2020/01/16

川辺りで激しく縄張り争いするハグロトンボ♂



2019年8月下旬・午前10:05頃

平地を流れる川の支流(正式用語は「側方流」?)で多数のハグロトンボ♂(Calopteryx atrata)が激しい空中戦を繰り広げていました。
メタリック・グリーンに輝く長い腹部が♂の特徴です。(♀は黒色)
あまりにも激しく飛び回るので、途中で見失ってしまうことも多く、流し撮りに苦労しました。

2匹の♂同士が空中で争ったり相手を追い回したりして縄張りの端に来ると、今度は隣の縄張りの主♂が参戦し、三つ巴の争いになります。
止まった場所を中心とした縄張りにライバル♂が領空侵犯すると直ちにスクランブル発進し、縄張り争いの連鎖反応が目まぐるしく繰り広げられます。

激しい縄張り争いに疲れたのか、川岸に生えたタニウツギ灌木の葉に3匹の♂が止まりました。
休戦状態でも漆黒の翅を素早く開閉して誇示しています。
強く反り返った腹端を持ち上げるのも威嚇誇示なのかな?(腹端下面が白いことに注目:後述)

図鑑『日本のトンボ』p47によると、

(ハグロトンボの)成熟♂は日中、川辺の植物や石に静止して縄張り占有する。気温の高い日には、時おり翅をパッと開く
今回は気温を測り忘れました。

1匹の♂が川岸のヨシの葉に止まっていると、隣の縄張りから飛来しました。
するとヨシの葉の上に止まったまま腹端を高々と持ち上げ、黒い翅を羽ばたかせました。
これは侵入したライバル♂に対する威嚇誇示なのでしょう。
その傍で侵入♂は挑発的にホバリング(停空飛翔)します。
すると縄張りの主は堪らずヨシの葉から飛び立ち、追いかけっこが始まりました。
近くに居たもう一匹の♂も参戦し、狂乱状態になります。
あちこちで争いの連鎖が勃発するので、どこにカメラを向けたら良いのか目移りしてしまいます。

ハグロトンボ♂の空中戦を240-fpsのハイスピード動画でも撮ってみました。(@2:40〜)
清流の水面に映る影の羽ばたきも美しいですね。
2匹の♂が羽ばたきながら空中でかなり接近し、互いに向き合いつつ一瞬ホバリングしていました。
一方が逃げ出すと他方が追いかけます。
一体どうやって勝敗が決まるのか、私には分かりませんでした。

コンクリートのブロックで護岸された水際では2匹のハグロトンボ♀が並んで休んでいました。(@4:05)
ハグロトンボ♀は腹部も含めて全身が真っ黒です。
左の♀個体が翅を閉じたまま静止している間、右の♀個体は真っ黒な翅をパッパっと開閉してアピールしています(誇示行動)。
翅に偽縁紋が無いので、アオハダトンボ♀ではありません。
産卵中の♀は見ていません。
この小川には小魚の群れが泳いでいるので、もしハグロトンボ♀が水中に産卵したら、ほとんど魚に捕食されてしまうでしょう。
だからハグロトンボ♀は植物の組織内に産卵するのでしょう。
♂は縄張り争いに明け暮れるばかりで、近くに居る♀と交尾しようとしないのは、とても不思議でした。
おそらくこの辺りは最強の♂の縄張りで、♀を囲ってがっちり警護しているのかもしれませんが、私は見落としました。


ハグロトンボ♂を片端から捕獲して個体識別のマーキングを施してから放ち、縄張り争いを長時間観察したら面白そうです。
目立つ色で翅にペイントしてしまうと、ハグロトンボの行動(種の認識)に悪影響を及ぼしてしまうかな?
(胴体にペイントしたら大丈夫?)

