2021/11/03

渓流で激しく縄張り争いするオニヤンマ♂の謎【HD動画&ハイスピード動画】

 

2021年7月下旬・午前7:30頃・晴れ 

立派なオニヤンマ♂(Anotogaster sieboldii)が渓流でスギの落枝に翅を広げて止まっていました。 
どうやら渓流の一区間に縄張りを張っているようです。 
隣の縄張りの個体(♂?)が侵入すると、止まり木から直ちに飛び立って激しい空中戦を繰り広げ、侵入者を追い払いました。 
縄張り争いの後は渓流の上を低空で往復パトロールしました。 
このとき日陰の区画まで行っても、すぐに日向の区画に戻って来て、先程とほぼ同じ止まり木に着地しました。 

見応えのある激しい空中戦が2回撮れたので、1/5倍速のスローモーションでリプレイをご覧ください。 (@1:06、4:24)
求愛行動ではなさそうです。 
渓流の真上を2匹が互いにグルグル回っています。 
戦闘機の空中戦と同じく、相手の背後をとろうとしているのかな? 
喧嘩の決着がどうやってつくのか、不明です。 
空中で相手にぶつかったり噛み付いたりすることはありませんでした。
あまりにも動きが激しいので、喧嘩の相手がオニヤンマ♂かどうか、映像からは確認できません。 (ハイスピード動画で記録できなかったのは残念。) 

最後は同一個体の♂がお気に入りの止まり木(スギ落枝)から飛び立つ瞬間を狙って、240-fpsのハイスピード動画でも撮ってみました。(@7:10〜) 
スローモーションにすると、朝日を浴びた清流の水面がキラキラと光って映えますね。 
画面左上から飛来した別個体の影がちらっと見えました。 
それに反応して、止まり木のオニヤンマ♂は即座に迎撃発進します。 
飛び立った直後に左急旋回し、侵入者を追い払いに飛んで行きました。 

てっきり私はオニヤンマ♂が縄張りを張って交尾相手の♀を待ち構えているのだと思い込みつつ観察していました。 
ところが手元にある資料を漁って復習してみると、オニヤンマ♂の探雌行動は縄張り型ではないと知りました。 
つまり、今回のオニヤンマ♂は獲物を捕食するために止まり木で待ち構えていた、ということになります。 
(オニヤンマの)成熟♂は夏の朝夕を中心に、木陰の多い細流に沿って長距離を往復飛翔しながら♀を探す。川沿いの林道上などもよくパトロールする。(『日本のトンボ』p291より引用)

この行動は私も観察済みです。 

関連記事(8年前の撮影@里山の林道)▶ 縄張りを巡回するオニヤンマ♂の飛翔【ハイスピード動画】


少し古い本ですが、『トンボの繁殖システムと社会構造 (動物 その適応戦略と社会)』によると、 

オニヤンマやムカシトンボなどでは、♂は縄ばりをもたないで広く♀を探し回る。トンボの♂が♀を獲得するために縄張りをもつか、それとも探索するかは、種によって固定されたものであるという考えが以前は根強かった。 (p63より引用) 


新井裕『トンボの不思議』によれば、
 さほど忍耐力を持ち合わせないトンボの場合には、♀が卵を産んでいそうな場所を探す積極戦法をとる。その代表がオニヤンマで、川に沿って行ったり来たりしながら♀を探す。産卵している♀を見つけると、そっと近づいて狙いを定め、次の瞬間♀に飛びついてゲットする。♂同士が出会うと追いかけるものの、あまり激しい争いはしない。 (p46より引用)

しかし、これらの本に書いてあることは果たして本当でしょうか? 
今回動画に撮れた行動は、縄張り行動でも説明できそうです。 
この地域の個体群だけ、あるいはこの時間帯だけ、に見られる特殊な行動なのでしょうか? 
オニヤンマ♀♂が出会ってから交尾を始めるまでの決定的瞬間を私は未だ見たことがないので、それが今後の宿題です。 
編集でカットしたのですが、実際は止まり木でオニヤンマ♂は長々と休息していました。 
その間に近くの岸辺の濡れた石の上をハエが徘徊しても、横に居るオニヤンマ♂は狩ろうとせず無反応でした。 
止まり木のオニヤンマは上しか見てないのかもしれません。
飛び立ってから止まり木に戻ってきたオニヤンマ♂が空中で狩った獲物を咥えていたことは一度もありませんでした。
やはり獲物ではなく交尾相手の♀を待ち伏せしていたような気がします。

それともまさか、私が撮ったのはオニヤンマ♂ではなく別種のヤンマなのですかね?


【追記】
灯台下暗しというか、wikipediaに詳しい解説が載っていたのを見落としていました。
(オニヤンマは)成熟すると流水域に移動して、オスは流れの一定の区域をメスを求めて往復飛翔する。従来、この往復飛翔は縄張り維持とされていたが、最近の研究で、オスは羽ばたくものはすべてメスと見なしてしまい、出会うオスをメスと見なして追いかけ、縄張り維持でないことがわかった。(中略)
オニヤンマのオスは流れの一定区域をパトロールし、侵入する同種個体に接触を図る。オスに出会うと激しく追いかけて排除し、メスに出会うと捕まえて交尾をおこなう。

この記述によれば、今回私が撮影した空中戦は2匹の♂が互いに♀だと誤認して追尾し合い、縄張り争いのように見えただけ、ということになります。

後半の下線部はまさに縄張り行動だと思うのですけど、前後半で筆者が違うのでしょうか?

次に機会があれば、♀が飛来するまで待って、どうなるか見届けたいものです。

♂同士が戦って♀を獲得する動物の中には、生まれつき体格に劣り喧嘩に弱い♂個体はスニーカー戦略(サテライト戦略)という裏技で子孫を残そうとする例が知られています。

つまり♂の繁殖戦略に個体差があっても不思議ではありません。

あえて個人的な仮説を立てるならば、オニヤンマでも強い♂は縄張りを張って♀を待ち伏せし、縄張りを獲得できなかった弱い♂個体が♀を積極的に探索する放浪の旅に出るのではないでしょうか?

トンボの古い図鑑ではどう説明されているかと言うと、

 未熟な(オニヤンマの:しぐま註)成虫は林冠の樹梢をしばしば数匹〜10数匹の小群をつくって高飛するが、夏日やぶのそばの路上の同じ場所を往復飛翔する性質のあることはよく知られている。また成熟した♂は流れの上を往復飛翔して縄張りをつくりパトロールする。(保育社『原色日本昆虫生態図鑑IIトンボ編』(1969年)p100より引用)

 


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