2024/03/12

有毒植物ナニワズの熟果を採食するニホンザルの子猿【トレイルカメラ】

 



2023年6月下旬・午後14:10頃・気温27℃ 

ニホンアナグマMeles anakuma)の母子が転出した後の営巣地にニホンザルMacaca fuscata fuscata)の小群が白昼堂々、遊動して通りかかりました。 
母子が連れ立って左下から登場しました。 
母親と思われる♀がアナグマの巣口LとRを順に覗き込んでいる間に、子猿が奥に駆け出しました。 
林床で目立つ赤い実を摘んで採食したようです。 
手前のマルバゴマキの枝葉が邪魔なのですが、1.5倍に拡大して子猿の採食行動をリプレイしてみましょう。 
下草で虫を見つけて捕食(掴み取り)したのではなく、確かに赤い実を摘果・採食していました。

更に別個体が画面の右上隅から登場し、合流した子猿にちょっかいを掛けました。 
子ザルは一時的に樹上に逃げてやり過ごしました。 

平地の二次林にも野生ニホンザルの群れが生息しているとは知りませんでした。 
山から降りてきたのでしょうか? 
平地に点在する二次林が緑の回廊になっているのかもしれません。

トレイルカメラで撮れた動画をその場でチェックしてからすぐに現場検証して、残っていた謎の赤い実の写真を撮りました。 
ヒメアオキかと勘違いしそうになったのですが、調べてみると、ナニワズ(別名エゾナニワズ、エゾナツボウズ)というジンチョウゲ科の落葉小低木と分かりました。 
早春に黄色い花を咲かせていたのを覚えています。 
この時期(6月下旬)、どんどん黄葉して落葉するのが気になりました。 
この二次林は鬱蒼と葉が生い茂り、林冠ギャップがほとんどありません。
てっきり日照不足で小低木の葉は枯れてしまうのかと初めは思いました。 
しかしナニワズは冬緑性で夏に落葉する珍しい植物なのだと知りました。 
ナツボウズという別名はそこから由来しています。
スプリング・エフェメラルと似たような繁殖戦略(フェノロジー)なのでしょう。

驚いたことに、ナニワズの赤い熟果(液果)は有毒なのだそうです。 
花、葉、樹皮、果実など植物全体にクマリン系配糖体のダフィニン(daphnin)を含み有毒です。 
アイヌ民族はナニワズの木から絞った液を矢毒に用いたそうです。 
クマリンは血液凝固を阻害する殺鼠剤として有名です。 
しかし鳥類には毒性が無いらしく、ヒヨドリが熟したオニシバリ(ナニワズの近縁種)の実を丸呑みして未消化の種子を含む糞をすることで種子散布に貢献しているそうです。 
一方、カワラヒワはオニシバリの種子捕食者として関わっているそうです。 



【参考文献】 
鈴木惟司. 南関東における有毒性小低木オニシバリ Daphne pseudomezereum (ジンチョウゲ科 Thymelaeaceae) の果実食者と種子捕食者. 山階鳥類学雑誌, 2016, 48.1: 1-11. 

Google Scholarで検索すると、全文PDFが無料でダウンロード可能です。
読んでみると、カメラトラップを用いた研究でした。
メインのストーリーは鳥類による種子散布ですが、哺乳類についても記述がありました。
オニシバリ3個体の近くでアカネズミ属Apodemus(5回),ニホンアナグマMeles anakuma(6回)及びハクビシンPaguma larvata(1回)の3種が記録された。またこれら以外に,撮影状態が悪く被写体を特定できなかったが,ネズミ類と思われる動物に反応した記録が6回得られた。哺乳類についてはいずれのケースでもオニシバリ果実の採食は記録されなかった。

