2023/02/20

池に落水して暴れるヒカゲチョウ♀を捕食するトノサマガエル♀

 



2022年9月中旬・午後14:55頃・くもり 

山中の池に落水したヒカゲチョウ♀(Lethe sicelis)が水面でパタパタと暴れています。 
蝶が立てる波紋に気づいたトノサマガエル♀(Pelophylax nigromaculatus)が浅い池をピョンピョン跳んで近づいて来ました。 
この時点では獲物に対して定位しており、一直線に向かってきました。 
トノサマガエル♀は喉をヒクヒク動かしています。 

ヒカゲチョウ♀も迫りくる殺気を感じたようです。 
絶体絶命のヒカゲチョウ♀は逃げられないので、動きを止めました(フリーズ、すくみ行動、擬死、死んだふり) 
蛙に翅裏を見せていますが、地味な模様なので保護色になっているのかもしれません。 
案の定、トノサマガエル♀は獲物を見失ったようで、ヒカゲチョウ♀の横を通り過ぎてしまいました。 
蝶が少しでも動いたらカエルに気づかれてしまいます。 
至近距離で共にフリーズした息詰まる神経戦を5倍速の早回し映像でご覧ください。 
トノサマガエル♀はときどき腹部がヒクヒク動くだけで、じっとしています。 
カエルが動かないのも、獲物を油断させるための作戦なのでしょう。 

ヒカゲチョウ♀が先に警戒を解いてしまい、ピクピクと身動きし始めました。 
閉じた翅を細かく震わせているのは、飛び立つ前の準備運動なのでしょう。 
体温を上げるために、胸部の飛翔筋を激しく動かすのです。 

それを横目で見ていたカエルが遂に襲いかかりました。 
狩りの決定的瞬間を1/5倍速のスローモーションでリプレイ。(@1:17〜) 
トノサマガエル♀は口を大きく開けて跳びつき、見事に獲物をパクリと咥えました。 
カメレオンのように舌を素早く伸ばして獲物を狩るのではありません。 
自分の身を守る武器を持たないヒカゲチョウは、成す術もなく捕食されてしまいました。 
狩りに成功したカエルはまず左右の前脚を使って、獲物に付着したゴミや泥を払い落としました。 
トノサマガエル♀の口の両側から蝶の翅が飛び出しています。 
かさばって食べにくい翅を取り除くこともなく、その場で全て丸呑みしました。 
カエルは歯が無いので、大きな獲物を食い千切ることができないのです。 
数回に分けて獲物を飲み込もうとする度に、大きな眼球が引っ込みます。

トノサマガエルの捕食シーンを動画に撮れたのは久しぶりです。 
こうなるだろうと展開を予想(期待)して、辛抱強く長撮りした甲斐がありました。 

池を舞台にして繰り広げられる「食うか食われるかの連続ドラマ」を目の当たりにして、静かな感動を覚えました。 
特に印象的なのは、弱者の対捕食者戦略としてのすくみ行動(フリーズ)です。 
今回はトノサマガエルに軍配が上がりましたが、「ヘビに睨まれたカエル」という慣用句もあるように、立場が変わればカエルもフリーズするしかありません。 
実際、この池にはヤマカガシなどの蛇がときどき出没します。

2023/02/19

ノブドウの果実を次々に採食するニホンザル

 

2022年9月中旬・午前11:00頃・くもり(にわか雨が降る前)

林道の脇に生えたオニグルミの樹上にニホンザルMacaca fuscata fuscata)の若い個体が登っていました。 
ノブドウの蔓がクルミの木に巻き付いて伸びた結果、覆い尽くすようなマント群落になっています。 
ノブドウの果実を若いニホンザルが次々に食べていました。 
ニホンザルの採食メニュー一覧が載ったPDF資料を見ると、ノブドウが含まれていました。
三戸幸久. "ニホンザル採食植物リスト." Asian paleoprimatology 2 (2002): 89-113.
ノブドウは色とりどりの果実を付けますが、我々の常識に反して熟果は白色なのだそうです。(衝撃の事実!) 
青や紫に色づいた果実は、虫こぶ(虫えい)で、ノブドウミタマバエ(Asphondylia baca)やブドウトリバNippoptilia vitis)などの幼虫が寄生した結果とされています。 
しかし図鑑や本に書いてあることよりも現実ははるかに複雑怪奇(完全には解明されていない)らしいので、いつか自分でも採集・飼育してこの辺りを確かめてみたいところです。 

樹上のニホンザルは片手でオニグルミの枝葉を掴んで体勢を確保し、逆の手を伸ばして果実の付いたノブドウの蔓を口元に手繰り寄せました。 
手を伸ばしてノブドウを次々と摘果して口に運ぶこともあります。 
左手でも右手でも摘果したので、特に偏った利き手は認められませんでした。 
いくら食べても口から色付きの果汁が滴り落ちることはなく、唇が紫色に染まることもありませんでした。 
ノブドウの葉は決して食べずに果実だけを選んで食べています。 
緑色の未熟な果実は食べませんでした。 
何口か咀嚼した後に吐き出す残渣は、ノブドウ果実の中にある硬い種子と思われます。 
薄甘い(?)果肉と果汁だけ摂取しているようです。 
しかし、ノブドウの白い熟果(正常果)だけでなく色づいた寄生果(虫こぶ)も構わずに食べているのだとすれば、中に潜む寄生者の幼虫や蛹を捕食している可能性も考えられます。 
特に不味かった虫こぶだけ、サルは吐き出しているのかもしれません。 
「虫こぶは不味くて食べられない」という「定説」はどこまで本当なのでしょうか? 
ちゃんと体を張って味見(毒味)をしたヒトはいるのかな? 
他人任せにしないで、私も自分で味見してみるべきですね。
色とりどりの宝石のような実。実の一部はノブドウミタバエ(原文ママ:正しくはノブドウミタマバエ)などが寄生して虫こぶになる。(中略)果肉や種子の状態から、濃い青や紫の実は未熟で、白い実が熟果であるようだ。白い実の果肉は白く半透明で、少々舌に残るがブドウに似た食感でほのかに甘い。ただし青や紫の実の種子もまけば正常に発芽する。 (『身近な草木の実とタネハンドブック』p120より引用)


