしています。 


シーン10:7/10・午後19:01(@6:40〜) 
雨が降る晩に、野ネズミが餌場の左上エリアをうろちょろしていました。 


シーン11:7/11・午前3:30(@7:00〜) 
日付が変わった未明に野ネズミが左から登場。 
林床に鼻面を突っ込んで匂いを嗅ぎながら歩き回ります。 

ようやく餌場に来ると、腐りかけたアンズ落果を選んで食べ始めました。 


シーン12:7/11・午後20:22(@8:00〜) 
同じ日の晩にも野ネズミが餌場に来ていました。 
雨は止んでいました。 
アンズ落果の山に乗っていたカキノキ落ち葉の匂いを嗅いだだけで、左へ立ち去りました。 


シーン13:7/11・午後22:01(@8:28〜)
 約1時間40分後にも野ネズミが餌場の左下エリアをうろついていました。 
監視カメラの電池がだいぶ消耗しています。 


シーン14:7/12・午前4:21(@8:44〜)日の出時刻は午前4:23。 
翌日の日の出直前に登場した野ネズミは、アンズの腐果を少しかじっただけ(匂いを嗅いだだけ?)で立ち去りました。 


※ 動画の一部は編集時に自動色調補正を施しています。 


【考察】 
本当はアンズの樹上に実った状態の果実を食べに来る野生動物を観察したかったのですが、夏の時期は葉が生い茂って撮影しにくいのです。
次善の策として、落果を餌として使いました。

野生動物への給餌(餌付け)を、特に人家に近い場所でやるのは色々と問題をはらんでいます。 
しかし今回は、私が餌を外から持ち込んだのではありません。 
果樹の下に散乱していた落果を移動して一箇所にまとめただけなので、給餌には該当しません。 
(個々の移動距離はせいぜい数m。)
もちろん私はアンズの落果を1個も持ち去っていませんし、味見もしていません。
専門的にはアンズ落果のパッチ操作実験、資源配置操作実験、自然資源集積実験、落果集積実験などと色々な言い方をされるらしいのですが、ちょっとした実験の真似事をしてみたのです。 

野ネズミは初めなかなかアンズ落果を食べようとしませんでした。
監視カメラを警戒していたのではなく、アンズの落果が完全に熟するまで待っていたようです。 

結局、野ネズミはアンズの熟果を少し食べただけで、熱狂的に食い漁るほどではありませんでした。(期待はずれ)
野ネズミが慎重だったのは、アンズの未熟な果実や種子にはアミグダリンという青酸配糖体の毒が含まれていることを知っていたのでしょう。

発酵したアンズの果肉を食べすぎると、野ネズミはアルコールの過剰摂取で酔っ払うのではないか?、と予想したものの、酩酊状態は観察されませんでした。

ドングリやクルミなどの堅果だと野ネズミは持ち去って貯食するのですが、アンズの果実(核果)を運ぶことは一度もありませんでした。 


ちなみに後日(7月下旬)に定点観察すると、アンズ果肉が腐り果てた後に残された種子の多くがいつの間にか持ち去られていました。 
種子散布の過程を見逃してしまったことになります。
おそらく野ネズミの仕業(アンズの種子を貯食した?)だと思われますが、そこまで長期間トレイルカメラで見届ける忍耐がありませんでした。 


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2025/08/28

ニセアカシア葉軸の毒味を繰り返すニホンザルの群れ

 

2024年6月中旬・午前11:10頃・晴れ 

山麓にある砂防ダムの堰堤に集まった3頭のニホンザルMacaca fuscata fuscata)に注目しました。 
成獣には胸に小さな乳首が見えたので、若い♀(ヤンママ?)のようです。 
授乳を経験すると♀の乳首は細長く伸びたままになります。
この3頭はおそらく母子で、子猿abは兄弟姉妹の関係なのだろうと推察しています。 

成獣♀がコンクリートの堰堤に落ちていたニセアカシアの落ち葉を手で拾い上げて匂いを嗅いだものの、口にしませんでした。 
背後にオニグルミの木が見えますが、葉の形が明らかに違います。 
次に成獣♀は眼の前に垂れ下がったニセアカシアの枝葉を引き寄せてむしり取り、葉柄の匂いを嗅いでから少し食べました。 
横に居る子猿もニセアカシアの葉柄を少し齧りました。 
ニセアカシアの丸い小葉ではなく、千切った葉柄の根元を少し食べています。 

突然、左から別の子猿dが乱入し、立ち上がってニセアカシアの枝葉を手で掴もうとするも失敗しました。 
自分が上下に跳躍するので、ニセアカシアの枝も一緒に揺れています。 
ニホンザルがよくやる威嚇の木揺すりディスプレイとは違うようです。 
枝に飛び移りたかったのかな? 
母親♀がその様子を横で呆れたように見ていて、はしゃいでいる子猿dを乱暴に掴んで堰堤に組み伏せ、強引に対他毛繕いを始めました。 
やんちゃ盛りの子猿dは、嫌がって母親♀から逃れようとしています。 

その右に独りで座っている子猿bが食べているのは、奥に見えているオニグルミの葉ではなく、やはりニセアカシアの葉でした。 

わんぱくな子猿dが母親♀から逃げながら、ニセアカシアの枝葉を拾って咥えました。 
母親♀がそれを追い回しています。 

その間に、手前で別個体の子猿bが立ち上がり、ニセアカシアの枝葉を引き寄せようとしています。 
しかし、枯れた枝葉しか毟り取れませんでした。 
母親♀がこの子猿bを歩いて追いかけ、毛繕いを開始。 


ニホンザルがニセアカシアを味味するシーンを1/5倍速のスローモーションでリプレイ。(@1:05〜) 


【考察】 
後で現場検証すると、ニホンザルが集まって居た砂防ダムの堰堤の岸にニセアカシア(別名ハリエンジュ)がオニグルミと並んで自生していました。 
今回ニホンザルがニセアカシアの小葉を食べそうで食べず、葉柄(葉軸の根元)をちびちびと齧るだけだったのが気になりました。 
実は数年前に観察したときも、ニセアカシアの木に登ったニホンザル♂は若葉と未熟な豆果を少ししか食べませんでした。 



