2014年8月中旬
▼前回の記事モンスズメバチの巣の定点観察6
モンスズメバチ♀の巣を冷やす扇風行動【HD動画&ハイスピード動画】
モンスズメバチ(Vespa crabro flavofasciata)は夜も活動するという話を確かめるために、クヌギの樹洞に営巣したコロニーを一晩中観察してみることにしました。
とかく人間から目の敵にされスズメバチの受難が続く昨今、せっかく見つけた巣がいつ駆除されるか分かりません。
このチャンスを逃さぬよう、巣を見つけたその日に気合を入れて徹夜しました。
ちなみに日の入り時刻は18:36、月の出時刻は20:02、月齢17.2。
モンスズメバチ巣の観察だけだと眠くなるので、ついでに雑木林の樹液酒場も巡回しました。
クリアな映像を撮るには強い照明を当てたいところですが、蜂を刺激しないように白色LEDの懐中電灯に赤色のビニール袋を被せて光を少し和らげました。
それでも今回の映像がどこまで自然な行動なのか、どうしても照明の影響が気になります。
(明らかに蜂は懐中電灯の照明を警戒しているように感じました。)
以前、夜も明るい外灯のせいで巣に帰れなくなったと思われる迷子のモンスズメバチを見たことがあります。
▼関連記事これを機会に赤外線で暗視可能なビデオカメラを次回まで購入する決心が付きました。
迷子になった夜のモンスズメバチ♀
観察してみると、確かに暗くなっても巣に出入りするワーカーが居ました。
モンスズメバチは月明かりでも平気で飛べるようです。
ほぼ常に数匹の♀が巣口付近の幹をパトロール(徘徊)しています。
真夜中に巣口で昼間と同様の扇風行動を始めたときは驚きました。
このとき巣の外の気温は20℃。
外気温が下がる深夜も扇風行動するのは何故でしょうか?
昼間からずっと曇り空で湿度が高いものの、決して寝苦しい熱帯夜ではありませんでした。
樹洞内の巣は断熱効果が高く、夜も温度が上がりがちなのかもしれません。
巣内の温度を蜂の子(幼虫や蛹)の成長に適した温度に保つために、涼しい外気を取り込んで冷却する必要があるのでしょうか。
樹洞内の温度を測定したいところですが、スズメバチ専用の防護服を着用しないと危なくて近寄れません。
もう一つ大胆な仮説を思いつきました。
扇風行動が始まるとブブブブ♪という重低音が長時間響くのですぐ分かります。
樹洞内で反響しているのでしょう。
モンスズメバチの習性を知らない人が真っ暗な森の中でこの重低音を聞いたらきっと不気味に思うでしょう。
暗い森を飛んで帰巣する外役ワーカーに対して巣の位置を知らせるために門衛が羽音を立てている可能性はどうでしょうか。
録音した扇風行動の羽音をスピーカーから流し(プレイバック実験)、外役ワーカーの帰巣能力を撹乱できるか調べたら面白そうです。
まさかコロニー毎に異なる周波数を発していたりして…と徹夜で高揚した脳の妄想は止まりません。
扇風行動の羽音を声紋解析してみる?
夜に扇風役の蜂が見えないときも樹洞内で羽音が聞こえることがあります。
もしかすると、巣内で抱卵のために発熱しているのかもしれません。
創設女王の抱卵行動では確か、羽ばたくことなく飛翔筋を高速に収縮させて発熱することが知られています。
ファイバースコープ・カメラがあれば樹洞内の様子を観察できるのになー、と無い物ねだりしてみる。
夜中に巣材?を咥えたワーカー♀が樹洞の外に出て来ました。(@2:25)
外被を増築する(被膜の閉鎖)のかと思いきや、なぜか幹を歩いてどこかへ行ってしまいました。
やはり照明の悪影響でしょうか。
ところで巣材はどこから集めてくるのでしょう?
遠くへ出かけなくても、樹洞のあるクヌギの幹で樹皮から巣材を調達しているのですかね?
