2026/06/13

ニホンカモシカは水路橋を渡るか?

 

2025年8月中旬・午後12:20頃・晴れ 

山麓で遭遇したニホンカモシカ♂(Capricornis crispus)をこっそり追跡して来たら、水路橋のたもとまでたどり着きました。 
どうやらカモシカにとっては歩き慣れた道のようで、コンクリートの土台をひょいと登りました。 
カモシカはコンクリートの階段を降りて水路橋へ侵入し、姿が見えなくなりました。 

深い谷を跨ぐ水路橋を渡っているカモシカをどうしても撮りたかった私が急ぎ足で近づいたら、カモシカに気づかれてしまいました。 
カモシカは幅の狭い水路橋を渡り始めた地点で振り返り、私を凝視しています。 
濡れた鼻腔がひくひく動き、私の体臭を嗅ぎ取ろうとしています。 
ねじった首が疲れたのか、今度は逆から振り返って私を見つめています。 
正面から見たニホンカモシカの顔は、眼下腺が腫脹して眠そうな目つきでした。 
この個体の耳や角に分かりやすい特徴はありませんでした。 
角がやや細いので、若い♂個体かもしれません。 

明らかに私を警戒して水路橋を渡る気が失せ、引き返して来ました。 
再びコンクリートの階段を少し登りかけて、私と対峙しました。 
このとき私は強引に近づいて、カモシカを追い出すように水路橋を再び渡らせようと考えたのですが、作戦失敗です。 
野生動物はなかなか思い通りに動いてくれません。 

カモシカが階段を登りきったときに、後傾姿勢になり、下腹部にピンクの陰茎(亀頭?)が見えました!(赤丸@3:52〜4:00) 
(まさかピンクの「でべそ」ではないですよね?) 
ニホンカモシカの外性器はいつも毛で隠れているために、性別を野外で見分けるのはとても難しいのです。
♂の陰茎は初見かもしれません。 
今回の個体は、冒頭で歩き去るカモシカの後ろ姿で股間に陰嚢が見えたので、♂だと分かっていました。 

私に邪魔されて水路橋を渡るのを諦めたカモシカ♂は、谷沿いの崖を登りはじめました。 
どうやらそこも通い慣れた獣道になっているようです。 
再び私を振り返って、ペロペロと舌なめずりしました。 
手前に蚊柱(ユスリカの群飛)が立っています。 
崖に佇むカモシカ♂は、皮膚をピクピク動かしたり、尻尾を振ったりして、しつこく体につきまとう吸血昆虫(ヤブ蚊など)を追い払っています。 

急斜面に生えたミズナラ幼木の葉裏の匂いを嗅いでから、顔を擦りつけて眼下腺からの分泌物で匂い付けをしました。(@4:35〜) 
私が見ている前で、やんわりと縄張り宣言のマーキングをしたことになります。 
この後カモシカ♂は、さらに崖をよじ登って藪の中に姿を消しました。 

今回出会った個体♂は、一度も鼻息を荒らげて私を威嚇することはありませんでした。 


【考察】 
水路橋を渡るカモシカのスクープ映像が撮れなかったのは、残念でした。 
欲を出して焦った私の立ち回りが色々とまずかったようで、反省です。 
フィールドでは変な欲を出さずに無心で野生動物を追跡・観察・撮影するのが一番ですね。

それでも、野生ニホンカモシカ♂の外性器(陰茎)をちらっと観察できたのは、大きな収穫でした。
排尿姿勢になった時に陰茎や尿道口が解剖学的にどこにあるのか、これで分かりました。
カモシカの♂は立ち止まったままで(腰を落とさず)排尿し、小便は亀頭の尿道口から前方に飛びます。



ニホンカモシカは水路橋を渡るか?とタイトルに掲げた問題を追求するためには、橋の袂に無人の監視カメラを設置して証拠映像を撮るのが一番です。
運用しているトレイルカメラの数が限られているため、なかなか手が回りません。
ちなみに、ニホンザルの群れが水路橋を我が物顔で渡る様子は、何度も直接観察しています。

