2026年4月上旬・午後12:15頃・晴れ
山麓にあるヤマアカガエル(Rana ornativentris)の繁殖池を毎年早春に定点観察しています。
この日は卵塊から孵化した幼生(オタマジャクシ)の群れが岸辺付近の浅い水中に蠢いていました。
その様子を動画に撮り始めたら、後に登場するトビケラ幼虫が一緒にちらっと写っていました。(冒頭の赤丸○)
しかしカモフラージュの効果抜群の蓑を身にまとっているため、このときの私はまだ気づいていません。
オタマジャクシが動き回るので、水底のゴミが揺れているだけのように見えます。
試しに餌として、煮干し(無塩タイプ)をヤマアカガエル幼生の群れの近くに投入してみました。(@0:36〜)
水中に煮干しの匂い物質(ダシ)が拡散するまで、しばらく時間がかかります。
予め煮干しの頭部を取り除き、背骨に沿って半分に裂いておくと(2枚おろしの状態)、煮干しの匂いが早く水中に拡散することが後に分かりました。
やがて、オタマジャクシが煮干しに群がり、ちびちびと食べ始めました。
このとき煮干しの端に1匹のトビケラ幼虫が食いついていることに、動画を見て初めて気づきました。(赤い矢印⇩@1:09〜)
しばらく経つと、蓑をかぶった(筒巣を背負った)トビケラの幼虫が新たにもう1匹合流し、同じ煮干しの別の部位を食べています。(赤い矢印⇦@1:46〜)
三脚を使って動画を長撮りしていると、煮干しがオタマジャクシの集団につつかれて水中で移動してしまったので、私が煮干しを鉛筆でつついて画角の中央に戻してやりました。
煮干しを動かしても、謎の異物はしっかり付着して離れません。
ただの水底のゴミではあり得ません。
現場の私もこれでようやくトビケラの幼虫だと確信できました。
筒巣に入って身を守りつつ、その端の開口部から顔だけ外に出して、煮干しを食べているようです。
1匹の筒巣の腹端に白っぽい粘液のような物質が付着していたのは、トビケラ幼虫が排泄した糞なのでしょうか?(右の個体@2:02〜)
巣材を筒巣に固定するために分泌した接着剤なのかと初め勘違いしたのですが、そのための絹糸は腹端ではなく口から吐くとPerplexity AIに教えてもらいました。
周囲のオタマジャクシは煮干しに夢中で、トビケラ幼虫の糞?を食べることはありませんでした。
謎の白い水溶性分泌物をちゃんと分析した訳ではないので、ヤマアカガエル卵塊のゼラチン質が分解された断片がたまたまトビケラ幼虫の筒巣に付着していただけかもしれません。
謎のトビケラ幼虫2匹をじっくり観察するために、煮干しと一緒に手掴みで池の外へ取り出してみました。(@3:40〜)
今回は餌を池に投入しただけですが(給餌実験)、釣り糸を付ければ、煮干しでトビケラ幼虫が釣れることになります。
巣筒は円筒状で、採寸してみると長さは約25mmでした。
トビケラ幼虫が持ち運んでいる筒巣は、水中の落ち葉や枯れた茎など植物質の欠片を丹念に寄せ集めて作られていました。
枯草の細長い茎や落枝を巣材として使う際には、長さを切り揃えた上で、幼虫の体軸に対して直角の向きに並べてあります。
1匹のトビケラ幼虫は採集時に煮干しを放してしまいましたが、近くに置いてあります。
すると筒巣の端から上半身を乗り出して、煮干しを目指して這い始めました。
おかげで、水中では見えなかったトビケラ幼虫の頭部や胸部(地味な焦茶色)、脚(薄い茶色)などを観察することが出来ました。
もう片方のトビケラ幼虫は、煮干しにしっかり食いついたままです。
蓑の巣材が濡れている限り、陸上でもトビケラ幼虫はエラ呼吸が可能です。
一方、変態前のヤマアカガエル幼生は陸上で肺呼吸できないので、ピチピチと暴れています。
トビケラ幼虫が2匹とも煮干しに食いついたので、小魚(カタクチイワシ?)の死骸を口器で齧る様子をじっくり接写することができました。
途中で左の個体が筒巣ごとゴロンと転がり、2匹のトビケラ幼虫が横に並んでくれました。
おそらく同種のトビケラだと思いますが、巣筒の長さはほぼ同じでした。
少し体格差があるのは、栄養状態(それまでの摂食量)の違いでしょう。
持ち帰って家の水槽で飼育し成虫が羽化すれば、私にもトビケラの種類が同定できるかもしれません。
しかし、持ち帰る容器を何も持ってきませんでしたし、水槽の水温を低く保ち流水にするなどの飼育ノウハウが難しそうなので、水生生物に疎い私は諦めてしまいました。
元の池に戻してやり、微速度撮影を続けました。
【考察】
私が煮干しを給餌する前に、自然状態のトビケラ幼虫は池の底で何を食べていたのでしょうか?
筒巣に入ったままの状態のトビケラ幼虫を同定できるでしょうか?
筒巣の形や巣材、生息環境などで種類をある程度まで絞り込めるのだそうです。
幼虫を蓑から取り出して裸にした状態で実体顕微鏡で精査すれば、検索表も用意されていました。
【ネット検索で見つけた参考文献】
・河川生物の絵解き検索@環境省2017年(PDF資料)
・京都府の水生昆虫(トビケラ)PDF資料
環境省の検索表2017を参照すると、エグリトビケラ科(Limnephilidae)が素人目には似ています。
大顎には明瞭な歯がある。筒巣の材料や形は様々、中〜大型種が多い。後胸の中央前方のキチン板は常にある。
などと記載されていました。
30年前の古い資料ですが、谷幸三『水生昆虫の観察: 安全できれいな水をめざして 』(1995年)という本にはトビケラ目の科の幼虫の検索表が細密画と共に載っていました。
素人には使いこなせない検索表は飛ばして、代表種が作る筒巣の細密画だけを眺めると、確かにエグリトビケラ科エグリトビケラ(Nemotaulius admorsus)幼虫の筒巣が一番似ているものの、微妙に違います。
改めてエグリトビケラ科をネット検索すると、「An Artless Riverside 川虫館」というサイトに幼虫と筒巣の見事な標本写真が掲載されていました。
エグリトビケラ科 Limnephilidaeキリバネトビケラ属Limnephilusの一種(トウヨウウスバキトビケラまたはその近縁種)の筒巣や生息環境などがそっくりでした。
来季はぜひトビケラ幼虫を採集して、飼育に挑戦してみたいものです。
私は「延長された表現型」として、虫の巣が大好物です。
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ピンセットで蓑を脱がして裸の幼虫をじっくり観察してから、筒巣を作り直す過程を飼育下で微速度撮影してみたら、面白そうです。
関連記事(20年前の撮影)▶ 色紙の上で動き回る蓑虫
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