2025/02/20

左右の角の先が欠けたニホンカモシカが早春の雪山で灌木に眼下腺マーキングと角研ぎを繰り返す

 

2024年3月下旬・午後13:20頃・晴れ 

早春の里山に登ると、尾根道は残雪に覆われていました。 
晴れて気温が上がり、雪質はシャーベット状(ジャリジャリ)のいわゆる腐れ雪でした。
スノーシューを履いて尾根道を縦走していると、雪面にニホンカモシカCapricornis crispus)が通ったばかりの新しい蹄跡を発見。  
足跡を辿って進むと、前方に居たカモシカが驚いて右から左へ尾根道を横切り、斜面を少し登って落葉灌木林の陰に隠れました。
 (映像はここから。) 

逃げたカモシカは、落葉した藪の隙間から、尾根道に立つ私を正面から見下ろしています。 
手前の茂みが邪魔でよく見えないのですが、黒い角の先端が左右両方で欠けているようです。 
個体識別をする上で、これほど分かりやすい特徴はありません。
カモシカの股間に注目しても外性器が見えず、性別不明です。 
過去の記録を遡ってみると、「左角欠け」と「左耳裂け右角欠け」という個体が居ましたが、左右両方とも角が欠けている個体は初見です。 

カモシカが奥に少し移動して姿が見えなくなる度に、私も静かに追いかけて、撮影を続けます。
どうやら、尾根道に並行して一段高い獣道があるようです。 
カモシカは、自分が相手よりも高所にいれば心理的に安心するのです。 

しばらくするとカモシカは、立木(落葉樹)の幹の匂いを嗅いでから、顔の眼下腺をゴシゴシと擦りつけてマーキングし始めました。 (@2:00〜)
尾根沿いを右へ右へと少しずつ歩いて移動しながら、次々と立木に眼下腺で匂い付けしています。 

ニホンカモシカがこれほど頻繁かつ連続して眼下腺マーキングしたのは初見です。 
これまでトレイルカメラ(無人カメラ)による観察では、画角が限定されているために、カモシカは単発でしか眼下腺マーキングしないのが普通だと思っていました。

したがって、今回の個体は明らかに近くで見ている私を意識して無言の縄張りアピールをしているようです。 (縄張り宣言の誇示行動。) 

次にカモシカが頭を低く下げたので、採食しているのかと思いきや、細い落葉灌木に角を擦りつけていました。(@3:46〜) 
同じ灌木で何度も角研ぎしています。 
自分の角の先端が欠けたことを自覚していて、それを研ぎ直そうとしているのだとしたら面白いのですが、この行動もやはり、しつこく追いかけて撮影する私に対する誇示行動(縄張り宣言)なのでしょう。 
角を研いだり磨いたりしたいのなら、もっと太くて頑丈な幹を選ぶはずです。 
今回は細い灌木を角で傷つけて樹皮を剥ぎ、マーキングするのが目的のようです。 

カモシカの角は骨で出来ています。
Perplexity AIに教えてもらったのですが、カモシカの角に神経は通っていないので折れても痛みは感じないらしいです。
角を研ぐ際に違和感があって、折れたと自覚しているかもしれません。
シカと違ってカモシカの角は毎年生え変わることはありません。
したがって、カモシカの角が一度欠けると再生することはなく、個体識別するのに最適な特徴となります。

カモシカは道中で更にもう1本の別な細い立木でも眼下腺マーキングしました。 
カモシカは私を一瞥してから、右にどんどん歩き去ります。 
約10分間の遭遇中に、この個体は鼻息を荒げる威嚇を一度もしませんでした。 
いくら私が忍び足で追跡しようとしても、スノーシューで腐れ雪の上を歩くとザクザクと音を立ててしまいますから、カモシカは気づいているはずです。
おそらく私の汗の匂いを嗅ぎ取って、「またいつもの変な奴か…」と認識してくれているのかもしれません。 


最後に私は初めに遭遇した地点まで戻って、残雪に残るカモシカの蹄跡を録画しました。 
私に気づいたカモシカが慌てて走って逃げた様子が足跡から読み取れます。 
カモシカが角研ぎした現場を検証して、写真を撮ったり樹種を確かめるべきでしたね。 
例えば、この辺りではオオバクロモジの木がよく自生しています。
クロモジの木を傷つけるとミントのような清々しい芳香がするのですけど、カモシカもこの匂いが好きだとしたら、面白い話です。

そのままカモシカを追跡しようか迷ったのですが、足取りは遅くても私がスノーシューでは踏破できそうもない急峻なルートを選んで歩き去るので、諦めました。 
次善の策として、先回りしてカモシカが来るのを待ち構えようとしたのですが、この日はもう再会できませんでした。 
よく晴れた日の雪山登山で野生のニホンカモシカと濃密な時間を過ごせて、最高の気分でした。

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