いつものようにPerplexity AIに相談してみたところ、ニセアカシアには食害から身を守るための毒があるという衝撃の事実を教えてもらいました。 
私はそれまで有毒だとは知りませんでした。
A1: ニセアカシア(ハリエンジュ)の葉には毒性成分が含まれています。具体的には、葉、樹皮、枝、種子には「ロビン」や「ロビチン」といった毒素があり、これらによって家畜(特に馬)が中毒を起こすことが報告されています。人間が摂取した場合も過去に中毒例があり、吐き気や腹痛、下痢、呼吸困難、心拍異常などの症状が出ることがあります。 一方で、花には毒が含まれておらず、花だけは食用にされることもありますが、それ以外の部分は毒性があるため注意が必要です。ニセアカシアの葉をニホンザルが少しだけ味見するような行動は、この葉の毒性のために摂取を控えている可能性が高いと考えられます。 したがって、ニセアカシアの葉には毒が含まれており、ニホンザルが食べる量が少ないのは毒に対する本能的な回避行動である可能性が高いです。ニセアカシアの葉を摂取すると、中毒症状を引き起こす可能性があるため、摂取は控えられる傾向にあります。 以上のことから、ニホンザルがニセアカシアの葉を少ししか食べなかった理由は、葉に含まれる毒性成分のためであると考えられます。
しかし、「ロビン」や「ロビチン」は正式な化学物質名や広く認められている学術名称ではなく、詳細な英語名や構造式を示す文献は見当たりません。
より正確にはマメ科特有の有毒タンパク質群(レクチンなど)や関連物質として理解するのが適切です。 

A2: ニセアカシアの果実(豆果)についても、葉や樹皮などと同様に毒性があるとされています。若い未熟な豆果も含め、果実に毒性成分が含まれているため、食べることは注意が必要です。特に若い緑色の果実は見た目がおいしそうに見えますが、摂取は避けるべきとされています。 ニホンザルが未熟な豆果を少しだけ食べたという行動も、毒性のある部分を本能的に回避しつつ、少量を試し食い(味見)している可能性が考えられます。毒性成分は主に「ロビン」や「レクチン」といったマメ科特有のもので、消化器症状や神経症状を引き起こすことがあるため、果実も摂取は控えられるのが普通です。 まとめると、ニセアカシアの果実(豆果)にも毒があるため、ニホンザルが少量しか食べなかったのは毒性に対する防御的な行動と見るのが妥当です。 

しかし「蓼食う虫も好き好き」という諺があるように、ニセアカシアの葉を食べるイモムシもいます。
進化の過程でニセアカシアの毒成分に対する解毒能力や耐性を獲得したのでしょう。

関連記事(5年前の撮影)▶ 


今回のニホンザルの群れは砂防ダムでニセアカシアの葉柄を毒味していたようです。 
近くにオニグルミの葉(無毒)も生えていたのに、わざわざニセアカシアの葉柄(有毒)を選び取って何度も味見していたのが不思議です。 
A3: オニグルミの葉には毒性成分(ジュグロン)が含まれますが、ニセアカシアのような明確な哺乳類毒はなく、ニホンザルが積極的に避ける理由にはなりにくいと考えられます。ニホンザルがニセアカシアの葉をあえて味見する行動は、好奇心・変わった食物の探索や、他の要因(例:食物の多様化、タンパク質の補給など)が影響しているかもしれません。 
もしかすると、有毒成分に特有の刺激的な味覚がニホンザルにとってスパイスのように少し癖になっている(中毒性のある嗜好品?)のかもしれません。 
そして幼い子猿が有毒植物をあまり大量に食べ過ぎないように、成獣♀(若い母親? 姉?)が子猿から取り上げようとしているようにも見えます。 
しかしニホンザルの採食行動は全て自己責任であり、危険な有毒植物を子猿が食べようとしていても、母親は叱ったり強く制止したりすることはないのだそうです。

A4: 野生のニホンザルにおける食草の毒味は基本的に各個体が自己責任で行う行動と考えられています。特に毒性のある植物や部分を少量ずつ試す「味見」は、個体ごとの経験や感覚によって判断されることが多く、親や群れの成獣が明確に制止や教育を行う様子が観察されることは稀です。

これは、毒の感受性や個体差があるため、個別の体験を通じて安全か危険かを学ぶ必要があることや、毒味行動自体が自己防衛の意味を持つためと考えられます。成獣が子猿の行動を特に制止しなかったという観察は、この自己責任の性質を反映していると言えます。

また、ニセアカシアのように毒を含む植物は味わいながら摂食量を調整するなど、適応的な習慣が形成されている可能性が高いです。こうした行動は、食物の利用可能性や栄養のバランス確保に不可欠であり、個々のサルが自らの判断で安全な食べ方を模索するための重要な生存戦略となっています。


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2025/06/23

山道で見つけたコアオマイマイカブリを素手で捕獲すると…

 

2024年5月下旬・午後13:25頃・くもり 

里山の急斜面をつづら折れで登っていると、細い山道をコアオマイマイカブリDamaster blaptoides babaianus)がせかせかと横断していました。 
生きたマイマイカブリを実際に目にしたのはこれが2度目です。 
初回は動画に撮り損ねて悔しい思いをしたので、今回は興奮を抑えつつ動画に撮りながら手掴みで捕獲してみました。 
私の手に噛み付いて反撃することはありませんでした。 
カメラに見せていたら、すぐに逃げ出そうとします。 

後で知ったことなのですが、マイマイカブリを手掴みするのはよろしくないようです。 
・触ると(マイマイカブリは)尾部から臭い液を放出し、目に入ると炎症を起こすので注意が必要。 (『くらべてわかる甲虫1062種』p13より引用)

・(マイマイカブリは)危険を感じると尾部からメタクリル酸とエタクリル酸を主成分とし、強い酸臭のある液体を噴射する。この液体は刺激が強く、手はともかく目に入ると大変な痛みを感じ、炎症を起こす。後方だけでなく上方にも噴射できるので、むやみに手で抑えつけたり顔を近づけたりしないよう注意が必要である。(wikipediaより引用)