人工的な色を塗るのではなく翅に小さな切れ込みを入れて個体標識するという手もあります。

今回はてっきりハグロトンボ♂だと思い込み、撮影しただけで採集していません。
しかし映像を見直すと、本当にハグロトンボ♂なのか、気になる点がありました。
葉に止まったときなど、上に反り返った腹端の下面(腹面)が白い個体が居ました。
これはアオハダトンボ♂(Calopteryx japonica)の特徴です。
ここには2種のトンボが混棲しているのでしょうか?
しかし図鑑『日本のトンボ』によれば、アオハダトンボは準絶滅危惧種NTらしく、山形県南部に分布するという記録は無いようです。
今回同じ水域で見かけた♀は間違いなくハグロトンボでした。
撮影した8月下旬はアオハダトンボ成虫の出現期(6〜7月)にしては遅く、ハグロトンボ成虫の出現期(7〜8月)に合致しています。

この同属2種は出現期をずらして棲み分けをしているのでしょう。
今回は強い日差しが反射した結果、ハグロトンボ♂の腹端が白く見えただけ、という可能性もありそうです。(苦しい言い訳?)
来季は念の為にトンボを採集してしっかり同定するつもりですが、秋の台風で川がひどく増水したので棲息環境が破壊されてしまったかもしれません。
川底から湧き水が出て、年間を通して水温が安定していることがハグロトンボのヤゴの生育に必要なのだとか。(参考:月刊かがくのとも2014年6月号・吉谷昭憲『はぐろとんぼ』)



ハグロトンボ♂@タニウツギ葉+翅開閉誇示
ハグロトンボ♂2@タニウツギ葉+翅開閉誇示(左の個体は上に曲げている腹端腹面が白いのでアオハダトンボ♂かも?!)
ハグロトンボ♀2@小川岸+翅開閉誇示

2020/01/15

柵の手摺で遊び回るニホンザルの仲良し3頭(追い越し、マウンティング、木登りブランコ遊びなど)



2019年7月下旬・午前7:30頃

山麓の水路沿いのフェンスで朝からニホンザルMacaca fuscata fuscata)の仲良しトリオが遊んでいました。
鉄パイプの手摺に3頭が身を寄せ合うように座っています。
2頭はやんちゃな子猿、もう1頭は年上のようですが、兄弟姉妹なのか親子なのか先輩・後輩なのか、関係性が不明です。
(とりあえず勝手に先輩・後輩と呼ぶことにします。)
残念ながら私にはこのトリオの性別もしっかり見分けられません。
3頭すべて睾丸が見えないので♀だと思うのですが、どうでしょう?
先輩の胸に乳首が見えないので、母親とは思えません。

手摺を先行する子猿を急き立てるように、後ろから先輩が煽っています。
ただでさえ歩きづらいのに後ろから煽られた後輩Aは堪らず水路側のフェンスを伝って少し降りて、先輩に道を譲りました。
ノシノシと追い越した先輩が、手摺に戻って来た後輩Aに振り返りざま掴みかかろうとしたものの、後輩の子猿Aはフェンスから横の道に飛び降りて逃げました。
後続の後輩Bは、大胆不敵にも手摺を先行する先輩の背中にピョンと飛び乗って追い越しました!
そのまま手摺で子猿A、B同士の追いかけっこが始まりました。
2頭の子猿A、Bは同い年ぐらいと思っていたのに、追いついた個体が背後からマウントし、腰を少しスラストしました。
こんなに若い年齢でのマウンティングは交尾行動ではなく、個体間の順位を決める優位行動だと思います。

(夏はニホンザルの発情期ではありません。)
残念ながら私には子猿A、Bの性別が見分けられません。(3頭すべて睾丸が見えないので♀だと思うのですが、どうでしょう?)
そこへ先輩が追いつくと、後輩の子猿が機嫌取りをするように甲斐甲斐しく対他毛繕い(ノミ取り)を始めました。

やがて2頭の後輩(子猿AB)を先頭に手摺の上を歩き去ります。
途中で子猿Aが前を塞ぐ子猿Bを身軽にヒラリと跳び越えました。
少し助走を付けてから、横に生えたコナラ灌木の枝に跳び移りました。
そのままスルスルとコナラの枝を登っていきます。

