2021年3月上旬・午後15:20頃・くもり
河原の岸に自生する柳(樹種不明:カワヤナギ?)の灌木でシジュウカラ(Parus minor minor)の♀♂番 が奇妙な採食行動をしていました。
早春のバードウォッチングで最も興奮した事件簿です。
初めシジュウカラ♀♂はもっと手前の茂みに居たのですが、河川敷の歩道を歩いてきた私に驚いて慌てて飛んで逃げ、少し奥にある柳の灌木に避難したのです。
私に対して警戒声♪を発したものの、遠くに逃げて行かないのが不思議でした。
柳の木またはこの場所に執着している印象です。
近くに営巣しているのでしょうか?
私がじっと立ったまま動画を撮り続けると、警戒を解いてあまり鳴かなくなりました。
やがて嘴で柳の花をちぎり取る謎の行動を繰り返すようになりました。
初めて見る行動にワクワクして撮影しながら、色々と考えてみました。
(1)私に対する威嚇行動?
繁殖期にカラスの巣に近づき過ぎると親鳥がよくやる枝折り行動を連想しました。
関連記事(8年前の撮影)▶ 木の枝を折って威嚇するハシブトガラス【野鳥】やはりこのシジュウカラ♀♂は近くで営巣しているのかな?
しかし花を次々に摘んで落としても、別に迫力はありません。(威嚇効果なし)
(2)産座に詰める巣材集め?
それにしては柳の花を嘴に貯めずに惜しげもなくその場で捨てています。
フワフワした柔らかい巣材を集めたいのなら、ネコヤナギの花を選ぶべきでしょう。
(3)採食行動?
シジュウカラが花を食べるのは意外ですし、やはりその場で次々に捨てる意味が分かりません。
柳の多くの種類で花期は葉前性です(若葉が出る前に花が咲く)。
今回シジュウカラ♀♂が摘んでいた柳の花は、枝に若葉が開き始めていることからも分かるように、萎れかけ(散りかけ)の花序でした。
雄しべに黄色い花粉はほとんど残っておらず、見るからにぱさついている印象です。
したがって、鳥が花蜜や花粉を食べている可能性は低いでしょう。
(4)花に隠れている虫を捕食?
参考ブログ:カワヤナギ シジュウカラ by nenemu8921氏
映像の冒頭に登場するのは、黒ネクタイが太い♂です。
柳の散りかけの花序を嘴でちぎり取ると、咥えたまま(安定した)太目の枝に移動します。
そこで足元の小枝に花を押さえつけ、嘴でつつきました。
1/5倍速のスローモーション(@6:55〜)でじっくり見直すと、柳の花序の中に潜んでいた細長い幼虫を器用に取り出して食べていました!
手前味噌ながら、これは動画で記録しなければ分からなかった発見です。(写真では無理でしょう)
シジュウカラは残った花には興味を失い、蹴り落としたり捨てたりしています。
捨てた柳の花が風に飛ばされます。
食事の合間にパートナーの♀と鳴き交わしているようですが、風が強くて聞き取れません。
※ 動画編集時に音声を正規化して音量を強制的に上げています。
シジュウカラは柳の花を摘んだり足で踏みつけたときの感触で幼虫の有無が直ちに分かるようで、空の花だと分かれば分解する前にすぐ捨ててしまいます。
つまり、(害虫の有無に関わらず)花を片っ端からちぎり取ってしまうシジュウカラは柳にとって害虫を駆除してくれる益鳥とは言えません。
花を食い荒らす虫と同罪でしょう。
しかし害虫を捕食して減らしてくれるので、次世代の周囲の柳にとっては有益かもしれません。
ただし、この柳がもしカワヤナギだとすれば、雌雄異株らしいので用済みの雄花を鳥が食べても問題ありません。
(雄花は消耗品なので、食べられても柳は困らない)。
春風で絶え間なく揺れる柳の細い枝先をシジュウカラは次々に移動して、花摘み・捕食を続けています。
しばらくすると、腹面の黒ネクタイが細い♀が左から登場します。(@1:50〜)
♀の行動に注目してみると、♂よりも警戒心が強いようです。
なかなか採食を始めず、常に私から離れた奥の枝で隠れるように行動していました。
逆に、♂は♀をガードするように(私に近い)手前の枝で活動しています。
ようやく♀が隣の枝先にピョンと移動し、♂と同様の花摘み行動を披露しました。 (左の個体@13:15)
茂みの奥で見にくいのですが、♀も摘んだ花を足で押さえつけ、中から器用に幼虫を摘出して捕食しました。
謎の幼虫の正体について