確かに私の手の指に少し異臭が残りましたが、水ぶくれや火傷の症状などは全くありませんでした。 
液体をかけられたという感覚は全くなかったので、おそらく無色透明な少量の液体だったのでしょう。 
動画で記録しても、残念ながら匂いは伝わりません。


関連記事(2年前の撮影)▶  



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2025/06/04

山中の水溜りでヒキガエルの幼生を狩って雛に給餌するクロツグミ♀【野鳥:トレイルカメラ】



2024年5月下旬・午後18:35頃・日の入り時刻は午後18:55。

シーン0:5/24・午後12:40・晴れ(@0:00〜)
明るい昼間にたまたまフルカラーで撮れた現場の状況です。
山林で湧き水が溜まった水場を自動撮影カメラで見張っています。
浅い泥水の水溜りには、アズマヒキガエルBufo japonicus formosus)の幼生と思われる黒いオタマジャクシの群れが泳いでいます。
1.5倍に拡大した上でリプレイ。
翌年の春には、同じ水溜りではありませんが、そこから連続した湿地帯を流れる雪解け水の沢でアズマヒキガエルの配偶行動を観察しています。(映像公開予定)


シーン1:5/25・午後18:33(@0:18〜)
日没前でまだなんとか明るい時間帯に、クロツグミTurdus cardis)の♀♂ペアが互いに離れて水溜りの水を飲んでいました。

手前の茶色い♀個体が何か黒っぽい獲物を捕らえました!
水溜りでオタマジャクシを狩ったのかな?
獲物をその場では食べず、嘴に咥えたまま次の獲物を探しています。
したがって、近くの巣で待つ雛鳥に給餌するのでしょう。
左へ飛び去りました。

一方、奥に居た黒い♂個体は、水を飲み終えると、更に奥の湿地に移動して餌を探し歩いています。


シーン2:5/25・午後18:36(@1:20〜)
2分後にクロツグミ♀が単独で水場に戻って来ていました。
水溜りの岸の泥濘を繰り返しつついているのですけど、手前に生えたシダの葉が邪魔でよく見えません。
やがて嘴に何か黒っぽい獲物を咥えていました。
オタマジャクシなのかミミズなのか、獲物の正体がよく分かりません。
クロツグミ♀は、その場で脱糞した直後に黒い獲物を咥えたまま左上へと飛び立ちました。

クロツグミ♀による狩りのシーンを1.5倍に拡大した上で自動色調補正を施してリプレイ。(@1:54〜)
画質が粗いのは薄暗いせいなので、仕方がありません。



【考察】
山渓カラー名鑑『日本の野鳥』という図鑑を紐解いてクロツグミについて調べると、
つがいで縄張りを持ち、♂は木の梢で大きな声でさえずる。主に地上をはね歩きながら採餌する。数歩はねて立ちどまり、ゴミムシなどの昆虫やミミズを捕える。(p445より引用)
確かにクロツグミの♀♂つがいが見事に縄張りを防衛しているようで、昼間この水場には他種の鳥がやって来ません。
夜行性のフクロウとは同じ水場というニッチを時間的に分割・共有しています。


今回クロツグミ♀が山中の水溜りで狩った獲物がもしもミミズではなく、アズマヒキガエルの幼生(オタマジャクシ)だとすると、重大な観察事例となります。
ヒキガエルのオタマジャクシには、ブフォトキシンという強力な心臓毒(強心配糖体)が含まれているからです。
親鳥が自分では食べずに雛鳥に給餌したので、雛は中毒死した可能性が高いです。
ヒキガエルの成体なら耳腺という特定の部位に毒腺が局在していますが、幼生の時期には皮膚全体に分布しているのだそうです。
親鳥がオタマジャクシのぬるぬるした皮膚をわざわざ全て剥いでから肉だけを雛に給餌したとは考えにくいです。
少量の餌なら致死量ではないかもしれませんが、体重の軽い雛鳥は毒への感受性が高いはずです。
クロツグミの雛鳥がヒキガエルのオタマジャクシを1匹摂取した場合、含有毒素量が致死量に達するかどうかは、雛の体重や種によって異なります。
致死に至らない場合でも、消化器症状(嘔吐、下痢)や神経症状(痙攣、運動失調)などが現れる可能性があります 。
ヒキガエルを獲物として常食している捕食者なら、ブフォトキシンへの耐性を獲得するように進化した可能性があります。(※ 追記2参照)

ヒキガエルの毒は苦味を伴うらしいのですが、そのような苦味による警告があるにも関わらず、オタマジャクシを捕食したということは、親鳥は過去にオタマジャクシの毒性を学習していない(ヒキガエルやオタマジャクシを味見した上で、その毒で痛い目に遭っていない)ことになります。


クロツグミの親鳥♀は数匹のオタマジャクシを水場で狩ってから、獲物をまとめて巣に持ち帰り、雛に給餌したようです。
このとき、最も激しく餌乞いした1匹の雛に全ての餌を与えるのか、それとも複数の雛に少しずつ餌を与えるのか、2つのシナリオが考えられます。 
後者なら、雛1羽当たりの毒の影響は少ないかもしれませんが、致死量を超えていれば巣内の雛が全滅した可能性もあります。

前回の記事で紹介したように、この時期(育雛期)クロツグミの親鳥は、水場付近でオタマジャクシの他にミミズも獲物として捕らえることがあり、巣に持ち帰っていました。
湿地帯の泥濘でミミズを探していた親鳥が、動きの似ている(身をくねらせて移動する)オタマジャクシを浅い水溜りで見つけて狩るようになったのでしょう。
ミミズには毒がないため、雛に対して毒性の希釈効果が期待できます。