手摺をゆっくり歩いて来た先輩がコナラの木の下で座り込みました。
コナラの枝葉を手で引き寄せて採食しようとしているのかな?
先にコナラの木に登っていた個体(子猿A)が、しなる枝に逆さまにぶら下がりながら降りて来くると、最後は地面に飛び降りました。(ブランコ遊び)
後輩(子猿A)はすぐにフェンスをよじ登って手摺に戻りました。

採食を邪魔された先輩が 子猿Aを手摺上で軽く追いかけたものの、子猿Aはフェンスを伝って横の道に逃げました。
もう1頭の子猿Bも手摺を走って戻って来ました。
先輩は近寄ってきた子猿Bに対して口を大きく開けて軽く威嚇しています。
左手で後輩(子猿B)の頭の毛を鷲掴みにして手荒に引き寄せ、無理やり腹這いにすると強引に対他毛繕いを始めました。
ところが、ろくにノミ取りもしないで離れました。
素人目には、これも一種のマウンティングのような優位行動(力の誇示、威嚇)のように見えました。
最後はフェンスの手摺から横の地面に飛び降りました。

群れが採食しながら一方向にゆっくり遊動しているという感じでもなく、この3頭はとにかくふざけて遊びながらフェンスの手摺を行ったり来たりしていました。
先輩は後輩(子猿A、B)に対して必ずしもいじめっ子(ガキ大将?)という風でもなく、時には寛大だったり手加減して遊んでやっている印象でした。
ニホンザルは高い身体能力を活かせば狭い1車線の手摺でも追い越し禁止ではなく、あおり運転への対応もヒトより遥かにスマートでした。

たった4分間の観察でもこれだけ面白い物語が生まれるのですから、群れのニホンザルをしっかり個体識別して関係性を把握しつつ行動を観察できれば更に面白くなるに違いありません。


ニホンザル3@用水路・手摺
ニホンザル2:子猿@用水路・手摺+マウンティング
ニホンザル3@用水路・手摺+対他毛繕い

ホソヘリカメムシ♂を吸汁するアオメアブの飛び立ち【HD動画&ハイスピード動画】



2019年8月下旬・正午頃

川沿いの堤防と河畔林の間の小路でイネ科の葉にアオメアブCophinopoda chinensis)が止まって獲物を吸汁していました。
日差しが強いので、見る角度によっては複眼の構造色が青く見えたり赤く見えたりと非常に美しく輝いています。
褐色のカメムシの胸背に突き刺した黒くて太い口吻がはっきり見えます。
(右の前脚かと一瞬思ったのですが、確かに口吻です。)

獲物は毒液を注入されて麻酔されているのか、全く動きません。

ムシヒキアブ科:昆虫をとらえ、口吻で刺して麻酔した後、体液を吸う。 (図鑑『札幌の昆虫』p190より引用)

アングルを変えるために私が撮りながらそっと近づいてみても、アオメアブは逃げませんでした。
飛び立つ瞬間を狙ってハイスピード動画撮影240-fpsのハイスピード動画でも撮ってみました。(@0:49〜)
前回観察したときは獲物を空中で落としてしまったのですが、今回はしっかり獲物を抱えたまま素早く羽ばたいて飛び去りました。

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さて、餌食となったカメムシの種類は何でしょう?
オオトビサシガメと迷ったりしたのですが、後脚腿節に棘が並んでいることからホソヘリカメムシ♂(Riptortus pedestris)と判明しました。
ホソヘリカメムシは悪臭を出さないものの、蜂のように飛び、♂同士の縄張り争いでは

棘がついた後ろ足で相手をはさみつけるという方法がとられ、後脚腿節が長いものが有利になる (wikipediaより引用)
らしのですが、自慢の武器でも身を守れずあえなく捕食されてしまいました。
狩りの瞬間を見ていませんが、おそらくアオメアブが背後から不意に急襲したのでしょう。


アオメアブ:背面@イネ科葉+ホソヘリカメムシ♂捕食吸汁
アオメアブ:側面@イネ科葉+ホソヘリカメムシ♂捕食吸汁
アオメアブ:側面@イネ科葉+ホソヘリカメムシ♂捕食吸汁・全景

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