前回の記事:▶ ユキツバキの花が咲く春の山道(雪椿)
2023年9月下旬・午後12:40頃・くもり
里山で細い山道に沿って自生するユキツバキの群落を定点観察しています。
秋も深まり果実の表面が赤く色づき始めましたが、未熟な果実は硬いままです。
茶色に完熟した蒴果を1個だけ見つけました。
既に開裂しかけた蒴果の中には種子が2個含まれていて、今にも零れ落ちそうです。
ヤブツバキの種子は、主に重力散布で分布を広げると考えられているそうです。
2個の種子が互いに密着した状態で、果皮から一緒に外れました。
動画を撮りながら片手で種子の癒着を剥がそうとしたら、手元が狂って大事な種子をうっかり1個落としてしまい、林床で見失いました。
(種子散布に私も少し貢献したことになります。)
手元に残った1個のユキツバキ種子の歪な形状をお見せします。
そのまま種子を採集して資料用に持ち帰りました。
ヤブツバキなどツバキ属の実に産卵・寄生するツバキシギゾウムシを長年探しているのですが、私は未だ見つけたことがありません。
そもそもツバキシギゾウムシは寒冷な雪国には分布しないのでしょうか。
山形県はツバキシギゾウムシの分布域の北限に近いのだそうです。
ツバキシギゾウムシ♀が産卵した痕跡を調べたかったのですが、ユキツバキの群落を見渡しても、そもそも果実がほとんど見つかりません。
春にはあれほど多数の花が咲いていたのに、ユキツバキの結実率はとても低いようです。
ユキツバキの花は鳥媒花でもあり虫媒花でもあると考えられるので、雪国の春でも送粉者の数が少ないとは考えにくいです。
『Newton special issue 植物の世界 第1号 ナチュラルヒストリーへの招待』という本でユキツバキの生活史を特集した章を読むと、
林内の群落では、ユキツバキの着実率(花が果実になる割合)はきわめて低く、成熟した果実はまれにしかみられない。しかし、林のへりや伐採跡地など日のよくあたる条件下では花が多く咲くため、果実も比較的多くつく。(中略) 種子が成熟するころには、種子の中身を食べる甲虫であるツバキシギゾウムシ(Curculio camelliae)や落下した果実の果皮を破って中の種子を食べる動物などがおり、被害を受ける。 (p40より引用)ユキツバキの種子散布には重力散布だけでなく貯食型の動物散布も関与するのではないか?と個人的に推測しています。
ユキツバキの分布は、重力散布だけでは説明できないからです。
重力散布や水散布だけでは、ユキツバキの分布は標高が下がる一方です。
ところが、ユキツバキの群落は山中の谷だけでなく尾根にも見られます。(人為的な植栽の結果かもしれません)
動物散布を証明するために、ユキツバキの種子を拾い集めて野外の地表にまとめて放置して齧歯類や野鳥が捕食したり貯食のために持ち去るかどうか、トレイルカメラで監視する計画を立てています。
ところがユキツバキの種子を給餌実験に充分な数だけ集めるのがとても大変なことが分かりました。
これほど結実率が低いユキツバキは、絶滅に向かっているのでしょうか?
挿し木でも増やせるそうですが、遺伝子多様性の低いクローンになってしまいます。
野ネズミの巣穴を発掘調査したり野生動物の糞分析をした際に、ユキツバキの種子が含まれているかどうか、注意して見ていくのも面白そうです。
新潟雪椿研究会による『ユキツバキの果実・種子』と題したPDF資料がインターネット上に公開されていました。
こうした平均値などの統計処理をできるぐらい多数の種子をフィールドで集めるのは、かなり大変そうです。
ユキツバキの種子から椿油を採油したら、希少価値から高級品になりそうです。
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