2010年6月下旬
本シリーズのエピソード#16で報じたように、軒下に営巣したコガタスズメバチ(Vespa analis insuralis)の初期巣にときどきチャイロスズメバチ(Vespa dybowskii)がやって来ます。
この日も一匹のチャイロスズメバチが巣の外被に止まり、乗っ取り先を品定めしています。
前回とは違い、コガタの創設女王が在巣でした。
巣内から創設女王が現れ、チャイロスズメバチ女王を撃退しました。
コガタ女王は戻ると少し外被を点検してから巣内に入りました。
しばらくするとまた巣口に現れ、なんと外被の首の先端を少し齧り始めました。
初期巣を独りで防衛するためには首が長いほうが良いのでは?と心配になりました。
怒り・興奮の刷毛口としての転移行動※だったのかも(虫の居所が悪かった?)。
あるいはチャイロの匂いが付着した部分を嫌って取り除く行動だろうか。
※ 動物行動学において機能不明な非適応的行動の発現は「葛藤行動」として説明されることもあるそうです。『ダンゴムシに心はあるのか:新しい心の科学』p178より首の先を落とした削り滓は地面に散乱しています。
チャイロスズメバチの女王はキイロスズメバチやモンスズメバチの巣を狙って乗っ取り、元の女王を殺すと寄主のワーカーに自分の子供を育てさせることが知られています。
コガタスズメバチが社会寄生の対象にならない理由の一つは、本種の初期巣に特有の外被の長い首でチャイロスズメバチの侵入を防いでいるのかもしれません。
ただし、チャイロ女王は寄主のワーカーが羽化するのを待ってから巣を乗っ取るらしいので、今回の小競り合いも本気ではなくただの偵察だったのかもしれません。
(つづく)
≪追記≫
この巣ではその後、コガタスズメバチのワーカーが羽化して巣の防衛力が上がるとともに、チャイロスズメバチの姿を近くで見かけなくなりました。
「チャイロスズメバチは何故宿主から攻撃されないのか?」という問題に対して最新の研究の興味深い解説がこちら(→)にあります。
≪追記2≫
『本能の進化:蜂の比較習性学的研究』 岩田久二雄・眞野書店 p318 において、
チャイロスズメバチが寄主としてモンとキイロの2種のスズメバチを選択する理由を考察していました。
1)同属(Vespa)種間の順位性
樹液の出る場所での、席次争いで強いものから弱いものへの順列は、オオ>チャイロ>コガタ>モン>ヒメ(スズメバチ)。
コガタは攻撃性が強いので、侵入者には不都合である。
2)創設雌の営巣開始時期
早いものから順に並べると
キイロ→モン→チャイロ→コガタ→オオ→ヒメ
となり、明白に選択根拠を示しているであろう。
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