もしも巣内の雛が死んだり体調を崩した場合、親鳥はオタマジャクシの毒のせいだと因果関係を正しく推論して、その後の給餌行動(獲物の選択)を変えることが果たしてできるでしょうか? 
自分で食べたのなら自身の体調の悪化と結びつけて学習することは容易ですけど、雛に給餌する場合は学習の成立は難しそうです。
ヒキガエルの幼生は黒一色で地味な体色をしており、派手な警告色を持たないため、視覚的に毒性を予測しにくくなっています。
これは、捕食者に対する隠蔽戦略を主とする進化的適応なのでしょう。
親鳥はたとえ因果関係を頭脳で正しく推論・学習できなくても、ヒキガエルのオタマジャクシを忌避するような行動がたまたま進化するかもしれません(育雛中は水辺で狩りをしないようにするなど)。
つまり、ヒキガエルの有毒なオタマジャクシを雛に給餌するような愚かな親鳥は繁殖に失敗し、子孫を残せません。
雛が毒によって自然淘汰される結果として、クロツグミの多くはヒキガエルのオタマジャクシを何らかの理由で忌避するように進化するはずです。






ChatGPTとの問答から、以上の考察を分かりやすいレポートにまとめてもらいました。

クロツグミとヒキガエル幼生に関する観察記録と考察レポート

1. 観察の概要

2024年5月下旬〜6月上旬、山形県の里山における水場に設置したトレイルカメラにより、クロツグミ(Turdus cardis)の成鳥が水溜まりで採餌している様子が複数回記録された。観察映像から、以下の行動が確認された:

  • クロツグミの雌雄ペアが黒色のオタマジャクシを捕獲し、巣に持ち帰る様子

  • ミミズなど他の餌も同時に採餌し、巣に持ち帰っている

特に注目すべきは、捕獲されたオタマジャクシがヒキガエル(Bufo japonicus, アズマヒキガエル)と推定される種であったことである。

2. ヒキガエル幼生の毒性と鳥類による捕食

ヒキガエル類は成体だけでなく、幼生(オタマジャクシ)の段階から心臓毒であるブフォトキシン(bufotoxin)を含むことで知られている。一般にこの毒素は魚類や一部の昆虫捕食者に対する忌避効果を持つとされるが、鳥類による捕食例も報告されている。

ヒキガエルの幼生は黒一色で地味な体色をしており、警告色(アポセマティズム)を持たないため、視覚的に毒を予測しにくい可能性がある。これは、捕食者に対する隠蔽戦略を主とする進化的適応と解釈できる。

3. クロツグミの給餌行動と雛への影響

今回の記録では、親鳥が複数のオタマジャクシを捕食・運搬しており、巣にいる雛に給餌したと考えられる。毒性のあるオタマジャクシを雛が摂取した場合、以下のような影響が懸念される:

  • ブフォトキシンは神経・心臓に作用する強い毒性を持ち、哺乳類や鳥類にも有害

  • 雛は成鳥に比べて体重が軽く、1匹でも中毒死するリスクがある

  • ただし、実際の給餌では、親鳥が複数の雛に分散して餌を与えることが多く、個体ごとの摂取量は限られる可能性がある

  • トレイルカメラの映像からは巣内の雛の生存状況や健康状態は不明

4. 因果関係の認知と学習可能性

親鳥が自らオタマジャクシを食べて中毒を経験すれば、忌避学習が成立する可能性は高い。しかし、給餌対象が雛であり、かつ雛が体調を崩したとしても、その原因を特定の餌と因果づけて推論することは難しい。これは多くの鳥類において制限されている認知能力の範囲と一致する。

とはいえ、種全体としては、毒を持つオタマジャクシの忌避行動が自然選択的に強化される可能性はある。すなわち、雛に毒を与えてしまう親鳥の子孫は減り、毒餌を避ける親の行動が有利に働く。

5. 警告色を持たない毒幼生の戦略的意味

アカハライモリのように腹部の赤色を見せる"unken reflex"を持つ両生類とは対照的に、ヒキガエル幼生は視覚的警告を欠く。これは、警告色の進化には色素細胞の前適応や環境要因が必要であること、また水中での視覚信号の有効性が限定的であることが理由と考えられる。

6. 結論と今後の展望

今回の事例は、毒性のあるヒキガエル幼生がクロツグミに捕食され、給餌対象として利用されるという興味深い生態的相互作用を示している。親鳥および雛への毒の影響は、摂取量や個体差によって異なると考えられるが、今後さらなる観察や給餌後の巣の状況(生存率など)を追跡することで、鳥類と毒動物の相互作用についてより深い理解が得られるだろう。


素人があれこれと妄想してきましたが、実はその後、クロツグミ♀♂つがいの雛は、幼鳥として無事に巣立ったようです。(映像公開予定)
つまり親から毒餌を与えられても、雛の巣立ち数に影響はありませんでした。
たまたま急性毒性が少ないオタマジャクシだったのか、あるいはクロツグミの雛にブフォトキシンへの耐性があったのかもしれません。(※ 追記2参照)


【追記】
別の水場(池)でアカショウビンがアズマヒキガエルの幼生(オタマジャクシ)を繰り返し捕食していたのを思い出しました。
一部の鳥はブフォトキシンに耐性があるのか、あるいは当地のヒキガエル幼生は毒性が弱いのかもしれません。



【追記2】
最近になって興味深い論文が発表されました。
沖縄県の西表島と石垣島のみに生息するカンムリワシは、外来種である毒を持つオオヒキガエルを頻繁に捕食します。
しかし、カンムリワシが中毒症状を起こしたという報告例はありません。
なぜカンムリワシはオオヒキガエルを食べることができるのでしょうか。
DNA解析で、毒耐性に関与するとされる遺伝子を調べた結果、カンムリワシは強⼼配糖体の毒ブフォトキシンへの耐性があるとされるヤマカガシというヘビと同一の配列をこの遺伝子に持つことが明らかになりました。
また、この配列を一部の猛禽類の間で比較したところ、ヤマカガシと同一の配列はカンムリワシのみにみられることが判明しました。

カンムリワシはなぜ有毒外来種を捕⾷できるのか
―毒耐性遺伝⼦の進化的背景―(プレスリリースのPDF

TOBE, Alisa, et al. Evolutionary insights into Na+/K+-ATPase-mediated toxin resistance in the Crested Serpent-eagle preying on introduced cane toads in Okinawa, Japan. BMC Ecology and Evolution, 2025, 25.1: 70. (全文のPDFが無料でダウンロード可能)
私のフィールドでも、クロツグミやアカショウビンのDNAを調べたら、ブフォトキシンへの耐性を獲得していることが証明できるかもしれません。