猿はときどき振り返って私の様子を窺いながら、採食を続けます。 
しつこくカメラを向けている私に警戒したのか、オニグルミの枝葉の陰に隠れてしまいました。 
茂みの陰に隠れながらもノブドウの果実を食べ続けています。 


オニグルミ樹上のニホンザルはやがて、見通しの良い枝に移動してくれました。 
枝に腰掛けて餌を咀嚼しながら、後脚で体を掻いています。 (@3:27〜)
このとき股間に見えたピンクのでべそのような突起物は♂の陰茎にしては小さいので、♀のような気がします。 (間違っていたらご指摘ください。) 
胸に長い乳首が見えないので、経産婦♀でないことは確かです。 

しばらくすると猿はオニグルミの下部の枝に移動し、ノブドウのマント群落から果実採食を再開しました。 
今度は採食シーンがよく見えるようになりました。 
私がじっと動かず静かに撮影していたら、警戒を解いてくれたようです。






後半に私が少し近づいてみると、猿はオニグルミの横枝にぶら下がり、ゆっくりと慎重に地上に降りました。 
木から降りたニホンザル♀は急に走り出すと砂利道の林道を横断し、姿を消しました。 

今回、採食行動を直接観察した限りでは、ニホンザルはノブドウの種子散布にさほど貢献していない印象を受けます。 
ノブドウの果実を食べたニホンザルは、ほぼその場で種子を吐き出している(ように見える)からです。 
一部の果実を丸ごと飲み込み、遠くへ移動してから糞と一緒に未消化の種子を排泄するのかな?(周食型散布) 
この問題を自力で突き止めるには、ニホンザルやタヌキなど野生動物の糞分析もいつか自分でやらないといけません。 

ノブドウの種子散布者の本命は鳥なのでしょうか? 
野鳥と木の実ハンドブック』でノブドウについて調べると、否定的でした。
10月頃には熟すが、鳥が採食することは少なく、12月頃になってカワラヒワなどがときどき採食する程度。本当の実の色は赤紫色で、紫色や紺色になるのはブドウタマバエやブドウトガリバチの幼虫が寄生しているためだと言われている。(p49より引用:熟果の色に関しては筆者の誤り?)

タヌキの溜め糞を舐めて吸汁するヨコジマオオハリバエ

 

2022年9月中旬・午後13:25頃・晴れ 

里山の尾根道にもホンドタヌキNyctereutes viverrinus)の溜め糞場cがあります。 
利用しているタヌキの個体数が少ないのか訪問頻度が低いのか分かりませんが、私が定点観察に通っても新鮮な糞がなかなか見つかりません。
昨年短期間だけトレイルカメラを設置したものの、すぐに撤去してしまいました。 
この溜め糞場は自然消滅した(使われなくなった)と一時は考えていました。 
もしかすると気温の高い時期は糞虫らの分解活動が活発で、たちまち食べられたり埋められたりするために、糞塊が残りにくいのかもしれません。 
尾根道にあるということは、溜め糞調査のために私が麓から登り始めても標高が低い地点の溜め糞から順に調べていくと、尾根に到着する時刻がどうしても遅くなってしまいます。
夜行性のタヌキが排便した溜め糞を新鮮なうちに(糞虫に処理される前に)観察するためには、午前中の早い時間に現場入りする必要があるのです。

この日は珍しく立派な糞塊が残されていました。
少しだけ離して2箇所に排便しています。 
全く同じ地点に溜め糞場が復活したということは、同一個体のタヌキが戻って来て過去の記憶を頼りに溜め糞するようになったのでしょうか?
強烈な糞便臭が辺りに漂い、否が応でも気づきました。
これがタヌキ特有の匂いなのでしょう。 
(不思議なことに、他の溜め糞場ではあまり臭いと感じたことがありません。) 
様々なハエ類がタヌキの糞塊に群がっていました。 

まず注目したのは、単独で来ていたヨコジマオオハリバエTachina jakovlevi)という寄生バエです。 
本種が獣糞を吸汁する様子は初見です。
背側から見下ろすように撮影したので、肝心の口吻の動きがよく見えませんでした。
したがって、♀が獣糞に産卵していたという可能性も考えられます。 (ヨコジマオオハリバエの性別の見分け方を私は知りません。)
ヨコジマオオハリバエは寄生バエですから、獣糞に産卵するはずがありませんね。
真横から撮りたくても、私が下手に動くとハエはすぐに飛び去ってしまうので、ハエが自ら動いて横を向いてくれるまでじっと我慢して撮り続けるしかありません。


左に居る瑠璃色のハエの名前を知りたいです。

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