2023/02/16

ニホンカモシカは野山で有毒植物のトリカブトを味見するか?

 



2022年9月中旬・午前11:40頃・くもり 

山中で出会ったニホンカモシカ♂(Capricornis crispus)はスギ林でにわか雨をやり過ごした後、林道を横断して横の湿地帯に入りました。
その辺りは沢の水が流れ込んで小さな池になっている他、周囲の地面もジメジメしています。
カモシカ♂は草を食みながらこちらを振り返りました。 
股間でブラブラ揺れる睾丸が見えたので♂と分かりました。 
外性器でカモシカの性別がしっかり見分けられたのはきわめて珍しく、ラッキーでした。 

採食メニューの植物種名を知りたくて必死で目を凝らしても、肝心の口元がなかなか見えません。 
カモシカが佇んでいる手前にはイヌタデの群落がピンクの花を咲かせていますが、カモシカがイヌタデを食べたかどうか不明です。 
他にはミゾソバの白い花、ツリフネソウのピンクの花などが見えます。 
採食メニューはイネ科の草(ヨシなどの単子葉植物)ではなく、広葉の草でした。 
カモシカは何か蔓植物の葉を蔓ごとむしって食べました。 
ようやくミゾソバの白い花を食べる様子がしっかり撮れました。 
ちなみに、別の地点に設置したトレイルカメラでもカモシカがミゾソバを好んで食べる様子が録画されていました。(映像公開予定) 

秋の花が咲いている草地(山中のお花畑)で、トリカブト(詳しい種名は知りませぬ)の紫の花もたくさん咲いているのが気になりました。 
ニホンカモシカ♂は藪の中を歩きながらあれこれと摘み食いしていますが、トリカブトの葉や花は一度も食べませんでした。 
もしトリカブトの葉を食い千切ったら、紫の花が激しく揺れるはずです。
トリカブトにはアコニチンという猛毒のアルカロイド(神経毒および心臓毒)が全草に含まれています。 
カモシカはトリカブトの危険性を本能で知っているのか、それとも味見して学習するのでしょうか? 
植食性の草食獣は生息地に自生する有毒植物を忌避するように進化したと考えられます。 
逆に言うと、有毒植物を忌避できない草食動物はとっくに自然淘汰されたはずです。 
味覚が鋭敏になって、危険な有毒植物なら少し味見しただけで不味く感じるように進化したのかな? 
それともカモシカは味見しなくても生まれつきトリカブトを忌避するように進化したのでしょうか? (匂いや見た目で忌避?)
カモシカは草食性有蹄類にしては珍しく、基本的には群れを作らずに単独で暮らします。
幼獣が離乳してから独立するまでの期間に、どの植物が食べられるか母親がいちいち教育したとは思えないのですが、カモシカ母子の採食行動をもっとしっかり観察しないことには決めつけられません。



【追記】
平田貞雄『ニホンカモシカ・ミミの一生』という本は、生後間もなく母親とはぐれたニホンカモシカの幼獣♀を保護した後の、長期の飼育観察記録です。 
様々な植物を与えて食べるかどうか丹念に調べ上げていて貴重な資料なのですが、当然ながら猛毒のトリカブトを与えてみたという記録は書いてませんでした。

植物は食害から身を守るために毒を蓄積します(化学防衛)。
毒を生産するのもコストがかかりますから、敵を殺すのが第一の目的ではなく、食害を避けることができればそれで良いはずです。
毒を持つ動物は派手な警告色を身にまとって捕食者にアピールする例が多く知られています。
草食動物は夜行性のものが多いですから、植物の警告色はあまり有効ではないでしょう。(昼間しか見えない)
植物も毒と一緒に強烈な味や匂いのする物質を含んでいれば、草食動物が少し味見をしただけで毒の作用と合わせて学習し、その後は忌避してくれることが期待できそうです。
有毒植物は視覚ではなく味覚による「警告味」で草食動物に食べられないよう強くアピールしているのではないか、というアイデアを思いつきました。
トリカブトの場合、猛毒のアコニチン自体がたとえ無味無臭でも、強烈な(独特な)味のする物質を併せ持っていれば良さそうです。
更にもう一歩妄想を進めると、有毒植物の警告味が共通になるようにミューラー型擬態するかもしれませんし、無毒の植物もその味に便乗してベーツ型擬態するように進化するかもしれませんね。