夜になるとクヌギの幹で樹洞の横を小型のクロアリが活発に登り下りしていました。
幹に沿って縦に細長い蟻道のような構造物も見えて気になるのですが、近寄れないのでアリの種類などは調べていません。
モンスズメバチは巣口からアリの侵入を防ぐ対策を何かしているのかどうか、非常に興味があります。
例えば同じスズメバチ科でもアシナガバチ類は巣柄に黒光りするアリ避け物質を塗ることが知られています。
※ 後で読む参考文献。(無料で全文PDFが読めます)
Martin, S. J. "Colony defence against ants in Vespa." Insectes Sociaux 39.1 (1992): 99-111.
同じ夜に、少し離れた樹液酒場を訪れるモンスズメバチの姿も観察しました。
(どの巣から来たのか不明ですけど。)
▼関連記事他種のスズメバチ類は夜になると樹液酒場で全く見かけなくなりました。
夜にミズナラの樹液を吸うモンスズメバチ♀
モンスズメバチの複眼や単眼には何か秘密があるのでしょうか?
ネット検索で調べてみると、興味深い文献を見つけました。(ここで全文が読めます。)
Kelber, Almut, et al. "Hornets can fly at night without obvious adaptations of eyes and ocelli." PloS one 6.7 (2011): e21892.モンスズメバチの複眼や単眼には解剖学的に何も秘密は無かった、という意外な結論のようです。
天気予報が外れ、深夜3:30には小雨が降ってきたので慌てて避難。
少し仮眠してから早朝に様子を見に行くと、樹洞の下に寄生アブが止まっていました。
すぐにモンスズメバチ♀に追い払われ、撮り損ねました。
▼関連記事
寄主モンスズメバチ♀の巣の近くに産卵するムツボシベッコウハナアブ♀
涼しい早朝から扇風行動が見られました。
このときの外気温は22℃。
もうコロニーの活動は昼間と変わりません。
夜の間に樹洞を覆う外被状の被膜が増築され、巣口が更に狭くなっていました。(※追記参照)
モンスズメバチも徹夜で突貫工事を行ったようです。
本種ワーカーの寿命は他種よりも短いのではないか(過労死?)と心配になります。
モンスズメバチのワーカー♀は昼夜を問わず不眠不休で死ぬまで働くのか、それとも交代で休息しながら一日中働くのか、興味があります。
つまり、夜勤と昼勤に分業しているのでしょうか?
個体識別のマーキングを施せば分かる筈です。
つづく→シリーズ#7:寄生者ハネカクシの侵入を阻止
※【追記】
『都市のスズメバチ』p25によると、モンスズメバチは
巣への出入り口付近に立派な目張りをする習性があり、同じような場所に営巣するキイロスズメバチやヒメスズメバチなどと区別できる。
夜の飛翔(出巣) |
夜の飛翔(帰巣) |
外被状被膜の増築 |
巣内の様子 |
全景 |
深夜の扇風行動(写真では羽ばたきが止まって見える) |
翌朝:巣口を塞ぐ被膜が下に伸びた |
突然のご連絡申し訳ございません。
返信削除私テレビ朝日の番組を担当している者で、
スズメバチについて番組で取材しております。
こちらのサイトに載せていらっしゃるスズメバチの動画を
使用させていただきたいのですが、可能でしょうか?
お手すきの際、お返事いただけると幸いです。
よろしくお願いいたします。
お問い合わせありがとうございます。
削除ありがたいお話ですけど、どのような番組なのか、内容によります。
このブログの右側下の方に「お問い合わせフォーム」がありますので、そちらから連絡してもらうと、私とのやりとりが公にならずに出来ます。
その際は返信用メールアドレスを忘れずにお書き下さい。
しぐま さま
返信削除ご連絡ありがとうございます。
早速問い合わせフォームからメッセージを送らせて頂いたのですが、
届いていますでしょうか?
不慣れなもので心配になり、こちらにも
書き込ませていただきました。
メッセージに使用方法・メールアドレス等記載しております。
度重なるご連絡申し訳ございません。
お忙しいとは思いますが、
よろしくお願いいたします。