サクランボ果実の食べ方を幼鳥に教えるスズメの親鳥(野鳥)巣外給餌

 

2026年5月下旬・午後14:05頃・晴れ 

郊外の住宅地で物置小屋の錆びたトタン屋根にスズメPasser montanus)の親子が留まっていました。 
頬の黒斑が濃いのが成鳥で、巣立ったばかりの幼鳥は頬の黒斑が薄くて嘴の縁が黄色いのが特徴です。 
横に立つサクランボの庭木に果実が鈴なりに実り、赤く熟した落果や種子がトタン屋根にたくさん散乱しています。 

親鳥のスズメがサクランボの赤い落果を食べていました。 
ムクドリと違って体の小さなスズメは、サクランボ果実を丸呑みにするのではなく、果肉だけを啄んでいます。 
その近くで空腹の幼鳥が翼を小刻みに震わせて餌乞いしています。 
餌乞いに特有の鳴き声を発しているはずですが、カメラに対して後ろ向きですし、遠くから撮影していたので聞き取れませんでした。 
周囲でチュンチュン♪とにぎやかに鳴いているのは、別個体のスズメたちです。 

 幼鳥はすぐ横に落ちていたサクランボの種子を見つけると、興味を持ってつついてみたのの、餌ではないと悟って食べませんでした。 
幼鳥が駆け寄ると、親鳥は食べ残しのサクランボ落果を幼鳥とシェアして一緒に食べ始めました。 
親子で交互にサクランボの果肉を啄んでいます。 

やがて親鳥がそのサクランボ落果を丸ごと咥えると、器用に果肉だけを食べています。 
それを見て横の幼鳥が餌乞い(給餌の催促)を再開しました。 
スズメの親鳥は幼鳥にサクランボの食べ方を教えているようです。 
親鳥がその場に落とした食べ残しのサクランボを幼鳥がもらって食べ始めました。 
幼鳥も教わった通りにサクランボ熟果を丸ごと咥え、果肉だけをちびちび食べています。 

その間に親鳥はホッピングでトタン屋根を下り、幼鳥から離れて行きました。 
最後に幼鳥は、食べかけのサクランボ果実を咥えて飛び去りました。 


【考察】 
初夏に核果が実るサクランボの種子散布の戦略は、被食型の動物散布です。
スズメはサクランボ核果の果肉だけをついばみ種を捨てるので、普通はサクランボの種子散布者ではありません。 
しかし今回の事例では、スズメの幼鳥が食べかけたサクランボの果実を持ち去ったので、母樹から離れる種子散布を助けたことになります。

2026/06/12

両目を失明した雪国のホンドタヌキが、運んできた獲物を巣穴近くの雪の下に埋めて隠してから巣内で休む【トレイルカメラ:暗視映像】貯食行動

 


前回の記事:▶ 雪深い二次林の巣穴で越冬するホンドタヌキ:2月中旬〜下旬【トレイルカメラ:暗視映像】 


2025年3月上旬

シーン0:3/10・午後12:19・晴れ・気温23℃(@0:00〜) 
シーン0:3/10・午後16:40・晴れ・気温13℃(@0:03〜) 
雪国の二次林でホンドタヌキ♀♂(Nyctereutes viverrinus)が越冬する巣穴Rを2台の自動センサーカメラで見張っています。 
ここは以前、ニホンアナグマの営巣地(セット)でした。 


シーン1:3/10・午後17:07・晴れ・気温9℃(@0:07〜) 日の入り時刻は午後17:44 
夕方に画面右下から単独で来たらしいタヌキが、巣口Rの中を覗き込んでいました。 
その足跡が雪面に残っています。 

タヌキが顔を上げたら、血まみれの大きな肉片を咥えていました。 
この巣穴に潜む野ネズミにしては大き過ぎます。 
こんな大きな獲物を生きたままタヌキが狩れるとは思えません。 
雪原で行き倒れた野生動物とか車道で新鮮なロードキル(死骸)を見つけて、ここまで運んできたのでしょうか。 
拡大すると、獲物は鮭(サケ)など大きな生魚のようにも見えます。 
どこか近所の庭に忍び込んで池の鯉(コイ)を狩ってきたのでしょうか? 

