2018/05/31

糸を引いて懸垂下降するも水面を忌避するアカオニグモ♀(蜘蛛)【3倍速映像】

2016年10月上旬〜下旬

私のフィールドは、アカオニグモAraneus pinguis)の生息数が多い北国です。
造網行動の一部始終を観察したいのですが、未だ幾つか見逃している過程が宿題として残されています。
造網は通常、夜間に行われるため、フィールドに通って観察するのは大変です。
そこで室内飼育で造網を再現できないか、あれこれ試行錯誤しています。
飼うだけなら比較的簡単なのですが、撮影しやすい条件との両立がなかなか難しいのです。

フィールドで生け捕りにしてきたアカオニグモ♀を部屋に放し飼いにしてみると、天井隅に小さ目の垂直円網を張ってくれました。
チョウやトンボなどの生き餌を網に給餌して、一時期アカオニグモを室内で飼っていました。
しかし壁や天井が白いため、肝心のクモが張る糸や網が見えにくく、撮影には不向きです。(部屋全体を黒く塗り直す訳にもいきません…)


アカオニグモ♀(蜘蛛)@室内天井隅+食べ残しモンシロチョウ
アカオニグモ♀(蜘蛛)@室内天井隅+食べ残しアキアカネ
飼育下で成熟し、腹背が赤く色づいた。

蚊帳や網室の中にクモを放し飼いにする方法も考えましたが、未だ試していません。

動画に撮ったときに背景がゴチャゴチャしているのはなるべく避けたいのです。


クモ関連の本などでよく紹介される方法は、四角い木枠を2枚のガラス板で挟んだ箱を自作し、ガラス板の隙間に造網性クモを入れて飼うという方法です。
私は工作が得意ではありませんし、お金もかかりそうなので、腰が重いです。

今森光彦『クモ (やあ! 出会えたね 4)』という本(写真集)を読んでいたら、コガネグモの造網観察法として面白いアイデアが書いてありました。

いくら根気よく見ていても、網づくりをつづけてくれません。
考えたすえ、家にクモをつれてきて、網をはってもらうことにしました。
しかし、部屋のなかにはなすと、クモはすぐに上へかけのぼり、天井のすみに、でたらめな糸をはりめぐらすだけです。(中略)
そこで、竹を組み合わせて枠をつくり、クモがにげないように、下に水をはって立てました。
竹枠に、クモをそっとはなしてまちます。


昆虫写真家の筆者はこの方法でコガネグモの造網過程の一部始終を見事な連続写真で記録しています。
私もこの作戦を真似してみることにしました。

タオル等を干すための小型の物干しスタンドを網作りの土台(立体的な枠)として使ってくれることを期待して、ここにアカオニグモ♀成体を乗せてみます。
大きな水槽の代わりに衣装ケースのプラスチック製引き出しを再利用し、この大きな箱の中に物干しスタンド(縦42cm×横32cm×高さ50cm)を立てました。
そしてクモ脱走防止のため、容器の底に水を張りました。
さあ、こんな人工的な環境で果たしてアカオニグモ♀は造網してくれるでしょうか?






柳の灌木を利用して造網し昼間は柳の葉を糸で綴った隠れ家に潜んでいたアカオニグモ♀成体を水辺の堤防付近で採集してきました。(2017年10月下旬)

地上から隠れ家までの高さを測ると、約165cm。


アカオニグモ♀(蜘蛛)@隠れ家:柳葉
アカオニグモ♀(蜘蛛)@隠れ家:柳葉+垂直円網





2017年11月上旬

前置きがすっかり長くなりました。
いよいよ本題です。
あまりにもクモの動きが緩慢なので、3倍速に加工した早回し映像をご覧下さい。
動きがゆっくりでもオリジナルの動画を見たい人は、下に掲載した動画をご覧下さい。

スタンドの上(高さ50cm)から糸を引きながら懸垂下降していたアカオニグモ♀の背中が水面に触れると、慌てて引き糸を登り返しました。
たるんだ引き糸が室内の微風でたなびいています。
このような上下動を繰り返しているところを見ると、やはりクモは水面を忌避しているようです。

物干しスタンドのワイヤー(長さ42cm)に沿って綱渡りのように往復移動しながら糸を何重にも張り始めました。
造網を開始してくれたと思い込んでいた私は、これがいずれ枠糸または橋糸になるのだろうと考えていました。


次に、枠糸の中間地点から糸を引きながら懸垂下降しました。
これはまさに、網を張り始める際のY字型の縦糸の作り方とそっくりです。
引き糸の下端をクモは地面のどこかに固定したいはずですが、水面に触れたクモは慌てて引き糸を登り返しました。
物干しスタンドに戻ると、水平に張られた橋糸を右往左往して補強しています。

途中から私は、水を張った容器の底に陸地として木製の台(キッチンペーパーホルダー)を入れてやりました。
懸垂下降してきたクモが木の棒の天辺に着地すると、下まで伝い降りました。
すぐにまた引き糸を登り返しました。
1箇所でも容器の下部で糸を固定できたら、造網のための枠糸を張る手がかりが得られただろうと私は楽観的に思いました。
ところがクモは私の思い通りには動いてくれず、先程と同じように橋糸の補強と懸垂下降、水面忌避という動作を繰り返しています。