【追記2】
カモシカ幼獣を生後1ヶ月から2年間飼育した武田修『ロッキーへの手紙』によると、
・ ミルクの時期も終わり、そろそろ山の草や葉を食べさせたいと思った時、ロッキーにとって、栄養になる草、栄養にならない草、毒になる草、ならない草を、どう選別し、どのように教えたらいいのか、ひどく悩みました。しかし、カモシカの体の中には、解毒酵素があり、まずは食べてみて判断する特性があることがわかりました。(p69より引用)
・食べられる葉とそうでないのは体験的に見分けます (p70より引用)
・ ロッキーは、山で木の葉を食べる際、どんなにおいしい葉であっても、最後まですべて食べ尽くすということがありませんでした。先のほうだけを少しだけ食べて、次の木に移動するのです。(中略)同じ木から大量に食べないのは、カモシカがもっている習性のひとつで、自然と共生していくための知恵なのでしょう。自分の縄張りをひと回りして元の木に戻る頃には、その木はまた成長していて、おいしい葉が食べられるというわけです。(p113〜114より引用)
筆者の飼育体験によれば、幼獣に毒草をいちいち教えなくても大丈夫とのことです。
最後に記述されたカモシカの食べ方は、毒草対策にもなっている気がします。(毒味)


【追記3】
大町山岳博物館『カモシカ:氷河期を生きた動物』という本に「有毒植物の採食」について書かれた章がありました。(p36〜37)
しかしその中に、トリカブトについての言及はありませんでした。

ハエが群がる下痢便状の物は溶けたスッポンタケか?

 

2022年9月上旬・午前11:50頃および12:10頃・くもり 

里山の山腹をトラバースする平坦な小径に少量の下痢便が山道に残されてました。 
緑がかった黄土色の液状便です。 
ハエ類が獣糞に集まっていたのに、私が近づいたことで一斉に飛び去ってしまいました。
しばらくその場でじっと待つと、徐々に舞い戻ってきました。 
きれいな緑色や赤緑色の金属光沢に輝くキンバエ類の種類を私は見分けられないのですが、大小様々、♀♂混在のキンバエ類が下痢便に群がり、興奮したように離着陸を繰り返しています。 
ニクバエの一種も1匹だけ飛来しました。(@0:30〜) 
新鮮な下痢便の表面にハエが止まっても、粘性が高く表面張力で軽量のハエは足が沈みません。 
口吻を伸ばして糞の表面から吸汁しています。 

赤緑色のメタリックカラーの個体は、どうやら獣糞が目当てというよりも求愛しているように見えます。 
別個体(メタリックグリーン)の背後から忍び寄りマウントを試みても足蹴にされていました。 
素人目には体色が異なる別種に見えるので、誤認求愛なのでしょうか。 
せっかく面白くなりそうなのに、撮影中はこの行動に気づきませんでした。 

この山道を一度通り過ぎ、20分後にまた戻ってきました。(@1:08〜)
糞の右上の落ち葉に見慣れない小さなハエが来て居ました。 
黒っぽい金属光沢があり(構造色)、林床を歩き回りながらも翅を激しく動かしていました(翅紋誇示?)。 
ツヤホソバエ科の一種ですかね?(当てずっぽう) 
下痢便を占拠しているキンバエの群れに遠慮しているのか、謎の小バエは獣糞に近づくどころか離れて行きました。 

動画撮影中にふと横を見ると、アカバトガリオオズハネカクシ(旧名アカバハネカクシPlatydracus brevicornis)がやって来ました。 
タヌキの溜め糞ではハエ類と並ぶ常連客です。 
しかしカメラを向けた途端に後翅を広げて飛び立ってしまいました。 
アカバトガリオオズハネカクシの離陸・飛翔シーンは初見です。 
まずは1/5倍速のスローモーションでご覧ください。(@1:40〜) 
直後に等倍速でリプレイ。 
ハネカクシの仲間は鞘翅(前翅)が短いだけで、折り畳んでおいた透明な後翅を広げて飛ぶことができるのです。
「糞便臭に誘引されて飛来したアカバトガリオオズハネカクシが獣糞に着陸」というストーリーを思い描いたものの、どこに行ったのか見失ってしまいました。
自然観察では予測が裏切られてばかりで、なかなか思い通りに行きません。