巣内でごちそうを食べるのかと思いきや、タヌキは獲物を咥えたまま、左へ運んで行きます。 
タヌキが歩くと、溶けかけた雪面(いわゆる腐れ雪)にズボズボと膝まで潜っています。 


シーン2:3/10・午後17:08・晴れ・気温8℃(@0:33〜) 
つづきが別アングルの監視カメラに写っていました。 
獲物を口に咥えたタヌキが雪原を少し運ぶと、立ち止まって獲物を雪面に降ろしました。 
血まみれの顔を雪で洗っているように初めは見えたのですが、どうやら鼻面を使って雪面に穴を掘っているようです。
雪面に置いた獲物に周囲の雪をかけて埋めようとしているのだと分かってきました。 
それにしても、穴掘りで前脚を使わないのが不思議です。 
前脚を怪我しているのでしょうか?

雪国のホンドタヌキによる貯食行動を初めて観察できたのに、獲物を埋め終える前に1分間の録画時間が終わってしまい、残念無念。 


シーン3:3/10・午後17:09・晴れ(@1:35〜) 
47秒後にトレイルカメラが再び起動すると、獲物を雪の下に埋め終えたタヌキが空荷で巣口Rに戻って来ました。 
振り返って貯食した位置をしっかり確認してから、巣穴Rの奥に潜り込みました。 


シーン4:3/10・午後17:09・晴れ(@2:13〜) 
入巣Rシーンが別アングルからも撮れていました。 

巣口Rで少し雪かきしてから、中に入りました。 
このとき普通に前足を使ったので、負傷で痛めている訳ではないことが分かります。 


シーン5:3/10・午後19:26・気温0℃(@2:55〜)
すっかり暗くなった晩にタヌキが巣穴Rの外に出てきました。 
背中を弓なりに伸ばすストレッチ運動をしてから、外出します。 
(この行動は、出巣直後のタヌキがよくやります。) 
雪面に新しい足跡は付いていないので、別個体が登場したのではありません。 
さっき巣外で魚?を貯食した個体が、巣穴で約2時間15分間、寝ていたことになります。 

雪面の匂いを嗅ぎながら監視カメラの方へ歩いて来ると、タペータム(輝板)が両目とも赤外線を反射していない(失明?)個体であることが分かりました。 
少なくとも夜には私でもしっかり識別できる個体でした。


【考察】 
長い期間トレイルカメラで営巣地を地道に定点観察してきましたが、久しぶりにトップレベルで面白い(ワクワクする)行動が記録できました。 

まさか越冬中に死んだ仲間の死骸を埋葬したのか?と早とちりしそうになったのですが、 運んできた獲物(生魚?)を営巣地の雪の下に埋めたのです。(貯食行動
雪面に深い穴を掘って埋めたのではなく、獲物の上に周囲からかき寄せた雪をこんもりと乗せて隠しただけです。 
食べ残した餌を隠すだけでなく、腐らないように冷蔵保存する効果も雪にはあります。 
この死骸を後で両目失明タヌキが掘り出して食べるかどうか、注目です。 
キツネや他のタヌキなどに見つかって盗まれないのか、心配です。 

実は、この辺りで暮らす野生動物(タヌキやキツネ)が魚の死骸を冬に運んでくるシーンは、翌年もトレイルカメラに何度か写っていました。 (映像公開予定)
もしかすると、近所の誰かが毎年冬に野生動物へ給餌している可能性がありそうです。 
(魚をさばいた残渣を外に捨てているだけかもしれません。) 

両目が失明(タペータム機能の喪失)した個体でも、毛並みや肉付きを見る限り、健康そうです。
少なくとも明るい昼間は視覚のハンディキャップが顕在化しないようで、獲物を見つけて営巣地まで運んでこれました。


つづく→

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