2021/04/07

寄主ナシケンモン(蛾)幼虫の体外に脱出して繭を紡ぐサムライコマユバチ終齢幼虫の群れ(1)

 

ナシケンモン(蛾)の飼育#8

前回の記事:▶ 体内寄生されたナシケンモン(蛾)幼虫の異常な巣作り【200倍速映像】
2020年11月上旬・午後16:45〜21:15・室温22.0℃ 

ベニバナボロギクの葉裏で巣を作りかけたまま力尽きたように静止していたナシケンモンViminia rumicis)の幼虫から遂に寄生蜂の幼虫が一斉に脱出を始めました。 
この日はたまたま他の飼育ネタを撮影していたので、三脚もメインのカメラも使えません。 
仕方がないので、慌ててハンディカムで手持ち撮影することにしました。 
適当に時間を空けて1分間撮影した映像をつなぎ合わせ、タイムラプス風のステップビデオにしました。 
コマユバチ幼虫が寄主の体表を食い破って脱出する瞬間を撮り損ねたのが残念です。

白っぽい(薄黄色)蛆虫のような寄生蜂の終齢幼虫が寄主の背側から何十匹も一斉に脱出して蠢いています。 
各個体は脱出地点(寄主の体表)で後端を固定すると、口から白い(薄い黄色?)絹糸を吐きながら上半身を振り立てて繭を紡ぎ始めました。 
寄主のナシケンモン幼虫がしがみついていたベニバナボロギクの葉がどんどん萎れてくるので、撮影しやすいよう切り落として卓上に置きました。(向かって左が寄主の頭部です) 
これからコマユバチ幼虫の群れは合同で繭塊を紡ぐのですが、重力の向きが変わったせいで繭塊の形状に影響を与えてしまった(不自然な形になった?)かもしれません。 

脱出したコマユバチ終齢幼虫は30〜40匹?
体内を散々食い荒らされ体表のクチクラを一斉に食い破られても、寄主のナシケンモン幼虫は「虫の息」ながら依然として生きていました。 
葉裏の主脈に口を付けるように静止していますが、ときどき緩慢に動いています。 
途中から採寸代わりに1円玉(直径2cm)を横に並べて置いてみました。

初めは寄主の右側から脱出したコマユバチ幼虫の方が多いように思ったのですが、どうでしょう?(左右非対称に脱出?) 
それぞれの寄生蜂(コマユバチ科サムライコマユバチの一種?)幼虫の下部から次第に薄黄色のフワフワした絹糸で覆われてきました。 
繭塊の土台から作っていくようです。 
寄主ナシケンモン幼虫の姿が寄生蜂の繭塊に覆われて見えなくなってきています。 
コマユバチ幼虫の体も自ら紡ぐ繭塊の中にほぼ埋没しつつあります。 

もしピンセットなどで寄生蜂の終齢幼虫を寄主から引き剥がして単独で放置したら、自力で個別の繭を紡げるのですかね? 

繭塊が少しずつ大きくなると、寄主の体表を離れて左右にもはみ出して営繭しているコマユバチ幼虫の数が増えました。 
ナシケンモン幼虫がしがみついていた葉の向きを私が途中から撮影のために変えてしまったので、重力環境の変化が繭塊の形状に影響を与えてしまったかもしれません。 
もし葉が自然に垂れ下がったままコマユバチ幼虫群に営繭させたら寄主の体全体を覆う球状の繭塊になったはずです。 

三田村敏正『繭ハンドブック』のp90に、ナシケンモンを寄主とするコマユバチ科サムライコマユバチの仲間(Cotesia sp.)が作った繭塊が紹介されていました。 
同種かどうか分かりませんが、私が今回観察したのもおそらくサムライコマユバチの一種なのでしょう。
▼関連記事(13年前の撮影) 
ツガカレハ(蛾)幼虫に寄生していた蜂の造繭@接写

『寄生バチと狩りバチの不思議な世界』という凄い本を読んだばかりなので、興味深いです。 
本をただ読むだけと自分の目で観察するのでは大違いです。
今回のトピックと一番関係の深いのは、中松豊「内部寄生の謎:危険な体内環境を支配する」と題した第6章です。
アワヨトウという蛾の幼虫に寄生するカリヤサムライコマユバチの生活史を詳しく研究した結果をまとめた総説です。
カリヤサムライコマユバチの寄生様式を専門的に分類すると、飼い殺し型の内部捕食性多寄生蜂になります。 
カリヤサムライコマユバチ幼虫は脱出の際、足場を作るためにアワヨトウ幼虫の体内で糸を吐くが、これはアワヨトウ幼虫の体を内側から縛り、動けなくするという機能も兼ねていた。(p127より引用)
おおまかなストーリーを既に知っていた私が、本書を読んで一番驚いたのはこれでした。
寄生バチ幼虫が一斉に脱出する前に寄主の幼虫が動けなくなるのはてっきり体内の筋肉組織を食い荒らされたせいだと私は思い込んでいたので、とても勉強になりました。
少し長くなりますが、コマユバチ幼虫が寄主から脱出する方法について更に詳しい解説を引用します。
ここまで詳細な脱出過程の記述を他の本で読んだことがありません。
 カリヤサムライコマユバチ幼虫は、アワヨトウ幼虫から脱出する際、アワヨトウ幼虫の体液を一斉に飲む。そうするとアワヨトウ幼虫の体の体積は減って、ハチ幼虫の体の体積は増える。そのため、カリヤサムライコマユバチ同士の距離が近くなり、この機会を捉えて一斉に糸を吐き出す。このアワヨトウ幼虫体内に縦横無尽に走る糸の隔壁が、カリヤサムライコマユバチ幼虫のアワヨトウ幼虫から脱出する際の足場となる。
 普段アワヨトウ幼虫の体液のなかでカリヤサムライコマユバチ幼虫は浮遊生活をしているが、これから脱出するにあたってアワヨトウ幼虫の皮膚を大あごで切り裂かなければならない。そうすると、足場のない水中で皮膚に圧力をかけるのが難しい。しかしサムライコマユバチは前述の糸でつくった隔壁を足場として、大あごを立ててアワヨトウ幼虫の皮膚に圧力をかけ、さらに頭を前後に振ることによって物理的に切断していく。(p126より引用)
下線を引いた「寄主の体液を一斉に飲む」という点も初耳でした。
今回ナシケンモン幼虫が営繭準備のために巣を作り出したということは終齢幼虫のはずです。
それなのに正常な(寄生されていない)終齢個体より体長が小さかった理由がこれで分かりました。

私が更に驚愕したのは、寄主幼虫の皮膚を内側から一斉に食い破って大量の寄生バチ幼虫が脱出してくるのに体液が1滴も漏れない理由も解明されていたことです。
カリヤサムライコマユバチ幼虫が脱出する際、最後の幼虫脱皮をおこない、自身は3齢幼虫となって外へ出ていくが、アワヨトウ幼虫体内に残された2齢の脱皮殻が、破れた皮膚の栓となって、アワヨトウ幼虫の体液が外に漏出しないよう防いでいる。(同書p129より引用)
次に機会があれば、寄主幼虫の死骸を解剖して、皮膚の裏側に埋め込まれたコマユバチ幼虫の抜け殻を探してみるつもりです。



 ↓【おまけの動画】 
同じ素材を5倍速と10倍速に早回しにした映像をブログ限定で公開しておきます。 
せっかちな方はこちらをご覧ください。 
手持ちのハンディカムで撮ったので手ブレがあります。

 



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