見ていてもどかしくなります。
おそらくクモも途方に暮れていたことでしょう。(ストレスに感じていた?)
私は物干しスタンドの全体像を俯瞰で見渡せるので、クモも造網の土台として使ってくれるはずだと期待したのです。
ところが造網性クモは体が小さい上に視覚が悪いために、歩き回って探索しないと周囲の環境を把握できないのでしょう。

今思えば、クモが橋糸の真ん中から下にY字型の縦糸を張ろうとしていた地点の直下にも陸地(島)を作ってやるべきでしたね。
実は真夜中に思いつきで始めたテキトウな飼育実験なので、私も眠くて頭が働きませんでした。

物干しスタンドの縦のメイン支柱をようやく見つけたクモは、これを伝って降り始めました。
下に置いた木台(キッチンペーパーホルダー)に辿り着いたクモは、ウロウロと徘徊。
容器の底からプラスチックの壁面を登ろうとしても、足の爪が滑って登れません。
はずみで水面に落ちてしまいました。
溺れそうになっても自力で引き糸を登り返して難を逃れました。

(映像はここまで。)

室内の照明があると造網を始めてくれないのかと思った私は、消灯してクモを放置しました。
ところが翌朝見ると、水槽にアカオニグモ♀が浮かんでいました。(溺死?)

明かりを消すと、水面が分からなくなってしまうのかな?
ぐったりしたクモを慌てて救出して、物干しスタンドの止まり木に戻してやりました。
歩脚に軽く触れると反応したので、死んではいないと分かり一安心。
やがて元気を取り戻して活動を再開してくれました。

その後もクモは探索行動を続け、私が目を離すと水難事故が繰り返されました。
まさか飼育環境に絶望したクモが入水自殺したのだとしたら、申し訳ないです。


造網性クモは網を使ってしか獲物を捕食できません。
したがって、この個体を野外で採集してきて飼育を始めて以来ずっと(数日間)餌を食べられず、私もやきもきしていました。
牛乳などを強制給餌すべきか迷いましたが、一般にクモは飢餓耐性が強いので大丈夫だろうと判断しました。


アカオニグモ♀(蜘蛛)@水没:容器内
アカオニグモ♀(蜘蛛)@水没後救出

止まり木に戻すと、元気復活。

いかにも素人臭い(お遊びのような)実験の失敗談で、お恥ずかしい限りです。
このブログは個人的なフィールド撮影日記(飼育日記)なので、なるべく失敗したことも記録することにしています。
書き残しておかないと失敗したこともすぐに忘れてしまい、同じ過ちを繰り返してしまうのです。
水を嫌うアカオニグモ♀の行動が面白かったというのも、記事にした理由の一つです。

もし私がクモをわざと水に何度も直接落として溺れさせたりしたら動物虐待だと非難されることでしょう。(炎上案件)
しかし今回アカオニグモ♀が落水して溺れそうになったのは全く予想外でした。
そもそも、本の記述(撮影ノウハウ)を参考にして(多少アレンジして)始めたことです。

しかし生き物は、なかなか本に書いてある通りには振る舞ってくれません。
最近の動物園では猛獣を檻に閉じ込めずに、水堀などを効果的に配置した開放的な展示が主流になっています。(無柵放養式展示
これはネコ科の猛獣が水に濡れることを極端に嫌う性質を利用した展示法です。
今回の実験も同様に、クモが水面を忌避する性質を利用して網の張り方を飼育下でヒトがコントロールできるだろうという期待がありました。

消灯後に何が起きたのか分かりませんが、もしかすると、偶発的な水難事故とは限らないかもしれません。
クモが自発的に入水した可能性はあるのか、少し考えてみました。
造網に適した環境ではないとクモが判断すれば、餌を捕るために他所へ移動するはずです。
風が吹けば糸を吹き流しバルーニングで空を飛び移動するでしょう。(体重の重い♀成体が飛ぶのは無理かも?)

吹き流した糸が遠くの何かに付着すれば、糸を伝って移動することが可能です。
しかし無風の室内では、糸を吹き流すことができません。
野外でも台風や大雨で生息地が増水したり地面が水浸しになることもありそうです。
そのような緊急事態(水害)になるとアカオニグモは、水中で泳げないにしてもあえて水の流れに身を任せて新天地へ移動するのかもしれない…と妄想してみました。

なんとか飼育下でこちらの望むように造網させようと悪戦苦闘してきましたが、ひょっとすると、この♀個体は網を張りたいのではなくて、卵嚢を作る場所を必死で探索しているのではないか?という気がしてきました。
そこで次は、容器の底の水を抜いてやりました。
造網性クモはプラスチック容器の垂直壁面をよじ登れないので、水が無くても簡単には脱走されないでしょう。
すると予想が当たり、このアカオニグモ♀は産卵を始めてくれました。

つづく→卵嚢作りを開始



アカオニグモ♀(蜘蛛):腹面@垂体+外雌器
アカオニグモ♀(蜘蛛):腹面@垂体+外雌器
アカオニグモ♀(蜘蛛):腹面@垂体+外雌器


【おまけの映像】
早回し速度を色々と変えてみた動画をブログ限定で公開します。



↑オリジナル映像(1倍速)



↑2倍速映像



↑4倍速映像



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