前回の記事:▶ 岸辺の卵塊に潜り込むヤマアカガエルの抱接ペア♀♂
ヤマアカガエル(Rana ornativentris)が繁殖する池Hの底に沈んだまま仰向けで白い腹を見せている大型の個体が気になります。
多数の独身♂が殺到して激しい蛙合戦が繰り広げられているので、おそらく♀なのでしょう。
池の中央部で最も深い底でした。
関連記事(3日前の撮影)▶ 繁殖池の底で♀に殺到するヤマアカガエル♂の群れ(蛙合戦)
しかし、この♀は池の底で仰向けのまま長時間全く動かないので、どうやら死んでいるようです。(溺死?)
雪解け水が溜まったこの池は水温が低いですから、死骸が腐敗する進行は遅いはずです。
♀溺死体の腹部が膨満しているのは、腐敗してガスが溜まっているというよりも、産卵前の卵が卵巣に詰まっているからでしょう。(体内にガスが溜まった死骸は浮くはず)
数時間後、♂同士の蛙合戦の決着が付いたようです。
1匹の勝者♂が死んだ♀の腹側に抱きついていました。
蛙のカップル♀♂にとってこの体勢は「正常位」ではありません。
カエルの♂が抱接するには♀の腹側ではなく背側にしがみつかないといけないのですが、とりあえず相手を確保しておきたいのでしょう。
♀の死骸に抱きついたまま、♂は水底でじっとしていました。
抱接ペアが形成されると、それ以降の行動(産卵地探索など)は♀が主導権を握ります。
この♂は水中で息が続く限り、動かない♀の死骸を抱き続けるのでしょう。
激しい♀争奪戦の末に♀を殺してしまうのも、♀が死んだことに気づかずに抱接し続けるのも、本能行動の愚かしさの一例です。
遺伝子でプログラムされた本能行動は長い進化の結果、おおむね上手く働くのですが、決して完璧ではありません。
♀死骸に執着している♂よりも、「何かおかしい」と気づいてすぐに離れる♂個体の方が次世代を残す上で適応的と言えます。
ヤマアカガエルの独身♂は動くものなら手当たりしだいに飛びつくらしいので、ゴム製のカエルの玩具やリアルなルアーなどを繁殖池に投入する実験をしたら面白そうです。
ヤマアカガエルは池の底で冬眠するらしいのですが、いくら雪解け水の水温が低くて代謝が抑えられるとは言え、無呼吸でどれだけ耐えられるのでしょう?
水中の皮膚呼吸だけで生存可能なのでしょうか?
厳冬期のヤマアカガエルの様子を私は未だ見てません。(この池の水面は凍結していました)
早春の繁殖期が始まると、水中での蛙合戦の合間に♂はときどき息継ぎのため水面に浮上しているようです。
関連記事(3日前の撮影)▶ 早春の池で水面に浮かぶヤマアカガエル♂
水中の蛙合戦はヒトの水球競技やシンクロナイズド・スイミングよりも体力を消耗しそうです。
無呼吸で永遠に続けられるはずはありません。
多数の♂に抱きつかれ蛙合戦で長時間もみくちゃにされた結果、♀が溺死してしまったのだろうと私は死因を推理しました。
しかし別の死因として、冬眠に失敗して凍死した♀個体という可能性もありそうです。
ヤマアカガエルの喉には斑紋があるのが特徴らしいのですが、この溺死体では見えません。(まさか別種のカエルなのかな?)
あいにく私はタモ(手網)を持ってこなかったので、死骸を回収して確かめられませんでした。
池の底に横たわる死骸はいずれ、ヤマアカガエルの卵塊から孵化したオタマジャクシ(幼生)や他のスカベンジャー達の餌となるはずです。
風で水面が波立つと、深い池の底の様子がグニャグニャに歪んでしまいます。
来年は水中カメラで蛙合戦を撮影してみたいものです。
つづく→
以下に掲載するのは、不鮮明だった写真を自動色調補正処理したものです。
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