2013/04/02

ニホンカモシカが冬の川原で小枝を採食【前編】



2013年3月上旬

雪面に残された溜め糞や足跡を辿ってようやく遭遇したニホンカモシカCapricornis crispus)は杉林で休息していました。
やがて河畔林を移動して未だ雪深い川原に下りて行きました。(映像はここから)
この個体は角も耳も正常(無傷)です。
白を基調とした毛皮の左脇腹に黒点が一つ目立ちます。
夏毛でも同じパターンならば個体識別の一助になるかもしれません。

もしかするとこれは偶然の寝癖みたいなもので、毛皮のどこを掻き分けても奥は黒く見えるのかもしれません。
(例えばシロクマの地肌は黒いというのは動物雑学の定番ですね。)

道中で枝先を採食しています。
手前の茂みが邪魔なので、こちらも撮影アングルを求めて少しずつ移動しました。
カモシカは川べりまで一気に移動すると、柳と思われる潅木を採食開始。
もしかすると採食のついでに眼下腺マーキングも行っているかも知れませんが、よく見えませんでした。

常緑樹の葉すら見当たらない川原でひたすら柳の冬芽や枝先を食べ続けています。
積雪期に観察したニホンカモシカの採食メニューがまた一つ追加できて嬉しいです♪
カモシカは口が届く範囲の小枝しか食べられないようです。
シカのように後脚で立ち上がって採食する行動は終始見られませんでした。
飼育下のカモシカでも稀にしか見られないそうです。
我々ヒトやニホンザルとは違って手が使えない四足歩行の草食獣のもどかしさを感じます。
一度だけ、前脚の蹄で小枝を踏み付けて折り曲げ、食べやすいよう雪面に押さえつけてから枝先を採食しました。@8:39

このとき私は河岸段丘(…と呼ぶには小規模ですけど)の林縁斜面に立って潅木の隙間から見下ろすアングルで隠し撮りしています。
撮影の合間に少しずつ移動して足元でザラメ雪の音を立てる度に、カモシカは振り返ってこちらを凝視します。
カモシカのすぐ横を谷川が流れていて水音がうるさくても、こちらの物音には敏感です。
近眼のカモシカに果たして見えているのか分かりませんが、こちらがしばらくフリーズ(静止)しているとようやく警戒を解いてくれて採食を再開。

工藤樹一『カモシカの森から―白神・津軽 北の自然誌』p144によれば、

特にカモシカは、自分より高い位置にいる自分以外の異種の個体、つまりヒトには神経質だ。
今回これを実感しました。
夢中になって動画を撮り続けました。

つづく→後編


【追記】
中公新書『カモシカ物語』によると

  • 積雪期にはかなりカモシカの行動圏が狭くなる傾向にある。食物が入手できる場所というのは、積雪のために限られた範囲となってしまう。行動圏を狭くしている一つの要因は、最小限の食物と最小限の行動で極力体力の消耗を防ぎ、不足するエネルギーについては秋に蓄積した体力を徐々に消費していく。(p71-72
  • 彼らは時に前肢を枝にかけて手前に引き寄せたり、幹に両前肢をかけて立ち上がって高い所のものも食べる。(中略)ことにえさの乏しくなった冬の間に行うことが多いようである。(p73






飛べ!アオサギ【冬の野鳥:ハイスピード動画】



2013年1月上旬

川に佇むアオサギArdea cinerea jouyi)にレンズを向けると、警戒してすぐに後脚で踏み切って飛び立ちました。
なんとか流し撮りで飛翔シーンの羽ばたきを220 fpsのハイスピード動画に収めることが出来ました♪
融雪溝から滝のように流れ込む水しぶきがスローモーションで良い味を出しています。


2013/04/01

ニホンカモシカの溜め糞と小便跡@雪面

2013年3月上旬

谷川沿いの雪原(川原)でニホンカモシカ(Capricornis crispus)の足跡を辿っていたら、大木(樹種不明)の陰に溜め糞を見つけました。
風雪を凌げるここをおそらく塒(ねぐら)としていたと想像されます。※

