2025/01/16

スギ林縁で追いかけっこ、横枝に飛びつきブランコ遊び、格闘を繰り返してはしゃぎ回るニホンザルの群れ

 

2023年12月中旬・午後15:30頃・くもり 

夕方の山麓を遊動するニホンザルMacaca fuscata fuscata)を追跡したら、スギの植林地まで来ました。 
おそらく猿たちは、ここを今晩眠るねぐらとするのでしょう。 
ところが、若いニホンザルたちはまだ遊び足りないようです。 
薄暗くなってきたスギ林縁ではしゃぎ回っています。 

林縁に立ち並ぶスギの横枝に掴まった子猿が、しなって揺れる枝の感覚を楽しんでいます。 
別の若い個体がキキキッ♪とかカカカッ♪などと鳴きながら激しく走り回り、追いかけっこが始まりました。 
せっかく山から降りてきて塒入りしたのに、塒のスギ林を再び離れ、急斜面の土手を登り返しています。 

追いかけられて逃げる個体が急斜面を林縁まで駆け下りると、スギの横枝に飛びつき、追手をかわしました(一時避難)。 
猿の体重でしなる枝を利用して、ターザンごっこのようなブランコ遊びをしてから地上に降りました。 
それを見た追手も同様にブランコ遊びをしました。 

土手に座って仲間が遊ぶ様子を見物している個体もいます。 
途中から別個体も走ってきて、ブランコ遊びに合流しました。 
追いかけっこしながらスギ林内に駆け込んでも、また走って土手まで戻ります。 
若いニホンザルたちは、スギ林縁の横枝を使ったブランコ遊びのスリルが大好きなようで、何度も飽きずに繰り返しています。 
土手のあちこちで追いかけっこが繰り広げられていて、どこを撮ったらよいのか目移りしてしまいます。 

いつもとは逆に、猿がスギ林縁から土手を少し駆け上がり、頭上のスギ横枝に飛びついてブランコ遊びをすることもありました。 (@2:00〜、@4:22〜)
このパターン(三角跳び?)は初めて見たかもしれません。 

土手からスギの枝葉に飛びつく際に、枝の選択や目測を誤ると、しなる枝とともに猿は地面に落ちて引きずられてしまいます。 (@3:25〜)
幸い怪我はなかったようですが、上手く遊ぶには反復学習が必要みたいです。 
スギの枝を掴み損ねた個体は、ブランコ遊びが上手くいかない苛立ちからか、腹立ち紛れにスギの枝葉に噛み付きました。 (@2:05〜)

土手を登る途中で立ち止まり、左足の裏についたゴミを手で払う個体がいました。 (@5:28〜)
スギの落ち葉を踏んでしまい、足裏に刺さったのかな? 
それを見ていた別個体が挑発するように、土手からスギ枝葉に飛びついて、相手の目の前でブランコ遊びを始めました。 
すぐに軽い取っ組み合いになり、2頭は暗いスギ林内へ走り去りました。 

逃げる相手に追いついて対峙しても、深刻な喧嘩にはならず、軽い小競り合いをするだけでした。 
(立ち止まって追手を待ち構えることもあります。)
腕を振ったり猫パンチをしたりして、相手を追い払いました。 
遊びの一環で、ふざけて軽く格闘しているだけのようです。 
格闘遊びの際に鳴き声はほとんど発してませんでした。

一連の遊びの行動は以前にも同じ地点で何回か観察しています。 
季節も時間帯も違いますが、おそらく同じ群れに代々伝わる遊びなのでしょう。 
猿のブランコ遊びを土手の上から見下ろすのではなく、土手の下から改めて撮影したかったので、今回ようやく目標を達成することができました。 

ニホンザルたちが大袈裟にはしゃぎ回ってスギの横枝を繰り返し揺らしてるのは、もしかすると、近くでしつこく撮影を続ける私に対する威嚇誇示(ディスプレイ)の意味合いもあったりするのでしょうか? 
なんとなく、私の目を意識して、私に見せつけているような気もしました。
塒のスギ林から私に早く立ち去って欲しいのかもしれません
ニホンザルの威嚇誇示と言えば、木揺すり(枝揺すり)が有名です。 
ヒトが近くに居るときしか、この飛びつきブランコ遊びをやらないとしたら、それはそれで面白いですね。
無人カメラを設置して、猿の行動を監視してみたいものです。

12月はニホンザルの交尾期なのに、今回はしゃぎ回っていたのは発情していない若い個体ばかりでした。 
顔や尻が真っ赤になっていないことから分かります。 
つまり、追いかけっこや小競り合いに見えたのも、交尾相手を巡るシリアスな喧嘩ではありません。 
一方、発情した成獣たちは求愛や交尾行動で忙しくて、遊ぶ暇もないのでしょう。 

※ 猿の鳴き声が聞き取れるように、動画編集時に音声を正規化して音量を強制的に上げています。 


余談ですが、動画の冒頭で聞こえる謎の鳴き声が気になります(@000〜0:50) 。
今まで聞いたことのない不思議な鳴き声を文字に表す(聞きなし)のは難しいのですけど、「Wrrrrrrrrreeee!」とか「Krrrrrrrrrrrreeeee!」「Grrrrrrrrrrrreeeee!」のように聞こえました。
途中で鈴を転がすような巻舌のような不思議な鳴き声です。 
後半は尻上がりに音程が上がりました。 

