2025/04/19

タヌキの溜め糞に群がるヤマトツヤハナバチ♀の謎【FHD動画&ハイスピード動画】

 

2024年4月下旬・午後13:30頃・くもり 

里山で細い林道の道幅が広くなりスギ植林地の横を通る地点で、巨大な糞塊が山道の真ん中に残されていました。 
毎年定点観察しているホンドタヌキNyctereutes viverrinus)の溜め糞場ltrです。 
今回は珍しく、独特の糞便臭が強かったです。(春はタヌキの繁殖期だから?) 

「うんちレストラン」に集まる常連客については、別の記事で改めて紹介します。 (映像公開予定)
今回は、意外な虫が群がっていました。 
口吻を伸ばして獣糞の表面からひたすら吸汁しています。 
着陸後に身繕いする個体もいます。 

現場はスギ林の横で薄暗く、ハエ(双翅目)なのかハチ(膜翅目)なのかも、しっかり見分けられませんでした。 
現場ではクロスズメバチの仲間(Vespula)なのかと思ったぐらいです。 

動画をじっくり見直すと、頭楯の黄紋から、その正体はヤマトツヤハナバチ♀(Ceratina japonica)でした。 
近縁のキオビツヤハナバチは平地性ですが、ヤマトツヤハナバチは山地性で、現場の環境と合致します。 
日本産ハナバチ図鑑』を紐解いて、ヤマトツヤハナバチの生態や生活史について基本情報を調べてみましょう。
海浜や川原などの開けた場所ではキオビツヤハナバチが、山沿いや山間部などの山地帯では本種(ヤマトツヤハナバチ:しぐま註)が優占している。営巣期や巣の造り方はキオビツヤハナバチと同じ。(4月下旬〜6月中旬。越冬した♀はノイバラやすすきなどの枯れた茎に坑道を掘り、ややつぶれた卵形の花粉塊を作り、その奥側に産卵、入口側を髄粉で仕切って育房とし、6〜10育房を造成。新成虫が誕生する7〜8月まで巣内で生活している。)p349-350より引用

ヤマトツヤハナバチ♀が羽ばたいて獣糞に離着陸を繰り返す様子を240-fpsのハイスピード動画でも撮ってみました。(@2:26〜) 

タヌキの溜め糞に集まるヤマトツヤハナバチ同士で小競り合い(餌の占有行動や配偶行動)は見られませんでした。 
別個体が後から飛来すると、先客のヤマトツヤハナバチ♀は同側の中脚を上げて牽制しました。 
他の糞食性昆虫とも争いはなく、ヤマトツヤハナバチ♀が飛来したら先客のハエが遠慮してちょっと横にずれるぐらいでした。

一度だけ、後から飛来した個体(性別不明)が、先客の背後からマウントしました。(@5:09〜) 
♂による求愛行動なのでしょうか? 
先客の♀が身を捩って交尾拒否?すると、♂?はあっさり諦めて飛び去りました。 
どうやら、飛来した♀がたまたま着陸場所を間違えただけのようです。 

交尾中のクロボシヒラタシデムシ♀♂(Oiceoptoma nigropunctatum)カップルの背中に着陸することもありましたが、すぐに飛び立ちました。(@7:20〜) 

着陸が下手糞なのは、おそらく薄暗くて蜂も着陸地点がよく見えていないからだと思います。 

撮影後に、謎の蜂を同定するため、ありあわせのビニール袋を使って、なんとか2匹だけ採集できました。 
不潔な糞塊に触れることになるので、使い捨てのゴム手袋を着用してから採集しました。 
採集行為のせいで蜂に警戒されてしまい、残りの個体も居なくなってしまいました。 


【考察】 
ネット検索しても、ツヤハナバチ類(Ceratina属)が獣糞に集まって吸汁するという習性は報告されていません。 
タヌキが何か甘い物を食べて、それに誘引されているのでしょうか? 
秋ならともかく、春に野生のタヌキが熟した果物を食べたとは思えません。 
あるいはタヌキの糞にたまたまツヤハナバチの集合フェロモンと似た構造の化学物質が含まれていたのだとしたら、興味深い現象です。 
♀ばかりが集まったので、性フェロモンではなさそうです。 

ちなみに、ヤマトツヤハナバチは成虫で♀も♂も越冬するそうです。 
つまり、今回♀ばかりが獣糞に誘引されて♂が居なかったのは、それだけでも不思議です。 

チョウやガなどの鱗翅目の中には、獣糞で吸汁する種類がいます。
その多くは♂で、獣糞や腐果、泥、汚物などに含まれるミネラル成分(ナトリウムやアンモニアなど)を摂取しないと精巣が性成熟しないのだそうです。
ところが今回は、頭楯を見る限りヤマトツヤハナバチの♀ばかりが集まっていた点が興味深いです。(雄蜂♂の頭楯は黄色の領域が広いはず。) 
蜂の場合は、卵巣の性成熟に必須のミネラル成分やアミノ酸などを獣糞から摂取していたのでしょうか?

ツヤハナバチの食糞性という驚愕の新奇行動について、Perplexity AIに色々と相談に乗ってもらいました。 

巣材を集めていた可能性をPerplexity AIから提案されたのですが、ツヤハナバチ類の♀は育房を仕切る壁の材料として獣糞どころか土や泥を使うことすらしません。(巣材は植物の枯れ茎を穿坑した際に出る髄粉)
今回、蜂が小さな糞玉を切り取って持ち去る行動は全く見られませんでした。 
溜め糞上でヤマトツヤハナバチ♀は前脚や大顎を動かすことはなく、長い口吻を伸ばして吸汁しているだけでした。 

例えばミツバチが牛糞に集まって吸汁する例が知られています。 
天敵のオオスズメバチが嫌う獣糞の匂いを巣の入口に塗りつけて、襲撃を防ぐのだそうです。
MATTILA, Heather R., et al. Honey bees (Apis cerana) use animal feces as a tool to defend colonies against group attack by giant hornets (Vespa soror). PLoS One, 2020, 15.12: e0242668. (全文にフリーアクセス可)

今回のヤマトツヤハナバチも同様の防衛目的だとしたら、それはそれで非常に面白い行動です。
しかし、タヌキの溜め糞場と自分の営巣地を往復している様子はありませんでした。 
そもそも、ツヤハナバチ類の巣を襲う天敵は何なのでしょう?
(寄生蜂やアリ?)

これほど多数のヤマトツヤハナバチを一度に見れたのは初めてです。
その体格はまちまちで、個体差がありました。
幼虫時代に母親♀から与えられた餌(花粉と花蜜の団子)の量の違いから来る多型なのでしょう。 

糞塊が充分にあるためか、蜂同士で餌資源を巡る争いはありませんでした。 
同じ巣から羽化した姉妹同士あるいは、同じ越冬場所で越冬した仲間なのだと思われます。 

タヌキの溜め糞に来る昆虫の定点観察、という地味なテーマでもまだ新しい発見があるとは、嬉しい驚きでした。


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