2011/02/13

ツマジロカメムシの求愛行動(バッティング)



2009年5月中旬

タニウツギの葉でツマジロカメムシMenida violacea)のペア(A, B)が初めて見る不思議な動きをしていました。
AがBに対して細かく頭突きを繰り返しています。
素早いフットワークでBを中心に回りながら攻撃?します。
攻撃以外にも、Aはときどき体を左右に小刻みに震わせます。
防戦一方のBは遂に耐えかねたように隣の花に避難しました。
求愛行動かと思ったのですが交尾には至らず、逃げた相手を深追いすることもありませんでした。
縄張り争いかもしれません。
しかし攻撃を見ていると葉の縁から突き落とそうとしているようでもなさそうです。
通常ならカメラを近づけると警戒して葉裏に回り込んだり擬死落下したりするはずですけど、このときは二人の世界に没頭しているようでした。 



ツマジロカメムシ♀a

ツマジロカメムシ♂b


撮影後に二匹まとめて捕獲・採集しました。
カメムシBBSに投稿し、写真鑑定で性別を調べてもらったところ、♂♀のペアだと教えて頂きました。
どうやら求愛行動らしいとのことです。


安永智秀、前原諭、石川忠、高井幹夫『カメムシ博士入門 (観察と発見シリーズ)』のp60に「(カメムシの)性差:雌雄を見分けるポイント」がまとめられていました。
  • ほとんどの場合♀が大きいもしくは幅広い。(♀が短翅や無翅となるものは♂のほうが大きく見える)
  • ♂の複眼が大きい
  • ♂の触角がいくぶんもしくは一見して太い
  • ♂の芳香成分が強い
  • ♀の腹部に産卵管が見られる
  • ツノカメムシの♀には特徴的なペンダーグラスト器官が備わる。
  • 脚や翅の携帯が雌雄で規則的に異なる
  • …等々  (これらはグループによって異なる)


【追記】
沼田英治『カメムシはよく似た種を区別できるか?』を読むと、アオクサカメムシNezara antennata)とミナミアオアオカメムシNezara viridula)の求愛・交尾行動について詳しい研究結果が紹介されていました。
今回私が観察したツマジロカメムシについての言及はありませんが、カメムシの配偶行動についてこれだけ詳細な記述を他では見たことがないので、参考のために引用してみます。
交尾に至る行動の順序は2種の間でほとんど共通であった。まず♂が♀に近づくこともあれば、逆に♀から近づくこともあるが、いずれの場合でも近づいたほうの虫は異性に接触すると、触角(アンテナ)で相手の体を激しくたたく、この行動を私たちは「アンテネーション(antennation:しぐま註)」とよぶことにした。♀のほうから近づいた場合には、この段階で♂のほうも♀にアンテネーションする。やがて♂は♀にアンテネーションしながら、♀の体の後方へ回り込み、♀の腹部の下に頭部をすばやく突き入れて♀の腹部を押し上げる。この行動を私たちは「バッティング(butting:しぐま註)」とよぶことにした。ボクシングでいうバッティングと同じく、頭で突くことを意味する。バッティングされた♀は後脚を伸ばして腹部をもち上げる。すると、♂は♀の後方でくるっと180度向きを変えて♀と反対方向を向き、自分の交尾器で♀の交尾器をたたいて刺激する。やがて、♀が交尾器を開くと双方の交尾器が結合して交尾が成立する。 (『虫たちがいて、ぼくがいた:昆虫と甲殻類の行動』 第5章:p163-164より引用)


この本のおかげで、映像で見られるツマジロカメムシの行動は、A♂がB♀に対してバッティング(頭突き)している求愛だとようやく分かりました。

更に読み進めると、著者が研究した上記2種のカメムシは交尾行動の際に、腹部の第一節と第二節の背板が癒合してできたティンバルをセミのように振動させて♂♀双方が鳴いている(発音)そうです。
しかし、この鳴き声は周波数も音量も低くて、特殊なマイクを使わないと私たちの耳には全く聞こえないらしい。
カメムシはこれを空気中を伝わる音声としてではなく、止まっている植物の茎などの固体を伝わる振動として受容しているそうだ。(p165-166より引用)



 

↑【追記2】
2022年01月29日のniftyニュース記事より引用。
森林総合研究所と弘前大学は、カメムシの一種のユニークな求愛ダンスを世界で初めて発見しました。

森林総合研究所と弘前大学が発見したのはナナホシキンカメムシによる求愛ダンスです。これまで無脊椎動物ではクモやハエなどがダンスをすることが分かっていますが、カメムシで見つかったのは世界で初めてです。

ナナホシキンカメムシは求愛行動のなかで、▼特徴的な振動を発生させているほか、▼雄が雌の周囲を軽快なステップを踏みながら動き回ることや、▼雄自身の背中や触角を雌に接触させることが分かりました。これは視覚、触覚などを使ってコミュニケーションをしていると考えられ、昆虫では大変珍しい事例だということです。

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