2018/06/02

アカオニグモ♀の卵嚢作り:その1(蜘蛛)【10倍速映像】



2017年11月上旬・午後13:22〜翌日の午前3:48
▼前回の記事
糸を引いて懸垂下降するも水面を忌避するアカオニグモ♀(蜘蛛)【3倍速映像】

飼育下でアカオニグモ♀(Araneus pinguis)に造網させようと悪戦苦闘してきましたが、私が提供した足場でクモは思うように振る舞ってくれません。
本を参考にして、脱走防止のために大型水槽の底に水を張っていたのですが、水難事故が繰り返されました。
さすがに可哀想になって、水を抜くことにしました。
この♀成体は円網を張りたいのではなくて、卵嚢を作る場所を必死で探しているのではないか?と思い始めたからです。
乾いた水槽の底をアカオニグモ♀はひたすら徘徊・探索していました。

一晩放置して朝になると、水槽の底の物陰にアカオニグモ♀は小さな不規則網?を張ってその中で休んでいました。
水槽の底に敷いたダンボールの上、木製トイレットペーパーホルダーと物干し枠に囲まれた隙間です。
ただの住居網でしょうか?
しばらく様子を見ていると、どうやらここに卵嚢を作り始めたようです。
(動画はここから。)

卵嚢作りの一部始終を微速度撮影で記録してみました。
10倍速の早回し映像をご覧下さい。
大きさの比較として、画面右側で奥から手前に伸びている白い丸パイプの直径は12mm。

この居心地良さそうな隙間でクモはぐるぐる回りながら周囲の足場に糸を張り巡らせています。
様々な材質の人工物(プラスチック、木、ダンボール紙)に対してもクモの糸はしっかり接着しています。


次に、アカオニグモ♀は自分の体の上を覆うように、ドーム状の天幕を作り始めました。
上から見ると円形の天幕がほぼ水平に張られます。
これがやがて卵嚢の天井部分になるのです。
天幕にぶら下がる姿勢でほとんどの作業を行いますが、ときどき地面に下りたりもします。
休み休みしながら、この天幕を断続的に作っています。
網のような天幕の裏面にぶら下がり、自らグルグルと回りながら腹端を上下に動かし、糸疣を天幕に付けて管状腺から出る糸を張っていきます。
クモ自身が回る向きは時計回りだったり反時計回りだったりと、一定していませんでした。
糸を紡いで作る構造物という点では同じですが、当然ながら、獲物を捕らえるための円網を張る動き(作り方)とはまるで違います。

実は作業時間よりも休んでいる時間の方が長かったです。

計24回の休憩タイムは退屈なので、編集でカットしました。
(休息も含めたノーカット版の動画は記事を改めて公開します。)

絹糸腺(管状腺)が枯渇する度に、回復(糸の材料を合成)を待っているのでしょう。
この個体に対して後ろめたいことがある私は、彼女が体力を消耗して息も絶え絶えなのではないかと、気が気ではありません。
卵嚢を作り始めるまでに私の世話(飼育)が上手く行かなかったので採集後の貴重な数日をロスしてしまい、おそらく栄養状態が万全ではなかった(飢えていた)はずです。
それだけでなく、数回の水没事故(溺れそうになって酸欠状態?)を経た個体なので、産卵行動を司る神経系に何らかの後遺症が残っているのではないか?という心配もあります。
円網ではなく卵嚢を作りたいという♀の意図を早く汲んでやるべきでした。(産ませてよ!)
果たして卵嚢を最後まで完成してくれるでしょうか?
私がクモの卵嚢作りを観察するのは、イオウイロハシリグモ、ジョロウグモ以来です。
アカオニグモは元々ゆっくり卵嚢を作る種なのかな?
気温の低い野外では、更に緩慢な動きのはずです。
楽観的に考えれば、最も無防備で危険な産卵を夜中に行うように、時間を調節している(適当にさぼっている)のかもしれません。

前日に比べて、アカオニグモ♀の腹背の赤みがどんどん増した気がします。(照明の具合?)
クモを採寸し忘れたのが残念。
底に敷いたダンボールは初め水滴が染みて濡れていたのですが、次第に乾いてきました。

撮影中にときどき測った室温および湿度の記録です。(1日目のみ)
午後14:28 25.4℃、44%
午後16:05 25.6℃、42%
午後18:10 24.6℃、41%

晩秋の外気温に比べたら、かなり高温です。


つづく→卵嚢作り:その2(産卵)


【参考】
遠藤知二『まちぼうけの生態学:アカオニグモと草むらの虫たち』によれば、

アカオニグモ(コガネグモ科オニグモ属)
形態: ♀は成熟するにしたがい、おなかの色が黄白色から赤色へかわる。♂のおなかの色は黄白色のまま。
生活史: 産卵期は9〜10月。秋に産まれた卵は雪の下で越冬し、翌春に孵化。 (月刊たくさんのふしぎ2011年8月号p5より引用)


少し古い本ですが名著の誉れ高い、千国安之輔『クモの親と子(観察の本4)』を紐解くと、アカオニグモの生活史を丹念に観察記録した章があります。
しかし卵嚢作りの過程を千国先生は見ておられないようで、次のような記述と越冬後の卵嚢(および幼体の団居)の写真しか掲載されていませんでした。

 秋の終わりごろになると、アカオニグモの母グモは、地面のくぼみを利用して袋を作り、卵をうみます。
卵は雪の下で冬を越し、翌年5月なかばに孵化します。



いつもお世話になっている『クモ生理生態事典 2016』サイトでアカオニグモの産卵について調べた成果を抜き書きします。

・産卵期は10~11月で,地中のくぼみに卵のうを作る
・卵のうは半球形で直径2.5cmぐらい.卵を包む糸は黄色. 寒い地方では秋に産まれた卵は深い雪の下で越冬し,翌春ふ化.
・樺太では,産卵期は9月中旬~10月上 旬.卵のうは円形,半球状で直径2.5cm,高さ1.5cm.卵数は1546個.
・雌は産卵後1~2週間にて死亡
・地面のくぼみに産卵.出のうは5月中旬・葉や茎でまどい,その後分散



アカオニグモ♀(蜘蛛)@卵嚢作り開始
アカオニグモ♀(蜘蛛)@卵嚢作り開始
アカオニグモ♀(蜘蛛)@卵嚢作り2日目
アカオニグモ♀(蜘蛛)@卵嚢作り2日目

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