2025/03/20

日光浴してからナニワズの葉裏に隠れるツマグロオオヨコバイ

 



2024年4月上旬・午後14:35頃・晴れ 

二次林の林床でナニワズ(別名エゾナニワズ、エゾナツボウズ)の低木群落が黄色い花を満開に咲かせていました。 
ジンチョウゲ科とのことで、花の芳香を嗅いでみましたが、ジンチョウゲの香りとはまた違いました。 
訪花昆虫を探してみたのですけど、残念ながらハナアブやハエ類の1匹さえも見かけませんでした。 
ちなみに、以下の写真は動画と少し離れた別な地点で撮りました。







そこへ1匹のツマグロオオヨコバイBothrogonia ferruginea)が飛来して、ナニワズの葉に止まりました。 
ナニワズは夏に葉が枯れる冬緑性の植物ですから、早春だからと言って若葉という訳ではありません。 
林床の木漏れ日で日光浴しています。 
落葉樹林なので、林床の低層植物まで日光が届くのは早春の時期だけです。 
(冬季のナニワズ群落は雪の下に埋もれています。)

しばらくすると、ツマグロオオヨコバイはなぜかナニワズの葉裏にくるりと回り込んで隠れてしまいました。 
ナニワズから吸汁するために口吻を突き刺したかどうか、確認できていません。 
クマリン配糖体を含有する有毒植物のナニワズから吸汁するのか、それとも忌避するか、気になります。 





ナニワズは草食動物に食べられないためにクマリンという毒を溜め込むよう進化したと思われますが、送粉者の昆虫は花蜜や花粉を食べても大丈夫なのでしょうか? 
訪花昆虫の動画が撮れたときに改めてこの話題を取り上げるつもりですが、Perplexity AIを使って下調べすると面白いことが分かりました。 


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同じ日に民家の庭に咲いていたジンチョウゲとシロバナジンチョウゲの花の写真をついでに載せておきます。







2024/09/23

イチョウの種子(銀杏)散布者としてのホンドタヌキ

 

2023年11月上旬・午後12:40頃・晴れ 

平地のスギ防風林でホンドタヌキNyctereutes viverrinus)が残した溜め糞場wbcをトレイルカメラなどで定点観察しています。 
秋も深まり気温が下がったせいか、食糞性の昆虫が集まって来なくなりました。 

タヌキの溜め糞場には様々な種子が未消化のまま含まれていて、雑食性のタヌキが何を食べたのか旬のメニューを推理することができます。 
たとえば、柿の種は形が分かりやすく、素人にも一目瞭然です。 
(ちなみに、糞塊に混じっていたカキノキの種子も1個だけ動画に写っています。)
今回は銀杏(イチョウの種子)が糞塊に多数含まれていました。 
現場はスギ林ですから、溜め糞場の横にイチョウの木はありません。
スギ林の外から銀杏が大量に持ち込まれたことになります。

タヌキの糞塊を棒の先でほぐして、銀杏をほじくり出してみました。 
 硬い殻で守られたイチョウの種子(銀杏)は噛み砕かれておらず、臭い果肉(正確には外表皮)と一緒に丸呑みされたようです。 
イチョウの種子は未消化のまま、糞と一緒に丸ごと排出されていました。 
養分が豊富な溜め糞の中からイチョウの種子が発芽したら、種子散布に成功した(分布を広げた)ことになります。 
ただし、この地点は鬱蒼としたスギ林の暗い林床なので日照が乏しく、イチョウの芽生えは育たないでしょう。 
もしも強風の嵐が吹き荒れてスギの木が風倒すれば、林冠ギャップができて日光が射すようになり、イチョウが育つチャンスも生まれるかもしれません。 







撮影後、周囲にイチョウの木が生えているかどうか、探索してみました。 
次の課題として、イチョウの木の下にトレイルカメラを設置して、銀杏を食べに来るタヌキの証拠映像を撮ってみたくなります。
神社の境内に植栽されたイチョウの大木を見に行ったのですが、地面に落ちているのはイチョウの黄色い落ち葉だけで、銀杏は全く見つかりませんでした。 
近年は悪臭を放つ銀杏が嫌われ、街路樹のイチョウ雌株は次々に伐採されて雄株ばかりになっています。
他には某施設の敷地内で黄葉したイチョウの木を見つけたのですが、部外者は立ち入ることができません。 
おそらくタヌキは夜な夜なそこに忍び込んで、イチョウの落果を食べているのでしょう。 
次に掲載するのは資料用の写真で、11月上旬に全く別の地点で撮影したイチョウの落果(銀杏)です。




関連記事(2ヶ月後)▶ イチョウの種子(銀杏)を拾い集める


イチョウは「生きた化石」と呼ばれ、太古の昔には草食性の恐竜によって被食型種子散布されていたと考えられています。 
恐竜の糞の化石から、銀杏が発見されたからです。 

それにしても不思議なのは、イチョウの外種皮には悪臭(不快な糞便臭)があり、種子にはさまざまな有毒物質が含まれていることです。 
大切な種子が成熟するまで草食動物に果実を食べられないようにイチョウは防御しているのでしょう。
どうしてタヌキなどの野生動物が銀杏を好き好んで食べるようになったのか、不思議でなりません。 
鋭い嗅覚をもつタヌキにとって、銀杏は食欲をそそる匂いなのでしょうか?
wikipediaでイチョウの記事から銀杏の毒に関する記述を引用します。
イチョウの種子が熟すと肉質化した種皮の外表皮が異臭を放ち[128]、素手で直接触れるとかぶれやすい[119]。異臭の主成分は下記の皮膚炎の原因となるギンコール酸である[128]。異臭によりニホンザル、ネズミなどの動物は食べようとしないが、アライグマは食べると言われている[129]。

 

