2011/10/18

カタグロチビドロバチ♀の営巣開始(その1:巣穴の掃除と身繕い)



2011年9月下旬

軒下の資材置き場で、雪囲い用の材木(丸太)に開いた極小の虫孔(ノギスで採寸すると長径2mm)に初見の小さなハチが出入りしていました。
チビドロバチの一種でしょうか?
蜂類情報交換BBSにて問い合せたところ、カタグロチビドロバチStenodynerus chinensisとご教示頂きました。
個体標識していないので同一個体である保証はありませんが、巣に出入りする一匹のハチを追いかけて撮影したつもりです。
どうやら巣穴を掃除して営巣しようとしているみたいです(借坑性)。

節穴の中でしばらく作業すると何かゴミ(木屑? 虫の死骸?)を大顎に咥えて現れ、飛んで近くに捨て、身繕いしてはまた巣に戻る、を繰り返します。

巣穴には毎回必ず頭から入り、後ろ向きで出てきます。
蜂の出待ちで4分以上も長撮りすることもありました(編集でカット)。
ハチとは別に、得体の知れないピンクの小虫がときどき巣口に出入りしています。
巣穴から何も運び出さないこともありますが、巣口を向いたまま短く定位飛行をして飛び去りました。


清掃作業の合間の化粧タイム(休憩)でハチをじっくり接写することができました。
材木の下にある日当たりの良いコンクリート・テラスに降り立ったり、すぐ近くの下草に降りて葛の葉に止まったりして化粧に余念がありません。
顔正面をアップにすると眉間(触角の付け根)に可愛い黄斑が一つ目立ちます。
ハチは未採集、未採寸。

(つづく→その2:定位飛行


2011/10/17

スズバチ泥巣の発掘@石灯籠

スズバチ泥巣の定点観察
前回の記事はこちら→「石灯籠に作った泥巣を訪れるスズバチ
2011年9月下旬

前回の観察から4日後に再訪。
スズバチ♀(Oreumenes decoratus)は営巣を再開したようで、泥巣全体が既に泥で閉鎖されていました。

この日もハチの姿は見られず。
泥巣を発掘してみることにしました。
生憎カメラのバッテリーが切れてしまい、発掘過程を写真で記録できませんでした。



マイナスドライバーで少しずつ泥壁を削っていくと、二つの同サイズの独房が隣接していることが分かりました。


スズバチの卵@独房壁面内側


右側の新しい独房は意外なことに空洞でした。
貯食物が全く運び込まれていないまま、独房内側の壁面にハチの卵が一個産み付けられていました。
他のドロバチ類の多くと同様にスズバチの卵は天井から糸で吊るされた状態らしいのですが、今回私は糸を確認できませんでした。
産卵は独房の完成直後に行われるそうです。
貯食されてなかったのは、私が巣口にしつこく草を差し込んだりした影響かもしれません。
産卵後の母蜂が悪戯を嫌って(?)営巣を切り上げ、貯食せず埋め立てたようです。
今後あの方法は差し控えたほうが良いかもしれません。
しかし、わざわざ巣口を泥で塞いでから廃巣するスズバチの律儀さ(融通性の無さ)に興味を覚えます。



左列は同一個体。右上は別個体。右下は発掘直前の泥巣とスケール替わりの一円玉。

次に左側の古い独房を暴くと、貯食物がぎっしり詰まっていました。
スズバチ♀の毒針で麻痺した3匹のアオムシが幽閉されていました。
孵化直後のスズバチ若齢幼虫が発掘作業中にこぼれ落ちてしまいました。
なんとか小さな蜂の子を拾って容器に移します。


保育社『原色日本昆虫図鑑』によると、築坑性のスズバチは
岩のくぼみなどに泥で四半球形の壺状の巣を10数個かためてつくり、全体がもう一層の泥壁で覆われている。獲物は毛の少ない鱗翅目の幼虫である。



そっと持ち帰ると、スズバチ幼虫は自力で獲物の背中に這い登り食いついているようでした。
アオムシは麻痺しているものの脱糞している途中のようです。
アオムシ体表に自らの排泄した糞が数個付着しています。
スズバチ♀は狩りの際に毒針で獲物の中枢神経系を刺して麻酔します。
しかしご覧のように麻痺は不完全で、ときどき痙攣したり大きく動きます。
歩脚でしがみ付こうとする反射も残っています。
さすがに徘徊することは出来ず、歩行時に尺取虫運動するかどうか不明です。
独房内でこのぐらい元気に暴れても蜂の子に危害は無いのだろうか。


