2024年5月上旬
里山で林内の低層に自生する常緑のヒメアオキ群落に果実が赤く色づき始めました。
ほとんどの果実が寄生されているようで、いびつな形状の虫こぶ(虫瘤、虫えい)が形成されています。
虫えいの和名は「植物名+部位+形+フシ」を付ける原則があるのに、ヒメアオキの果実にできる虫こぶの名前は「ヒメアオキミフクレフシ」ではなくて、アオキ属全体の果実虫こぶとして「アオキミフクレフシ」でまとめられるて呼ばれているのだそうです。
そもそもヒメアオキとアオキは別種に別れてはおらず、変種の扱いです。
(日本の太平洋側の暖温帯林下に自生するアオキの日本海側多雪地帯型の変種がヒメアオキ。)
この虫こぶを数個採集し、家に持ち帰りました。
採集時の動画を撮り忘れたので、動画の冒頭はスライドショーで写真を見せます。
100円ショップで買えるプラスチック製のピルケースは、採集した虫や抜け殻、果実、虫こぶなどの小物を収納するのに重宝しています。
『虫こぶハンドブック』でアオキミフクレフシについて調べると
寄主:アオキ(ヒメアオキ)形成者:アオキミタマバエ Asphondylia aucubae形状:果実が変形する虫えい。内部は数個の虫室があり、1幼虫を含む。南日本で正常果より小さく、北日本やヒメアオキではやや大きくなる傾向がある。虫えい化した果実の方が、枝に残ることが多い。生活史:6月に羽化し、幼果に産卵。1齢幼虫で虫えい内越冬。 (p53 より引用)
2日後に様子を見ると、ピルケース内でアオキミタマバエ(Asphondylia aucubae)の成虫♀♂が羽化していました。
慌ててカメラにマクロレンズを装着し、動画で記録しました。
ピルケースの1区画のサイズは、2.0 x 1.8 x 1.5 cm。
アオキミタマバエはプラスチックのつるつるした垂直壁面をよじ登れないようですが、蓋を開けると、次々に飛んで逃げてしまいます。
虫こぶ(ヒメアオキミフクレフシ)の表面に仰向けになって落ちたときに羽根がへばりつき、動けなくなっている個体がいました。
アオキミタマバエの性別の見分け方をよく知らないのですが、きっと腹部が太い個体が♀で、細い個体が♂なのでしょう。
複眼の形状に性的二型はありませんでした。
羽化直後に交尾している♀♂ペアはいませんでした。
アオキミタマバエに二次寄生した寄生蜂などは羽化していませんでした。
文献検索してみると、山形大学の研究グループによる面白そうな論文がヒットしました。
山口良彦; 林田光祐. アオキミタマバエによる虫えい形成がヒメアオキの実生更新に及ぼす影響. 日本森林学会誌, 2009, 91.3: 159-167.抄録東北日本海側のコナラ林において, 常緑低木ヒメアオキの果実の成熟から実生の定着までの繁殖過程とそれに対する三つの生物間相互作用の影響を調べ, 虫えい形成者による散布前捕食の相対的な重要性について評価した。0.25 haの調査区内のすべての果実を調べたところ, アオキミタマバエの寄生による虫えい形成果の割合が1998年生で57%, 1999年生で77%と高い値を示した。虫えい形成果の種子含有率は1∼2割であり, 散布前捕食が種子生産を大きく減少させていた。一方, 健全果は渡り途中のヒヨドリによってごく短期間にほぼ完全に消費され, 種子が散布された。野ねずみによる種子の摂食は確認されたが, 播種した種子の消失率は1割以下であり, 散布後の種子捕食圧は強くなかったと推察される。発芽率は8割以上と高く, 実生の生存率も低くなかった。以上のことから, 本調査地のヒメアオキ個体群では, 虫えい形成者による果実への寄生が実生更新の重大な阻害要因であることが示唆される。
2024年5月下旬
平地のスギ防風林でもヒメアオキの群落を見つけたので、熟果を探してみました。
赤く熟した果実は全て歪に変形している虫こぶ(アオキミフクレフシ)ばかりで、寄生率が非常に高いことが分かります。
果皮に張りがなくて皺くちゃの虫こぶはもう古いのかな?
黒い穴はアオキミタマバエ成虫の羽化孔で、ひとつの果実から数匹が羽化したことが分かります。
しかし、付近にアオキミタマバエを見つけられませんでした。
私の悪い癖で、接写しながらカメラを忙しなく動かしてしまい、動画酔いしそうです。
仕方がないので、1/2倍速のスローモーションでお見せします。
鳥や動物による種子散布を調査する準備段階として様々な植物の種子を集めているのですが、ヒメアオキの種子を採取するために寄生されていない熟果(正常果)をいくら探しても今季は見つけられませんでした。
ヒヨドリなど果実食性の鳥がヒメアオキの正常果を片っ端から選択的に食べてしまうのだそうです。
ちなみに、虫こぶ(アオキミフクレフシ)の中では種子が正常に形成されません。
いずれフィールドにトレイルカメラを設置して、鳥がヒメアオキの実を食べに来る決定的な証拠映像を撮影してみたいものです。
虫こぶ(アオキミフクレフシ)を忌避して正常果を選り好みする様子を実際に観察するのが次の目標です。
※ Perplexity AIと問答を繰り返して、勉強しながらこの記事を書きました。
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