さて、一体これは何の糞でしょう? 
これまでの調査でアナグマは軟便や下痢便が多いと分かったのですが、こちら側の山系ではトレイルカメラに写ったことがこれまでたった一度しかありません(生息密度がきわめて低いらしい)。 
タヌキの溜め糞という感じではなく、獣道を移動中に腹痛を我慢できず下痢便を漏らしてしまったように見えます。 
同じ地点(22b)に繰り返し通って排便するのなら、トレイルカメラを設置して糞の主の正体を突き止めることが可能です。 
しかし後日何度か通っても、同じ地点に獣糞は二度と残されていませんでした。 
野生動物のフィールドサインに関する本を読んでも、健康時の固形糞の典型的な特徴しか書いておらず、体調が悪いときの下痢便については見分け方が載っていません。 
プロのフィールドワーカーは獣糞の匂いだけでも種類をほぼ嗅ぎ分けられるのだそうです。 
しかし大型の重いザックを担いで山中を歩き回っていると、獣糞の匂いを嗅ぐためにザックをいちいち下ろすのが億劫になってきます。 
この日バテていた私は糞便臭のチェックを怠り、撮影も立ったままで済ませました。 
まだまだ修行が足りません。 
後で思うと、わざわざ地べたに這いつくばって獣糞の匂いを直に嗅ぐ必要はなくて、適当な落枝を拾って獣糞をつついてみてから枝先の匂いを嗅げば済むことでしたね。 

鳥の糞または白いキノコのような塊が下痢(?)の海に浸っているのが気になります。 
もしかして、これは下痢状の獣糞ではなく、スッポンタケなどのキノコ子実体のグレバがドロドロに溶けた跡なのかもしれない、と今思いつきました。
(スッポンタケの)傘の表面に悪臭のする粘液質のものが一面に現れ、悪臭がするようになる。これはグレバで形成された胞子を含むもので、その悪臭は、ハエなどを誘引し、胞子を運ばせるためである。キノコ本体は一日でとろけるように消滅する。(中略)傘はグレバの色で暗緑色に見える。 (wikipedia:スッポンタケより引用)
私はキノコについて全くの勉強不足なので、聞きかじりからの思いつきです。 
スッポンタケの子実体が溶けると、これほど大量の粘液質の物が残るのでしょうか。 
1本だけでなくスッポンタケの群落があったのかな?
現場でもっと興味を持って、謎のペーストを小枝でかき回したりして中を探ってみるべきでしたね。 
獣糞ならば未消化の種子などが含まれていたはずです。 
改めて謎のペーストを見直すと、獣の下痢便にしては均一過ぎますし、少なくとも表面には植物の種子は見えません。

獣糞ではなくスッポンタケの溶けたグレバだとすれば、キンバエやニクバエ以外の食糞性昆虫(アカバトガリオオズハネカクシやツヤホソバエの一種)が匂いに騙されかけても結局やって来なかった理由が説明できそうです。 
いつか山でスッポンタケの子実体を見つけたら、成長と分解の過程を微速度撮影してみたいものです。 
キノコ採りの名人になると鼻が利き、山中で独特のグレバ臭がしただけで辺りにスッポンタケが生えていると分かるのだそうです。

2023/02/15

早朝の林道にペアで現れた謎の野鳥:名前を教えて【トレイルカメラ:暗視映像】

 

2022年9月上旬・午前5:10頃・(日の出時刻は午前5:07) 

里山の林道で水溜りのある区間を自動センサーカメラで監視していると、早朝に早起きの鳥が現れました。 
日の出直後ですけど、山の西側斜面には未だ朝日が射しておらず、赤外線の暗視映像で記録されていました。

林道脇の法面から湾曲しながら伸びたシナノキに地味な鳥が止まっています。 
シナノキの止まり木で方向転換してから右下に飛び降りました。 
続いて画面の左上隅から別個体が右下に飛び降りました。
スロー再生で見直しても、よく分かりません。
しばらくすると、画角の下端からひょっこり登場し、右上に飛び去りました。 
入れ替わるように別個体が右上から左下へ飛び降りました。 
この2羽は♀♂つがいなのかな? 
水溜りで朝一の水浴びをしたり水を飲んだりするのかと期待したのですけど、何もしないで飛び去りました。

腹に鱗模様があり、トラツグミかと思ったのですが、背中は鱗模様ではなく、のっぺりしています。 
白黒の映像とカラーの図鑑を見比べるのは難し過ぎて、私には分かりませんでした。 
この鳥の名前をどなたか教えてもらえると助かります。 

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