2016/02/11

クロシタアオイラガ(蛾)幼虫の繭作り失敗【60倍速映像】



2015年10月中旬

採集してきたクロシタアオイラガParasa sinica)の幼虫に柿の葉を与えても食べてくれず、飼育容器内で落ち着きなくウロウロするばかりです。
ノギスで採寸すると、体長17mm。
『イモムシハンドブック』p56によれば、クロシタアオイラガ終齢幼虫の体長は18mmほど、とのこと。


食欲がないので終齢幼虫が繭を紡ぐ場所を探しているのではないかと思い、いつものように紙箱(ティッシュペーパーの空き箱)に閉じ込めてみました。

60倍速に加工した早回し映像をご覧ください。
照明が眩しくても気にしない様子で箱の中を徘徊しています。
頭部で∞の字を書きながらゆっくり前進しています。
足場となる絹糸を張り巡らしているのでしょう。
紙箱の隅の縁に沿ってシルクロードを敷設しながら前進し続けます。
なかなか営繭場所が定まらないようで、箱の隅に行き着くと引き返します。
立ち止まって休息している間も早回し映像で見ると体全体が脈動しています。
消耗した絹糸腺の回復を待っているのかと初めは思いました。

活動を再開した幼虫はやがて箱の側面と底面に交互に口を付けるようになり、遂に絹糸を紡ぎ始めたようです。
反省点として、背景が灰色のボール紙だと肝心の絹糸がよく見えませんね。
黒く塗っておくべきでした。
ところが場所が気に入らなかったのか、しばらくすると再び移動を始めました。
箱のダンボール紙と絹糸の接着の相性が悪いのかもしれません。
四方を何か物に囲まれた環境なら幼虫も落ち着いて正常に営繭できるのでしょうか?
動画撮影の邪魔になる物はなるべく入れたくないのですが、繭棚のような基質を入れてやるべきかどうか、悩みます。
もし本格的に営繭を始めたら一気呵成に仕上げるはずです。

幼虫がうずくまるように休んでいるときも、早回し映像を見ると、ときどき腕立て伏せするような奇妙な動きをしています。
どうも健康な個体ではないような気がしてきました。
例えば体内寄生による不随意運動や神経症状が疑われます。
あるいは繭作りではなくて、もう一度脱皮するための準備なのか?と思ったりもしました。
謎の病原菌に冒されていた可能性も考えられます。
カラフルな背筋が脈打っているのは、背脈管(昆虫の心臓)の拍動が透けて見えているのかな?

相変わらず探索徘徊と繭の試作と休息を繰り返しています。
ごく短距離なら後退できることが分かりました。
ただし、あまり得意ではなさそう。

またしばらくすると、いつの間にか紙箱の隅で仰向けにひっくり返っていました。
仰向け姿勢で繭を紡いでいる様子もなく、奇妙な蠕動するも起き上がる力が失われています。
前日に見られたような起き上がり運動をする元気がありません。

一縷の望みを込めて、幼虫の周囲にありあわせの物を置いてやり、より狭い空間に閉じ込めてみました。
これまでよりも落ち着いて粗末な繭を作りかけたようにも見えたのですが、やはり正常な営繭運動ではなく、ほとんどの時間は(苦しげに?)休んでいるだけでした。

実はこのようなイラガの営繭異常は見覚えがあります。

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繭を紡ぎ始めたイラガ(蛾)終齢幼虫
イラガ(蛾)幼虫の営繭異常【早回し映像】

諦めてクロシタアオイラガ幼虫を放置していたら、9日後には完全に死んでいました。
蛹化せず幼虫のまま萎んでいました。
白い糞を排泄した跡が横に残っています。
これはイラガの仲間に特有の堅牢な繭を作るために必須のシュウ酸カルシウムを含んだ分泌物(硬化剤)なのでしょう。

今回は営繭の撮影を優先したので、密閉容器に閉じ込めていません。
開放空間のため、たとえ寄生ハエの終齢幼虫(ウジ虫)が寄主脱出しても分かりません。
営繭異常の原因が体内寄生だったかどうか、分からず仕舞いでした。
7年前にイラガの繭を採集したら、蛾ではなく寄生ハエが固い繭から羽化してきました。
このハエは寄主に正常の繭を作らせてから捕食した(殺した)ことになります。

▼関連記事
イラガに寄生するヤドリバエ(イラムシヤドリバエ?)
もし次回イラガを飼育するときは蚕棚やまぶしのような四方をしっかり囲まれた空間に幼虫を閉じ込めて繭を作らせた方がよいかもしれません。



【追記】
カキノキが幼虫による食害を防ぐために毒を葉に貯め込む以外に、成長ホルモン様物質が含まれている可能性も考えられます。
稲垣栄洋 『たたかう植物: 仁義なき生存戦略 』(ちくま新書)によると、
例えばイノコヅチには昆虫の脱皮を促す成長ホルモン様物質が含まれている。(中略)この物質を食べると体内のホルモン系が撹乱を起こし、大して体も大きくならないうちに脱皮を繰り返して早く成虫になってしまう。 (p106-107より)

同様に、イラガ類の幼虫が充分に育っていない内に営繭を始めてしまうようなスイッチを入れる化学物質がカキノキの葉に含まれているとすれば、食害への対抗措置になり得るでしょう。




腹面
背面

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