種皮の外表皮には乳白色の乳液があり、それにはアレルギー性皮膚炎を誘発するギンコールやビロボールといったギンコール酸(ギンゴール酸)と呼ばれるアルキルフェノール類の脱炭酸化合物を含んでいる[44][111]。これはウルシのウルシオールと類似し、かぶれなどの皮膚炎を引き起こす[128]。

 

食用とする種子にはビタミンB6の類縁体4'-O-メチルピリドキシン (4'-O-methylpyridoxine, MPN) が含まれている[128][131][132] が、これはビタミンB6に拮抗して(抗ビタミンB6作用)ビタミンB6欠乏となりGABAの生合成を阻害し、まれに痙攣などを引き起こす[128]。銀杏の大量摂取により中毒を発症するのは小児に多く、成人では少ない[115]。大人の場合かなりの数を摂取しなければ問題はない

私はてっきり、タヌキが銀杏の外側の臭い果肉(正確にはイチョウの外表皮)を食べるために種子ごと丸呑みしているのかと思っていました。 (周食型種子散布)
種子散布者のタヌキは種子を噛み砕かずに丸呑みするので、種子に含まれる中毒物質には影響されないのでしょう。
もしもタヌキがイチョウの外表皮を忌避して(取り除いて)種子だけ食べるのだとしたら、硬い殻を噛み砕かないと栄養豊富な仁を消化できませんし、一体なんのために銀杏を丸呑みしているのか、意味が分かりません。
タヌキに銀杏を給餌して食べ方を実際に観察してみないといけません。 

私は飲んだことがありませんが、コピ・ルアクと呼ばれる高級なコーヒーがあります。
ジャコウネコがコーヒーの果実を食べると、種子は消化されないまま糞と一緒に排泄されます。(ジャコウネコによるコーヒーの種子散布)
それをヒトがわざわざ拾い集めて洗浄してから、コーヒー豆として焙煎すると、すばらしい香りがするのだそうです。
(コピ・ルアクを最初に試飲した勇者を尊敬します。)
タヌキの溜め糞から回収した銀杏も、もしかしたら意外な風味が加わり、希少価値のある食材として高級料亭に売りつければ商売になるかもしれませんね。(ビッグ・ビジネスの予感!)
ぜひ誰か勇者が味見してみてください。
タヌキの糞が臭くて駄目だとしても、別の野生動物ならどうでしょう?

つづく→ 


※【追記】
2023年12月上旬
少し離れた別の溜め糞場ph:スギ倒木横で撮った写真に、未消化のまま排泄されたイチョウの種子(銀杏)および黄色い外表皮が写っていました。


ソバの実も溜め糞に含まれていました。




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2024/09/15

給餌場からトチノキの種子(栃の実)を運んで地中に貯食する野ネズミ【トレイルカメラ:暗視映像】

 



2023年11月上旬〜中旬 

トチノキ種子(栃の実)の種子散布について、ちょっとした実験をしてみました。

wikipedia:トチノキより引用
ドングリと同じく重力散布と動物散布の併用型で特にネズミ類の貯食行動に依存する。地上に落下した種子は冬までにほとんど持ちされれるという[39] 。種子の毒性は強く、ハツカネズミにトチの実の粉末を与えると高確率で死亡するという[40]。ドングリの場合、森林性のネズミ類、イノシシやツキノワグマは馴化により対応することが知られており[41][42][43]、おそらくトチノキに対しても同じことが起きていると見られるが、よくわかっていない。
ヒトは栃の実を丹念に灰汁抜きする方法を編み出してサポニンを除き、食用利用できるようになりました。


シーン0:11/8・午後12:26(@0:00〜) 
明るい時間帯にたまたまフルカラーで撮れた現場の様子です。 
山林の斜面を抜ける獣道でカラマツの根元の窪みに給餌場を設けました。 
右の給餌場Rにはトチノキの種子を30個、左の給餌場Lにはオニグルミの堅果(果皮なし)を8個、並べて置きました。 





トチノキの種子にはサポニンという毒が含まれているらしいのですが、給餌場に通ってくる野ネズミ(ノネズミ) は栃の実を忌避するでしょうか? 

実はこの給餌実験のために、5月中旬に栃の実を拾い集めていました。
トチノキ落果(蒴果)を丸ごと採集しても、室内で保管している間に硬い果皮が自然に割れて種子(いわゆる栃の実)がこぼれてしまいました。








公園の街路樹として植栽されたトチノキ大木の下で秋に落ちた果実(蒴果)を春になっても大量に採取できたということは、定説に反して野ネズミは栃の実を忌避して持ち去らなかったのでしょうか?
しかし私は以前、山中の峠道でアカネズミの食痕が付いたトチノキの果実を見つけています。 
関連記事(7年前の撮影)▶ トチノキの種子に残るアカネズミ?の食痕 


ちなみに、この給餌場付近の山林にはトチノキもオニグルミも自生していません。 
給餌場Rから栃の実が斜面を転げ落ちて紛失しないように、ストッパーとして数本の落枝を餌場の直下に横向きで並べて置きました。 


シーン1:11/10・午後23:57(@0:03〜) 
雨上がりの深夜に、斜面を駆け上がる野ネズミの後ろ姿が写っていました。 
後ろ姿では、木の実を運んでいるかどうか不明です。 
監視カメラの起動が遅れるのは、気温が低くて電圧が低下した上に、雨に濡れた野ネズミの体温が冷えて、熱源センサーが検知しにくくなるのでしょうか? 