私の頭上のどこか樹上でニホンザルが鳴いているようですが、その姿を見つけられませんでした。(映像公開予定?)
眼の前で他のニホンザル個体による面白い行動が次々と展開されるので、辺りを見回して鳴き声の主を探すのも我慢して動画撮影を続けました。
後回しにするつもりでいたら、謎の鳴き声は止んでしまいました。

この鳴き声は、ニホンザルの繁殖期と何か関係があるのでしょうか? 
それとも、迷子になった子猿が不安になって母親を呼んでいるのかな? 
謎の鳴き声の意味をあれこれ調べてみたのですが、よく分かりません。
ここから先の解釈は、まったくの的外れかもしれませんが、個人的な備忘録として残しておきます。 

小田亮『サルのことば: 比較行動学からみた言語の進化 (生態学ライブラリー)』を読み返してみると、おそらく私が聞いた鳴き声は、ニホンザル♀による発情音、その中でもトーナルコールではないかと予想しました。 
私は目の前に居た別個体の動画撮影に集中していたために、樹上で鳴き声を発した個体を見ていませんが、おそらく意中の♂と接触する前の段階だったのでしょう。
 ニホンザルにとって秋は恋の季節である。1年のうち秋から冬にかけてしか発情しないニホンザルの♀は、この時期には顔を真っ赤にし、「クゥーァー」あるいは「ギャッギャッギャッ」という音声(発情音)をひっきりなしにあげている。(p89より引用)
発情している♀は顔を真っ赤にし、しきりに発情音をあげている。やがて♂が1頭近づいてくる、あるいは♀の方から接近していくのだが、そこですんなりと交尾に至るわけではない。交尾期以外は、オトナの♂と♀はめったに接近することはない。♀にとって、大きく力の強い♂は恐ろしい存在なのだ。しかしながら、性的欲求は♂に近づくことを求めている。(中略)馬乗りと馬乗りのあいだにも、ときには♀が逃げたり、グルーミングをしたりして、かなり時間が空くことがある。そのあいだ、♀は激しく発情音を発するのである。 
 ♀の発情音は、その音響的特徴によって大きくふたつに分けられる。耳で聞いただけでもだいたいの区別はつくのだが、周波数分析をしてみた(中略)。ひとつは、伊谷によって、<uyaa><ugyaa>などと記載されている、比較的長くて雑音の少ない音声であり、もうひとつは、<ka・ka・ka・ka...>と記載されている、短くて雑音成分の多い音声である。前者をトーナルコール、後者をアトーナルコールと呼ぶことにした。(中略)♂との接触前にはトーナルコールが期待値より多く発せられているのに対し、♂との接触後にはアトーナルコールの方が期待値より多くなっていた。どうやら交尾相手の♂との距離によって違う種類の発情音が使われているようだ。(p94〜95より引用)
ニホンザルが性的に活発なのは早朝だ。(p97より引用) 
・どうやら、♀は発情音(アトーナル:しぐま註)を発することで他個体の注意をひき、妨害行動を誘発することで♂をふるいにかけていると考えられる。(p98より引用) 
性的二型が大きな種において発情音が発達しているという結果は、まさに♀の発情音が♂間競争を煽っているということを裏付けているものである。(p103より引用)
 

1999年に出版されたこの本の内容は少し古いかもしれないので、AI Perplexityで質問した回答によれば、
ニホンザル♀のトーナルな交尾音は「ウァー」という尻上がりの声でビブレーション(振動)がかかっている。比較的明確な音程や調子を持つ音声です。 オスとの距離が遠いときは、トーナルな交尾音が多く使われる。

問題は、ニホンザル研究者が♀による発情音(トーナルコール)と呼んでいる鳴き声を実際に試聴して聴き比べたいのに、いくらネット検索しても見つからないことです。 
YouTubeや「動物行動の映像データベース」などに鳴いている様子の動画をニホンザル専門家がアップロードしてもらえると助かるのですが…。 
私の検索の仕方が下手なだけかもしれないので、音声ファイルまたは動画の在処をご存知の方がいらっしゃいましたら、是非教えてください。 

仕方がないので、この動画に含まれる謎の鳴き声を後で声紋解析してみます。
上記書籍の図4-1(p96)に掲載されたアトーナルコールおよびトーナルコールのサウンドスペクトログラムと比べてみれば、分かるはずです。

もしも謎の鳴き声に関する私の解釈が正しければ、♀の発情音で誘引された他の♂たちが交尾の邪魔をして、それによって一連の騒動(はしゃぎ回りに見えた)が巻き起こったのかもしれません。
「カカカ…♪」という鳴き声は、威嚇や喧嘩の際に発するのかと私は今まで思っていました。
しかし、はしゃぎ回っていた個体は未発情の若い個体ばかりだったこと、交尾期前の夏にも同じブランコ遊びが見られたことが説明できなくなります。

野生ニホンザルの鳴き声が伴う行動を動画でしっかり記録して正しく解釈するのは、なかなか大変です。
理想的には、バウリンガル(犬用)やミャウリンガル(猫用)のように、ニホンザルのさまざまな鳴き声の意味や感情を音声翻訳してくれる機器や携帯電話アプリが登場することを期待します。

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