2021年1月下旬・午前10:10〜午後12:30・晴れ
新雪が降った翌朝、快晴となり絶好のスノーシュー日和です。
山麓の雪面にホンドギツネ(Vulpes vulpes japonica)が残したと思われる一列の足跡を見つけました。
スノーシュー(西洋かんじき)を履いて、足跡を辿ってみましょう。
キツネの足跡は民家の裏をぐるっと回ってから裏山に戻っていました。
実は、ほぼ同じ場所で昔にキツネを目撃したことがあります。
『哺乳類のフィールドサイン観察ガイド』によると、
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走り去るホンドギツネ
キツネは前足跡の上に後ろ足を重ねるハンター歩きをするので、前後足が重ならない足跡を見るのは稀だ。(p25より引用)
優秀なハンターであるネコ科動物やキツネは、獲物に気づかれぬようにできれば足跡を残したくない。そのため、前足跡の上に後ろ足を重ねるハンター歩きをする。こうすることで、地面に残る足跡の数が半分になる。 (p142より)入山してまずはスギ林の林道を登って行きます。
林道を塞いでいたスギの倒木を跨いで乗り越えました。
スギ林はいつも暗くて生物の気配が乏しく好きになれないのですが、この日はよく晴れて木漏れ日が射し、スギの枝から落ちる粉雪がキラキラ光っています。
気分は最高!
雪で埋もれた林道を少し進むと、キツネらしき足跡と再び合流しました。(@0:55)
大雪で倒れたスギの木をまた乗り越えて進みます。
雪面に残る足跡が2列なので、キツネではなくホンドタヌキ(Nyctereutes viverrinus)のような気もしてきました。
足跡はスギ林の急斜面をラッセルでやや蛇行しながら下って沢へ向かっていました。(@2:40)
細い沢を跳び越えた足跡は、対岸の斜面を直登していました。
キツネよりも体重の重い私は、沢のクレバスを踏み抜かないように注意してまたぎました。
深雪の雪山をキツネがラッセルした足跡を辿って進みます。
何度も(往復して?)通いなれた獣道なのかもしれません。
急に複数の足跡が入り乱れて、読み解くのが少し難しくなりました。(@5:10)
どうやら山中でニホンノウサギ(Lepus brachyurus angustidens)を見つけたキツネが「脱兎の如く」走って逃げる獲物を狩ろうと追いかけ始めたようです。
初めは斜面を並走していた二種の足跡(左がノウサギ、右がキツネ)が途中から合流し、再び別れました(並走状態)。
残念ながら獲物に逃げられて狩りには失敗したようです。
(タヌキは目が悪いので、逃げるウサギを追いかけたり狩ったりすることはないはずです。)
キツネの足跡を更に辿ると、立ち止まって少し排尿していました。(@6:25)
少量の黄色い小便で雪が溶けていました。
キツネ特有のニオイというのは、キツネのオシッコの臭いなのだが、「ツンと鼻をつくニオイ」としか表現できない。シカの死体や、巣穴周辺で臭うことがある。慣れると、このニオイだけでキツネの存在に気づくようになる。 雪上に残るニオイ塚。オシッコをする場所は、周辺よりも小高くなったところを選ぶことが多い。(※イヌのように片方の後ろ足を上げて排尿するイラスト付き:しぐま註) 『哺乳類のフィールドサイン観察ガイド』p27より引用。サインポストと呼ぶには素人目には何も特徴の無い所ですが、キツネは尿の匂い付けで縄張りをマーキングしたようです。
私の鼻では特に何も匂いは感じ取れませんでした。
匂いが揮発性物質だとすると、低温の雪山ではあまり匂わないのかな?
更に少し進むと、キツネは新雪ラッセルしながら落葉灌木のすぐ横を通り過ぎる際に、その根元に小便をひっかけてマーキングしていました。(@6:45)
ここでは私も独特の獣臭を感じました。
これがキツネの匂いなのかな?
次は、同時に排泄した大小便の跡が雪の上に残されていました。(@7:10)
緩斜面をトラバースした所の落葉灌木の近くで排便していました。
糞の前方、灌木の根元に大量の小便跡が残されていました。
マーキング(匂い付け)のときよりも排尿の量が多いです。
キツネのフィールドサインといえばサインポストの意味をもつフンだ。切り株上や草の上など、比較的目立つ場所で見つかる。他の動物食のフンと比べて明らかに太く、ねじれはあまりない。新鮮なフンだと、キツネ特有のニオイが残る。(『哺乳類のフィールドサイン観察ガイド』p26より引用)今回も特に目立つ場所に糞は残されてはおらず、私にはサインポストのようには見えません。
厳冬期の雪山ではキツネのトイレ事情が変わってくるのかもしれません。
あるいは私に追いかけられていることをキツネは気づいていて、足早に逃げている途中なのかもしれません。
糞の匂いも私の印象に残りませんでした。
糞の内容物を調べる余力は無く、足跡のトラッキングを優先して先に進みます。
スギ林は常緑なので林床は積雪量が少なく、落葉した雑木林よりもスノーシューで歩きやすくなります。
スギ林の木の根元で幹が露出していない雪面に再びキツネが小便でマーキングした跡が残っていました。(@7:55)
雪で埋もれた沢筋まで来ると、落葉灌木に巻き付いた蔓の根元の雪面に尿で匂い付けされていました。(@8:25)
この辺りから、新雪をラッセルする足跡がいよいよ明確な2列になりました。(@8:50)
いつの間にか私はキツネではなくタヌキの足跡に乗り換えてトラッキングしていたのでしょうか。
イヌ科2種の足跡がどこかで交差していて、トラッキング経験の浅い私はすっかり惑わされたのかもしれません。
私としては同一個体のキツネを追跡し続けているつもりなので、この記事ではキツネ?の足跡として話を進めます。
深い新雪をラッセルするキツネの足跡は2列に残るとか?