※ 【追記】『野生のカモシカ:その謎の生活を追う』p170によると、カモシカは自分たちの休息する場所には絶対に糞をしないそうなので、塒ではなくただのトイレかもしれません。一方、宮崎学『森の写真動物記〈7〉草食獣 (森の写真動物記 7)』には異なる見解が書いてありました。「カモシカは夜、雪の中に少し穴をほって休みます。そうした場所には、細長い粒状のふんが、かたまって落ちています。」(p12より)宮崎氏の見解の方が、今回の私の推測・解釈と合います。


関連記事(10年後の撮影)▶ 雪山でニホンカモシカの塒(ねぐら)を見つけるまで【アニマルトラッキング】 




雪面に大量の溜め糞が2回に分けて?排泄されていました。
新鮮な糞の状態からカモシカの健康状態は良好のようです。
一つの溜め糞の横には排尿で溶けた雪の跡も見つかりました。
写真で記録しただけですが、動画でも撮れば良かったですね…。


溜め糞@全景

降雪をしのげる大木の下を塒としている様子

溜め糞と小便跡@雪面





15cm定規で採寸



カモシカの小便跡@雪面


塒(ねぐら)から改めて雪面に残された足跡をトラッキング開始。
ニホンザルの群れが通った足跡と交差していて分かり難いのですが、しばらく進むと雪面に再びカモシカの溜め糞を発見しました。
杉林と雑木林の境を歩いている途中に再び便意を催したのでしょうか。
今度は動画でも記録しました。

『Winter Field Guide SNOW FOREST 冬の森へ』p79によれば、カモシカの足跡は

雪の上を歩くときは、前足の足痕の一部分に後足が重なるため、はっきりと残るのは、後足のひずめのあとです。







興味深いこと、今回の溜め糞のすぐ横に一匹のクモが居ました(種名不詳)。
触肢の状態から亜成体♂のようです。
糞に集まる虫を捕食するため待ち伏せしているのかと一瞬思いました。

しかし触れても動きません(仮死状態?)。
雪山の春は未だ遠く(気温が低く)ハエも飛んでいませんし、私の考え過ぎでしょう。

虫を誘引するような糞の臭いは特に感じませんでした。
おそらく雪の重みで折れた枝と一緒に、越冬していたクモが林床に落ちてそのまま凍えてしまった(行き倒れ)のだと想像しました。

足跡のトラッキングを再開すると、私が数時間前に歩いたスノーシューの踏み跡の上にカモシカの足跡が付いています。
明らかについさっき通った証拠です。
案の定、前方にカモシカを見つけました。
ようやく糞と足跡の主まで辿り着きました。

つづく→採食行動

【追記】

一説によればニホンカモシカの糞も溜糞であるという。だが、タヌキのそれとは多少異なる。社会的な意味をもつ共同トイレなのかどうかまだ確実ではないし、規模が大きいところからも「糞場」と呼ぶのが妥当なところであろう。(中略)糞をどのような目的で小山のように積み上げるのか、まだ良くは分かっていない。(『イヌはそのときなぜ片足をあげるのか:動物たちのウンコロジー』p116より)



【追記2】
平田貞雄『ニホンカモシカ・ミミの一生』によれば、
 カモシカは生活域内で、だいたいきまった場所で排便します。その場所を「ふん場」と呼びますが、山地で生活している場合には、斜面の棚状の地形のところをふん場とします。そういう地形のところはそんなにたくさん無いから同じ場所でふんをすることになり、そこにはふんが小高く積もります。
 そして、ふん場にはかなりこだわるようです。(中略)
 山の麓の方とか、平地の森林内で生活しているカモシカの場合は、棚状の地形に似たところ、たとえば小高い土手のわきなどをふん場とします。(p78-79より引用)




クモ♂亜成体@ニホンカモシカ溜め糞横


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