2022年9月上旬・午前11:50頃および12:10頃・くもり
里山の山腹をトラバースする平坦な小径に少量の下痢便が山道に残されてました。
緑がかった黄土色の液状便です。
ハエ類が獣糞に集まっていたのに、私が近づいたことで一斉に飛び去ってしまいました。
しばらくその場でじっと待つと、徐々に舞い戻ってきました。
きれいな緑色や赤緑色の金属光沢に輝くキンバエ類の種類を私は見分けられないのですが、大小様々、♀♂混在のキンバエ類が下痢便に群がり、興奮したように離着陸を繰り返しています。
ニクバエの一種も1匹だけ飛来しました。(@0:30〜)
新鮮な下痢便の表面にハエが止まっても、粘性が高く表面張力で軽量のハエは足が沈みません。
口吻を伸ばして糞の表面から吸汁しています。
赤緑色のメタリックカラーの個体は、どうやら獣糞が目当てというよりも求愛しているように見えます。
別個体(メタリックグリーン)の背後から忍び寄りマウントを試みても足蹴にされていました。
素人目には体色が異なる別種に見えるので、誤認求愛なのでしょうか。
せっかく面白くなりそうなのに、撮影中はこの行動に気づきませんでした。
この山道を一度通り過ぎ、20分後にまた戻ってきました。(@1:08〜)
糞の右上の落ち葉に見慣れない小さなハエが来て居ました。
黒っぽい金属光沢があり(構造色)、林床を歩き回りながらも翅を激しく動かしていました(翅紋誇示?)。
ツヤホソバエ科の一種ですかね?(当てずっぽう)
下痢便を占拠しているキンバエの群れに遠慮しているのか、謎の小バエは獣糞に近づくどころか離れて行きました。
動画撮影中にふと横を見ると、アカバトガリオオズハネカクシ(旧名アカバハネカクシ;Platydracus brevicornis)がやって来ました。
タヌキの溜め糞ではハエ類と並ぶ常連客です。
しかしカメラを向けた途端に後翅を広げて飛び立ってしまいました。
アカバトガリオオズハネカクシの離陸・飛翔シーンは初見です。
まずは1/5倍速のスローモーションでご覧ください。(@1:40〜)
直後に等倍速でリプレイ。
ハネカクシの仲間は鞘翅(前翅)が短いだけで、折り畳んでおいた透明な後翅を広げて飛ぶことができるのです。
「糞便臭に誘引されて飛来したアカバトガリオオズハネカクシが獣糞に着陸」というストーリーを思い描いたものの、どこに行ったのか見失ってしまいました。
自然観察では予測が裏切られてばかりで、なかなか思い通りに行きません。
さて、一体これは何の糞でしょう?
これまでの調査でアナグマは軟便や下痢便が多いと分かったのですが、こちら側の山系ではトレイルカメラに写ったことがこれまでたった一度しかありません(生息密度がきわめて低いらしい)。
タヌキの溜め糞という感じではなく、獣道を移動中に腹痛を我慢できず下痢便を漏らしてしまったように見えます。
同じ地点(22b)に繰り返し通って排便するのなら、トレイルカメラを設置して糞の主の正体を突き止めることが可能です。
しかし後日何度か通っても、同じ地点に獣糞は二度と残されていませんでした。
野生動物のフィールドサインに関する本を読んでも、健康時の固形糞の典型的な特徴しか書いておらず、体調が悪いときの下痢便については見分け方が載っていません。
プロのフィールドワーカーは獣糞の匂いだけでも種類をほぼ嗅ぎ分けられるのだそうです。
しかし大型の重いザックを担いで山中を歩き回っていると、獣糞の匂いを嗅ぐためにザックをいちいち下ろすのが億劫になってきます。
この日バテていた私は糞便臭のチェックを怠り、撮影も立ったままで済ませました。
まだまだ修行が足りません。
後で思うと、わざわざ地べたに這いつくばって獣糞の匂いを直に嗅ぐ必要はなくて、適当な落枝を拾って獣糞をつついてみてから枝先の匂いを嗅げば済むことでしたね。
鳥の糞または白いキノコのような塊が下痢(?)の海に浸っているのが気になります。
もしかして、これは下痢状の獣糞ではなく、スッポンタケなどのキノコ子実体のグレバがドロドロに溶けた跡なのかもしれない、と今思いつきました。
(スッポンタケの)傘の表面に悪臭のする粘液質のものが一面に現れ、悪臭がするようになる。これはグレバで形成された胞子を含むもので、その悪臭は、ハエなどを誘引し、胞子を運ばせるためである。キノコ本体は一日でとろけるように消滅する。(中略)傘はグレバの色で暗緑色に見える。 (wikipedia:スッポンタケより引用)私はキノコについて全くの勉強不足なので、聞きかじりからの思いつきです。
スッポンタケの子実体が溶けると、これほど大量の粘液質の物が残るのでしょうか。
1本だけでなくスッポンタケの群落があったのかな?
現場でもっと興味を持って、謎のペーストを小枝でかき回したりして中を探ってみるべきでしたね。
獣糞ならば未消化の種子などが含まれていたはずです。
改めて謎のペーストを見直すと、獣の下痢便にしては均一過ぎますし、少なくとも表面には植物の種子は見えません。
獣糞ではなくスッポンタケの溶けたグレバだとすれば、キンバエやニクバエ以外の食糞性昆虫(アカバトガリオオズハネカクシやツヤホソバエの一種)が匂いに騙されかけても結局やって来なかった理由が説明できそうです。
いつか山でスッポンタケの子実体を見つけたら、成長と分解の過程を微速度撮影してみたいものです。
キノコ採りの名人になると鼻が利き、山中で独特のグレバ臭がしただけで辺りにスッポンタケが生えていると分かるのだそうです。