柳の花序の中から摘出した細長い微小な幼虫は生きており、シジュウカラが飲み込むまで暴れています。
花の中にある栄養豊富な謎の器官(例えば子房?)が外に取り出されて風でなびいているだけなのか?という可能性も頭によぎりました。
しかしスロー再生してもクネクネ動いて見えるので、幼虫の動きで間違いなさそうです。
嘴で摘み出した細長い幼虫がクネクネと暴れるときには、足元の枝に何度も叩きつけて殺してから食べることもありました。(@25:35)
シジュウカラが柳の花から摘出した幼虫の色は様々なので、複数種いるのかもしれません。
冬芽の段階から幼虫が蕾の中で越冬しているのか。
あるいは、蕾の表面に産みつけられた卵が越冬した後で、早春に孵化した幼虫が花の中に潜って食害を始めるのでしょう。
今回シジュウカラは、展葉し始めた柳の若葉には全く興味を示しませんでした。
柳の若葉を食害する幼虫は居ないということになり、ちょっと意外でした。
もしかすると、柳の花は若齢幼虫の昼間の隠れ家なのかもしれません。
天敵(捕食者)の少ない夜になると隠れ家から出て若葉を食べるという作戦の幼虫がいても不思議ではありません。
柳の害虫と言えばヤナギハムシをまっさきに思いついたのですが、ヤナギハムシは成虫越冬らしいです。
『ヤナギハンドブック』を紐解くと関連コラムも充実していて、「ヤナギ属の害虫」や「ヤナギにつく虫こぶ」についても解説してありました。
しかし、柳の花を食べる虫については全く記述がありませんでした。
謎の幼虫を同定するためには、自分で採集・飼育する必要がありそうです。
これは来年になったら是非追求してみたいテーマです。
この映像を見る限り、柳の花の幼虫寄生率はかなり高そうです。
シジュウカラの利き足について
樋口広芳『森に生きる鳥:ヤマガラのくらし』という本によると、鳥にも利き足があるのだそうです。
昆虫などの動物質のもののときには、かたほうのあしのあしゆび全体で、それをおさえ、くちばしでつついたり、ひきちぎるようにしてたべます。 このさい、どちらのあしでおさえるかは、それぞれの鳥でかなりはっきりときまっています。(中略)このような右きき、左ききがあることは、鳥ではほかに、シジュウカラやオウムのなかまなどでしられています。(p56より引用)今回の動画で利き足に注目してスローモーション(@6:55〜)を見直すと、興味深いことが分かりました。
シジュウカラ♂は両利きでした。
斜めに伸びた枝に止まっている場合、体重のあまり掛かっていない上側に置いた足で餌を押さえることが多いです。 (例外@6:04、12:40、22:51、23:15)
一方、♀の利き足は左でした。
斜めの枝に止まっている場合でも、♀は常に左足で摘んだ花を押さえていました。
シジュウカラの♀は♂よりも体重が軽くて足首にかかる負担が少ないのかな?
ただし、♂に比べて♀の採食行動の撮影時間が短いので(サンプル数が少ない)、今回の結果はたまたまかもしれません。
茂みの奥にいる小鳥にはピントが合わず、撮影しにくいのです。
今後もシジュウカラの利き足について注目していきたいと思います。
♀左、♂右 |
以下の写真は全て♂ |
柳の樹種について
まずは、この柳の種類を調べないといけません。
なんとなく、カワヤナギですかね?
どなたか柳に詳しい方がいらっしゃいましたら、教えて頂けると助かります。
右の枝にヒヨドリが止まっている |
↑【おまけの映像】
近くで喧しく鳴いていたヒヨドリが、途中から同じ柳の灌木に飛来しました。
ところが枝に止まって休んでいるだけで、シジュウカラ♀♂と同様の花摘み行動(幼虫の捕食)を全くやりませんでした。
嘴の大きさや形状の違いから、ヒヨドリはシジュウカラほど器用な食べ方ができないのかもしれません。 (採食法を知らないだけ?)
関連記事(7年前の撮影)▶ 柳の花外蜜腺を舐めるヒヨドリ
ヒヨドリは柳の木からシジュウカラ♀♂を追い払う占有行動もしませんでした。
どうやらヒヨドリ同士で縄張り争いがあるようで、シジュウカラに対しては寛容でした。
それでもシジュウカラ♀♂はいつの間にか餌場の柳灌木から居なくなりました。
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