2026/01/08

交尾したまま飛ぶツマグロヒョウモン♀♂【FHD動画&ハイスピード動画】連結飛翔

 

2024年10月上旬・午後12:10頃・くもり 

稲刈りが済んだ田んぼの農道で、ツマグロヒョウモン♀♂(Argyreus hyperbius)が交尾していました。 
腹端の交尾器を連結した状態で反対向きに交尾しています。 
その場で翅をゆっくり羽ばたいています。 
交尾中の♀♂ペアは初見です。 



飛び立つ瞬間を狙って、240-fpsのハイスピード動画に切り替えました。(@0:55〜) 
チョウは一旦交尾を始めると、危険が迫っても連結したままで飛び去ります。 
本種は翅の斑紋に性的二型があり、翅表の翅頂付近に目立つ白帯があるのが♀です。
今回のツマグロヒョウモンのペアでは、♀Lが先に反応して飛び立ち、♂Rを引きずるように飛び去りました。 
このような連結飛翔を「←♀+♂」と表記します。 
♀に連行される♂は空気抵抗を少しでも小さくするために、翅を閉じています。 
もしも逆向きにつながった♀♂ペアが各自バラバラに羽ばたいたら、連結部が千切れてしまうはずです。

急いで高画質のFHD動画モードに切り替え、飛び去る♀♂ペアを撮影しました。 
少し飛んだだけで農道に着地したのですが、私が動画を撮りながら近づいたら、再び連結したまま飛び去りました。 
あまりにも手ぶれが酷い動画になってしまったので、この部分だけ1/2倍速のスローモーションにしました。(@1:07〜) 
2回目の飛び立ちも、♀が主導権を握る「←♀+♂」タイプでした。

ツマグロヒョウモン♀♂は横の刈田に着陸すると、ようやく落ち着いて交尾を続けています。(@1:40〜) 
♀♂共に、その場で翅を軽く開閉していて、その場で方向転換しました。 

♂の翅を注意深く観察すると、後翅に左右対称の損傷がありました。 
これは天敵の鳥に襲われかけたビークマークです。 
命拾いした後で♀と無事に交尾できたラッキーな♂個体であることが分かります。 
一方、♀の翅は無傷できれいな状態でした。 

交尾中も翅の開閉を続けているのは、何か危険が迫ったらいつでも飛んで逃げられるように、準備運動しているのかもしれません。 


【考察】 
チョウの連結飛翔は、個人的にしつこく追求しているテーマの一つです。
チョウの種類によって「←♀+♂」「←♂+♀」飛び方のタイプが違うという説があるので、ハイスピード動画でコツコツ撮り溜めています。

保育社『原色日本昆虫生態図鑑IIIチョウ編』(1972)という古い図鑑には次のような記述があります。
交尾しながら飛ぶときに♂が飛ぶか、♀が飛ぶかは種によって一定していて、属や科についても通則がある。(中略)Donzel (1837)は「交尾中の飛翔形式は一つの属のすべての種類について一定しており、従って属の限界を決定する重要な特徴となり得る」と強調しており、後世これはDonzel説と言われている。 (p88〜89より引用)
現代でもこのDonzel説は科学的に正しいと考えられているのでしょうか?
チョウに関する本で、最近このトピックを扱わなくなったということは、否定されたのかな?
ChatGPTに質問してみると、かなり否定的な見解でした。
こんなマニアックな話題にもしっかり回答してくれる最近のAIは恐るべしですね。

要点だけ先にまとめます。

  • **Donzel説(交尾中の飛翔様式が属や科で一定し、分類形質になり得る)**は、
    現代では基本的に支持されていません

  • 現在の鱗翅目分類・系統学では、分類形質として扱われていないのが実情です。

  • 最近の本でこの話題がほとんど出てこないのは、研究史的価値はあるが、実証的裏付けに乏しいと判断されているためです。

以下、理由を整理します。


1. Donzel説が生まれた背景(19世紀)

Donzel(1837)の主張は、

  • 当時は

    • 形態形質が限られていた

    • 行動も「種に固有で安定したもの」と考えられがちだった

  • 交尾中に

    • ♂が牽引する

    • ♀が主に飛翔する
      という違いが目立ちやすく、繰り返し観察されるため、

→「これは属レベルで固定した形質ではないか」と解釈された

という、自然史的帰納に基づく説でした。


2. 現代的な評価:なぜ支持されないか

(1) 行動形質は可塑性が高い

その後の観察・実験研究により、

  • 交尾飛翔の主導個体は

    • 個体サイズ

    • 性比

    • 攪乱(捕食者・人為的刺激)

