2023年12月下旬・午後15:39〜19:04・日の入り時刻は午後16:30
シーン1:12/28・午後15:39・気温0℃(@0:00〜)
雪山でスギの木の下に見つけたニホンカモシカ(Capricornis crispus)の塒 をトレイルカメラで監視していると、夕方にカモシカが戻ってきました。
角がほっそりしているということは、若い個体のようです。
性別がどうしても見分けられませんでした。
塒の周囲を歩き回った私の足跡にはあまり気にしていないようで一安心。
カモシカはまず、塒の横に立つスギの幹の匂いを嗅ぎました。
そこで縄張り宣言の匂い付け(眼下腺マーキング)をよくすることが後に判明しました。(映像公開予定)
次に塒の踏み固められた雪面の匂いを嗅ぐと、身震いしました。
左後脚の蹄を使って体の痒い部位(首の辺り? 耳の後ろ?)を器用に掻きました。
前足、後足の順に膝を折ると、塒の雪面にゆっくり座りました。
右(斜面の谷側)を向いた体勢で、反芻を始めました。
最後に咀嚼物を再び飲み込みました。
シーン2:12/28・午後16:50・気温0℃(@2:00〜)日の入り時刻は午後16:30
1時間10分後にカモシカが塒から立ち上がったときには、辺りは真っ暗になっていました。
舌をペロペロ出し入れしながらカメラの方を向いていますが、監視カメラの存在にはまだ気づいていないのか、あるいは気にしていないようです。
右前足を一歩前に出すと、甲や蹄の根元を舌で舐め始めました。
ただの毛繕いというよりも、冷たい雪面で長時間座っていて足が痺れたのかもしれません。(凍傷やしもやけ予防の行動?)
欠伸をしたのですが、吐いた息は白く見えませんでした。
塒で180度方向転換すると、逆向きで座り直しました。
今度は斜面の山側を向いて(顔はスギの幹の方を向けて)座りました。
カメラに対して背を向けたので、気づかれる心配はなくなりました。
座位のまま、首を曲げて右脇腹?を舐めています。
シーン3:12/28・午後17:55・気温0℃(@4:00〜)
約1時間寝た後にカモシカが立ち上がりました。
カモシカが舌をペロペロと出し入れする舌舐めずりの行動が何の意味があるのか、いつも不思議に思います。(※ 追記参照)
立ったままで反芻を開始。
トレイルカメラの方を凝視していたのが目線を外して、斜面の谷側を眺めています。
シーン4:12/28・午後17:58・気温(@6:00〜)
やがてカモシカは塒の雪面に座り直しました。
今度は右向きに戻り、斜面の谷側を向いています。
暗闇でもずっと目を開いたままで反芻を続けています。
夜の塒に座っていても、寝ないで覚醒状態のときがあると分かりました。
シーン5:12/28・午後17:55・気温0℃(@8:00〜)
1時間後に目を覚ましたカモシカが、塒で立ち上がりました。
舌をペロペロ出し入れしてから、カメラ目線になりました。
遂に移動を始めました。
右へゆっくり歩き出し、雪山の緩斜面を谷側へ下りて行きます。
縄張りをパトロールしながら採食に出かけたのでしょう。
向かった先に溜め糞場sr2があるので、尿意(便意)を催して排泄に出かけたのかもしれません。
長時間居座っていても、カモシカは塒 では決して排泄しませんでした。
この日の夜は塒に戻って来ませんでした。
風もなく雪も降らず穏やかな天気で、気温は0℃のまま安定していました。
【考察】
私の撮影スタイルは行きあたりばったりのことが多いのですが、このテーマは何年もかけて段階を踏んで準備して、狙って撮れたので達成感があります。
トレイルカメラで2分間の動画を撮る設定にしましたが、瞼を閉じて寝る瞬間が撮れてない以上、睡眠のための塒とは言えないかもしれません。
あくまでも、「座位休息しながら反芻するためのお気に入りの場所」かもしれません。
しかし、トレイルカメラが動体検知できない休息時間が1時間×3回もあったことから、とりあえず塒で寝ていたことにします。
塒に座って寝ていたカモシカは定期的に(1時間毎)立ち上がって座る向きを変えていることが分かりました。
(寝返りを打つことはありません。)
冷えきった脚を伸ばして血行を良くするためでしょう。
寝起きのカモシカの体温が実際にどれぐらいなのか、サーモグラフィカメラで撮影・測定したら面白そうです。
枯れ草などフワフワの断熱材(寝床)を敷いたりしないで冷たい雪面に直接座って寝るのはいかにも寒そうですし、お腹が冷えて反芻・消化にも影響しそうです。
しかし、体毛や脂肪のおかげで意外と寒さを感じないのかもしれません。
酒井仙吉『哺乳類誕生 乳の獲得と進化の謎 』と題した本(ブルーバックス)を読んで勉強になったのは、
つづく→
哺乳類で効率的に進化した動物が偶蹄目で、かれらは草食性で反芻する特徴がある。(中略) 割れた蹄(偶蹄)であったことで山岳、砂漠、積雪地帯に進出できた。(中略)ニホンカモシカなどは山岳地帯に棲息し雪の上で眠る。(中略)なぜ寒さに強いかといえば、微生物が第一胃で草を分解するとき発生する熱を利用でき、非反芻動物と全く異なる発熱機構を有しているからである。 (p164-165より引用)
体内の発酵熱を利用しているとは驚きました。
反芻する草食動物よりも、キツネなど肉食性の強い動物の方が、雪山で暮らすのは大変そうです。
ニホンカモシカにも解剖学的に鋤鼻器があり、フレーメン反応などに関わるそうです。
しかし、AI(Gemini1.5)に相談してみると、次の回答を得ました。
ニホンカモシカが舌をペロペロと出す行動は、ヘビのそれとは異なり、鋤鼻器に空気中の匂いを送り込むために行われているとは考えられていません。なぜそう考えられるのか?鋤鼻器の構造: ニホンカモシカの鋤鼻器は、ヘビのように口の中に大きく開口しているわけではなく、鼻腔の奥に位置しています。そのため、舌で直接鋤鼻器に空気を送り込むことは構造的に難しいと考えられます。行動観察: ニホンカモシカの舌出し行動を観察しても、ヘビのように舌を細かく振動させたり、先端を鼻先に近づけたりするような行動は確認されていません。
納得しかけたのですが、下線部についてダブルチェックしてもソースが見つからなかったので、要注意です。(AIの回答ではありがち)
さらにGeminiはニホンカモシカの舌出し行動の目的について、諸説を挙げてくれたのですけど、今回の状況で当てはまりそうなものがほとんどありません。
その中でストレス反応説が気になりました。
もしかすると、赤外線による暗視映像撮影でもカモシカはトレイルカメラの存在に薄々気づいていて、不安の現れが舌出し行動なのかもしれません。
野生動物に全くストレスを与えずに観察したり隠し撮りすることは不可能ですが(観測問題)、監視カメラをもう少し塒から離れた位置に設置し直した方が良いかもしれません。
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