恐らくその有毒性のために本種(オニシバリ:しぐま註)は他の日本産ジンチョウゲ属数種とともにニホンジカCervus nipponの不嗜好性植物となっている。

この研究にニホンザルは登場しません。 
また、私がネット検索してもニホンザルがナニワズの果実を採食した例は知られていないようです。 
ニホンザルの採食メニューを膨大なリストにまとめた文献にもナニワズやオニシバリは掲載されていませんでした。 
という訳で、今回の動画はニホンザルがナニワズの熟果を採食したシーンを録画した貴重な証拠映像かも知れません。 
味見した直後に不味くて吐き出したかどうか不明ですが、続けて幾つもナニワズ熟果を採食しないで子猿はナニワズの群落から立ち去りました。 
登場した3頭のうち、若い子猿だけがナニワズ熟果を採食(味見・毒味)したのも興味深いです。 
このアナグマ営巣地(セット)で夜な夜な活動していた野ネズミの出現頻度が減ったのは、もしかするとナニワズの実(天然の殺鼠剤)を食べて次々に死んでしまったのかもしれません。 
ニホンザルは野ネズミよりも大型なので、1個ぐらいナニワズ果実を食べても致死量とはならないのでしょう。 
しかし一気に大量に食べると、ダフィニンの毒性により体調を壊すはずです。 
熟した液果が赤く色づくのは種子散布者の鳥や動物に食べてもらうための適応のはずなのに、有毒成分が抜けないのはどういうことでしょう? (アメとムチ?)
種子散布者に果実を少量ずつ食べてもらいたい植物(ナニワズ)の戦略で毒を含んでいるのではないかと考えられます。 
ニホンザルの成獣がナニワズの果実を食べようとしなかったのは、経口毒性を身をもって学習済みだったからかもしれません。
ナニワズの赤い実を食べた子猿が遊動して遠くで排便すれば、未消化の種子がやがて発芽して、種子散布に成功したことになります。
ナニワズの果実を解毒するために、ニホンザルが特定の土や薬草を併せて食べるように進化したら面白いですね。





【追記】
「毒にも薬にもなる」という諺の通り、ネットニュースで興味深い科学記事を見つけました。
オニシバリと同属近縁種のナニワズにも同じ薬効があるかもしれません。


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この二次林内のあちこちで見つけたナニワズの群落
子猿が採食した現場
その拡大写真

2024年3月中旬 

残雪が溶ける前にスギ防風林の林縁に咲いていたナニワズの花および蕾の写真を撮りました。
冬の間は緑の葉が付いたまま雪の下に埋もれていたことになります。(冬緑性)

一方、庭木に植栽されるジンチョウゲは常緑性です。


2024年5月下旬 

定点観察に通うと、ナニワズの青い未熟果が育っていました。 
葉はまだ青々と茂っています。

キリンソウの花蜜を吸い飛び回るメスグロヒョウモン♂【FHD動画&ハイスピード動画】

 

2023年6月下旬・午後14:15頃・晴れ 

山麓の神社の参道沿いに咲いていたキリンソウの群落でメスグロヒョウモン♂(Damora sagana)が訪花していました。 
この組み合わせは初見です。 
日向では暑いのか、閉じた翅をときどき半開きで開閉しながら吸蜜しています。 
日陰の花に来ると、翅をほぼ全開にして緩やかに開閉しながら吸蜜します。 
『フィールドガイド日本のチョウ』p196によると、 翅表・前翅中室内の斑紋が前縁に対して斜めとなるのでメスグロ♂と判明。 
私は今まで翅裏の斑紋でしか見分けられなかったのですが、この識別点を初めて知り、今後も役立ちそうです。 
前翅の翅表に性標(性斑)の黒条が3本あるので、♂と分かります。 

メスグロヒョウモン♂がキリンソウの花から飛び立つ瞬間を狙って240-fpsのハイスピード動画でも撮ってみました。(@3:49〜) 

撮れた映像素材の順番を入れ替えて編集しています。 
現場では翅裏をなかなか見せてくれなくて、同定できるまでしつこく同一個体を追い回して長撮りしました。 
翅を閉じた状態で翅裏を正対して見せてくれないと、晴れた日は翅表の斑紋が翅裏にまで透けて見えてしまい、同定に難儀することになります。 

他にシロチョウ類もキリンソウに訪花していたのに、カメラを向けたら逃げられてしまいました。

関連記事(7年前の撮影)▶ キリンソウの花蜜を吸うモンシロチョウ
 

2024/03/11

梅雨の晩にアナグマ営巣地の林床を駆け回り餌を探す野ネズミ【トレイルカメラ:暗視映像】

 


2023年6月下旬・午後20:02・雨・気温19℃ 

雨が降りしきる晩に野ネズミ(ノネズミ)が二次林の林床をチョロチョロと走り回り、餌を探しています。 

ニホンアナグマMeles anakuma)の母子が巣穴から転出した後なので、野ネズミが空き巣に侵入する頻度が上がるかと予想したのですが、そうでもありませんでした。 
ただし、これは単純な話ではありません。 
アナグマのヘルパー♂だけが居残っているかもしれませんし、タヌキがアナグマの巣穴を乗っ取った可能性もあります。
そもそも野ネズミの出現頻度が一時期よりも減っている(個体数の増加が抑えられている)のは、ホンドテンやニホンイタチ、フクロウなど夜行性の捕食者が暗躍するようになったせいではないか?と推測しています。 


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