    • 飛翔時点(交尾初期か後期か)
      によって変化し得る

ことが分かってきました。

👉 「常に一定」という前提が崩れた


(2) 系統と一致しない(ホモプラシー)

近代以降の系統研究(形態+分子)では、

  • 交尾中飛翔様式は

    • 近縁種間でも異なることがある

    • 離れた系統で似た様式が独立に現れる

収斂(ホモプラシー)が強い行動形質と理解されています。

これは分類形質としては致命的です。


(3) 分類学の主軸が変わった

20世紀後半以降:

  • Genitalia(交尾器)

  • 翅脈

  • 幼虫形態

  • 分子系統(DNA)

が分類の中核となり、

👉 一時的・状況依存的な行動形質は切り捨てられた

という流れがあります。


3. なぜ最近の本で扱われないのか

あなたの感じている通りで、

  • 現代のチョウの生態・行動学の本では

    • 交尾中飛翔は「逸話的事実」

    • または「逃避行動の一形態」
      として触れられる程度

  • 分類学的意義には触れられないか、完全に省略される

理由は単純で、

分類に使えないことが分かってしまったため

です。


4. 現在の位置づけ(総括)

Donzel説は現在では:

  • ❌ 分類学的通則 → 否定的

  • ⭕ 行動進化・性行動の歴史的仮説 → 研究史的価値あり

  • ⭕ 種ごとの傾向を記述する補助情報 → 限定的に有用

という位置づけです。


結論

Donzel説は
「当時としては鋭い観察に基づく仮説だったが、
現代の科学的基準では支持されていない」

と評価するのが最も妥当です。

古い図鑑がこの説を紹介しているのは、
1970年代当時でもすでにやや古典的だが完全には否定されていなかった名残と考えてよいでしょう。


私もこれまで連結飛翔の事例を撮り溜めながら考察を続け、最近ではDonzel説に対して懐疑的になっていました。
素人ながらあと一歩のところまで来ていたことになります。

前年の個人的考察を再掲します。
その定説はどうも眉唾のような気がしてきました。 
交尾中の♀♂ペアはとても無防備なので、互いに逆を向いて見張りを分担し、360°油断なく見張っているはずです。 
物を投げつけたり敵が襲ってきたりした場合、それを先に見つけた個体が性別に関係なく逃避行動を開始するのが自然ではないでしょうか? 
主導権を握って羽ばたく個体が離陸直後に切り替わる♀♂ペアを私は今まで一度も見たことがありません。 
つまり、試行回数(観察サンプル数)を充分に増やせば、連結飛翔のタイプはチョウの種類に関係なく半々の確率に落ち着くのではないかと私は予想しています。
スローモーションで動画が手軽に撮れる時代が来る前に、昔の先人たちが少ないサンプル数の直接観察から早まった結論に達したのではないか?と私は密かに疑っています。
物を投げつけて交尾ペアを飛び立たせた場合は、どちらの方向からどこを目がけて物を投げたのか(♀♂どちらが先に危険に気づくか)も、記録しておく必要がありそうです。 
交尾中の♀♂ペアが自発的に飛んだ場合でも、上空を別のお邪魔虫や鳥がどの方向から飛来したのか、などの条件によって連結飛翔の結果が影響されそうです。 

生物観察や撮影のアイディアを得られるので、古い本を読むのも私は好きです。
昔の時代の方が観察結果を丁寧に記述してあったりしますから、古い解釈を鵜呑みにさえしなければ、温故知新でそれなりに価値があると思います。

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