雪山で執拗に追跡されて疲れたキツネが2列の足跡を残すようになったのかな?(私を撒くためにタヌキのふりをしている?)などと苦しい妄想をしたりしました。
突然ノウサギのような足跡の付き方に変わり、私の頭は更に混乱しました。(@9:05)
ところがその謎の足跡をしばらく辿ると、2列の見慣れた足跡に戻りました。
歩行時と走行時では足跡の付き方が変わってくるのです。
走るとノウサギのように3点の足跡がセットになり、そのセットが飛び飛びで雪面に残ります。
ノウサギでない証拠に、少し走っただけでその足跡は歩行パターンに戻りました。
私の追跡を振り払うためにキツネ?が走り出し、雪の斜面を登りながら歩行に戻ったのではないかと想像しました。(獲物を見つけた可能性も?)
足跡のトラッキングの難易度が更に上がりました。
キツネ?の足跡が雪山で忽然と消えたのです。(@9:30)
私を撒くために「戻り足」をしてから、大きくジャンプして横に逸れたのでしょう。
こんなトリッキーな動きをするのは、タヌキではなくキツネだと思います。
キツネの戻り足。足跡を踏み戻ったので、足跡が途切れたように見える。(『哺乳類のフィールドサイン観察ガイド』p142より引用)狐に化かされそうになったものの、なんとか近くで新しい足跡を見つけ直して、トラッキングを続けます。
キツネ?の足跡が再び走行パターンに変わりました。(@9:50)
大小2つの細長い糞が足跡の上に残されていました。(@11:38)
排泄直後の糞は体温で暖かいので、雪が少し溶けて沈んでいます。
糞の内容物調査は無理でも、採寸したり匂いを嗅いだり、特徴を記録すべきでしたね。
山中でスギ倒木の下の隙間をくぐってキツネ?は進んでいました。(@12:10)
背の高い私はくぐれそうにないので、横に少しそれてから跨いで進みます。
雪面に残る足跡が再び走行パターンに変わりました。(@12:35)
雪の緩斜面を走って登ったようです。
キツネも急な上り坂は直登せずにジグザグに登ることがありました。
キツネ?のトラッキングを続けると、いつの間にか里山の狭い範囲をぐるっと一回りしてしまいました。
私が数十分前に残したスノーシューの跡にキツネは気づいたようで、自分の古い足跡には合流せずに慌てたように横に逸れて逃げて行きました。
砂防堰堤がある沢筋の横の急斜面を登る途中で、大小便を排泄した跡を見つけました。(@13:05)
キツネは冬も意外と頻繁に排便しているのですね。
雪国の厳冬期でもしっかり食べているということなので、一安心。
タヌキは縄張り内の決まった場所で溜め糞をするはずなので、今回の足跡の主はタヌキではなさそうです。(冬の積雪期にはタヌキもトイレ事情が変わるのか?)
素晴らしい快晴でスノーシュー探索すると、私の顔が雪焼け(雪の照り返しによる日焼け)しました。
午後に気温が上がると雪質が重い「腐れ雪」に変わります。
スノーシューで歩きにくくなる(疲れやすい)だけでなく、雪面に残る動物の足跡が不鮮明になり、トラッキングがますます難しくなります。
樹上からの落雪が林床で動物の足跡のように見えることがあり、紛らわしいです。
また、樹上の雪が解けて枝から滴り落ちた水に黄色っぽい色(茶色?)がついていることがあり、動物の小便跡と紛らわしいです。
近くに動物の足跡が無ければ、尿ではなく木の汁でしょう。
今回は残念ながら足跡の主に追いつけなかったので、本当に全てキツネのフィールドサインかどうか確信が持てません。
(途中でタヌキの足跡が混じっているような気がしてなりません。 )
どなたか雪山での足跡を見分けられる達人からのコメントを頂けると助かります。
本当はフィールドサインの種類別に動画を切り分けて紹介したかったのですが、今回は半日で撮れた動画素材を時系列順に並べてまとめました。
雪山でキツネ?の足跡を初めてトラッキングしてみたら、糞や尿によるマーキング(匂い付け)も見つけて勉強になりました。
後半は、私を撒こうとする戻り足行動などに高い知能を感じました。
携帯したGPSの軌跡を帰宅後に確認すると、里山のとても狭い範囲を徘徊していました。
それでも充分に楽しめました。
キツネの行動圏は意外に狭いのかもしれません。
後日、同じ雪山で遂に生きたホンドギツネと出会えました。
【追記】
北海道の大雪山でキタキツネの生態を観察した久保敬親『きつね(しぜんのせかい1)』という古い児童書によると、
キツネは他の動物がまねできないようなことをする賢い動物です。猟犬に追跡されると川を渡り、横っ飛びをし、木に登り、他のキツネの足跡の上を重ねて歩き、自分のにおいを消すために肥だめに足をつけたりもします。 (p33より引用)
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