次は拉致被害者の身元調査です。
アオムシは3匹とも同種の蛾の幼虫と思われ、大きさもほぼ揃っています。
いつもお世話になっている「不明幼虫の問い合わせのための画像掲示板」に投稿したところ、atozさんより以下の回答を頂きました。
アオスジアオリンガアカスジアオリンガの幼虫です。



【追記】
『本能の進化:蜂の比較習性学的研究』p252によると、スズバチ(旧学名Eumenes decoratus =現 Oreumenes decoratus)の獲物はフトスジエダシャク(Cleora repulsaria)の幼虫と記録されています。明らかに今回のアオムシは全然違う種類のようです。造巣法は築坑型(四半球型)、獲物の貯蔵数は3-8、独房数は9。8壺の完成に16日間を費やす。





左:徳利状の巣口が泥で塞がれている様子を独房内側から。右:飼育開始

清潔なプラスチックのピルケースに貯食物と蜂の子を一緒に移して飼育を始めました。
ところが、やはり一度獲物から口が離れてしまうと致命的なようです。
やがて蜂の子は萎んでしまいアオムシも傷口から腐り始めました。
残る二匹のアオムシは麻痺状態のまま(生きる屍)しばらく生き続けています。
独房(右)壁に産み付けられたスズバチの卵も翌日には干からびてしまいました。
室内飼育でスズバチ成虫が羽化することを確認したかったのに、今回は残念な結果に終わりました。






2011/10/16

仲間の成虫を咥えて引越しするムネアカオオアリ



2011年9月下旬・気温18℃

神社の本殿からムネアカオオアリCamponotus obscuripes)が途切れ途切れの行列を作って石段を下りていました。
その中に口で何かを咥えて運んでいるワーカーが一匹。

初めは大きなクロアリの死骸を巣に運んでいるのかと思いました。
ところが獲物をよく見ると胸部が赤く、同種のアリと判明(adult transport)。
顔を向き合い互いに大顎で噛み合って運んでいます。
運ばれる方は小柄なムネアカオオアリで、ときどき動く触角から生きていると分かります。
強い前屈姿勢のせいか腹部の節間膜が広がっています。
(満腹状態のミツツボアリを連想しました。)

力持ちのアリにとってさほど重労働とは思えないのですが、なかなか運搬が捗りません。
動きが非常に緩慢で休んだり迷ったりしながら運ぶので、接写するには好都合でした。
巣の引越しだとしたら、なぜこんなにダラダラのんびりしているのだろう?
夕方ですが気温は18℃でそれほど低くはありません。
巣の引越しも終盤になり行列に参加するワーカーの数が減った結果、道標のフェロモンが分かり難くなっているのかもしれない、と想像しました。

実はこの5日前にも同じ場所で同じ行動を観察しています。
このときは仲間を運搬中の個体数がもう少し多かったです。



石段端のコンクリート・スロープを下りて地面に達すると落ち葉に紛れて見失ってしまいました。
行き先の巣の位置を突き止められず残念。
ムネアカオオアリが他の巣を乗っ取る(略奪)という話は聞いたことがないので引越しだと思います。
日本産アリ類画像データベースによると、ムネアカオオアリは森林性で木の腐朽部に営巣するそうです。
神社の木造本殿のどこかに営巣していたのなら分かるのですが、どうしてこの時期に仲間を連れて地中の巣に引越ししようとしているのか理解に苦しみます。
越冬の準備なのだろうか。
元の巣の場所も本殿の閉ざされた扉の後ろなので見れず。



帰ってからアリの本で調べてみると、詳しい解説が載っていました。

『蟻の結婚』第9章アリの引越し p182から引用。
アリは仲間の働き蟻を口に咥えて運ぶことがある。これは社会生活をするハチ類等に絶対見られないことである。(中略)運んでもらう方のアリは親虫に成り立ての若いものが多いようである。運ぶ方のアリが仲間を咥えようとすると、運ばれる方のアリは脚を縮めたりして相手が運びやすいように気を配るのである。 仲間の体をもつ持ち上げ方は種類によって多少形式が違っている。ヤマアリ類やオオアリ類では、運ぶものは自分の大腮で運ばれるものの大腮を咥え、運ばれる方は髭と足を縮めて腹側と腹側が向き合うような姿勢で運ばれて行くのである。

ネコ科の動物で母親が子猫の首筋を咥えて引越しする行動を連想し、微笑ましく思いました。
咥えられた方が暴れたりしないで協力的な姿勢で大人しく運ばれて行くのも似ています。


関連記事(11年後の撮影)▶ 仲間を運んで引っ越すムネアカオオアリ♀の行列

アリさんマークの引越社!



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