野ネズミはシシガシラという常緑シダ植物の茂みの下に隠れて貯食した?後に、さらに斜面を登っていきました。 


シーン2:11/11・午前1:58(@0:34〜) 
日付が変わった深夜、野ネズミが木の実を咥えて運びながら斜面を右にトラバースして行きます。 
今回もトレイルカメラ起動が遅れ、野ネズミが餌場に来たシーンが撮れておらず、運んでいる堅果の種類を映像から見分けられません。 

斜面の右上で立ちどまった野ネズミは、茂みの下に姿を消しました。 
再び現れると、近くに置いておいた木の実を拾い直して、隠し場所に埋めたようです。 
落ち葉を被せて貯食物を隠蔽しました。 
その後は斜面を降りて給餌場に戻って来るかと思いきや、右下へ走り去りました。 
カメラを固定したシナノキが木枯らしの強風で左右に激しく揺れています。 

貯食シーンを1.5倍に拡大した上でリプレイ。(@2:00〜) 


シーン3:11/11・午前1:58(@3:05〜) 
餌場での行動をまたもや撮り損ねてしまい、トレイルカメラが起動したときには野ネズミが斜面を駆け上がっていました。 
貯食を終えた野ネズミが斜面を駆け下りて来ると、餌場Rに到着しました。 
トチノキ種子を迷いなく選ぶと、口に咥えて搬出しました。 
そのままカラマツ根元を右に回り込むと、斜面を右にトラバースして行きます。 

これで、野ネズミが栃の実を拾い集めて貯食することが確かめられました。 


シーン4:11/14・午前1:08(@3:54〜) 
3日後の深夜、雨が降っています。 
レンズが濡れて、画面全体がうっすらと曇ってしまいました。 
野ネズミが左から餌場Lに来たのに、なぜかすぐに左へ逃げ帰ってしまいました。 


シーン5:11/14・午前3:30(@4:03〜) 
2.5時間後にも再び野ネズミが登場しました。 
画面の右下隅をちらっと横切り、斜面を駆け下りました。 
おそらく給餌場の栃の実はすべて運び終えて空っぽとなり、新たな餌を求めて林床をうろついているのでしょう(探餌徘徊)。 

※ 動画の一部は編集時に自動色調補正を施しています。 


シリーズ完。 
11/19に現場入りすると、給餌場のトチノキ種子およびオニグルミ堅果はすべて無くなっていました。
今季の給餌実験はこれで終わり、別テーマのためにトレイルカメラを撤去しました。
今季はオニグルミ堅果(果皮あり+なし)、クリ堅果、トチノキ種子を給餌してみました。 
栃の実の給餌を一番最後にしたのは、種子に含まれる有毒物質サポニンを摂取した野ネズミがもしかしたら死んでしまうかもしれないと心配したからです。 
野生動物を意図的に殺そうとして毒エサを撒いたのではなく、あくまでも天然のトチノキ種子を置いただけです。


【考察】 
野ネズミが給餌場から栃の実を1個ずつ運んで地中に埋める証拠映像がなんとか撮れました。
例数が少ないので、来年以降にまた追試するかもしれません。 
晩秋に実験をしたせいで、給餌場に置いた栃の実が落ち葉の下に隠れてしまい、野ネズミによる発見が遅れたようです。

野ネズミは浅く掘った地面の穴に栃の実を埋め、落ち葉を被せて隠しています。 
深い雪が積もった冬の間に食べる保存食なのでしょう。 
野ネズミが栃の実を食べるシーンは撮れなかったので、トチノキ種子の毒性については分かりません。 
普通に考えても、共生関係にある種子散布者をトチノキが毒殺するはずはなく、野ネズミは何らかのサポニン対策(解毒など)を進化させてきたはずです。
春までに野ネズミが食べ忘れたトチノキ種子から無事に発芽できれば、種子散布に成功したことになります。(貯食型の動物散布) 


【参考文献】 
長らく積読状態だったのですが、ようやく読んでみたらとてもエキサイティングで非常に勉強になりました。 
研究の道筋があまりにも理路整然ときれい過ぎると、強引に辻褄を合わせたんじゃないの?と内心疑ってしまいます。
しかし、本書では実験に失敗したことや未解決課題も正直に書いてあって研究の臨場感が伝わりました。 
私が素人ながら実際に野ネズミを相手に給餌実験の真似事をあれこれ試してみた後に本書を読んだので、面白いほど内容を吸収できました。 
個人的な疑問もいくつか解消できました。 
後半を読み進めるのがしんどいと書評で文句を言ってる人は、山歩きやフィールドワークの実体験が全くない人かもしれません。
(前半は生物好きな高校生でも読めるはずです。) 
本書前半部のダイジェスト版のような総説のPDFが無料でダウンロードできます。
島田卓哉. 堅果とアカネズミとの関係―タンニンに富む堅果をアカネズミが利用できるわけ―. 哺乳類科学, 2008, 48.1: 155-158.
また、筆者は野ネズミの研究者が増えて欲しいと願いながらも、人獣共通感染症のリスクがあることを率直に書いてあって印象に残りました。
野ネズミのフィールドワークを始めた素人が野ネズミからウイルスなどの感染を防ぐためにどんな注意をすべきなのか(服装や装備など)、具体的に書いて欲しかったです。

「野ネズミと栃の実:サポニンという毒とうまくつきあう方法」については全く言及されておらず、今もどこかで誰かが研究中なのでしょう。 
面白いテーマだと思うのですが、二番煎じのような研究を誰もやりたがらないのかな?

伊佐治久道; 杉田久志. 小動物による重力落下後のトチノキ種子の運搬. 日本生態学会誌, 1997, 47.2: 121-129.


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2024/08/18

栃の実よりオニグルミ堅果を優先して給餌場から運び出す野ネズミ【トレイルカメラ:暗視映像】

 


2023年11月上旬 

貯食のために野ネズミ(ノネズミ)が通う給餌場を自動撮影カメラで見張っています。 
前回与えたクリは虫食いのせいかあまり気に入ってもらえず、50個与えたうちの計20個しか持ち去りませんでした。 
そこで次の餌として、トチノキに切り替えました。 
実はこの給餌実験のために、5月中旬に栃の実を拾い集めていました。
果実(蒴果)を丸ごと採集したのですが、保管している間に硬い果皮が自然に割れて種子(いわゆる栃の実)がこぼれてしまいました。
未加工の栃の実は有毒と言われています。
未加工のまま食すると吐き気、しびれ、麻痺などを起こすことがある。(中略)種子は渋や有毒成分をのぞいて食用にされる。 毒性成分:トリテルペンサポニンのエスシンなど。(フィールドベスト図鑑『日本の有毒植物 』p74より引用)

この記述はあくまでもヒトに対する毒性を記したもので、野生動物への影響は不明です。 
トチノキの大木の下で秋に落果した種子を春になっても大量に採取できたということは、野ネズミは忌避して持ち去らないのでしょうか?
しかし私は以前、山中の峠道でアカネズミの食痕が付いたトチノキの果実を見つけています。 
関連記事(7年前の撮影)▶ トチノキの種子に残るアカネズミ?の食痕 



シーン1:11/8・午後12:26(@0:00〜) 
明るい日中にたまたまフルカラーで撮れた現場の状況です。 
山林の斜面を抜ける獣道でカラマツの根元の窪みに給餌場を設けてあります。 
右の給餌場Rにはトチノキの種子を30個、左の給餌場Lにはオニグルミの堅果(残り物、果皮なし)を8個、並べて置きました。 






野ネズミに好きな餌を選択させる選好実験の真似事です。 (※追記参照)
トチノキの種子は有毒とされていますが、果たして野ネズミは忌避するでしょうか? 
ちなみに、現場付近の山林にはトチノキもオニグルミも自生していません。 

 給餌場Rから栃の実が斜面を転げ落ちて紛失しないように、ストッパーとして数本の落枝を餌場の直下に横向きで並べておきました。 
トレイルカメラの設置アングルがいまいちで、餌場Lが画面の左下隅で見えにくくなってしまいました。 


シーン1:11/10・午後19:37(@0:04〜) 
待ちわびた野ネズミが、小雨が降る晩にようやく左からやって来ました。 
左の餌場Lで、扱い慣れたオニグルミ堅果を両手で持って、くるくると回しています。 
そのまま口に咥えると、右下へ運び去りました。 

しばらくすると、貯食を終えた野ネズミが左から餌場Lに戻って来ました。 
次に選んだクルミを左に搬出。 
今回、野ネズミはオニグルミの果皮を剥く必要がないので、餌場で選んでから持ち去るまであまり時間がかかりません。 


シーン2:11/10・午後19:42(@0:47〜) 
野ネズミが餌場Lの辺りをウロチョロしています。 
もしかすると、オニグルミ堅果はもう全て運び尽くして残っていないのかもしれません。 


シーン3:11/10・午後19:44(@0:54〜) 
冷たい雨が降っているのに、野ネズミは斜面を右に大きく跳躍したり、縦横無尽に駆け回ります。 
斜面の林床で餌を探し回っているのでしょう。 
右の餌場Rに積んであるトチノキの種子は落ち葉に埋もれてしまっているために、暗闇で野ネズミは未だ気づいていない様子です。 
それとも、当地の野ネズミは見慣れないトチノキ種子を餌だと認識していないのでしょうか?


シーン4:11/10・午後19:46(@1:14〜) 
野ネズミが通い慣れた餌場Lにまた来ていたのですが、すぐに立ち去りました。 
オニグルミが本当にもう残っていないかどうか、未練がましく確かめに来たのでしょう。 




※【追記】
Google Scoloarで文献検索してみたら、面白そうな学会発表を見つけました。
三浦光, et al. "森林性ネズミ 2 種による 3 種の種子の利用様式―クリ・トチノキ・オニグルミの混合供試実験―." 日本森林学会大会発表データベース 第 127 回日本森林学会大会. 日本森林学会, 2016.

抄録
森林性の野ネズミ類、とくにアカネズミ属は、貯食型種子散布における主要な散布者である。したがって、野ネズミ類の落下種子に対する選好性は、それらの種子を生産する樹種の更新および分布拡大、ひいては森林動態に影響を及ぼす。野ネズミ類の種子選好性については多くの知見があるが、異なる多樹種の種子を混合して供試した場合の事例は少ない。本研究では、調査地 (愛知県北東部) に生息するヒメネズミおよびアカネズミを対象として、3樹種 (クリ、トチノキ、オニグルミ) の種子に対するそれぞれの反応を観察した。 供試実験は、広葉樹パッチに隣接する、ヒノキ・アカマツ林にて行った。円周上に種子を配置できる餌台を作成し、3樹種を交互に並べることで、どの方位から進入しても各樹種へアクセスできるようにした。種子は個体ごとに識別し、餌台へ向けてカメラを設置した。また、餌台から持ち去られた種子の追跡調査も行った。 ヒメネズミはクリを非常に強く選好し、優先的に持ち去った。アカネズミはトチノキやオニグルミも積極的に利用した。また、種子の持ち去り先および利用様式についても、ネズミ種と樹種の組み合わせで、類似点あるいは相違点が認められた。

要旨を読んだだけですが、実験のデザインの仕方など今後の参考になります。


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野ネズミとドングリ: タンニンという毒とうまくつきあう方法

2024/06/25

有毒植物ホツツジの花蜜を吸うシダクロスズメバチ♀

 

2023年9月下旬・午後12:12頃・くもり 

里山で細い急坂の山道の横に咲いたホツツジシダクロスズメバチVespula shidai)のワーカー♀が訪花していました。 
この組み合わせは初見です。 
花から花へ次々と忙しなく飛び回っているので、てっきり獲物を探索しているのか(探餌飛翔)と思いきや、どうやら花蜜が目当ての様子です。 

いつも不思議なのですが、ホツツジに含まれる神経毒(グラヤノトキシン)に対して昆虫は耐性がある仕組みを知りたいです。
パッチクランプ法などの電気生理学的手法でしっかり調べるのは大変そうです。
とりあえず電位依存性Naイオンチャネル、特にグラヤノトキシンが結合する部位のアミノ酸配列を昆虫と哺乳類で比べれば何か分かるはずなのですが、誰も調べてないのでしょうか?

訪花中にホツツジ?の葉先に葉巻を見つけたハチが興味を示しました。 (映像なし)
葉巻の中に獲物(イモムシ)は居なかったようで、訪花行動に戻りました。 

訪花シーンを1/5倍速のスローモーションでリプレイしてみると(@0:41〜)、複眼の上の白紋の幅が狭い(細い)ことから、シダクロスズメバチと判明。 
触角がそれほど長くないので、雄蜂♂ではなくワーカー♀のようです。


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